
先に結論:長頭腱は「腱そのもの」と「位置」と「支える組織」の3点で見る
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どこを通るか | 肩関節の中(関節唇の付け根)から腱板の隙間(腱板疎部)を抜け、上腕骨の前の溝(結節間溝)に入る |
| 見る3点 | ①腱の太さと信号 ②溝の中にあるか(位置) ③支える滑車と肩甲下筋腱が保たれているか |
| 全層断裂 | MRIの特異度は93.0〜99.0%と高い(Almeida 2024)。溝が空で、腱が縮んで見える |
| 部分断裂・腱症 | MRIでも難しい。感度67.8%・特異度75.9%にとどまる(Almeida 2024) |
| 亜脱臼・脱臼 | 滑車や肩甲下筋腱の損傷を伴うことが多い。腱板の所見とセットで見る |
長頭腱はどこを通り、何に支えられているか
上腕二頭筋は力こぶを作る筋肉で、肩側に「長頭」と「短頭」の2つの腱があります。このうち長頭腱は、肩甲骨の関節窩の上(上方関節唇)から始まり、関節の中を斜めに横切って上腕骨の前の溝(結節間溝)へ入ります。関節の中にあるのに、腱の鞘は関節の外へ続いている、という少し特殊な走り方をします。
腱が溝へ入る手前で、腱を下から包んで安定させているのが滑車(biceps pulley)です。上関節上腕靱帯・烏口上腕靱帯・肩甲下筋腱の付着部からできており、腱板疎部(棘上筋腱と肩甲下筋腱のあいだ)にあります(Nakata 2011)。腱板疎部や正常解剖の基本は肩関節MRIの正常解剖と見方で確認できます。
| 区間 | 主な位置 | 起こりやすい問題 |
|---|---|---|
| 関節内部 | 上方関節唇の付け根〜腱板疎部 | 関節唇の損傷(SLAP)、腱症、部分断裂 |
| 入口(滑車の部分) | 腱板疎部〜結節間溝の入口 | 滑車の損傷、亜脱臼・脱臼、腱の挟み込み |
| 結節間溝 | 上腕骨の前の溝(腱鞘に包まれる) | 腱鞘炎(腱のまわりの水)、腱症、断裂 |
長頭腱の障害は単独で起こるより、腱板疾患と一緒に見つかることが多いとされています。長頭腱の腱症・腱板疾患・長頭腱の不安定性には関連があると整理されています(Diplock 2023)。肩の前の痛みで画像を見るときは、腱板と長頭腱を1つの組として読むのが基本です。
MRIとエコーで見る順番
長頭腱は細く、走行が斜めなので、断面を変えて追う必要があります。次の順に見ると抜けが減ります。
| 手順 | 見る断面 | 確認すること |
|---|---|---|
| 1. 溝の中 | 横断像(軸位断) | 腱が溝の中にあるか(空ではないか)。腱の太さ、周囲の水 |
| 2. 入口 | 斜矢状断 | 腱板疎部で腱が下へずれていないか、上関節上腕靱帯・烏口上腕靱帯が追えるか |
| 3. 関節内 | 斜冠状断・斜矢状断 | 付け根の関節唇、腱の信号、途切れ |
| 4. 周囲 | 全断面 | 肩甲下筋腱・棘上筋腱の損傷、関節液、傍関節唇嚢胞 |
エコーでは、溝を短軸で見て腱を円形〜卵円形の線維状の構造として確認し、長軸でも追います。肩を回しながら見ると、腱が溝の内側縁を乗り越えるような亜脱臼を動きの中で確認できる場合があります。エコーの基本用語はエコー(超音波)検査の基礎にまとめています。
腱鞘炎・腱症:水と太さと信号
溝の中で腱のまわりに水(T2強調像で高信号)が見えると「腱鞘炎」と書かれます。ただし、長頭腱の鞘は肩関節の中と続いているため、関節液が増えれば鞘の中にも水が溜まります。肩に水が溜まる原因(腱板断裂、炎症性疾患など)の確認が先で、鞘の水だけで腱鞘炎と決めないことが大切です。
| 所見 | 考え方 |
|---|---|
| 鞘の水だけ(腱は正常) | 関節液の流れ込みのことが多い。関節全体の水を確認する |
| 腱が太い・信号が高い | 腱症や部分断裂を考える。滑車や腱板の損傷を探す |
| 腱が細い・扁平 | 慢性の変性や部分断裂、すでに全層断裂していないかを確認 |
| 溝が空 | 脱臼か全層断裂。溝より近位の腱を追う |
腱症や部分断裂の診断は、MRIでも簡単ではありません。メタ解析では、部分断裂・腱症の感度は67.8%、特異度は75.9%、バランスのとれた精度(balanced accuracy)は71.9%でした(10研究2,487例、Almeida 2024)。また100肩の検討でも、断裂全体の感度は71〜73%、特異度は73%でした(Baptista 2019)。腱の太さや信号の変化は、「疑う所見」として読み、臨床症状と合わせるのが現実的です。
断裂:全層断裂は診断しやすく、部分断裂は難しい
長頭腱の全層断裂は、力こぶが肘側へ丸く寄る「ポパイの腕」として気づかれることがあります。無痛のまま起こることもあり、画像では腕の前の腫瘤として見つかる場合もあります。MRIで腱が縮んで、溝が空に見え、腫瘤の近位側に水の溜まった間隙が見えれば診断につながります。
| 診断 | MRI | エコー |
|---|---|---|
| 全層断裂 | 特異度93.0〜99.0%、感度55.9〜90.0%(6研究555例、Almeida 2024) | 感度0.88・特異度0.98(66例、Skendzel 2011) |
| 部分断裂・腱症 | 感度67.8%・特異度75.9%(Almeida 2024) | 部分断裂の感度0.27・特異度1.00(Skendzel 2011) |
| 正常の確認 | ― | 正常腱の90%(35/39)を正しく判定(Skendzel 2011) |
要するに、見えたら本当にある(特異度が高い)が、なければ安心とまでは言えない(部分断裂は感度が低い)という性質です。エコーの系統的レビュー(7研究448例)でも、全層断裂の感度は0.88〜0.95でした。部分断裂では、感度が臨床テスト0.17〜0.68に対しエコー0.27〜0.71、特異度が臨床テスト0.38〜0.92に対しエコー0.71〜1.00でした(Courage 2023)。MRIで部分断裂と書かれていないことは、断裂がないことの証明にはなりません。
脱臼・亜脱臼と滑車(pulley)損傷
長頭腱が溝から外れる亜脱臼・脱臼は、腱を支える滑車の損傷と結びついています。腱板疎部の中にある上関節上腕靱帯・烏口上腕靱帯と、肩甲下筋腱の付着部が傷むと、腱は下や内側へずれます(Nakata 2011)。滑車損傷は、関節鏡でも臨床でも見つけにくいことから「hidden lesion」とも呼ばれています(Nakata 2011)。
画像で長頭腱の位置の異常を見つけるコツは、次のとおりです。
| サイン | 見方 |
|---|---|
| 溝からの偏位(横断像) | 腱が溝の内側縁に乗る、または溝から外れて肩甲下筋腱の前や内側にある |
| 腱の下方偏位(斜矢状断) | 腱板疎部で腱が通常より下にある(displacement sign) |
| 靱帯の追えなさ | 上関節上腕靱帯・烏口上腕靱帯が途切れる、または見えない |
| 周囲の損傷 | 肩甲下筋腱の部分断裂や上方腱板の損傷を合わせて探す |
非造影のMRIで滑車損傷を検討した84例の報告では、感度65.6〜78.1%、特異度90.4〜92.3%、精度81〜86.9%でした。サインごとでは、長頭腱の偏位(displacement)が精度84.5〜86.9%と最も高く、偏位と亜脱臼・脱臼の特異度は98.1〜100%でした。感度が最も高かったのは長頭腱の腱症のサイン(87.5%)でした(Nada 2024)。
一方、長頭腱の不安定性そのものは見落とされやすく、100肩の検討で偏位の感度は51〜58%、特異度は70〜86%でした。腱板の前上方の断裂を伴うと特異度は73〜91%に上がりました(Baptista 2019)。単独のサインより、腱板の所見とセットで判断することが勧められます。腱板疎部の線維化は凍結肩のMRIでも出てくる重要な部位で、関節唇側の変化はSLAP損傷のMRIとあわせて確認すると整理しやすくなります。
症例 滑車(pulley)の損傷と長頭腱の偏位(外傷性の肩関節脱臼後)

引用:Feuerriegel GC, et al. Diagnostics (Basel). 2022;12(10):2345 (Figure 1). CC BY 4.0
外傷性の前方脱臼後のMRI(斜矢状断・脂肪抑制)です。A:26歳で滑車が保たれており、上関節上腕靱帯と烏口上腕靱帯が見分けられます。B:32歳で上関節上腕靱帯が断裂しており(矢印)、長頭腱は腱板疎部の中ほどで下へずれています。関節液が両者にあり、関節造影のような効果で構造が見分けやすくなっています。
症例 長頭腱の内側亜脱臼(外傷性の肩関節脱臼後)

引用:Feuerriegel GC, et al. Diagnostics (Basel). 2022;12(10):2345 (Figure 2). CC BY 4.0
A:45歳。横断像で、前下方の関節唇損傷と長頭腱の内側への亜脱臼(矢印)があります。滑車の機能不全と肩甲下筋腱の部分断裂を伴っています。B:39歳、斜矢状断。上関節上腕靱帯と烏口上腕靱帯の断裂があり、長頭腱は偏位して腱症の変化も見られます。
この報告では、外傷性の前方脱臼後に3テスラMRIを撮った33例のうち17例(52%)に滑車損傷があり、11例(33%)は上関節上腕靱帯と烏口上腕靱帯の合併断裂でした。滑車損傷のあった17例のすべてに腱板の部分断裂が合併し、3例で長頭腱の亜脱臼がありました。滑車損傷のある人は平均52歳で、ない人の44歳より高く、45歳を超える脱臼では注意が必要とされています(Feuerriegel 2022)。
見落としやすい点・落とし穴
| 落とし穴 | 対策 |
|---|---|
| 溝が空に見えるのに、腱は関節内に残っている | 脱臼と全層断裂は別。溝より近位・内側に腱がないか追う |
| 鞘の水=腱鞘炎と決めてしまう | 関節液の増加が原因のことがある。関節全体の水・腱板を確認 |
| 腱板だけ読んで終わる | 肩甲下筋腱の断裂があれば、長頭腱の亜脱臼を探す |
| 関節内の腱が「高信号」に見える | 走行が斜めで、短いTEの撮像では信号が上がることがある(角度の影響)。T2強調像で確認 |
| エコーで腱が低エコーに見える | 探触子の角度で腱は暗く見える(異方性)。角度を変えて確認 |
| 部分断裂なしと報告する | 感度が低い領域。臨床と合わせる |
肩甲下筋腱は長頭腱の安定にかかわっており、断裂があれば長頭腱の脱臼・亜脱臼を生じやすいと考えられています。逆に、長頭腱の亜脱臼が見つかったら、肩甲下筋腱の断裂を探すことが大切です。
画像診断の限界と治療の考え方
214論文を整理したスコーピングレビューでは、関節鏡でも長頭腱の近位部すべてを見られるわけではないため、画像や診察の有用性が低めに見積もられている可能性が指摘されています(Diplock 2023)。腱鞘内への注射はエコーで針先を確認しながらのほうが、見ずに行う方法より正確で成績がよいと報告されています(Diplock 2023)。
痛みが強い場合の手術では、長頭腱を切る腱切離術と、骨に固定する腱固定術があります。腱固定術はポパイ変形や腕の痙攣様の痛みが少ない傾向があり、どちらも痛みの改善は同程度とされています(Diplock 2023)。方針は症状・年齢・腱板の状態で決まるので、主治医と相談してください。肩の痛みが続くときは医療機関を受診しましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q. 長頭腱が切れると、腕の見た目はどうなりますか?
A. 全層断裂では筋が肘側へ縮み、力こぶが丸く寄るポパイの腕の形になることがあります。手術で腱を固定する場合と、そのままにする場合があり、方針は症状と年齢で変わります。気になる場合は整形外科に相談してください。
Q. MRIで「異常なし」でも腱の損傷は否定できませんか?
A. 部分断裂や腱症は、MRIでも感度が67.8%にとどまります(Almeida 2024)。症状が続くなら、診察やエコーを併用して判断することがあります。
Q. エコーとMRIはどちらがよいですか?
A. 全層断裂は両方で診断しやすく、エコーは動かしながら亜脱臼を見られるのが利点です。MRIは腱板・関節唇・骨を一度に見られる利点があります。系統的レビューでは、エコーは臨床テストより長頭腱の病変を確認・否定しやすいとされています(Courage 2023)。
Q. 脱臼後に肩が痛みます。長頭腱も関係しますか?
A. 外傷性の脱臼後には、滑車の損傷が約半数にあったという報告があります(Feuerriegel 2022)。長頭腱の位置の異常や腱板の損傷が痛みの原因になることがあるため、MRIで確認することがあります。
参考文献
- Almeida GG, Graf N, Wildermuth S, et al. Diagnostic performance of long head of biceps tendon tears on MRI: systematic review and meta-analysis. Eur Radiol. 2024;34(7):4309-4320. PubMed
- Nada MG, Almalki YE, Basha MAA, et al. Biceps Pulley Lesions: Diagnostic Accuracy of Nonarthrographic Shoulder MRI and the Value of Various Diagnostic Signs. J Magn Reson Imaging. 2024;59(4):1299-1311. PubMed
- Baptista E, Malavolta EA, Gracitelli MEC, et al. Diagnostic accuracy of MRI for detection of tears and instability of proximal long head of biceps tendon: an evaluation of 100 shoulders compared with arthroscopy. Skeletal Radiol. 2019;48(11):1723-1733. PubMed
- Feuerriegel GC, Lenhart NS, Leonhardt Y, et al. Assessment of Acute Lesions of the Biceps Pulley in Patients with Traumatic Shoulder Dislocation Using MR Imaging. Diagnostics (Basel). 2022;12(10):2345. PubMed
- Nakata W, Katou S, Fujita A, et al. Biceps pulley: normal anatomy and associated lesions at MR arthrography. Radiographics. 2011;31(3):791-810. PubMed
- Skendzel JG, Jacobson JA, Carpenter JE, et al. Long head of biceps brachii tendon evaluation: accuracy of preoperative ultrasound. AJR Am J Roentgenol. 2011;197(4):942-948. PubMed
- Courage O, van Rooij F, Saffarini M. Ultrasound is more reliable than clinical tests to both confirm and rule out pathologies of the long head of the biceps: a systematic review and meta-analysis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2023;31(2):662-671. PubMed
- Diplock B, Hing W, Marks D. The long head of biceps at the shoulder: a scoping review. BMC Musculoskelet Disord. 2023;24(1):232. PubMed
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