
先に結論:陰圧性肺水腫は「ふさがったのどに逆らって強く吸い込んだ」ことで起こる肺水腫
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 上気道(鼻・のど・喉頭)がふさがったまま強く息を吸い、胸の中が強い陰圧になって肺に水がしみ出した状態。閉塞後肺水腫とも呼ぶ |
| 主な原因 | 全身麻酔の抜管後の喉頭けいれんが最多。窒息(食べ物・異物)、首を絞められる、上気道の感染や腫瘍なども |
| どんな人に | 若く健康な人に起こりやすい |
| CT | 両肺のすりガラス影・浸潤影。肺門側(中心側)に強いことがある |
| 経過 | 改善は速いことが多い(平均33時間で改善との報告)。ただし重症例もある |
陰圧性肺水腫とは
陰圧性肺水腫(negative pressure pulmonary edema:NPPE)は、ふさがった気道に逆らって強く息を吸い込んだあとに起こる肺水腫で、閉塞後肺水腫(postobstructive pulmonary edema)とも呼ばれます(Bhattacharya 2016)。
強い吸気努力で胸の中(胸腔内)の圧が大きくマイナスになると、肺の毛細血管から周りへ水がしみ出しやすくなり、間質性・肺胞性の肺水腫が起こります。NPPEの患者さんの肺水腫液はたんぱく質の濃度が低いことが多く、主な仕組みは血管内外の圧の差(静水圧)と考えられています(Bhattacharya 2016)。
つまり、心臓のポンプの力が落ちて起こる心原性肺水腫とは原因が違う肺水腫です。
原因:抜管後と窒息後
2つのタイプ
| タイプ | きっかけ | 例 |
|---|---|---|
| Type 1 | 急な気道閉塞のあと | 喉頭けいれん、喉頭蓋炎、窒息 |
| Type 2 | 慢性の気道閉塞を取り除いたあと | アデノイド・扁桃の肥大の手術後 |
(Guffin 1995)
Type 1は気道が急にふさがったときに強く吸い込むことで、Type 2は長く続いていた閉塞が急に取れたことで起こります。耳鼻咽喉科手術に関連した87例では、Type 1が72%、Type 2が23%でした(Din-Lovinescu 2021)。
麻酔・手術に関連するもの
原因として最も多いのは、全身麻酔の抜管後の喉頭けいれん(声帯が反射的に閉じてしまうこと)です(Herrick 1990、Ma 2023)。抜管直後に酸素の値が70%まで下がり、集中治療室への移動後にピンク色の泡のような痰が出た例も報告されています(Liu 2019)。
耳鼻咽喉科の手術に関連した87例のまとめでは、68%が男性、平均年齢は37歳で、鼻中隔・鼻・副鼻腔の手術、喉頭鏡・気管支鏡、気管切開などが多く、若く健康な人に多いことが特徴でした(Din-Lovinescu 2021)。
窒息・異物・首の圧迫
麻酔以外にも、首つり・絞扼(首を絞められる)、腫瘍、異物、甲状腺腫などによる上気道閉塞のあとに起こることが報告されています(Herrick 1990)。食べ物などの異物で窒息し、つまりが取れたあとに息苦しさが出てきた場合も、この病気を考える必要があります。
症状
気道の閉塞のあとに、息苦しさや酸素の値(SpO2)の低下が起こり、ピンク色の泡のような痰が出ることがあります(Liu 2019)。急性の呼吸不全として発症する点が特徴です(Bhattacharya 2016)。窒息や手術のあとに息苦しさが続く場合は、すぐに医療機関を受診してください。
CT画像所見
- 両肺のすりガラス影と浸潤影:全身麻酔中に発症した重症例では、全肺葉に中心側(肺門側)に強い浸潤影とその周りのすりガラス影が広がっていました(Holzgreve 2020)。
- 間質と肺胞の両方の水:陰圧性肺水腫では間質性・肺胞性の両方の肺水腫が起こります(Bhattacharya 2016)。
- 速い改善:術後2日目のCTで肺水腫が消えていた例があり(Liu 2019)、短期間で変化するのが特徴です。経過のCTで速く消えることは、診断の手がかりにもなります。
肺水腫の一般的な画像所見(間質性・肺胞性、心原性との違い)は肺水腫の原因・症状とCT画像診断、肺水腫・心不全の胸部レントゲン・CT画像所見にまとめています。
症例 20歳代男性 陰圧性肺水腫

引用:Radiopaedia(Negative pressure pulmonary oedema)
両側の肺門まわりに斑状のすりガラス影〜浸潤影が広がっています(バタフライ様)。心臓の大きさは正常で胸水はなく、症例ページでは利尿薬の投与後24時間で影がほぼ消えたと記載されています。
鑑別:何と見分ける?
| 病態 | 見分けるポイント |
|---|---|
| 誤嚥(胃内容の吸い込み) | 麻酔の前後に起こる点が共通し、紛らわしい(Ma 2023)。誤嚥のエピソードの有無を確認 |
| 心原性肺水腫 | きっかけが似ていて紛らわしい(Ma 2023)。心機能の評価に加え、気道閉塞の直後に起こったかどうかを確認 |
関連記事:ARDSのCT画像所見、びまん性浸潤影・すりガラス影を来す疾患の鑑別
治療と経過
治療の中心は、気道の閉塞を解除し(必要なら再挿管)、酸素投与や陽圧換気で支えることです(Bhattacharya 2016、Ma 2023)。肺胞から水をくみ出す働きが保たれているため、改善は速いことが多いとされます(Bhattacharya 2016)。
耳鼻咽喉科手術関連の87例では、90%が回復し、改善までの平均は33時間、平均入院期間は5.6日でした。一方で5%が亡くなっており、軽く見てよい病気ではありません(Din-Lovinescu 2021)。治療の具体的な内容は主治医が判断します。
よくある疑問(Q&A)
Q. 心臓が悪いから起こったのですか?
A. いいえ。陰圧性肺水腫は、ふさがった気道に逆らって強く息を吸ったことで起こるもので、心臓のポンプ機能の低下によるものではありません(Bhattacharya 2016)。
Q. 若くて健康なのに、なぜ起こったのですか?
A. 陰圧性肺水腫は持病のない若い人にも起こります。耳鼻咽喉科手術関連のまとめでは、若く健康な人に多くみられました(Din-Lovinescu 2021)。
Q. 次に全身麻酔を受けるときは大丈夫ですか?
A. 前回の経過を麻酔科・主治医に伝えて相談してください。
参考文献
- Bhattacharya M, Kallet RH, Ware LB, et al. Negative-Pressure Pulmonary Edema. Chest. 2016;150(4):927-933. PubMed
- Guffin TN, Har-el G, Sanders A, et al. Acute postobstructive pulmonary edema. Otolaryngol Head Neck Surg. 1995;112(2):235-7. PubMed
- Herrick IA, Mahendran B, Penny FJ. Postobstructive pulmonary edema following anesthesia. J Clin Anesth. 1990;2(2):116-20. PubMed
- Ma J, Liu T, Wang Q, et al. Negative pressure pulmonary edema (Review). Exp Ther Med. 2023;26(3):455. PubMed
- Din-Lovinescu C, Trivedi U, Zhang K, et al. Systematic Review of Negative Pressure Pulmonary Edema in Otolaryngology Procedures. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2021;130(3):245-253. PubMed
- Holzgreve A, Fabritius MP, Conter P. CT Findings in Negative Pressure Pulmonary Edema. Diagnostics (Basel). 2020;10(10):749. PubMed
- Liu R, Wang J, Zhao G, et al. Negative pressure pulmonary edema after general anesthesia: A case report and literature review. Medicine (Baltimore). 2019;98(17):e15389. PubMed
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