先に結論:縦隔脂肪腫症
- 縦隔脂肪腫症は縦隔に脂肪が広く左右対称に増える状態で、肥満・Cushing症候群・ステロイドの長期使用が主な原因です
- 胸部X線では上縦隔の拡大として見え、リンパ節腫大や大動脈の病気と間違えやすいですが、CTで均一な脂肪の濃度であることを確認すれば診断できます
- 脂肪の中に充実成分・不均一な造影があれば脂肪肉腫や胸腺脂肪腫などを考えます
縦隔脂肪腫症(Mediastinal lipomatosis)とは?
- 縦隔内に被膜を持たない成熟脂肪組織が広範かつ対称性(あるいは非対称性)に蓄積する良性の病態である。縦隔(mediastinum)は左右の肺にはさまれた胸の中央の領域で、英語のmediastinalは「縦隔の」という意味である。
- 肥満、ステロイドの長期投与、クッシング症候群などに関連して発症することが多いが、特発性に生じるケースもある。
- 多くは無症状であり、他の目的で撮影された胸部画像検査で偶然発見されることが大半である。しかし、稀に気道や血管を圧迫し、呼吸困難や咳嗽などの症状を呈することもある。
縦隔脂肪腫症の画像所見
縦隔脂肪腫症のレントゲン所見
胸部単純X線写真は、本疾患が最初に疑われる契機となることが多い。特徴的な所見は以下の通りである。
- 上縦隔から前縦隔にかけての対称性または非対称性の縦隔拡大(Mediastinal widening)が認められる。
- 辺縁は平滑であり、心陰影の辺縁が不鮮明になる(シルエットサイン陽性)ことがある。
- 通常の軟部組織腫瘍と比較して、X線透過性がやや亢進している(脂肪によるX線吸収の低下)のが特徴であるが、単純写真のみで脂肪と断定することは困難な場合が多い。縦隔脂肪腫症は縦隔拡大の頻度の高い良性の原因であり、肥満・ステロイド内服・Cushing症候群と関連するが、これらの因子がない例も少なくない。縦隔の輪郭異常を見たときはCTを最初の精査として行うことで、多くの場合それ以上の検査を省くことができるとされる(PMID: 674633)。
CT検査における診断のポイント
- 脂肪濃度の確認: 蓄積している組織が均一な脂肪の吸収値(マイナスのCT値)を示すことが最大の鑑別ポイントである。
- 被膜の欠如と周囲への進展: 単一の腫瘤を形成するのではなく、被膜を持たない脂肪組織が気管、大血管、心膜などの周囲臓器の隙間を埋めるように、あるいは包み込むように進展している。
- 圧排所見の乏しさ: 血管や気道などの既存構造を完全には閉塞・狭窄させず、柔らかく周囲を覆うような形態をとる。
- 充実性成分の欠如: 内部に軟部組織濃度の結節や索状影、石灰化などを伴わない。これらが存在する場合は、悪性腫瘍などを疑う必要がある。
症例 スクリーニング


後縦隔に脂肪組織が過剰に沈着しており、それにより食道が左側へ偏位しています。
縦隔脂肪腫症を疑う所見です。
症例 40歳代男性 ステロイド内服あり。

引用:Radiopaedia
後縦隔に脂肪組織が過剰に沈着しており、それにより食道が前方へ偏位しています。
縦隔脂肪腫症を疑う所見です。
縦隔脂肪腫症と心膜外脂肪塊(Pericardial fat pad)との鑑別と違い
縦隔内に脂肪が目立つ良性の所見として、縦隔脂肪腫症のほかに日常の画像診断で頻繁に遭遇するものに「心膜外脂肪塊(心外膜下脂肪塊、Pericardial fat pad)」がある。
これらはともに被膜を持たない成熟脂肪組織の集簇であるが、その発生部位と広がり方に明確な違いがある。
- 心膜外脂肪塊: 心臓と横隔膜が交わる部分である「心横隔膜角(Cardiophrenic angle)」に局所的に発生する。特に右側に好発し、心膜の外側に寄り添うように存在する局限的な脂肪の塊である。生理的な脂肪沈着、あるいはその延長とみなされる。
- 縦隔脂肪腫症: 心横隔膜角に限局せず、上縦隔から前縦隔を中心に、気管や大血管の周囲の隙間を埋めるように「広範かつびまん性」に脂肪が蓄積する。
ただし、縦隔脂肪腫症と心膜外脂肪塊は、発生部位の違いから便宜上区別して解説されることが多いが、実際の臨床画像においては両者がオーバーラップ(併発)しているケースも頻繁に観察される。
症例 60歳代男性

引用:Radiopaedia
縦隔に脂肪組織が過剰に沈着しています。
縦隔脂肪腫症を疑う所見ですが、心膜外脂肪塊とは一塊となっていると考えられます。
縦隔脂肪腫症と鑑別を要する主な疾患
縦隔内に脂肪成分を含む病変(Fat-containing mediastinal lesions)としては、以下の疾患との鑑別が重要である。
- 縦隔脂肪腫(Mediastinal lipoma): 被膜を持つ明瞭な境界の腫瘤を形成する点で本症と異なる。
- 脂肪肉腫(Liposarcoma): 内部が不均一であり、厚い隔壁や軟部組織成分(非脂肪成分)が混在する。
- 胸腺脂肪腫(Thymolipoma): 脂肪組織の中に、胸腺組織に由来する軟部組織の索状影や結節影が混在する。胸腺から生じる良性腫瘍で、大きくても無症状のことが多く、茎を持って片側の胸腔の下部を大きく占めると胸腺由来とわかりにくいことがある(Quint 2007)。
- Morgagni孔ヘルニア: 腹腔の大網脂肪が胸骨のすぐ後ろ(多くは右側)の横隔膜の孔から胸腔へ入り込んだもの。心横隔膜角の脂肪のかたまりに見え、胸腺脂肪腫や心膜外脂肪塊との鑑別になる。腸管や肝臓の一部を含むこともある(Quint 2007)。
- 成熟嚢胞性奇形腫(Mature cystic teratoma): 脂肪だけでなく、石灰化(骨や歯)、嚢胞(水成分)、軟部組織など、複数の成分が混在する不均一な腫瘤である。
脂肪を含む縦隔病変の見分け方(一覧)
| 病変 | 場所 | CTでの特徴 |
|---|---|---|
| 縦隔脂肪腫症 | 上縦隔〜前縦隔に広く | 被膜のない均一な脂肪が隙間を埋める |
| 心膜外脂肪塊 | 心横隔膜角(右に多い) | 局所的な均一な脂肪 |
| Morgagni孔ヘルニア | 胸骨の後ろ・心横隔膜角 | 大網の脂肪と血管。腸管を含むことも |
| 胸腺脂肪腫 | 前縦隔(胸腺) | 脂肪の中に索状の軟部組織 |
| 奇形腫 | 前縦隔 | 脂肪・水・石灰化・軟部組織が混在 |
| 脂肪肉腫 | さまざま | 不均一で厚い隔壁や非脂肪成分 |
前縦隔の脂肪濃度の腫瘤の主な候補は奇形腫・胸腺脂肪腫・Morgagni孔ヘルニアとされます(Quint 2007、Gaerte 2002)。
縦隔脂肪腫症でよくある疑問(Q&A)
Q. 胸部X線で「縦隔拡大」と言われたら?
A. 縦隔脂肪腫症は縦隔拡大の頻度の高い良性の原因で、縦隔の輪郭の異常にはCTを最初に行うことで、多くはそれ以上の検査を省けるとされます(Homer 1978)。指摘を受けたら医療機関で相談してください。
出典・参考文献
- Kashikar S, Gulkari AJ, Singhania PK. CT to the rescue in benign, symmetrical mediastinal lipomatosis. Thorax. 2012;67(8):758. PubMed
- Carter BW, Marom EM, Detterbeck FC. Approaching the patient with an anterior mediastinal mass: a guide for clinicians. J Thorac Oncol. 2014;9(9 Suppl 2):S102-S109. PubMed
- Fonseka, Ruel. A benign cause of widened mediastinum. The Medicine Forum. 2013;14(1). doi:10.29046/tmf.014.1.008
- Gaerte SC, Meyer CA, Winer-Muram HT, et al. Fat-containing lesions of the chest. Radiographics. 2002;22 Spec No:S61-S78. PubMed
- Homer MJ, Wechsler RJ, Carter BL. Mediastinal lipomatosis. CT confirmation of a normal variant. Radiology. 1978;128(3):657-661. PubMed
- Quint LE. Imaging of anterior mediastinal masses. Cancer Imaging. 2007;7 Spec No A:S56-S62. PubMed
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