人間の骨の中で最も長く強靭な骨といえば、大腿骨ですが、この大腿骨を骨折すると痛みもさることながら、歩行も困難となります。
今回は、この大腿骨骨折の中でも脚の付け根に近い部分に位置する大腿骨頸部骨折について
- 症状
- 診断
- 治療
- 予後
を図(イラスト)や実際のレントゲン、CT画像、MRI画像を交えて、わかりやすくご説明したいと思います。
大腿骨頸部骨折とは?
人間の骨の中で最も長い太ももにある大腿骨の中で、脚の付け根に近い部分の骨を折った状態を、大腿骨頸部骨折(英語表記で「Femoral neck fracture」)といいます。
この大腿骨頸部骨折は、転倒などが原因で起こり、高齢化社会にともない増加し続けていますが、骨粗鬆症や痩せ型も危険因子となります。
また、大腿骨骨折は、場所により内側骨折(関節内骨折)と外側骨折(関節外骨折)とに分けられます。
- 内側骨折・・・骨頭骨折・頸部骨折
- 外側骨折・・・転子部骨折・転子下骨折
つまり、頸部骨折は、大腿骨骨折の中では内側骨折に分類されます。
大腿骨頸部骨折の症状は?
- 強い疼痛
- 立位・歩行困難
ズキズキとうずくように痛み、立った状態でいられなくなったり、転倒して立ち上がれないなどの症状がある時には、大腿部の骨折が疑われます。
大腿骨頸部骨折の画像診断は?
- 単純X線検査
- CT検査
- MRI検査
などで検査し、骨折部位を確認します。
ただ、高齢者の場合、骨の強度が低下したために起こってる場合もあり、その際はX線検査では分かりにくく、MRIやをおこなうことで診断に至ります。
MRIでは、X線検査やCTでは発見できないような骨折であっても、骨折線や周囲の骨髄浮腫を描出することができます。
内側骨折の場合
症例 70歳代 女性
股関節のレントゲンでは、骨折線ははっきりしません。
MRIではT1強調像で骨折線を示唆する低信号あり。
STIRでは骨折部位及び周囲に異常な高信号を認めています。
大腿骨頸部骨折(ストレス骨折疑い)と診断されました。
症例 70歳代女性
レントゲンでも骨折を診断可能です。
左に比べて右の大腿骨頸部は短縮を認めています。
股関節のCT画像です。
CTの横断像や冠状断像で右の大腿骨頸部に明らかな骨折線を認めています。
3D再構成で骨折の様子がよくわかります。
症例 40歳代女性
この症例もレントゲンでも骨折を診断可能です。
左に比べて右の大腿骨頸部は短縮を認めています。
MRIではT1強調像で骨折線を示唆する低信号あり。
STIRでは骨折部位及び周囲に異常な高信号を認めています。
大腿骨頸部骨折(内側型)と診断されました。
外側骨折の場合
症例 70歳代 女性
股関節のCT画像です。
転子部に骨折線を認めています。
大腿骨転子部骨折と診断されました。
大腿骨頸部骨折の場合、ガーデン(Garden)分類を用いて進行度(ステージ)を分類します。
ガーデン分類
このガーデン分類は骨折した部分の転移の大きさと方向で、そのステージⅠ〜Ⅳと進行度が決まります。
それぞれについて説明します。
ステージⅠ
内側の骨性連続が残存している状態で、骨頭は外反位であり、不完全な骨折のものをいいます。
(転位のない骨折)
ステージⅡ
軟部組織の連続は残存している状態なものの、完全骨折のものをいいます。
(転位のない骨折)
ステージⅢ
頸部皮膜や支帯の連続性は残存しているものの、骨頭回旋転移はある、完全骨折の状態をいいます。
(転位のある骨折)
ステージⅣ
重度の完全骨折で、全ての軟部組織の連続性がない状態をいいます。
(転位のある骨折)
大腿骨頸部骨折の治療は?
全身状態に問題がなければ、早期の手術が推奨されています。
大腿骨頸部骨折では、骨接合術(CHS・ハンソンピンなど)や、人工骨頭挿入術(人工骨頭置換術)が多くなっています。
- 骨接合術→骨折した骨を、金属などの器具で固定して、骨がつながるのを待つ
- 人工骨頭挿入術→骨折した頚部から骨頭までを切除し、人工物(金属・セラミックス・ポリエチレン)で置き換える手術
ですが、手術が不可能な場合には、ギブスなどで固定し、安静にし骨がつながるのを待ちます。
症例 80歳代 女性
大腿骨頸部に骨折線を認めています。
また転位を認めており、Garden分類のstageⅢに相当します。
左大腿骨頸部骨折に対して、人工骨頭置換術が施行されました。
大腿骨頸部骨折の予後は?
高齢者の場合、安静のために床に伏せた状態が長く続くと筋力が低下し、その後寝たきりになってしまうことも多くあります。
そのため、リハビリは重要で、医師の指示に従い、筋力低下を予防する無理のない運動等をすすめられます。
大腿骨頸部の疾患では、頸部骨折以外にもこちらも重要です。→大腿骨頭壊死とは?症状や原因、治療法を説明!
参考文献:
骨軟部疾患の画像診断 第2版 P30-31
全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P308〜309
整形外科疾患ビジュアルブック P373〜375
最後に
- 大腿骨の中で、脚の付け根に近い部分の骨を折った状態を大腿骨頸部骨折という
- 転倒などが原因で起こるため、高齢者に多い
- 強い疼痛や立位・歩行困難となる
- 単純X線検査・CT検査・MRI検査で骨折部位を確認
- ガーデン(Garden)分類を用いて進行度(ステージ)を分類
- 早期手術が推奨される
- 寝たきり状態となることを予防することが大切
高齢者の転倒が原因として多いことから、特に痴呆のある方はうまく症状を伝えられないということもあり、立ち上がれない、歩けないといったいつもと違う様子に家族が気づき早期に医療機関を受診することも大切になります。