新しい肺腺癌の分類(BACとはいわない)
新しい肺腺癌の分類のまとめ
以下の解説を読んでから、もう一度新しい分類をみてください。理解しやすくなります。
→読むのは面倒だから、すりガラス影を見たときにどうか書けばいいかのエッセンスだけ教えてくれという方はこちら。
肺腺癌とは
・腺癌は全肺癌の半数以上を占め、多くは末梢に発生するため、肺野型肺癌の大部分は腺癌である。
・増加傾向にあり、中でもCT検診で発見される小型の淡い肺腺癌の増加が目立つ。
・日本人の肺腺癌は上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)受容体の異常が多い。
・分子標的治療薬であるEGFR‐TKI(上皮成長因子受容体・チロシンキナーゼ阻害剤)治療に反応する。
・このEGFR変異のある肺腺癌は、肺胞上皮置換型(lepidic growth:鱗状発育)の腫瘍が多く、肺胞腔に含気が保たれている場合はHRCTですりガラス影として描出される。
野口らの小型肺腺癌の分類(1995年)2cm以下の小型肺腺癌
野口らの小型肺腺癌の分類は腫瘍の増殖形態を中心とした病理分類であるため、HRCTと病理分類を対応させることができる。
1)肺胞上皮置換性に増殖する腺癌(lepidic growth)
- type A:線維化巣を認めない限局性細気管支肺胞上皮癌 5年生存率100%
- type B:肺胞虚脱型の線維化巣を認める限局性細気管支肺胞上皮癌 100%
(type Aとtype Bは上皮内腺癌) - type C:線維芽細胞の増生を認める限局性細気管支肺胞上皮癌 75%
(type Cで浸潤部分が5mm以下は微小浸潤癌)
2)肺胞上皮非置換性に増殖する腺癌
- type D:充実破壊性に増殖する低分化型腺癌 50%
- type E:腺房型腺癌 50%
- type F:肺胞上皮非置換性に増殖する真の乳頭型腺癌 50%
CT画像との対比
- type A :pure GGO
- type B :不均一な低濃度が内部に出てくる。
- type C : 中心高信号、辺縁GGO
- type C : 均一な軟部濃度。
・大きさ、平均CT値 type C > type A,B
・GGOの領域 type C < type A,B
目玉焼きができて、それが崩れて行くというイメージ。
2004年 WHO分類(第3版)の問題点
・腺房型、乳頭型、細気管支肺胞上皮癌(BAC)、充実型に腺癌を分け、これらの亜型が複数存在する場合は、混合型と分類したが、80%以上混合型に分類されてしまった。
・腺房型、乳頭型、充実型は肺胞構造を破壊しながら増殖する浸潤癌であるが、細気管支肺胞上皮癌(BAC)は5年生存率100%の腫瘍と定義されている。つまり、悪性と良性が同じカテゴリーにある。
・臨床的に差がない浸潤前病変のAAHとBACが区別されている。
なぜか?
・欧米でCT検診が行われておらず、AAHやBACなどの見つかる頻度が少なく、浸潤癌の分類の中に時系列を考慮すべき分類(上皮内腫瘍と浸潤癌)が混ざり合って存在するという矛盾はあまり重要視されなかったから。
せっかく分類したのにほとんど混合型に分類されてしまい、良悪性が同じカテゴリーにあり、ほぼ同じものが分けられていたり…。
それで2011年に以下のように改訂されました。
2011年WHO分類(第4版)の概要
・従来の細気管支肺胞上皮癌(BAC)という診断名は、日本を含めて多くの国の比較的年長の病理医、臨床医は、肺炎型の細気管支肺胞上皮癌を想像する。
・このタイプの腫瘍は肺外への転移はきわめて稀なものの、広範な肺内転移を起こして最終的に呼吸不全で亡くなる。BACの診断名はこのタイプの予後の悪い肺腺癌の亜型と混同されやすい。
ところが、WHOで定義されていたBACとは5年生存率100%のすりガラス影なのです。
予後が全く異なる両者を同じ名前で呼ぶことがあり、混同する原因なのです。
・今後肺腺癌の病理分類ではBACという診断名は敢えて使用しない方針とし、新しく”lepidic pattern”という言葉を使う。また肺炎様の予後の悪い肺腺癌の亜型の大部分は「その他」の浸潤性粘液産生性腺癌に分類される。
※lepidicとは「鱗状の」という意味。つまり、「肺胞隔壁を這うように進展する」形態。
もうBACとは言わない!!
混同されがちな2つの旧BACは以下のように名前が変わった。
①野口A,Bに相当する病理でいう細気管支肺胞上皮癌(BAC):5年生存率100%のもの
→lepidic pattern と呼ぼう。
②肺炎型の細気管支肺胞上皮癌(pneumonic pattern、浸潤性BAC):予後の悪い浸潤癌
→浸潤性粘液産生性腺癌 (invasive mucinous adenocarcinoma)と呼ぼう。
・新しい組織学的サブタイプとして微小乳頭状型(micropapillary type)が追加された。早期腺癌のmicropapillary predominant adenocarcinomaという分類は予後不良を意味するため、この使用が推奨される。
・混合型を削除し、どの組織亜型が主体を占めるかで診断を行う。つまりpredominancy (全体に占める割合の最も高い組織亜型)を基本に分類するように提案された。
・上皮内腺癌(adenocarcinoma in situ;AIS)の概念が新設された。BACを廃止し、野口らの分類のtype A,Bに相当するlepidic patternをいう。
・微小浸潤癌(minimally invasive adenocarcinoma; MIA)の概念が新設された。野口らの分類のtype Cの一部に相当し、3cm以下のlepidic predominantで浸潤部分が5mm以下の腫瘍。上皮内腺癌とは言えないが、すりガラス影を主体とする肺腺癌の中でもきわめて予後がよいもの。5年生存率は100%近い。
lepidic patternと記載すべきすりガラス影を呈する結節、腫瘍には、以下のものが含まれます。
lepidic patternに含まれるもの
- 前浸潤性病変
・異型腺腫様過形成(AAH)
・上皮内腺癌(AIS)全体(pure lepidic pattern) - 微小浸潤癌(MIA)の辺縁部
- 浸潤癌
・肺胞上皮置換型優位(lepidic pattern predominant)
その他(限局した間質主体の炎症、リンパ管腫)
CTでの評価 3cm以下の病変
・≦3cm、純粋なlepidic growthを示す孤立性腺癌
→異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia(AAH))
上皮内腺癌(adenocarcinoma in situ(AIS))
・≦3cm、lepidic growth優位、浸潤が≦0.5cmの腺癌
→微小浸潤腺癌(minimally invasive adenocarcinoma(MIA))
新しい腺癌の分類のエッセンス
・3cm以下のすりガラス影
pure lepidic pattern→AAH、AIS、その他良性
lepidic predominant&浸潤≦5mm→MIA,その他
・それ以上ならば浸潤癌。
・BACとは言わない。pneumonic patternの旧BACは浸潤性粘液産生性腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma)という。
- 野口の分類(1995)
- 新しい肺腺癌の分類(IASLC/ATS/ERS 2011)
があり、それにCT所見を対応させればいいんですね。わかるにはわかったんですが、臨床の場で使いやすい一覧みたいなのはないんですか?