顔面が前方からの拳や硬球などのボールなどにより外傷を受けると、特に眼球周囲の場合、眼窩という眼球や筋肉などの軟部組織が入った空間の圧力が上昇し、
- 眼窩吹き抜け骨折
を生じることがあります。
骨が折れて、眼球が下に落ち込んだ状態になり、場合によっては手術適応となることがあります。
今回は、 そんな眼窩吹き抜け骨折(blow follow fracture)について分類と症状、手術適応を中心にまとめました。
眼窩吹き抜け骨折とは?
眼窩吹き抜け骨折について、以下にわかりやすいイラストを作りました。
下の図のように前からボールや拳などの鈍的な外力を受けることにより、眼窩という眼球や筋肉などの軟部組織が入った空間の圧力が上昇し、眼窩の内容物が外に出てしまうことがあり、これを眼窩吹き抜け骨折と言います。
- 前方からの鈍的外力
- →眼窩内の圧が上昇
- →主に眼窩の下の骨が折れて、下の上顎洞に眼窩内容物が出てしまう。
眼窩吹き抜け骨折の分類と症状は?
出典:http://lifeinthefastlane.com/ophthalmology-befuddler-014/
眼窩吹き抜け骨折の症状にはには、複視や眼球運動障害がありますが、もう少し細かく見てみましょう。
眼窩吹き抜け骨折は眼窩骨折の中でも最も頻度が多く、眼窩壁の
- 下壁
- 内側壁
に生じるものに分けられます。眼窩内側壁の骨折を内側型、眼窩下壁の骨折を眼窩底部型と分類し、それらが混在しているものを混合型と分類します。
下壁骨折の症状は?
中でも下壁(上顎洞上壁)の骨折の頻度が最も多く、その理由として構造上最も脆弱であることがあげられます。
下壁の骨折の場合、
- 眼球の陥凹、
- 上を向いたときに増強する複視、
- 眼球上転障害
といった症状を生じます。複視は外眼筋の嵌頓により生じるとされます。
右眼窩下壁の骨折および眼窩内容物の逸脱を認めており、眼窩底骨折と診断できます。
眼窩底骨折は眼窩のどこに最も多い?
- 下壁
- 内側壁
- 外側壁
正解!
不正解...
正解は下壁です。
問題に戻る
内側壁(篩骨紙様板)骨折の症状は?
一方、内側壁(篩骨紙様板)の骨折は、下壁の骨折よりも頻度は低いとされます。内側壁自体は、下壁よりも薄いのですが、内側壁は篩骨洞により裏打ちされており、強度としては、下壁よりも強いとされているためです。
内側壁の骨折の場合、
- 内直筋が陥入し 、
- 外側を向いたときに複視が起こったり、
- 左右の眼球運動の制限
を認めます。また、
- 眼窩内気腫
を通常伴うとされます。
眼窩内気腫とは?
この眼窩内気腫は、視神経の虚血や網膜中心動脈閉塞の発症に関与するとされ、眼科医も注意している状態です。
- 鼻をかまない。
- 航空機の利用を控える。
等の特別な指導がされ、少量であっても、眼窩内気腫は重要とされます。診断はCTで行います。
眼窩吹き抜け骨折で眼球運動障害を生じる原因は?
- 外眼筋の損傷
- 外眼筋の支配神経の損傷
- 外眼筋の骨折部への嵌頓
これらが原因とされています。
眼窩吹き抜け骨折のCT画像診断は?
眼窩吹き抜け骨折は、症状に加えて主にCTの画像で診断します。
CT画像診断では特に冠状断が有用なことが多く、眼窩内容物の下壁から上顎洞への逸脱の様子がわかりやすいのが特徴です。
特に下壁骨折の際に起こることがある下直筋の逸脱・陥入は複視の原因となり、手術適応となることもありますので注意が必要です。
また、内側壁の骨折では内側直筋の逸脱の有無・眼窩気腫の有無をチェックしましょう。
眼窩底骨折のCT画像診断で最も有用・重要なのは?
- 冠状断像
- 横断像
- 矢状断像
正解!
不正解...
正解は冠状断像です。
もちろん横断像や矢状断像も重要ですが眼窩底骨折のCT画像診断で最も有用なのは冠状断像となります。横断像のみ観察していると見逃してしまうことがありますので、疑わしい場合は必ず冠状断像も作成して貰いましょう。
問題に戻る
CT画像のチェックポイント
眼窩吹き抜け骨折のCT画像診断のポイントは、このようになります。
これに加えて下壁骨折の場合は、眼窩下管にも着目します。
眼窩下管には眼窩下神経が走行しており、ここに骨折がおよぶと眼窩下神経損傷を伴います。
では実際の症例を見ていきましょう。
症例 10歳代男性 眼窩吹き抜け骨折(下壁)
CT画像の骨条件の冠状断像です。
右の眼窩下壁に骨折を認め、眼窩内容物が逸脱(外に出ている)しているのがわかります。ただし、下直筋の逸脱は認めていません。
症例 20歳代男性 眼窩吹き抜け骨折(下壁+内側壁)
CT画像の骨条件の横断像です。
左の眼窩の内側壁に骨折を認めていますが、明らかな内容物の逸脱は認めません(あっても軽度)。
また眼窩内気腫を認めています。
CT画像の骨条件の冠状断像です。
左の眼窩内側壁だけでなく眼窩下壁に骨折を認め、眼窩内容物が逸脱(外に出ている)しているのがわかります。
また下直筋に腫大及び軽度の逸脱を認めています。
1つ目のの症例よりも重症と言えます。
この症例のCT画像を骨を3Dで再構成してみます。
そうすると右側(向かって左側)の正常と比較すれば、内側壁及び下壁が骨折していることがより明瞭になります。
眼窩吹き抜け骨折の治療は?
落ち込んだ眼窩内容物を整復することが治療となり軽微な場合は経過観察されることもあります。
手術適応は?
手術適応としては、
- 複視が7日以上続く場合
- 2mm 以上の眼球陥凹が2週間以上続く場合
とされています。
中でも可及的な手術の適応としては、
- 眼底の50%以上の骨折を認めており、眼窩内容物の脱出及び眼球陥凹がある場合
- 下直筋の絞扼を認めている場合
- 視神経鞘に血腫を認めている場合
- 眼球破裂を伴う場合や、球後部出血等の合併所見を認めている場合
が挙げられます。
下直筋の絞扼は、眼窩吹き抜け骨折の10~20%で見られるとされており、出血や浮腫を認め、下直筋の腫大するのが特徴とされています。
眼窩内側壁及び、下壁壁以外の骨折は?
眼窩内側壁及び、下壁の骨折の頻度が 高いことがわかりましたが、上壁や外側壁はいかがでしょうか。
上壁骨折
上壁の頻度は眼窩骨折の5%程度されており、強い外力により生じます。
半数以上で、他の眼窩壁骨折や、頭蓋骨骨折を伴っており、この骨折を認めた場合は、脳挫傷や髄液鼻漏の合併に注意が必要です。
外側壁骨折
外側壁は、眼窩壁の中でも最も厚く、強度が高いとされ、単独骨折は稀です。
- 三脚骨折
- Le FortⅢ型骨折
などの顔面骨骨折で合併する頻度が高いようです。
眼窩吹き抜け骨折は頬骨上顎複合(ZMC)骨折の合併症として起こることがあります。
最後に
眼窩骨折の中でも最も頻度の高い眼窩吹き抜け骨折について取り上げました。
症状は大きく
- 複視
- 眼球運動障害
ですが、骨折する部位によって異なりますので注意が必要です。
また一般的に緊急手術になるケースは少ないですが、手術適応や可及的に手術をした方が良いケースを取り上げました。
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下壁>内側壁という頻度です。