Fabry病の脳MRI 白質病変と脳底動脈の拡張を見る

若い人の脳梗塞や、原因のはっきりしない大脳白質の点状の信号で、Fabry(ファブリー)病を疑うように言われました。脳のMRIではどこを見て、多発性硬化症などとどう区別するのですか?
Fabry病は、酵素の働きが足りず糖脂質が体にたまっていく遺伝性の病気で、脳・心臓・腎臓などが障害されます。脳MRIの一番多い所見は大脳白質のT2高信号ですが、実は特異的ではありません。椎骨脳底動脈の拡張(dolichoectasia)や心臓・腎臓の所見と組み合わせて考えるのがコツです。

先に結論:脳MRIだけでは決められない。「若い脳卒中・白質病変+後方循環の拡張+心臓や腎臓」で疑う

項目 ポイント
どんな病気か GLA遺伝子の変異によるα-ガラクトシダーゼAの活性低下。X連鎖性の疾患で、女性にも症状が出る(Hagège 2019)
脳MRIで最も多い所見 大脳白質のT2/FLAIR高信号。ただし特異的ではない(Cocozza 2018)
疑う手がかり 椎骨脳底動脈の拡張・蛇行、後方循環の脳梗塞、若年の脳卒中
pulvinar sign 視床枕のT1高信号。Fabry病に特徴的とされたが、診断の決め手にはならない(Cocozza 2018)
心臓MRIの手がかり native T1の低下、左室基部下側壁の異常(Hagège 2019、Pica 2014)

Fabry病とは

Fabry病は、リソソーム(細胞内の分解工場)の酵素であるα-ガラクトシダーゼAが働かず、糖脂質のグロボトリアオシルセラミドが全身の細胞にたまっていくX連鎖性の遺伝性疾患です(Cocozza 2018)。男性だけでなく女性にも症状が出ます。実際に、遺伝子で確定したFabry病63人の心臓MRI研究では、54%が女性でした(Pica 2014)。

障害される臓器は、神経(四肢の痛み、発汗低下)、腎臓、心臓、脳血管などです。中枢神経は軽い症状から、脳血管障害による重い経過まで幅広く関わります(Cocozza 2018)。心臓の合併症は現在の主な死因とされ、平均死亡年齢は男性55歳、女性66歳と報告されています(Hagège 2019)。

日本人成人のFabry病12人の検討では、10人に神経症状があり、四肢末端の異常感覚6人、頭痛5人(うち片頭痛4人)、発汗低下5人、脳梗塞3人でした(Sawada 2021)。若い人の脳梗塞だけでなく、頭痛や手足の痛みも手がかりになります。気になる症状が続くときは、医療機関で相談してください。

脳卒中の原因としてのFabry病

Fabry病は、まれですが原因の分かる(そして治療可能な)脳卒中の原因として知られます。若年の脳卒中を対象にした系統的レビューとメタ解析(9研究・8,302例)では、あらゆる原因の脳卒中でのFabry病の有病率は0.4〜2.6%、原因不明(cryptogenic)の脳卒中では0.6〜11.1%で、男性4.5%・女性3.4%という推定でした(Shi 2014)。著者らは、若い人の脳卒中全体の約1%、原因不明の脳卒中の3〜5%にFabry病が関与しうると結論しています(Shi 2014)。

ただし数字は集団によって大きく違います。日本の若年発症(60歳以下)の脳卒中516人を調べた研究では、古典的Fabry病の原因変異をもつ人は見つかりませんでした(Kinoshita 2018)。有病率は「高い・低い」と一律に言えず、画像の手がかりと合わせた判断になります。

脳MRIの所見

所見 内容 注意点
大脳白質のT2/FLAIR高信号 小さな点状から、びまん性・融合性まで幅がある。最も一貫した所見 分布も形も特異的ではない(Cocozza 2018)
椎骨脳底動脈の拡張・蛇行 後方循環の血管壁の異常。MRAで脳底動脈の蛇行・延長 一貫した所見(Cocozza 2018)
脳梗塞 小さな梗塞が主体。後方循環も多い 若年での発症が手がかり
pulvinar sign 視床枕(視床の後部)のT1高信号 特異的ではなく、全例にあるわけでもない

1. 大脳白質病変:最も多いが特異度は低い

Fabry病の脳MRIで最も一貫した所見は大脳白質のT2・FLAIR高信号です。小さな点状の病変が散らばるものから、両側びまん性で一部が融合するものまで、さまざまな見え方をします(Cocozza 2018)。日本人12人では、脳室周囲の高信号が5人、深部白質の高信号が10人にみられました(Sawada 2021)。ふだんの白質病変の読み方は慢性虚血性変化(大脳白質病変)、遺伝性の小血管病の鑑別はCADASIL・CARASILも参照してください。

症例 Fabry病の大脳白質病変(論文の図)

Fabry病 脳MRI FLAIR 大脳白質の高信号
引用:Cocozza S, Russo C, Pontillo G, et al. Insights Imaging. 2018;9(6):1023-1034 (Figure 2). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)

論文の図です。上段は46歳女性、中段は52歳男性のFLAIR像で、小さな点状の高信号が散在しています。下段は40歳女性で、両側にびまん性で一部が融合する白質の高信号があります。論文では、白質高信号は最も多い所見ですが、形も分布も特異的ではないと述べられています。

2. 椎骨脳底動脈の拡張(dolichoectasia):見落としやすい手がかり

白質病変より特徴的なのが、後方循環の血管の拡張と蛇行です。中国のFabry病37人の症例対照研究では、脳底動脈の径は脳卒中のある対照群にも、ない対照群にも比べて有意に太く、軸位T2強調像で測った径4.16 mmで脳卒中群の対照と区別でき(感度80%、特異度100%)、脳卒中のない群では3.21 mmがカットオフでした(感度77.8%、特異度88.9%)(Lam 2023)。これは一施設の小規模な研究の値なので、具体的な数値を絶対的な基準にせず、「脳底動脈が太く、蛇行しているか」を見る習慣として使うのが実際的です。

ふだんの横断像のT2強調像でも、脳底動脈の太さは確認できます。若い人の脳梗塞や白質病変で、脳底動脈が不自然に太い・蛇行しているときは、Fabry病を思い浮かべるきっかけになります。

症例 Fabry病の脳MRA(論文の図)

Fabry病 頭部MRA 後方循環の延長と蛇行
引用:Cocozza S, Russo C, Pontillo G, et al. Insights Imaging. 2018;9(6):1023-1034 (Figure 3). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)

論文の図です。52歳男性のFabry病で、3次元TOF MRAの最大値投影像を冠状断(a)と軸位(b)で再構成したものです。後方循環に軽度の延長と蛇行がみられます。

3. pulvinar sign:あっても決め手にならない

視床の後部(視床枕、pulvinar)がT1強調像で高信号になる所見は、Fabry病に特徴的とされてきました。しかし総説は、診断を決める特異的な所見としては信頼できないとしています(Cocozza 2018)。一方、日本人成人12人には、pulvinar signのある人がいませんでした(Sawada 2021)。「ないからFabry病ではない」「あるからFabry病」のどちらも言えません。

多発性硬化症(MS)との見分け

白質病変が点状に散らばる若い人では、MSと間違われることがあります。FabryとMSの白質病変を6人の読影者(神経放射線科医、神経内科医、一般放射線科医)が軸位FLAIRだけで分類した研究では、一致度は中等度(Fleissのκ=0.45)でした。各群の評価の正答は、MS群85%、Fabry群75%でしたが、6人全員が正しく当てられた患者はMSで38%、Fabryで33%にとどまりました(Rath 2022)。

見るところ MSで多い Fabry病で考える
脳梁の病変 多い(p<0.001)(Rath 2022) 少ない
傍皮質(juxtacortical)病変 多い(p<0.001)(Rath 2022) 少ない
テント下(小脳・脳幹)の病変 多い(p=0.03)(Rath 2022) 少ない
血管の所見 ― 脳底動脈の拡張・蛇行、若年の梗塞
全身の手がかり ― 四肢の痛み、発汗低下、心肥大、腎障害、家族歴

MSの画像の基本は多発性硬化症(MS)のMRI、central vein signにまとめています。FLAIRの1枚だけで決めず、血管の形、全身の症状、家族歴を合わせて考えます。

心臓・腎臓の画像は診断の近道

脳MRIで迷ったときは、心臓や腎臓の情報が近道になります。心臓では、30歳を超える男性や40歳を超える女性に、原因不明の左室肥大(多くは同心性で非閉塞性)としてみつかることが多く、肥大型心筋症に似ることもあります。肥大型心筋症の集団では最大1%がFabry病と診断されたとされます(Hagège 2019)。

検査 手がかり 文献の数字
心臓MRI native T1 T1値の低下(脂質の蓄積を反映)。肥大が出る前から下がることがある ShMOLLI法のnative T1は、左室肥大のあるFabry病853 ms、肥大のないFabry病904 ms、健常968 ms(Pica 2014)
心臓MRI 遅延造影 肥大のない左室基部下側壁の菲薄化・ストレイン低下・中層の線維化 (Hagège 2019)
心エコー 左室肥大、収縮・拡張機能の低下 肥大のない群でも、native T1が低いと拡張機能の低下を伴う(Pica 2014)

画像診断だけでは確定できないため、診断は酵素活性や遺伝子検査で行います。治療の面では、酵素補充療法(2001年から)やシャペロン療法(2016年から)があり、構造・機能の異常が出始めた早い時期に開始することが勧められています(Hagège 2019)。若い人の脳卒中で、画像から本症を疑ったら、神経内科・遺伝の専門施設への相談につなげます。

画像を見るときのチェックリスト

  • 若年(50〜60歳以下)の脳梗塞や、年齢に不釣り合いな白質病変ではないか
  • 横断像のT2強調像で、脳底動脈が太く、蛇行していないか(MRAで確認)
  • 白質病変が脳梁・傍皮質・テント下に目立たないか(あればMSなどを考える)
  • T1強調像で視床の後部が高信号か(あっても決め手にしない)
  • 心肥大や腎障害、四肢の痛み、発汗低下、家族歴の情報はないか

よくある疑問(Q&A)

Q1. Fabry病は男性だけの病気ですか?

いいえ。X連鎖性ですが、女性にも症状が出ます。心臓MRIの研究でも対象の半数以上は女性でした(Pica 2014)。女性は症状が軽くても、画像の変化が出ることがあります。

Q2. pulvinar signがあればFabry病ですか?

決め手にはなりません。総説は、特異的な所見としては信頼できないとしています(Cocozza 2018)。日本人成人12人の検討では、1人もありませんでした(Sawada 2021)。

Q3. 白質病変だけでMSと区別できますか?

FLAIRの1断面だけでは難しい場合があります。読影者6人の一致度は中等度で、全員が正しく当てられたのは3割台でした(Rath 2022)。脳梁・傍皮質・テント下の病変がMSで多いこと、脳底動脈の拡張や心臓・腎臓の所見がFabry病を考える手がかりになることを組み合わせます。

Q4. 若い人の脳梗塞は、全員Fabry病の検査をしますか?

全員に行うかどうかは施設や地域で異なります。有病率は集団で大きく違い、日本の若年発症の脳卒中516人の検討では古典型の原因変異をもつ人は見つかりませんでした(Kinoshita 2018)。原因不明の若年脳卒中で、白質病変・脳底動脈の拡張・心臓や腎臓の異常が重なるときに、検査を考えます。

あわせて読みたい:小児の白質ジストロフィー・代謝疾患のMRI、造血幹細胞移植後の中枢神経合併症

参考文献

  1. Cocozza S, Russo C, Pontillo G, et al. Neuroimaging in Fabry disease: current knowledge and future directions. Insights Imaging. 2018;9(6):1077-1088. PubMed
  2. Shi Q, Chen J, Pongmoragot J, et al. Prevalence of Fabry disease in stroke patients–a systematic review and meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2014;23(5):985-92. PubMed
  3. Kinoshita N, Hosomi N, Matsushima H, et al. Screening for Fabry Disease in Japanese Patients with Young-Onset Stroke by Measuring α-Galactosidase A and Globotriaosylsphingosine. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27(12):3563-3569. PubMed
  4. Sawada J, Nakagawa N, Kano K, et al. Characteristics of Neurological Symptoms in Adult Japanese Patients with Fabry Disease. Intern Med. 2021;60(12):1819-1826. PubMed
  5. Lam YLT, Sheng B, Kwok HM, et al. Basilar artery diameter as neuroimaging biomarker in Chinese Fabry disease patients. Orphanet J Rare Dis. 2023;18(1):186. PubMed
  6. Rath J, Foesleitner O, Haider L, et al. Neuroradiological differentiation of white matter lesions in patients with multiple sclerosis and Fabry disease. Orphanet J Rare Dis. 2022;17(1):37. PubMed
  7. Hagège A, Réant P, Habib G, et al. Fabry disease in cardiology practice: Literature review and expert point of view. Arch Cardiovasc Dis. 2019;112(4):278-287. PubMed
  8. Pica S, Sado DM, Maestrini V, et al. Reproducibility of native myocardial T1 mapping in the assessment of Fabry disease and its role in early detection of cardiac involvement by cardiovascular magnetic resonance. J Cardiovasc Magn Reson. 2014;16(1):99. PubMed

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