大腿骨は、大腿の中軸となっている人間の最大の骨ですが、その大腿骨が障害されると歩行にも関わり、歩くことさえ不自由になることもあります。
今回は、その大腿骨の障害の中でも、大腿骨頭に生じる壊死、大腿骨頭壊死(英語表記でAvascular necrosis of the femoral head)について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療
などをご説明したいと思います。
大腿骨頭壊死とは?
大腿骨頭に生じる壊死を、大腿骨頭壊死といいます。
日常動作において使われる部位なため、自然と進行してしまいます。
日常生活において負荷がかかると→壊死部分が骨折し→圧潰(あっかい)→球状でなくなると→骨盤部分の臼蓋と適合しなくなり→関節軟骨が磨耗→変形→すると・・・変形性股関節症へと進行します。
大腿骨頭壊死の症状は?
壊死を生じただけでは自覚症状はありません。
圧潰が生じると、疼痛が出現し、進行するにつれ
- 股関節痛
- 腰痛
- 膝痛
- 殿部痛
などがあらわれ、さらに進行すると股関節の可動域が制限されるため、跛行(はこう)といった足を引きずって歩くような歩行異常が出てきます。
症状の出現には個人差があり、壊死から数ヶ月で症状をともなうようになる人もいれば、数年後に出て来る人もいます。
大腿骨頭壊死の原因は?
- ステロイド性
- アルコール性
- 狭義の特発性
の3つに分けられます。
それぞれについて原因をご説明します。
ステロイド性
副腎皮質ステロイド薬の大量投与が原因で、血流障害が起こるためということが考えられています。
アルコール性
長期間に渡る大量のアルコール摂取が、大腿骨頭の血流障害に関与すると考えられています。
狭義の特発性
明らかな危険因子がなく、起こるものが、この特発性にあたります。
ですが、これら全てにおいて、機序(生化学的相互作用による理由)は分かっていません。
英語表記で、「Idiopathic Osteonecrosis of Femoral Head」略語でIONと呼ばれます。
大腿骨頭壊死の診断は?
単純X線やMRIといった画像検査で特徴的所見を確認し、診断されます。
それぞれについて説明します。
単純X線検査
- 壊死した部分と問題のない健常部の境界(帯状効果像)
- 骨頭の圧潰
- 骨頭軟骨下の骨折線
などを確認できます。
症例:31歳男性
膠原病のため、副腎皮質ステロイドを6年間服用し、左股関節部痛を訴え受診。
ステロイド性大腿骨頭壊死と考えられる。
(出典:医師国家試験過去問108I53)
症状が進んだものに対しては、この単純X線検査も効果的ですが、初期の診断にはMRIが有用です。
MRI検査
MRI検査は骨壊死の早期診断に有用とされます。
T1強調像で、壊死部と健常部の境界に、帯状低信号域が見られます。
T2強調像では、低信号域の内側に高信号の線を認めることがあり、double line signと呼ばれ、大腿骨頭壊死に特異的と言われます。
症例 70歳代 男性
T2強調像で左大腿骨頭に低信号の縁を認めています。Double line signは認めません。
大腿骨頭壊死を疑う所見です。
症例 40歳代男性
T1強調像及び、T2強調像で両側の大腿骨頭に低信号の縁を認めています。
左側でDouble line signを認めています。
大腿骨頭壊死を疑う所見です。
単純X線で異常を認められない時には、MRIで診断することができます。
大腿骨頭壊死の治療は?
初期であれば、保存療法として
- 杖を使い負担を減らす
- 投薬
- 安静
で、経過観察をします。
ですが、自覚症状をともない、圧潰の進行が予想される場合は、手術療法を選択します。
大腿骨頭壊死の手術とは?
壊死の広がりが狭い場合、骨切り術を選択します。
- 内反骨切り術・・・健常部が外側にある場合
- 前方回転骨切り術・・・健常部が後方にある場合
壊死が広範囲で、骨頭が圧潰してる場合・変形性関節症まで進行している場合には、人工股関節置換術が選択されます。
変形性関節症・手術について詳しくはこちら→変形性股関節症の手術や費用は?痛みの原因など徹底まとめ
予後は、壊死の状態(大きさや位置)、治療の内容、年齢によって異なります。
ですが、大腿骨頭壊死は難病指定されているため、保健所にて手続きをし、特定疾患患者と認定されると助成(医療費の一部または全額)の対象となります。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P364・365
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P302・303
最後に
- 大腿骨頭に生じる壊死を、大腿骨頭壊死という
- 初期には症状がない
- 圧潰が生じると、症状が出現
- 原因により、ステロイド性・アルコール性・狭義の特発性に分けられる
- 単純X線やMRI検査で特徴的所見を確認し、診断する
- 初期であれば保存療法
- 圧潰をともなえば手術療法
初期の段階に治療を開始し、圧潰を予防することが重要になります。