先に結論:Batson静脈叢と骨転移
- Batson静脈叢は、背骨のまわりと脊柱管の中にある弁のない静脈のネットワークで、腹部・骨盤・胸の静脈とつながり、せきやいきみで血液の流れが逆向きになることがあります
- このため、前立腺がん・乳がん・腎がん・甲状腺がんなどのがん細胞や細菌が、肺や肝臓を通らずに直接背骨(椎体)に運ばれることがあり、肺転移がないのに椎体転移がある、骨盤の病気から化膿性脊椎炎が起こる理由と考えられています
- 画像では、原発巣に近い高さの背骨(前立腺がんなら腰椎・骨盤)から転移が見つかることが多いのが手がかりです
Batson静脈叢
・椎体の周囲および脊柱管内に存在する、弁のない網目状の静脈叢(椎骨静脈叢)のこと。外椎骨静脈叢と内椎骨静脈叢に分けられる。これらは、椎骨静脈(頸部)・肋間静脈(胸部)・腰静脈(腰部)・外仙骨静脈(仙骨部)→上大静脈、下大静脈へと還流する。
・弁構造を持たず、静脈血を貯留し、血流は遅くうっ滞し、その流れる方向は腹腔や胸腔内圧の変化により容易に逆転する。
・上・下大静脈、門脈、奇静脈、肺静脈、腎静脈、骨盤静脈や乳腺・頭頸部・四肢の静脈系と交通を有している。・Batsonは1940年に前立腺の静脈叢と椎骨静脈叢の連続性を示し、静脈系を大静脈系・肺静脈系・門脈系・椎骨静脈系の4つに分けた。現在、椎骨静脈叢は頭蓋内の硬膜静脈洞ともつながる脳脊髄静脈系の一部とされ、血流は双方向で、腫瘍・感染・塞栓の広がる経路となる。
・この静脈叢を介すると、静脈系のフィルタとなる肝や肺を通らずに直接骨組織に到達し、特に骨盤内臓器から、細菌感染や悪性腫瘍の椎体への転移の経路となる。
代表例)
- 骨盤内炎症、骨盤内手術→化膿性椎体炎、感染性仙腸関節炎
- 前立腺癌、子宮頸癌→椎体骨/骨盤骨転移・脳転移・硬膜転移。
- 腎細胞癌→肺転移を伴わない椎体骨への転移が起こりうる(通常は下大静脈→肺の経路で肺転移も多い)。
- 甲状腺癌、乳癌、気管支の癌→肺転移を伴わない椎体骨への転移が起こりうる。(腎を含め、奇静脈系とBatson静脈叢の連結による)※甲状腺癌は頚椎〜上部胸椎、気管支癌・乳癌は下部頚椎〜胸椎、腎癌では下部胸椎〜腰椎に転移しやすい。
- 前立腺癌に対するシード治療→シードの仙骨への迷入。
・椎体骨転移は椎体の後部から始まることが多く、これは椎体へ出入りする血管の入口が椎体後方にあるためと考えられている(椎弓根の破壊は椎体病変を伴って起こる)。腰椎に多いのは、特に赤色髄に富むため。
椎体の血管分布(Aが動脈、Bが静脈)

参考文献
- Batson OV. The function of the vertebral veins and their role in the spread of metastases. Ann Surg. 1940;112(1):138-49. PubMed
- Algra PR, Heimans JJ, Valk J, et al. Do metastases in vertebrae begin in the body or the pedicles? Imaging study in 45 patients. AJR Am J Roentgenol. 1992;158(6):1275-9. PubMed
- Nathoo N, Caris EC, Wiener JA, et al. History of the vertebral venous plexus and the significant contributions of Breschet and Batson. Neurosurgery. 2011;69(5):1007-14; discussion 1014. PubMed
- Geldof AA. Models for cancer skeletal metastasis: a reappraisal of Batson’s plexus. Anticancer Res. 1997;17(3A):1535-9. PubMed
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