急性中耳炎の治療中に起こる疾患で、「乳様突起炎(にゅうようとっきえん)(乳突蜂巣炎(にゅうとつほうそうえん))」というものがあります。
しかし、聞き慣れない病名だけに、わからないことも多いですよね?
そこで今回は、乳様突起炎(乳突蜂巣炎)「英語表記でmastoiditis」についてどんな病態なのか解説し、
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
を画像とともにわかりやすくお話ししたいと思います。
先に結論:乳様突起・乳突蜂巣と乳様突起炎
- 乳様突起は耳の後ろ下に触れる骨の出っぱり(側頭骨の一部)です。中には乳突蜂巣という蜂の巣のような小さな空気の部屋がたくさんあり、乳突洞を通って中耳(鼓室)とつながっています
- 乳様突起炎(乳突蜂巣炎)は、急性中耳炎の炎症が乳突蜂巣に広がった状態で、子どもに多く見られます
- 症状は耳の痛み・発熱に加えて、耳の後ろの腫れ・赤み・押すと痛い、耳たぶ(耳介)が前に押し出されるなど。CTでは乳突蜂巣が液体で埋まり、骨の壁が壊れていないかを確認します
- 治療は抗菌薬の点滴、鼓膜切開などで、膿がたまったり骨が壊れたりしている場合は手術(乳突削開術)を行います
- 読み方は乳突蜂巣炎=にゅうとつほうそうえん、乳様突起炎=にゅうようとっきえん。英語ではmastoiditis(マストイダイティス)です
- CT・MRIで乳突蜂巣に液体がたまっている(含気不良)だけなら、症状のない人にもよく見られ、それだけで乳様突起炎とは診断しません(Mughal 2022)
※中耳炎のあとに耳の後ろが腫れて痛い・熱が続くときは、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)とは?
急性中耳炎の経過中に乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)に炎症が及ぶものを、乳様突起炎(乳突蜂巣炎)といいます。
乳様突起とは、乳突蜂巣の入った側頭骨の外耳道下方に突出した部分のことで、乳突蜂巣は、上鼓室の後方に向かって蜂の巣状に削り取られた部分をいいます。
CTで見れば一目瞭然です。

乳様突起の内部には乳突蜂巣という多数の小さな空洞があり、乳突蜂巣は上端で乳突洞という腔を経て鼓室に通じているのです。
この空洞は、
耳管→鼓室→乳突洞口→乳突洞→乳突蜂巣
というように外界の空気が入るルートとなっています。
この点もCT画像で見てみましょう。

側頭骨単純CTの横断像です。右側をみています。
上のように耳管は鼓室と連続しています。
その後ろ側には乳突蜂巣を認めていますが、連続している部分はこの断面では見えません。
より上の断面を見てみましょう。

すると鼓室が乳突蜂巣と連続していることがわかります。
この両者をつなぐのが、乳突洞口です。
これらから、耳管、鼓室、乳突洞口、乳突蜂巣が連続していることがわかります。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の原因は?
急性中耳炎の経過中に起こるといいましたが、それこそが原因です。
つまり、急性中耳炎の合併症として起こるもので(抗菌薬で治療中でも起こることがあります)、中耳の感染が乳突洞を通って乳突蜂巣に広がり、炎症が及ぶためです。急性乳様突起炎223例の多施設研究では、54.3%が診断前に急性中耳炎として経口抗菌薬を投与されていました。培養では肺炎球菌・化膿レンサ球菌・黄色ブドウ球菌が多く、緑膿菌も8例で検出されるなど、急性中耳炎とは原因菌の分布が異なると報告されています。
原因菌としては
- 肺炎球菌
- インフルエンザ菌
- 黄色ブドウ球菌
- 連鎖球菌
- モラキセラ
などがあります。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の症状は?
中耳炎の症状とよく似ており
- 高熱
- 耳痛
- 圧痛
- 耳漏(粘液性・膿性)
- 聴力障害
- 発赤(耳の後ろ)
- 腫脹
などがあります。

亜急性期では、発熱が長引いたり、耳の後ろの疼痛がひどいといった症状に悩まされることが多くあります1)。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の診断は?
- 臨床症状
- 画像検査
- 細菌検査
症状や原因から乳様突起炎(乳突蜂巣炎)を疑いますが、とくに画像検査は重要で、化膿性液貯留による含気の低下、孤立腔形成ないし鏡面形成が認められると診断されます。
続く発熱、耳の後ろが腫れているなどの症状があれば疑いを持ち、画像検査を行うというわけですね。
また、下気道感染症・急性中耳炎・急性副鼻腔炎・尿路感染症・髄膜炎・骨髄炎・菌血症・敗血症・膠原病・白血病などの発熱性疾患が除外されているかどうかも大切な判断基準です。
CT・MRIで見るポイント(一覧)
CTは早い段階で行い、乳様突起炎が初期のものか、蜂巣の隔壁が壊れて膿がたまる段階(融合性)かを分け、頭の中への広がりがないかを確認します(Vazquez 2003)。頭の中の合併症が疑われるときは、液体のたまりや血管の異常に敏感なMRIを追加します(Vazquez 2003)。
| 見るところ | CT(側頭骨CT・造影CT) | MRI |
|---|---|---|
| 乳突蜂巣の中 | 空気(黒)が液体・軟部濃度で置きかわる(含気不良・液体貯留) | T2強調像・FLAIRで高信号 |
| 蜂巣の隔壁・外側の骨 | 隔壁が消える、骨の壁が壊れる(融合性乳様突起炎) | 骨の評価はCTが得意 |
| 耳の後ろの皮下 | 骨膜下膿瘍(縁が造影される液体のたまり) | 膿のたまりを確認できる |
| 頭の中・静脈洞 | 造影CTでS状静脈洞の造影欠損(血栓)、硬膜外膿瘍 | 硬膜外・硬膜下膿瘍、脳膿瘍、髄膜炎、静脈洞血栓の検出に優れる |
急性乳様突起炎223例の研究では、16例が小脳膿瘍・硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍・S状静脈洞(横静脈洞)血栓・髄膜炎・内耳炎・顔面神経麻痺などの合併症をともなって受診しており、頭の中の合併症はまれではないとされています(Luntz 2001)。
乳突蜂巣の液体貯留・含気不良と言われたら
頭部CTやMRIの報告書に「乳突蜂巣に液体貯留」「含気不良」と書かれていても、耳の症状がなければ多くは偶然の所見です。
- 耳以外の理由で撮ったCT・MRI(246,288人)をまとめた解析では、乳突蜂巣の液体貯留・含気不良が8.4%に見られ、子ども17.2%、大人6.1%でした。経過を追った研究で、実際に乳様突起炎になった例ははっきり報告されていませんでした(Mughal 2022)
- 耳以外の理由で頭部MRIを撮った子ども515人では21.4%に見られ、1歳未満で41.7%、1〜2歳で47.5%と、小さい子ほど多く見られました(Singh 2016)
そのため、画像の「乳突蜂巣炎疑い」は、耳の痛み・耳だれ・耳の後ろの腫れや赤み・発熱などの症状と合わせて判断します。症状があるときは耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
症例 60歳代男性

側頭骨の単純CTの横断像の画像です。
右側の乳突蜂巣は黒い=空気のみ(含気良好)である一方で、左側は水濃度の部分を認めています。
つまり左の乳突蜂巣には液体貯留を示唆する所見であり、左の乳突蜂巣炎を疑う所見です。ただし、乳突蜂巣の液体貯留は中耳炎や上気道炎に伴って無症状でも偶然よく見られ、画像だけで乳様突起炎とは言えません。耳後部の腫脹・圧痛などの臨床所見と合わせ、CTでは蜂巣隔壁の骨破壊や骨膜下膿瘍の有無を確認します。
症例 50歳代男性

MRIのT2強調像の横断像です。
T2強調像では水は白く写ります(高信号になる)。
右側の乳突蜂巣は高信号を認めませんが、左側の乳突蜂巣には高信号を認めており、液体貯留を示唆する所見です。
左の乳突蜂巣炎と診断されました。
症例 20歳代 女性

同じくMRIのT2強調像の横断像です。
こちらの症例では、両側の乳突蜂巣には高信号を認めており、両側の乳突蜂巣炎と診断されました。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の治療法は?
- 抗生物質の投与
- 乳様突起削開術
などが治療法としてあり、重症度により選択されます。
乳突削開術では、S状静脈洞・上錐体静脈洞・骨迷路に囲まれたTrautmann三角(後頭蓋窩硬膜)が重要な指標となります。
参考サイト:1)見逃されやすい長引く発熱原因である乳幼児の 亜急性乳様突起炎に関する臨床的検討
参考文献:
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P54
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P7・8
解剖学講義P506
最後に
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)のポイントをまとめます。
- 急性中耳炎の経過中に乳突蜂巣に炎症が及ぶもの
- 急性中耳炎の合併症として起こる(抗菌薬治療中でも起こりうる)
- 高熱・耳痛・圧痛・耳漏・聴力障害・発赤・腫脹などの症状が現れる
- 臨床症状・画像検査・細菌検査などを行い診断する
- 抗生物質の投与・乳様突起削開術などの治療法がある
とくに子供に多い急性中耳炎は、繰り返すのも特徴ですが、放置せずに完治するまでしっかりと治療をすることがこのような状況を招かないために重要ということがおわかり頂けたかと思います。
- Vazquez E, Castellote A, Piqueras J, et al. Imaging of complications of acute mastoiditis in children. Radiographics. 2003;23(2):359-72. PubMed
- Luntz M, Brodsky A, Nusem S, et al. Acute mastoiditis–the antibiotic era: a multicenter study. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2001;57(1):1-9. PubMed
- Mughal Z, Charlton AR, Clark M. The Prevalence of Incidental Mastoid Opacification and the Need for Intervention: A Meta-Analysis. Laryngoscope. 2022;132(2):422-432. PubMed
- Singh S, Rettiganti MR, Qin C, et al. Incidental mastoid opacification in children on MRI. Pediatr Radiol. 2016;46(5):704-8. PubMed
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