ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例20

症例20

【症例】40歳代 男性
【主訴】左側胸部痛
【現病歴】自宅で座ってテレビをみていたところ急に上記主訴が出現し、救急要請。外傷はなし。
【身体所見】BP 181/140、P 70、BT 36℃、SpO2 98%(RA)、左腹部やや硬い。圧痛あり。
【データ】WBC 13900、CRP 0.39

画像はこちら

左腎周囲に高吸収の血腫を疑う所見を認めています。

血腫により左腎はかなり腹側に圧排されています。

後腹膜の血腫はかなり下方まで及んでいることがわかります。

血腫が存在している部位はあくまで後腹膜であり、腹腔内ではないことに注意が必要です。

ダグラス窩や肝周囲、脾臓周囲には(血性)腹水を疑う所見は認めていませんね。

 

さて、このような腎周囲および後腹膜腔への血腫を見た際に考えなければならないのが、

腎血管筋脂肪腫(renal AML:angiomyolipoma)の破裂です。

それ以外に腎細胞癌が破裂することもあります。

ですので、「腎臓に腫瘍を疑う所見はないか?」という目で腎を見る必要があります。

血腫に紛れてわかりにくいですが、腎下極から後方に突出する腫瘤が疑われます。

ただし、腎血管筋脂肪腫で通常認める可視的な脂肪成分(低吸収域)は今回はっきりしません。

造影CTを参照すると腎実質よりも低吸収な部分を腎下極付近に認めており、やはり腫瘍はありそうです。

ただし、脂肪成分ははっきりしません(脂肪成分がはっきりしない腎AMLも稀にあります)。

 

診断:左腎腫瘍破裂による後腹膜出血

※バイタルを参照にしながらですが、緊急アンギオになることがあります。泌尿器科、放射線科へのコンサルトが必要となります。

※この方は超緊急ではなく、アンギオが施行されました。その後一旦退院となり、後日待機的に手術(後腹膜鏡補助下左腎摘出術)となりました。

手術の結果、Renal cell carcinoma,clear cell carcinoma

つまり、腎細胞癌(淡明細胞型)と診断されました。

 

最終診断:左腎細胞癌(淡明細胞型)破裂による後腹膜出血

頻度としては腎AMLの破裂が多いですが、腎細胞癌にも注意が必要ですね。

関連:

その他所見:

  • 胆石あり。胆嚢底部に胆のう腺筋腫疑い。
  • 両側腎嚢胞あり。

 

症例20の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. 最初見た時なんだろう?
    って感じでした。
    いきなり破裂するものなんですね。
    怖いです。
    外傷でもなく、座ってテレビ見てたら…
    腎AMLの破裂か腎細胞癌の破裂
    があるのですね。
    これらのあるひとは常にリスクがあると
    思っていてもいいですか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >これらのあるひとは常にリスクがあると
      思っていてもいいですか?

      そうですね。なかでもとくにAMLの場合は、
      サイズが大きいものほど破裂のリスクが高いと言われています。

  2. 後腹膜にとどまる出血って、エコーでの評価はどうなんでしょう( ̄▽ ̄;)?
    FASTでパッと見れるものですか?

    今回、「一発造影」っていうのが地味に気になっています。

    依頼医に「出血」が鑑別の上位に挙がっていなかった、ということでしょうか?
    確かに、突然発症ではありますが、バイタルサインからは出血を積極的に疑う感じではないですかね(^-^;

    とりあえず、造影もしてみた、という感じなんでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >FASTでパッと見れるものですか?

      腎周囲に広範に認めますので、エコーでも観察可能ですね。
      ちなみに、今回は外傷のエピソードはありません。

      >今回、「一発造影」っていうのが地味に気になっています。

      ではなく、今回はまず単純が撮影されて、出血があるので、造影CTがその後施行されています。
      今回はそれをまとめて提示しています。

      この手の質問が多いですが、単純で撮影するのか造影で撮影するのかは
      依頼医、施設の造影撮影の敷居の差により変わるので、なんとも言えないことが多いです。

      1. なるほど〜(・・;)
        オーダーって、難しいなって思います( ̄▽ ̄;)

        「画像」診断うちのある程度の割合を、
        オーダーとか、画像構成が占めていそうです( ̄▽ ̄;)

        1. おっしゃるようにオーダーは重要ですね。
          被曝の問題や造影剤を使えるのか(施設的にも患者さん的にも)という問題も考慮する必要がありますからね。

  3. お世話になっています。

    副所見で申し訳ございませんが…
    造影にて、胆嚢底部に限局性の壁肥厚を認めますが、胆嚢腺筋腫症疑いでよろしいでしょうか?
    左腸骨の硬化や石灰化を認め、臀部の筋肉に石灰化が散在していますが、単純に炎症後と考えてよいのでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >造影にて、胆嚢底部に限局性の壁肥厚を認めますが、胆嚢腺筋腫症疑いでよろしいでしょうか?

      おっしゃるとおりですね。追記します。

      >左腸骨の硬化や石灰化を認め、臀部の筋肉に石灰化が散在していますが、単純に炎症後と考えてよいのでしょうか?

      これはなんとも・・ですね。
      何らかの炎症後なのかもしれません。

  4. パッと見て出血とはすぐにわかるようになってきました.
    外傷のない出血と言われたらやはり腫瘍のrupture?と考えました.血管瘤も鑑別なのでしょうか.

    1. アウトプットありがとうございます。

      >血管瘤も鑑別なのでしょうか.

      おっしゃるとおりです。

      腹部大動脈瘤、腎動脈瘤の破裂なども鑑別に挙がります。

  5. わかりやすい説明ありがとうございます。頻度的にAMLがおおく、周囲の脂肪織の状態をみて、脂肪の少ないAMLとみました。常にいろんな可能性、腫瘍も考える、を念頭に読影しようと思いました。後腹膜腫瘍は、周囲脂肪の圧排でしけつされるから、という説明が目からうろこでした。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >頻度的にAMLがおおく、周囲の脂肪織の状態をみて、脂肪の少ないAMLとみました。常にいろんな可能性、腫瘍も考える、

      まあこれで腎腫瘍の組織型まで診断するのは困難で、おっしゃるように頻度から考えても、
      脂肪の少ないAMLでも良いかと思います。

  6. 最後のお言葉 、腎筋膜やbridging septumの肥厚,あるいは腎周囲腔内の脂肪層の乱れというのが、経験的にしっていましたが、bridging septum言葉として、不勉強でした。炎症(腎炎や腎膿瘍のみならず腎外からの炎症波及も含む),腎周囲血腫,腎梗塞,腎腫瘍などさまざまな病態で認め、健常者でも腎筋膜やbridging septumが目立つ人もいると、学びました。沢山の気づきありがとうございます。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >腎周囲血腫,腎梗塞,腎腫瘍などさまざまな病態で認め、健常者でも腎筋膜やbridging septumが目立つ人もいると、学びました。

      そうなんです。ですので過去画像との比較、左右差の比較が重要となります。
      また有意と取り過ぎないこともとくに高齢者では重要ですね。

  7. 貴重な症例提示ありがとうございます。
    スライス151〜155のレベルで造影CTでひだり腎周囲腔後方にみられる線状の高吸収は血管でしょうか。extravazationと判断してしまいました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >スライス151〜155のレベルで造影CTでひだり腎周囲腔後方にみられる線状の高吸収は血管でしょうか。

      おっしゃるように血管ですね。はっきりしないですが、腫瘍を栄養しているのかも知れません。

  8. こんばんは。毎日ありがとうございます!
    今回は腎周囲出血と、最も疑わしい疾患として腎血管筋脂肪腫までなんとか述べることができました!
    腫瘍の典型的な脂肪成分をCT上で検出できていなかったので少し悩んだのですが、最近読んだ『レジデントのための画像診断の鉄則』という本に、診断が難しい腎腫瘤の1つとしてfat poor AMLが記載されていたので、おそらくこれだろうと判断することができました。
    ちょっとずつ経験症例を増やして少しずつ自信をつけていきたいです。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >今回は腎周囲出血と、最も疑わしい疾患として腎血管筋脂肪腫までなんとか述べることができました!

      すばらしいですね!

      >診断が難しい腎腫瘤の1つとしてfat poor AMLが記載されていたので、おそらくこれだろうと判断することができました。

      脂肪成分がない場合は、腎癌なのかfat poor AMLなのかは難しいですね。
      早期濃染がありwash outされると腎癌の可能性が高くなりますが、
      今回は平衡相のみの撮影で、かつ出血により修飾されており判断は難しそうです。

      この方も血腫が引いてから精査がなされました。
      今回の時点では、fat poor AMLや腎癌が鑑別に挙げられたら問題ないですね。

  9. 病態は分かりましたが、AMLの破裂としてしまいました。
    鑑別を考えていくのが、放射線科の難しいところでした。腫瘤の鑑別・MRIとか、先生たち凄かったなぁ〜〜〜(しみじみ( ; ; ))

    1. アウトプットありがとうございます。

      >AMLの破裂としてしまいました。

      この時点では脂肪こそは確認できませんが、それで問題ないと思います。

      腎腫瘍の破裂による後腹膜出血と言えれば十分ですね。

      >鑑別を考えていくのが、放射線科の難しいところでした。

      ですね(^_^;

  10. 解説ありがとうございます。
    bridging septaが肥厚していると、ついつい炎症が先に思い浮かんでしまいますが
    今回のように出血でも肥厚があることを今一度復習できました。
    また今回は後腹膜出血でしたが、血腫がもっと多かったらやはり腹腔内にまで及んでいたのでしょうか。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >bridging septaが肥厚していると、ついつい炎症が先に思い浮かんでしまいますが
      今回のように出血でも肥厚があることを今一度復習できました。

      そうですね。炎症のみでなく、出血や浮腫などでも肥厚しますね。

      >血腫がもっと多かったらやはり腹腔内にまで及んでいたのでしょうか。

      大量に破裂するとそういったこともあるかと思いますが通常はしみ出す程度でしょうか。
      腹腔内に大量に破裂すると緊急アンギオになりますね。

  11. 腹部救急症例45と比べてみると、確かに腫瘤の脂肪成分は少ないですね。
    派手な所見ですから、どこに問題があるのかは明らかですが、いくつか鑑別を上げれるようになるといいなあ。bridging septaのインパクトは強力です。

    1. アウトプットありがとうございます。

      脂肪成分は少ないというか認めていませんね。
      AML破裂が多いので脂肪成分がないかを注意深く探しましょう。
      明らかなものがなければ、腎癌の可能性も考えるという順序ですね。

      >bridging septaのインパクトは強力です。

      そうですね。浮かび上がってきますね!