
先に結論:腹腔内出血は「血だまりの中で一番白い塊」を探し、その隣の臓器を疑う
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| sentinel clot signとは | 腹腔内の血液のうち、出血源に最も近い所に残る、周囲より高吸収の局所的な凝血塊。「見張り番の血栓」という意味の名前 |
| CT値の目安 | 単純CTで、出血直後の血液は約30〜45HU、数時間〜72時間で固まると60HUを超える(Sandomenico 2023) |
| 使いどころ | 臓器損傷そのものが写りにくいとき(脾臓・腸管・腸間膜など)に、出血源を絞る手がかりになる |
| 注意 | 外傷だけの所見ではなく、腫瘍破裂・卵巣嚢胞破裂・異所性妊娠破裂などの非外傷性出血でも見られる。このサインだけで診断を決めず、活動性出血や臓器の損傷を探す |
sentinel clot signとは
腹腔内に出血すると、血液は腹腔内に広がります(腹腔内の液体の見分け方はCTで胸水と腹水の見分け方も参考になります)。このとき、出血している場所のすぐ近くには固まった血が残り、遠い所には固まっていない血が薄く広がります。CTで局所的に周囲より白い血の塊を見つけたら、それをsentinel clot(見張り番の凝血塊)と呼びます。
この所見は1989年に、腹部外傷のCTで内臓損傷を調べた研究として報告されました。内臓損傷のあった116人・120か所の損傷を検討したところ、sentinel clotは120か所中101か所(84%)で見られ、偽陽性は3例だけでした(Orwig 1989)。さらに、損傷そのものはCTで86%の症例で直接見えていた一方、14%の症例ではsentinel clotが出血源の唯一の手がかりでした。脾損傷の9%、腸管・腸間膜損傷の32%では、このサインだけが陽性所見でした(Orwig 1989)。
腸管や腸間膜の損傷は小さな変化に留まることが多く、損傷そのものが写りにくい臓器です。その分、「ここに血の塊がある」という情報が出血源の絞り込みに役立ちます。
なぜ血が白く写る? CT値で見る血液の変化
CTは、物質がX線をどれだけ通しにくいかを数値(CT値、単位HU)で表します。血液が水より白く写るのは、タンパク質を多く含むためです(Sandomenico 2023)。出血してから数時間たつと、凝固とヘモグロビンの集まりによって吸収値がさらに上がります(Sandomenico 2023)。
| 状態 | 単純CTでの見え方・CT値の目安 |
|---|---|
| 出血直後の血液(液状) | 約30〜45HU。水よりは高いが、凝血塊ほど白くはない |
| 数時間〜72時間後(凝固した血液) | 60HUを超えることがある |
| 10〜30日後 | 血腫の吸収値がしだいに下がり、外側に被膜ができる |
(Sandomenico 2023)
肝細胞癌の破裂を扱った論文では、「最も高吸収の血液は出血部位の近くに見られ、遠くには吸収値の低い血腫が広がる」と説明されています。新しい凝血塊は、凝固していない血液や古い出血より高い吸収値を示します(Sandomenico 2023)。つまり、血だまりの中で吸収値を比べると、出血源の方向が分かります。
また、腹腔内の液体が血液かどうかを分ける目安として、卵巣嚢胞破裂の研究では、腹腔内の液体が30HUを超えるものを血性腹水(hemoperitoneum)と判断しています(Lee 2017)。ただしCT値は装置や撮影条件、測定する場所で少し動くため、数値を絶対的な線引きにせず、同じ画像の中で「周囲の液体と比べて白いか」を見ます。
血が層をなす「hematocrit effect」も一緒に確認
腹腔内の液体に血液が混ざると、血液が背側(下側)にたまり、上の液体より白い層ができることがあります。これをhematocrit effect(ヘマトクリット効果)、またはhematocrit signと呼びます。肝細胞癌の破裂の論文でも、腹水に血液が混ざって背側に見える所見が、出血を示すサインの1つとして挙げられています(Sandomenico 2023)。
sentinel clotとhematocrit effectは、同じ症例で見られることがよくあります。凝血塊は「出血源の近く」、層をなす血は「重力で下に沈んだ血」と、位置の決まり方が違う点に注意してください。
症例 30歳代女性 異所性妊娠破裂

引用:Radiopaedia(Ruptured ectopic pregnancy with sentinel clot sign)
骨盤内に、高吸収の腹水が広がっています。症例ページでは、非造影CTで高吸収の腹水(血性腹水)があり、子宮のまわりの最も濃い部分がsentinel clotで、出血源が骨盤にあることを示していると記載されています。また、骨盤内の液体の中に高吸収の血液が層をなしており、hematocrit effectを示唆するとされています。この症例は急性の右下腹部痛で来院し、手術で右卵巣の異所性妊娠破裂と確認されています。
sentinel clotから出血源を考える
sentinel clotの位置は、出血源の臓器を絞る手がかりになります。まず「どこが一番白いか」を決め、その隣にある臓器と血管を順に確認します。
| sentinel clotのある場所 | 考える出血源の例 |
|---|---|
| 肝臓・脾臓のまわり | 外傷による肝損傷・脾損傷。外傷でなくても、肝細胞癌などの腫瘍破裂で見られる(Sandomenico 2023) |
| 腸間膜の中・腸管のまわり | 腸間膜損傷・腸管損傷。腸間膜内の三角形の液体も手がかり(Lubner 2007) |
| 骨盤内(子宮・卵巣のまわり) | 卵巣嚢胞の破裂、異所性妊娠の破裂など(Lee 2017) |
| 血管のまわり | 血管損傷など。造影CTで造影剤の漏れ(活動性出血)を確認する(Hamilton 2008) |
卵巣の黄体嚢胞が破裂した106人の研究では、sentinel clot signが88.7%(106人中94人)で見られ、女性の骨盤内出血でも有用な所見でした(Lee 2017)。また、凝血塊が出血をふさぐ働きをして、出血の勢いを弱めるのではないかとも考察されています(Lee 2017)。
腹腔内に液体が溜まっているのを見つけたときの全体の考え方は、腹部CTの読み方|見る順番と見落としチェックリストにまとめています。
外傷での使い方と超音波(FAST)との関係
外傷では、まず超音波(FAST(外傷の迅速超音波検査))で腹腔内の液体の有無を調べます。ただし超音波は、小さな出血や軽い損傷には感度が高くありません。CTは腹腔内出血の部位と程度を調べる第一選択で、出血量が少ないときは血管造影より検出力が高いとされています(Gomez 2022)。
腹腔内出血のCTでは、sentinel clotのほか、造影剤が血管の外に漏れる「活動性出血(active extravasation)」を確認します。活動性出血は、造影後の画像で血だまりの中に造影剤が噴き出すように見え、遅延相で血腫が広がる所見で、大量出血を示すため速やかに臨床医へ伝える必要があります(Hamilton 2008)。sentinel clotは、血管損傷を直接示す所見が見つからないときに出血源を探す重要な手がかりです(Hamilton 2008)。
胸腔内の出血でも、CT値で液体の性質を見分ける考え方は同じです。詳しくは血胸とは?読み方・原因と胸部CT画像所見をご覧ください。
非外傷性の腹腔内出血でも使える
外傷のない腹腔内出血(spontaneous hemoperitoneum)は頻度が低く、疑わないと診断が難しい病態です。放射線科の役割は、出血を見つけることと、出血源を特定することです(Buades-Ribas 2025)。腫瘍からの出血(肝細胞癌・肝腺腫など)、婦人科疾患(卵巣嚢胞の出血・破裂、異所性妊娠の破裂)などが原因になります(Lubner 2007)。
肝細胞癌の破裂では、造影剤の漏れ、sentinel clot、腫瘍が被膜から飛び出して見えるenucleation sign、hematocrit signなどが画像診断の要点として挙げられています(Sandomenico 2023)。出血源の腫瘍が小さくて見つけにくいときも、sentinel clotから探す場所を絞れます。
sentinel clotを探す読影の手順(チェックリスト)
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 腹腔内に液体があるか。肝周囲・脾周囲・傍結腸溝・骨盤の順に広がりを見る |
| 2 | 液体のCT値を測る。水に近い低い値か、30HUを超える血性か(装置差があるので周囲と比べる) |
| 3 | 血だまりの中で、一番白い塊(sentinel clot)がどこにあるかを探す |
| 4 | その塊に接する臓器・血管・腸間膜を順に見る(肝・脾・腸間膜・子宮付属器など) |
| 5 | 造影CTでは活動性出血(造影剤の漏れ)や仮性動脈瘤を探す |
| 6 | 淡い違いは、ウィンドウ幅を狭くして見直すと拾いやすい |
| 7 | 背側に血球が沈んだ層(hematocrit effect)がないか確認する |
注意点として、sentinel clotは「出血源の近くの凝血塊」であり、損傷臓器の確定診断ではありません。Orwig 1989でも偽陽性が3例ありました。血の塊だけで決めず、臓器そのものの損傷を探すことが大切です。
お腹の外傷や急な強い腹痛があるときは、画像の読み方より先に、すぐ医療機関を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. sentinel clotは外傷のときだけ見られるのですか?
A. いいえ。もともとは外傷のCTで報告された所見ですが(Orwig 1989)、肝細胞癌の破裂(Sandomenico 2023)、卵巣嚢胞の破裂(Lee 2017)、異所性妊娠の破裂など、非外傷性の出血でも同じ考え方で使われます。
Q. sentinel clotがあれば手術が必要ですか?
A. これだけでは決まりません。sentinel clotは出血源を探す手がかりで、治療方針は活動性出血の有無、血圧などの全身状態、出血量などを合わせて決められます。卵巣嚢胞破裂の研究では、活動性出血と腹腔内出血の深さが手術の予測に関係していました(Lee 2017)。
Q. 造影剤を使わない単純CTでも分かりますか?
A. 凝血塊は造影剤がなくても周囲より白く写るため、単純CTでも見えます。前述のCT値は単純CTでの値で(Sandomenico 2023)、症例の骨盤内出血も非造影CTで確認されています。造影CTは、活動性出血や血管損傷を調べるために追加します。
Q. 血が固まっていないと、sentinel clotは見えませんか?
A. 出血直後は血液が液状で、凝血塊ほど白くなりません。時間が経つと固まって白くなるため、出血源の近くに白い塊が見えやすくなります(Sandomenico 2023)。
あわせて読みたい:腸管・腸間膜損傷のCT、腫瘤の由来臓器の見分け方
あわせて読みたい:画像の重要所見(緊急で伝えるべき所見)とは
あわせて読みたい:Ai(死亡時画像診断・死後CT)とは
参考文献
- Orwig D, Federle MP. Localized clotted blood as evidence of visceral trauma on CT: the sentinel clot sign. AJR Am J Roentgenol. 1989;153(4):747-9 PubMed
- Lubner M, Menias C, Rucker C, et al. Blood in the belly: CT findings of hemoperitoneum. Radiographics. 2007;27(1):109-25 PubMed
- Hamilton JD, Kumaravel M, Censullo ML, et al. Multidetector CT evaluation of active extravasation in blunt abdominal and pelvic trauma patients. Radiographics. 2008;28(6):1603-16 PubMed
- Lee MS, Moon MH, Woo H, et al. Ruptured Corpus Luteal Cyst: Prediction of Clinical Outcomes with CT. Korean J Radiol. 2017;18(4):607-614 PubMed
- Gomez E, Horton K, Fishman EK, et al. CT of acute abdominopelvic hemorrhage: protocols, pearls, and pitfalls. Abdom Radiol (NY). 2022;47(1):475-484 PubMed
- Sandomenico F, Arpaia V, De Rosa F, et al. Spontaneously Ruptured Hepatocellular Carcinoma: Computed Tomography-Based Assessment. Diagnostics (Basel). 2023;13(6):1021 PubMed
- Buades-Ribas P, Baleato-González S, García-Figueiras R. Spontaneous hemoperitoneum: a practical radiologic review for emergency diagnosis. Emerg Radiol. 2025;32(4):623-634 PubMed
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