
先に結論:pituicytomaは「下垂体後葉由来のまれな腫瘍」。画像は腺腫に似るが、鞍上部の強く造影される腫瘤やflow voidがヒント
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 下垂体後葉・漏斗のグリア細胞(pituicyte)に似た細胞からなる、まれな低悪性度(WHO grade 1)の腫瘍 |
| 症状 | 視力・視野の障害、頭痛、下垂体機能低下が多い。尿量が増える症状はまれ |
| MRI | 境界明瞭な類円形。T1強調像で灰白質と等信号、T2強調像で等〜やや高信号、強く均一に造影される。flow voidを伴うことがある |
| 見分け方 | 下垂体腺腫・髄膜腫と重なる所見が多く、術前診断は難しい。鞍上部だけの強く造影される腫瘤や、前葉とは別の後葉の腫瘤は手がかり |
| 確定診断 | 病理(TTF-1陽性、S-100陽性) |
pituicytomaとは
下垂体は、ホルモンを作る前葉と、ホルモンを貯めて放出する後葉に分かれます。後葉にはpituicyte(ピチュイサイト)という、グリア細胞(神経を支える細胞)の仲間がいます。pituicytomaは、このpituicyteに似た細胞でできる腫瘍で、後葉または漏斗(下垂体と視床下部をつなぐ茎)から生じます。WHO grade 1の低悪性度の腫瘍とされ(Chen 2021)、報告を集めた系統的レビューでも168例(77の報告)にとどまるまれな病気です(Chen 2021)。
後葉由来の腫瘍は「ファミリー」で考える
2022年のWHO分類(内分泌・神経内分泌腫瘍、第5版)では、後葉由来の腫瘍をpituicyteの腫瘍の一群としてまとめています。従来の呼び名と、より正確とされて提案された名前は次のとおりです(Asa 2022)。
| 従来の名前 | 提案された名前 |
|---|---|
| pituicytoma | pituicytoma |
| 紡錘形細胞オンコサイトーマ(spindle cell oncocytoma) | oncocytic pituicytoma |
| 顆粒細胞腫(granular cell tumor) | granular cell pituicytoma |
| 鞍部上衣腫(sellar ependymoma) | ependymal pituicytoma |
これらは共通してTTF-1(甲状腺転写因子1)が核に陽性になり、同じ細胞から生じると考えられています(El Hussein 2017、Iglesias 2025)。病理で「TTF-1陽性の鞍部腫瘍」と言われたときは、このグループを指します。
症状と患者さんの特徴
後葉由来の腫瘍266例(pituicytoma 135例、顆粒細胞腫69例、紡錘形細胞オンコサイトーマ47例など)をまとめた系統的レビューでは、年齢の中央値は48歳で、男女差はありませんでした(Guerrero-Pérez 2019)。症状は次のとおりです。
| 症状 | 割合(症状が確認できた例) |
|---|---|
| 視力・視野の障害 | 58.1%(142例) |
| 頭痛 | 40.5%(99例) |
| 下垂体機能低下 | 34.4%(84例) |
| コルチゾール過剰(クッシング徴候) | 4.1%(10例) |
| 多飲・多尿 | 2.4%(6例) |
| 先端巨大症の徴候 | 2.0%(5例) |
(Guerrero-Pérez 2019)
後葉の腫瘍というと尿崩症(尿を濃縮できず多尿になる状態)を連想しますが、多飲・多尿で見つかるのはまれです(Guerrero-Pérez 2019)。症状は腫瘍が視神経を圧迫する視力・視野障害や、下垂体機能低下が中心です。北京の自験22例でも、年齢は24〜65歳(中央値49歳)で、術前の症状は視覚障害が最も多く(14例)、ホルモン検査では10例(45.5%)に異常があり、いずれも部分的な下垂体機能低下でした(Wei 2021)。
画像所見:MRI・CT
自験22例に過去の報告を加えた解析(Wei 2021)から、画像の特徴をまとめます。
| 項目 | 所見 |
|---|---|
| 部位 | 鞍内のみ 25.0%、鞍上部のみ 32.1%、鞍内から鞍上部へ進展 42.9%(112例) |
| 大きさ | 最大径の中央値20mm(2〜55mm、74例) |
| 性状 | 充実性 82.5%、充実性+嚢胞成分 17.5%(80例) |
| CT | 等吸収が多い(14例中11例)。石灰化なし |
| MRI T1強調像 | 低〜等信号(92.5%) |
| MRI T2強調像 | 等〜高信号(80%) |
| 造影 | 明るく均一に造影される(40例中31例で均一) |
| flow void | 血管に富む腫瘍で、腫瘍内に流れの速い血管による無信号が見られることがある(自験例で5例) |
10例の自験例と28例の既報例を検討した別の研究でも、腫瘍は多くが類円形または楕円形で境界明瞭、鞍部または鞍上部にあり、T1強調像で灰白質と等信号、T2強調像で等〜やや高信号、強く造影されると報告されています(Hammoud 2010)。下垂体腺腫と違ってpituicytomaは血管に富むため、腫瘍の中にflow voidが見えることは手がかりのひとつです(Wei 2021)。
後葉由来の腫瘍266例のレビューでも、MRIで最も多かったのは「鞍内から鞍上部へ進展する腫瘤」で、腫瘍の大きさの中央値は22mmでした(Guerrero-Pérez 2019)。鞍内にとどまらず、鞍上部へ伸びる例が多いということです。
症例 pituicytoma(論文の図)

引用:Wei LD, Li C, Li D, et al. Pituitary. 2021;24(5):754-767 (Figure 2). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)
論文の図です。a・bはT1・T2強調像(axial)で、腫瘤は主に等信号です。c・dは造影後のT1強調像(axial・sagittal)で、境界明瞭な鞍上部の病変が均一に強く造影されています。腫瘤の内部の矢印は流れの速い血管によるflow voidで、血管に富む腫瘍であることを示すと論文では説明されています。
下垂体腺腫・髄膜腫との見分け方
pituicytomaは、手術の前には非機能性の下垂体腺腫と診断されることが多い腫瘍です(Guerrero-Pérez 2019、El Hussein 2017)。MRIの所見は、より頻度の高い下垂体大腺腫や髄膜腫と重なります。鞍上部だけに存在する強く造影される腫瘤、または前葉とは別に後葉の腫瘤としてはっきり見える場合を除くと、術前に診断するのは難しいと結論した報告があります(Hammoud 2010)。
| 鑑別疾患 | 見分けるときの視点 |
|---|---|
| 下垂体腺腫(PitNET) | 最も多い鞍部腫瘤。前葉から生じるので、正常の下垂体と腫瘤の位置関係を見る。pituicytomaは後葉・漏斗側から生じ、約75%で鞍上部に及ぶ(Wei 2021) |
| 頭蓋咽頭腫 | 嚢胞成分や石灰化を伴う。pituicytomaは充実性が多く、CTで石灰化なし(Wei 2021) |
| 髄膜腫(鞍結節・鞍隔膜など) | 硬膜に広く接する。造影効果の強い腫瘤という点でpituicytomaと似る(Hammoud 2010) |
| 下垂体転移 | 後葉・漏斗に好発する。悪性腫瘍の既往と尿崩症が手がかり |
なぜ術前に気づく意味があるのか
pituicytomaは、見た目が似ている非機能性下垂体腺腫として手術が計画されることがあります(Guerrero-Pérez 2019)。血管に富み、癒着しやすい腫瘍であることを術前から意識できれば、外科医が出血や取り残しを考えて準備しやすくなります(Iglesias 2025)。病理でも、この腫瘍を認識することが治療方針を決めるうえで重要だと指摘されています(El Hussein 2017)。
後葉には本来、T1強調像で高信号に見える部分(後葉の「白い点」)があります。正常な後葉と下垂体の高さの見方は正常下垂体のMRI|高さの基準とT1強調像の後葉高信号、前葉・後葉・視床下部の位置関係は下垂体はどこ?MRIの正常画像と大きさで解説しています。
その後の経過
病理では、紡錘形の腫瘍細胞が束状に並び、S-100とTTF-1が陽性で、Ki-67指数(増殖の目安)は中央値2%と低い値でした(Wei 2021)。増殖が遅い腫瘍ですが、血管に富み周囲と癒着することがあるため、全部取り切るのが難しい場合があります(Iglesias 2025)。
115例の解析では、肉眼的に全部取れた61例のうち再発は3例(4.9%)、取り残しがあった54例では19例(35.2%)で腫瘍が増大しました(Wei 2021)。また、後葉由来の腫瘍の手術後には、下垂体機能低下、尿崩症、出血などの合併症が報告されています(Guerrero-Pérez 2019)。治療は脳神経外科と内分泌内科の専門施設で相談してください。
読影のチェックリスト
- 鞍部・鞍上部の腫瘤で、境界明瞭な類円形か
- 正常の下垂体前葉と腫瘤が分けて見えるか(前葉から出ているか、後葉・漏斗側か)
- T1強調像で等信号、T2強調像で等〜やや高信号、強く均一に造影されるか
- 腫瘤の中にflow voidがないか
- 鞍上部だけの腫瘤で、強く造影される場合はpituicytomaも挙げる
- 嚢胞・石灰化が目立つ場合は頭蓋咽頭腫やラトケ嚢胞を優先する
- 画像だけでは確定できないため、「下垂体腺腫以外も考える」と一言添える
よくある疑問(Q&A)
Q. pituicytomaはがんですか?
A. WHO grade 1の低悪性度の腫瘍で、増殖は遅いとされます(Chen 2021、Wei 2021)。ただし取り残しがあると増大することがあるため、術後の経過観察が大切です(Wei 2021)。
Q. 下垂体腺腫との違いは何ですか?
A. 腺腫は前葉のホルモン産生細胞由来、pituicytomaは後葉のグリア細胞に似た細胞由来です。画像は似ていますが、pituicytomaは血管に富み、flow voidを伴うことがあります(Wei 2021)。
Q. ホルモンの異常は出ますか?
A. 後葉由来の腫瘍の34.4%で、受診時に下垂体機能低下が見られました(Guerrero-Pérez 2019)。気になる症状(視力の低下、強い頭痛、だるさなど)があれば医療機関で相談してください。
Q. 顆粒細胞腫や紡錘形細胞オンコサイトーマとは別の病気ですか?
A. 名前は違いますが、いずれも後葉のpituicyteから生じ、TTF-1が陽性になる仲間です(El Hussein 2017、Asa 2022)。
あわせて読みたい:膠肉腫(gliosarcoma)とは?MRI所見と膠芽腫・髄膜腫との見分け方、WHO分類2021での位置づけ、ガレン大静脈瘤(VGAM)とは?新生児の心不全・水頭症とMRI・超音波所見
参考文献
- Wei LD, Li C, Li D, et al. Treatment and prognostic factors of pituicytoma: a single-center experience and comprehensive literature review. Pituitary. 2021;24(5):754-767. PubMed
- Hammoud DA, Munter FM, Brat DJ, et al. Magnetic resonance imaging features of pituicytomas: analysis of 10 cases. J Comput Assist Tomogr. 2010;34(5):757-61. PubMed
- Guerrero-Pérez F, Marengo AP, Vidal N, et al. Primary tumors of the posterior pituitary: A systematic review. Rev Endocr Metab Disord. 2019;20(2):219-238. PubMed
- Chen B, Fan X, Zhang Z. Pituicytoma: Report of three cases and a systematic literature review. Clin Neurol Neurosurg. 2021;205:106650. PubMed
- Asa SL, Mete O, Perry A, et al. Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Tumors. Endocr Pathol. 2022;33(1):6-26. PubMed
- El Hussein S, Vincentelli C. Pituicytoma: Review of commonalities and distinguishing features among TTF-1 positive tumors of the central nervous system. Ann Diagn Pathol. 2017;29:57-61. PubMed
- Iglesias P. Histopathological Types, Clinical Presentation, Imaging Studies, Treatment Strategies, and Prognosis of Posterior Pituitary Tumors: An Updated Review. J Clin Med. 2025;14(13):4553. PubMed
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