胸部CT 冠状断・矢状断

胸部CTの冠状断や矢状断って、横断像と何が違うんですか?どう使い分ければいいの?
冠状断は「正面から」、矢状断は「横から」見た断面です。葉間裂や気管支の向きがひと目でわかるのが強みですよ。

先に結論:冠状断は気管・気管支と水平裂、矢状断は大葉間裂(斜裂)と肺葉の境を見るのに向いています。

断面 見る向き 見えやすい主な構造
横断(axial) 足側から見上げる輪切り 縦隔の血管・リンパ節、肺区域、病変の細部
冠状断(coronal) 正面から見た断面(胸部X線の正面に近い) 気管・主気管支の分岐、水平裂、上大静脈〜右房〜下大静脈、横隔膜、肺尖
矢状断(sagittal) 横から見た断面(胸部X線の側面に近い) 大葉間裂(斜裂)、上葉・中葉・下葉の境、胸骨・椎体、大動脈の全長

実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの胸部CTの正常解剖ツール(横断・冠状・矢状)で、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。

画像診断cafe「胸部CTの正常解剖」の冠状断の画面

画像診断cafe「胸部CTの正常解剖」の冠状断の画面。右上のボタンで横断・冠状・矢状を切り替えられます

冠状断・矢状断はどうやって作られる?

現在の胸部CTは薄いスライスで撮影したデータから、別の方向の断面を作り直すことができます。これを多断面再構成(MPR:multiplanar reformation)といいます。冠状断と矢状断はMPRで作られ、正面像・側面像の胸部X線と見比べながら立体的な解剖を理解するのにも役立ちます(Sussmann 2010)。

横断像の基本的な見方は胸部CTの読影・見方の基本|肺野条件・縦隔条件で見るポイントを先に読むとスムーズです。

冠状断(coronal)で見えるもの

前のほうの冠状断

  • 胸骨の後ろの前縦隔:胸腺や脂肪。
  • 右室・肺動脈幹:心臓の前側。肺動脈幹が左上へ伸びていきます。
  • 水平裂(minor fissure):右肺の上葉と中葉を分ける、ほぼ横向きの線として見えます。

中央の冠状断

  • 気管と主気管支:気管が気管分岐(carina)で左右に分かれる「逆Y字」が1枚で見えます。右主気管支は太く短く、縦に近い角度。左主気管支は細く長く、横に近い角度です。
  • 大動脈弓:気管の左上に、上に凸の丸い断面として見えます。
  • 右側の縦の静脈:上大静脈→右房→下大静脈が縦に並び、右の心臓の縁をつくります。
  • 肺門:左右の肺動脈・肺静脈・気管支が集まる部分。

後ろのほうの冠状断

  • 下行大動脈、食道、椎体、肋骨、横隔膜脚。両下葉の大部分。

矢状断(sagittal)で見えるもの

右肺の矢状断

矢状断の最大の利点は、大葉間裂(斜裂、major/oblique fissure)が後ろ上から前下へ走る斜めの線として見えることです。右肺では、この斜裂の途中から前へ水平裂が分かれ、上葉・中葉・下葉の3つの区画が1枚でわかります。

左肺の矢状断

左肺には水平裂がなく、斜裂1本で上葉と下葉に分かれます。右の中葉に相当する舌区(lingula)は、左上葉の前下部です。肺区域の位置は胸部CTの肺区域の解剖と覚え方|S1〜S10一覧で確認できます。

正中付近の矢状断(縦隔)

  • 前から順に、胸骨→(前縦隔)→上行大動脈・右室→気管と左房→食道→椎体と並ぶ前後関係が確認できます。
  • 少し左に傾けた断面では、上行大動脈→大動脈弓→下行大動脈が「杖」のような1本の曲線として見えます。

横断像との対応のコツ

構造 横断像での見え方 冠状断・矢状断での見え方
斜裂 スライスごとに位置が変わる線(上では後ろ寄り、下では前寄り) 矢状断で1本の斜めの線
水平裂 ほぼ同じ高さを横に切るため、線ではなく血管の少ない帯として見えやすい 冠状断・矢状断で横向きの線
気管支 上下に走る気管支は丸、横に走る気管支は長い管 冠状断で枝分かれの全体像
大動脈 弓より下では上行・下行の2つの丸 斜矢状断で1本の弓

葉間裂は、通常の厚さのCTでは血管の少ない透亮帯として、薄いスライスのCTでは細く鋭い線として見えることが多いと報告されています(Hayashi 2001)。気管支の分岐と名前は胸部CTで見る肺の解剖|気管支の分岐と名前も参考にしてください。

葉間裂の正常変異

  • 不完全分葉(incomplete fissure):葉間裂が途中で途切れている状態は珍しくありません。喫煙歴のある247人の薄いスライスCTの検討では、右斜裂の81%、右水平裂の89%、左斜裂の50%が不完全でした(Koenigkam-Santos 2013)。
  • 副葉間裂(accessory fissure):区域のあいだなどに余分な裂が見えることがあります。詳しくは副葉間裂(accessory fissure)とは?へ。

葉間裂が不完全だと、肺炎などが隣の葉へ広がって見えることがあり、葉の境を判断するときに注意が必要です(Hayashi 2001)。

冠状断・矢状断の使いどころ

  • 病変がどの肺葉にあるか:葉間裂の近くの結節や浸潤影は、矢状断で葉の境との関係がはっきりします。
  • 上下方向の広がり:無気肺、胸水、気胸、縦隔の腫瘤の上下の長さ。
  • 気管・気管支の長い範囲:狭窄や異物、チューブ先端の位置。
  • 横隔膜と胸骨・椎体:横隔膜の形、胸骨や椎体の骨折は横断像だけでは見落としやすく、矢状断が役立ちます。

よくある疑問(Q&A)

Q1. 冠状断・矢状断は追加の撮影が必要ですか?

多くの場合、同じ撮影データから作り直すため、追加の撮影や被ばくはありません。施設によって作成する断面は異なります。

Q2. 研修医はどの断面から見ればよいですか?

まず横断像で全体を見て、肺葉の位置や上下の広がりを確かめたいときに冠状断・矢状断を開く、という順番がわかりやすいと思います。

Q3. 冠状断と矢状断の区別がつきません。

左右の肺が両方写っていれば冠状断、片方の肺だけで胸骨と背骨が前後に写っていれば矢状断です。

まとめ

冠状断は気管支の分岐と水平裂、矢状断は斜裂と肺葉の境を見るのに向いています。横断像と行き来しながら同じ構造を追うと、立体的な解剖が身につきます。実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの胸部CTの正常解剖ツール(横断・冠状・矢状)で、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。スマホでは無料のiPhoneアプリ「画像診断cafe(胸部CTの冠状断・矢状断の解剖も確認できます)」も使えます。

参考文献

  1. Sussmann AR, Ko JP. Understanding chest radiographic anatomy with MDCT reformations. Clin Radiol. 2010;65(2):155-66. PubMed
  2. Hayashi K, Aziz A, Ashizawa K, et al. Radiographic and CT appearances of the major fissures. Radiographics. 2001;21(4):861-74. PubMed
  3. Koenigkam-Santos M, de Paula WD, Owsijewitsch M, et al. Incomplete pulmonary fissures evaluated by volumetric thin-section CT: semi-quantitative evaluation for small fissure gaps identification, description of prevalence and severity of fissural defects. Eur J Radiol. 2013;82(12):2365-70. PubMed
  4. Ugalde P, Miro S, Fréchette E, et al. Correlative anatomy for thoracic inlet; glottis and subglottis; trachea, carina, and main bronchi; lobes, fissures, and segments; hilum and pulmonary vascular system; bronchial arteries and lymphatics. Thorac Surg Clin. 2007;17(4):639-59. PubMed

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