胸部の鈍的な外傷により、胸部の様々な部位に損傷が起こります。
中でも、肺実質が損傷を受けることがあり、これを肺挫傷(読み方は「はいざしょう」、英語表記でpulmonary contusion)と言います。
胸郭に守られた肺が損傷を受けると
- どのようなCT画像所見を示すのか
- どのような合併症があるのか
などを実際のCT画像を用いてまとめました。
肺挫傷とは?
上に述べたように、外力により肺実質そのものの損傷(肺実質損傷)を肺挫傷と言います。
肺実質が損傷を受けると、肺胞、間質への出血や浮腫を生じます。
肺裂傷とは?
肺挫傷の中には、肺実質内に亀裂を生じ、肺胞の構造が破壊され、肺裂傷(pulmonary laceration)となることがあります。
- 裂傷部位に血液が貯留→肺内血腫
- 裂傷部位に空気が貯留→外傷性肺嚢胞(pneumatocele(ニューマトシール))、air cystといった嚢胞
が形成されます。
肺挫傷部位は、治癒の過程で気道と交通すれば肺嚢胞(pneumatocele)となったり、血腫が縮小して、結節として残ることがあります。
ですので、肺嚢胞には裂傷に伴うものと、治癒の過程で後遺症としてできるものがあります。
肺挫傷の診断は?
肺挫傷の診断には画像診断(胸部レントゲン検査及び胸部CT検査)が有効です。
特に胸部CTはレントゲンと比較して、肺挫傷の検出率は高いと報告されています(Radiology 1988;167:77-82)。
肺挫傷のCT画像所見は?
出血量を反映して、すりガラス影から肺胞性陰影まで様々な濃度の浸潤影として画像では認められます。
この陰影だけでは非特異的と言えますが、外傷後+外傷を受けた部位にすりガラス影〜浸潤影を認めるという点が診断には重要です。
また、この浸潤影は、非区域性であるという点も肺炎などとは異なる点であり重要です。
非区域性に広がる浸潤影とは気管・気管支の分布を無視して広がる浸潤影のことです。
通常肺炎などの感染症は気管支を経て広がるため、区域性に広がります。
ですので、区域を無視した非区域性の場合は感染症以外を考える手がかりとなります。
肺挫傷の陰影は、通常受傷直後から発生し、3,4日から1週間以内に消失します。
肺裂傷は肺の末梢や胸膜直下に単発性あるいは多発性の嚢胞性病変として認められます。
ただし、周囲の肺挫傷に埋もれてしまい、受傷直後にははっきりしないこともあり注意が必要です。
裂傷内部に出血を伴う場合は、ニボー像(鏡面形成)を認めることがあります。
症例 40歳代男性 胸部打撲
胸部単純CTで左の下葉の末梢に楔型の浸潤影を認めています。
隣接する肋骨には骨折線を認めており、肋骨骨折+肺挫傷と診断されました。
症例 50歳代男性 脚立より転落
胸部単純CTで左に気胸を認めています。
また背側に非区域性に広がる浸潤影を認めており、肺挫傷を疑う所見です。
接する肋骨には骨折線を認めています。
外傷性気胸+肺挫傷+肋骨骨折と診断されました。
症例 30歳代男性 交通事故
胸部単純CTで右下葉に楔型の浸潤影を認めており、肺挫傷を疑う所見あり。
浸潤影の内部に嚢胞性病変あり。肺裂傷(外傷性肺嚢胞)を疑う所見です。肋骨骨折も認めていました。
肺挫傷+肺裂傷+肋骨骨折と診断されました。
症例 20歳代女性 交通事故
胸部単純CTで左気胸を認めています。
左下葉に非区域性に広がる浸潤影を認めており、肺挫傷を疑う所見です。
その内部に2箇所嚢胞性病変を認めています。外側のものはニボー像を認めており、肺裂傷及び肺内血腫を疑う所見です。
なお肋骨骨折も伴っていました(非提示)。
外傷性気胸+肺挫傷+肺裂傷+肋骨骨折と診断されました。
肺挫傷の合併症は?
- 気胸/血胸
- 外傷性ARDS/ALI
- 肺嚢胞
気胸/血胸
肺被膜の損傷を伴うと、その部位より空気や血腫が胸腔内に漏れ出てしまい、気胸や血胸を伴うことがあります。
外傷性ARDS/ALI
肺挫傷は肺実質の直接障害を起こし、ARDS(成人呼吸窮迫症候群)/ALIの原因となることがあります。
受傷後1週間以上経過しても浸潤影が消失しない場合は、二次感染の他、広範な無気肺、外傷性ARDSの可能性があります。
肺嚢胞
肺裂傷に合併する外傷性肺嚢胞は大量喀血の原因となることがあるので注意が必要です。
参考書籍:Emergency Radiology 救急の画像診断とIVR P54-55
参考書籍:画像診断 Vol.30 No.11 臨時増刊号 2010 s226-229
胸部の外傷では肺挫傷と同時に起こりうる肋骨骨折も重要です。
最後に
胸部の外傷で起こりうる肺挫傷についてまとめました。
肺挫傷には、肺胞実質の破壊を伴う肺裂傷も含まれており、また陰影自体は非特異的であるため、
- 胸部外傷のエピソード
- 肺炎を疑う臨床所見がないか
- 肺嚢胞・気胸・血胸を疑う所見
などがないかをチェックすることが重要です。
また、外傷後1週間以上経過しても陰影の軽減を認めない場合は、外傷性ARDSなどの可能性があるので注意が必要です。