先に結論:異所性甲状腺(舌甲状腺など)

  • 異所性甲状腺は、胎児期に舌の付け根から首の下へ移動する甲状腺が途中で止まってできるもので、舌根(舌甲状腺)が最も多く、のどの異物感・飲み込みにくさ・甲状腺機能低下で見つかります
  • CTでは甲状腺と同じようにヨウ素を含むため、単純CTで白く(高吸収)、よく造影されるのが特徴で、甲状腺シンチ(123I・99mTc)で確定します
  • 正常の位置に甲状腺がない(異所性甲状腺が唯一の甲状腺)ことがあるため、切除の前に必ず正常甲状腺の有無を確認することが大切です

異所性甲状腺(ectopic thyroid)とは?

通常ならば上のように、舌盲孔から舌骨の前方、甲状軟骨前方を下降し、胎生期のうちに正常位置に移動します。この途中で一部が残存したのが異所性甲状腺です。

  • 異所性甲状腺(ectopic thyroid)とは、甲状腺原基の下降(移動)が不完全な場合に生じる、正中〜傍正中の甲状腺組織である。
  • 胎生期に甲状腺は舌盲孔付近から発生し、舌と口腔底の筋層を貫き、舌骨〜喉頭軟骨前面を通って下降する(甲状舌管の経路)。
  • そのため異所性甲状腺は、舌根(舌甲状腺:lingual thyroid)を最多として、舌内・舌下・喉頭前・気管内・胸骨下など、甲状舌管のどこにでも出現しうる。
  • 最も多い部位は舌根(そのため舌甲状腺と呼ばれる)であり、異所性甲状腺の大部分を占めるとされる。
  • 甲状腺が正常位置に存在しない(=異所性組織が唯一の甲状腺である)症例が一定割合でみられる。
  • 思春期・妊娠・月経など甲状腺ホルモン需要が増える時期に症状化・増大しやすい。
  • 咽頭部腫脹、異物感、嚥下困難、発声障害、呼吸苦〜気道狭窄(特に大型病変)。舌甲状腺の260例(自施設36例+文献224例)では、飲み込みにくさ・のどの異物感・声の変化が多かった(Sauer 2022)。症状は乳児期から大人まで、どの年齢でも出うる(Kalan 1999)。
  • 小児では、先天性甲状腺機能低下症の精査で見つかることがある(症状としては嗄声・摂食不良などを含みうる)。
  • 甲状腺機能低下の合併は約3分の1(Sauer 2022)。異所性甲状腺が唯一の甲状腺組織である例も多い(Fakadej 2023)。
  • ストレス、思春期、月経、妊娠などの刺激(TSH上昇など)で増大することがある。
  • 最終診断(機能的同定)としては甲状腺シンチグラフィが中核であり、特に ヨウ素123(123I) による集積評価が有用である。臨床では 99mTc–パーテクネテートやSPECT/CTも併用される。

異所性甲状腺の画像診断

異所性甲状腺は「甲状腺と同じ性質の軟部組織」として写る。
舌根病変では、内視鏡的には舌根正中の隆起として捉えられ、画像では正中〜傍正中に位置することが多い。
ポイントは、病変の性質(甲状腺らしさ)と正常甲状腺の有無を同時に評価することである。

異所性甲状腺ができる場所(4つの典型部位)

発生の経路(舌盲孔→舌骨の前を回る→甲状舌骨膜の前→舌骨下の正常位置)にそって、次の4か所に分けて考えます(Zander 2014)。

部位 ポイント
①舌根(舌甲状腺) 最も多い。舌根正中の隆起
②舌骨の近く 甲状舌管嚢胞と同じ経路上
③舌骨より下の正中 前頸部正中のしこり
④側頸部(まれ) 甲状腺癌のリンパ節転移との区別が必要

このほか縦隔や横隔膜より下の臓器など、離れた場所に見つかることもあります(Noussios 2011)。正常の甲状腺は、甲状軟骨(のどぼとけ)より下で気管の前に、左右の葉と峡部からなる蝶のような形で存在します。画像ではまずこの位置に甲状腺があるかを確認します。

縦隔の異所性甲状腺と縦隔内甲状腺腫の違い

  • 縦隔内甲状腺腫(胸骨下甲状腺腫):首の正常位置の甲状腺が大きくなり、縦隔へ垂れ下がったもの。CTで頸部の甲状腺と連続しています。
  • 縦隔の異所性甲状腺:首の甲状腺とはつながらず、縦隔に独立して存在する甲状腺組織です。

CT

  • 単純CTで比較的高吸収の軟部組織腫瘤として描出されやすい(甲状腺組織の性状を反映)。
  • 舌根(舌盲孔周辺)〜舌骨・喉頭前面に沿う正中の病変は、発生学的経路と整合する。
  • 正常甲状腺が欠如していないかを必ず確認する(治療方針に直結)。
  • 造影で比較的均一かつ強い増強を示すことが多い。
  • 舌根病変では、気道狭窄の程度(咽頭腔の狭小化)を同時に評価できる。

症例 40歳代女性

引用:Radiopaedia

舌根部の正中・舌骨のすぐ下の頸部正中の高吸収域病変を認める。異所性甲状腺を疑う所見です。

MRI

  • T1/T2信号は症例で幅があるが、充実性腫瘤として描出される。
  • 造影後は増強を示し、腫瘍性病変(悪性を含む)との鑑別では形状・浸潤・リンパ節を重視する。
  • 舌根・咽頭の解剖、気道圧排、粘膜下進展の評価に有用である。

超音波

  • 舌根は超音波の死角になりやすいが、頸部正中〜舌骨周囲の病変では有用。
  • 同時に正常甲状腺の存在を確認しやすい。

甲状腺シンチ(123I / 99mTc)

  • 異所性病変への集積が確認できれば、機能的に甲状腺組織であることを裏付ける。
  • SPECT/CTを併用すると、局在(舌根・舌下・喉頭前・縦隔など)をCT解剖と一体化して示せる。
  • 99mTc–パーテクネテートは甲状腺に取り込まれるがホルモン合成(有機化)には使われない。唾液腺や口腔内にも集まるため、舌根の病変では123Iのほうが評価しやすいことがある。
  • 正常位置に集積がない場合、異所性組織が唯一の甲状腺である可能性が高く、外科切除の判断に直結する。

読影で押さえるチェックリスト

  • 局在:正中〜傍正中か、甲状舌管の経路に沿うか(舌盲孔〜舌骨〜喉頭前面〜縦隔)。
  • 性状:単純CTで高吸収、造影で均一増強など“甲状腺らしさ”。
  • 正常甲状腺の有無:欠如していないか(非常に重要)。
  • 気道・嚥下路:咽頭腔狭窄、喉頭圧排の程度(症状と整合するか)。
  • 悪性を疑う所見:不整形、浸潤、潰瘍形成、壊死、異常リンパ節など(頻度は低いがゼロではない)。正常甲状腺に起こる病気は悪性腫瘍を含めて異所性甲状腺にも起こりうる。また甲状腺組織は甲状舌管の経路だけでなく側頸部などにも異所性に存在しうるため、正所性甲状腺癌からの転移との区別が必要になる。
  • 最終同定:シンチで集積を確認できるか(必要に応じSPECT/CT)。

鑑別診断(舌根・正中頸部腫瘤)

部位ごとに鑑別は変わるが、舌根〜舌骨周囲の正中病変では以下が問題になりやすい。

  • 甲状舌管囊胞:嚢胞性(単純CTで低吸収、MRIでT2高信号主体)。感染で壁肥厚・増強を来す。
  • リンパ組織(扁桃・舌扁桃の肥大):左右差や炎症所見、臨床経過を踏まえる。
  • 血管性病変(血管奇形など):流入血管、phlebolith、造影パターンが鍵。
  • 悪性腫瘍:舌根癌、リンパ腫、転移など(浸潤・リンパ節が重要)。
  • 神経原性腫瘍:傍咽頭間隙など局在がヒント。

異所性甲状腺でよくある疑問(Q&A)

Q. 異所性甲状腺は治療が必要ですか?
A. 症状がなく悪性の心配がなければ経過観察が基本で、症状が強いときは手術などを検討します(Sauer 2022)。ただし唯一の甲状腺のことがあるため、切除前に正常甲状腺の有無を確認します。のどの違和感や飲み込みにくさが続く場合は、耳鼻咽喉科などで相談してください。

関連記事:甲状舌管嚢胞(正中頚嚢胞、正中頸嚢胞)とは?画像診断のポイントは?

参考文献

  1. Zander DA, Smoker WR. Imaging of ectopic thyroid tissue and thyroglossal duct cysts. Radiographics. 2014;34(1):37-50. PubMed
  2. Altay C, Erdoğan N, Karasu S, et al. CT and MRI findings of developmental abnormalities and ectopia varieties of the thyroid gland. Diagn Interv Radiol. 2012;18(4):335-343.
  3. Amani MEA, Benabadji N, Benzian Z, et al. Ectopic lingual thyroid. Indian J Nucl Med. 2012;27(2):124-126.
  4. Huang H, Lin YH. Lingual thyroid with severe hypothyroidism: A case report. Medicine (Baltimore). 2021;100(43):e27612. PubMed
  5. Santangelo G, et al. Prevalence, diagnosis and management of ectopic thyroid gland: a review. International Journal of Surgery. 2016.(レビュー)
  6. Kalan A, Tariq M. Lingual thyroid gland: clinical evaluation and comprehensive management. Ear Nose Throat J. 1999;78(5):340-1, 345-9. PubMed
  7. Massine RE, et al. Lingual Thyroid Carcinoma: A Case Report and Review of the Literature. Thyroid. 2001.(悪性例レビュー)
  8. Noussios G, Anagnostis P, Goulis DG, et al. Ectopic thyroid tissue: anatomical, clinical, and surgical implications of a rare entity. Eur J Endocrinol. 2011;165(3):375-382. PubMed
  9. Sauer AB, Dowling EM, Bauman MMJ, et al. Does surgical management still play a role in the management of ectopic lingual thyroid: Institutional experience and systematic review of the literature. Am J Otolaryngol. 2022;43(3):103461. PubMed
  10. Fakadej T, Balar AB, Kota S, et al. Lingual Thyroid: Case report and brief review of the literature. Radiol Case Rep. 2023;18(1):312-316. PubMed

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