後縦靭帯が骨化する難病指定疾患に、後縦靭帯骨化症というものがあります。
難病疾患に指定されるものですが、どのような治療法があり、手術が必要となるのでしょうか?
今回は、後縦靭帯骨化症(読み方は「こうじゅうじんたいこつかしょう」英語表記で「ossification of posterior longitudinal ligament」略語で「OPLL」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明したいと思います。
後縦靭帯骨化症とは?
脊柱靭帯骨化症の1つで、脊柱にある後縦靭帯が骨になったために、脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫され、脊髄症状(神経症状)が現れる疾患です。
東洋人に多く、下位頚椎に好発しますが、胸椎に生じることもあります。
後縦靭帯骨化症は、骨化の形態により、連続型・分節型・混合型・限局型の4つの型に分類されます。
後縦靭帯骨化症の原因は?
原因は不明です。
しかし、家族内発症率が高く、遺伝的素因が疑われています。
その他、肥満・糖尿病・カルシウム代謝異常老化・局所ストレスなども発症要因になるのではないかと言われています。
後縦靭帯骨化症の症状は?
後縦靭帯が肥厚して骨化することで脊柱管の狭窄を来たし、場合によっては脊髄を圧迫することになります。
すると様々な症状が生じます。
頚椎後縦靭帯骨化症の場合と、胸椎後縦靭帯骨化症の場合、分けてご説明します。
頚椎後縦靭帯骨化症
圧迫性脊髄症による、痙性麻痺があり、手足のしびれなどで発症し、長い経過で症状が徐々に進行していきます。
しかし、無症候性の場合や軽症の場合、症状がなく、検査をして初めて分かることもあります。
胸椎後縦靭帯骨化症
- 背部痛
- 胸部帯状痛
- 感覚障害
を訴え、受診することが多くあります。
また、神経的には
- 下肢の筋力低下
- 痙性歩行
- 腱反射亢進
- 病的反射(バビンスキー反射・クローヌス)
が現れ、進行すると膀胱直腸障害を認めるようになります。
後縦靭帯骨化症の診断は?
X線・CT検査・MRI検査などの画像検査により診断されます。
それぞれについてご説明します。
X線検査
骨化像を認め、上記でご説明した4つの分類のどれに当たるかを診断します。
また、脊柱管狭窄率(骨化占拠率)を計測し、40%を超える場合、脊髄症状が現れる危険性があるということになります。
CT検査
骨化の形態(骨化巣の大きさ・脊柱管内の占領)を、横断面や再構成矢状断面で把握します。
症例① 80歳代男性
頚椎CTの矢状断像において、C2-6を中心に混合型の後縦靭帯の骨化(OPLL)を認めています。
横断像において脊柱管狭窄の程度が良くわかります。
症例② 60歳代 男性
C5,C6に分節型の後縦靭帯の骨化(OPLL)を認めています。
MRI検査
CTではわからない脊髄の圧迫の程度を把握できます。
肥厚した後縦靱帯はT1強調像及びT2強調像ともに低信号を示します。
骨化自体の描出ではCTの方がわかりやすいです。
症例① 80歳代男性 上の症例①と同一症例
MRIではT2強調像で脊髄を評価します。
矢状断像でCTと同様に後縦靭帯の骨化(OPLL)を認めています。(T2強調像で骨化は低信号(黒い)として描出されます)
特にC4/5で最も高度な脊柱管狭窄あり、脊髄に異常な高信号を認めています。
後縦靭帯の骨化(OPLL)よる脊髄症の所見です。
横断像においてもOPLLの様子が良くわかります。
胸椎後縦靭帯骨化症の治療は?手術が必要?
必ずしも手術が必要とは限りません。
無症候のケースでは、経過観察となることもあります。
また、症状が軽い場合には、保存療法として、
- 頚椎カラー固定
- 頚椎牽引療法
- 理学療法
- 薬物療法(NSAIDs・ビタミンB12製剤の投与)
などを行い、様子を見ますが、この保存療法で効果が見られない場合や、脊髄麻痺症状が見られる場合には、手術が検討されます。
胸椎後縦靭帯骨化症の手術治療
- 前方除圧固定術
- 椎弓形成術(椎弓切除術)
が検討されます。
場合によっては、2つの手術療法が併用されることもあります。
症例③ 70歳代女性
C5-6にOPLLを認めています。またC4の椎体の変性(骨棘形成)あり。
C3-6に椎弓形成術が施行されました。
これにより同レベルの脊柱管が広くなっています。
参考文献:骨軟部疾患の画像診断 P246-247
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P296・297・315・316
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P264・265
最後に
- 後縦靭帯が骨になったために、脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫され、脊髄症状をきたす疾患
- 連続型・分節型・混合型・限局型に分類される
- 原因は不明なものの、遺伝的素因・肥満・糖尿病・カルシウム代謝異常などの関与も疑われている
- 症状が出ないものも多い
- 中には、圧迫性脊髄症による神経症状が現れる場合もある
- 画像検査により、骨化を認める
- 症状がない場合は、経過観察
- 保存療法で効果が見られない場合や、脊髄麻痺症状が見られる場合には手術を検討する
胸椎後縦靭帯骨化症は、しばしば前縦靭帯骨化症(OALL)や黄色靭帯骨化症(OYL)など、他の脊柱靭帯骨化症を合併するとも言われています。
また、全身的に現れる強直性脊椎骨増殖症(ASH)やびまん性特発性骨増殖症(DISH)などの一部分症としてOPLLが合併していることも多く、そのため、難病疾患の1つに指定されている所以です。