先に結論:偶然見つかった大動脈弁の石灰化
- 胸部CTで見つかる大動脈弁の石灰化は高齢者でよく見られますが、大動脈弁狭窄症のサインのことがあります
- 中等度以上の石灰化なら心エコーでの評価を勧めるよう報告書に書くのが実践的です
- 大動脈弁の石灰化は石灰化した塞栓による脳梗塞の原因になることもあるため、脳梗塞の患者では弁の石灰化も確認します
- 大動脈そのもの(壁)の石灰化は動脈硬化のサインで、年齢とともに増えます。それだけで治療が必要になるわけではありませんが、血圧・喫煙・糖尿病・脂質を見直すきっかけになります
「胸部CTを読んでいたら、大動脈弁に石灰化が見える…でもこれ、放っておいていいの?」
救急外来や日常臨床で胸部CTを読影していたら日常的にぶつかるこの疑問。特に心臓目的でないCTでも、大動脈弁の石灰化はしばしば偶然見つかります。
この石灰化、加齢による変化で済ませてよい場合もあれば、重大な心疾患や脳梗塞の原因となるサインである場合もあります。本記事では、CT画像で偶然見つかった大動脈弁石灰化への対応を、視覚的評価から臨床対応、さらには脳梗塞リスクまで網羅的に解説します。
大動脈弁石灰化とは何か?
大動脈弁石灰化(aortic valve calcification)は、動脈硬化や加齢に伴って弁尖にカルシウムが沈着する現象です。80歳以上の高齢者では一般的ですが、弁の可動性を障害し、進行すると大動脈弁狭窄症(AS)につながる可能性があります。
また、近年では石灰化片が末梢に塞栓し、脳梗塞を引き起こす「石灰化塞栓」も報告されており、注意が必要です[3]。
大動脈の石灰化とは?大動脈弁の石灰化との違い
| 大動脈弁の石灰化 | 大動脈(壁)の石灰化 | |
| 場所 | 心臓の出口の弁(弁尖) | 大動脈弓・下行大動脈・腹部大動脈の壁 |
| 主な意味 | 大動脈弁狭窄症につながることがある | 全身の動脈硬化の目安 |
| 次の対応 | 中等度以上なら心エコーを検討 | 動脈硬化の危険因子の確認 |
- 胸部CTの「大動脈石灰化」は多くの場合、大動脈の壁(内膜)にたまった石灰化で、動脈硬化(アテローム)を反映します。45〜84歳の6814人にCTを行った研究(MESA)では、胸部大動脈壁の石灰化は28.0%にみられ、高血圧と喫煙に最も強く関連し、糖尿病・脂質異常なども関連していました(Takasu 2008)。
- 胸部X線(レントゲン)でも大動脈弓の石灰化は見えます。冠動脈造影を受けた654例では、大動脈弓の石灰化がある人の冠動脈疾患は329/360例で、ない人(241/294例)より多くみられました(Li 2002)。
- 腹部大動脈の石灰化も同様で、10研究のメタ解析では、石灰化があると冠動脈イベントの相対リスクが1.81、脳血管イベントが1.37と高く、石灰化が強いほどリスクが段階的に上がりました(Bastos Gonçalves 2012)。
- なお、大動脈解離では、単純CTで内膜の石灰化が大動脈の外縁から内側へずれて見えることがあり(いわゆるカルシウムサイン)、偶然の石灰化と区別して読む必要があります。
まずはここから:CTによる4段階視覚評価
偶然見つかった石灰化に対して、非造影CTで簡便に行える視覚的4段階評価が提案されています[1]。
- 石灰化なし
- 軽度石灰化
- 中等度石灰化
- 高度石灰化
中等度石灰化以上では心エコーによる評価が推奨されており、特に高度石灰化では大動脈弁狭窄症の可能性が高いため、循環器内科への紹介や定期フォローが必要です[1]。
症例 70歳代男性

大動脈弁には軽度~中等度石灰化を認めています。
横断像では僧帽弁の石灰化も確認できます。
症例 80歳代女性

大動脈弁には高度石灰化を認めています。
ただし拍動によるアーチファクトで横断像は二重に見える部位ありますのでそれで過大評価になったり、大動脈解離などと誤診しないように注意が必要です。
CTで石灰化を見つけたら?診断の5ステップ
大動脈弁石灰化を偶然発見した際は、以下のステップで対応を検討します[1]。
- 患者の年齢と症状を確認: 高齢者や心雑音の既往があるか確認。
- 視覚的なグレード評価:中等度石灰化以上なら心エコーを検討。
- 心電図同期CTの併用(可能なら): 弁開閉の評価が可能。なお、心エコーで弁口面積と圧較差が食い違う(低流量・低圧較差)例では、CTで測る大動脈弁石灰化のAgatstonスコアが重症度判定に使われます。2021年ESC/EACTSガイドラインでは、男性3000以上・女性1600以上で重症大動脈弁狭窄症の可能性が非常に高く、男性2000以上・女性1200以上で可能性が高いとされ、女性は少ない石灰化量でも重症になりうる点に注意します。
- 脳梗塞歴・神経症状の確認: 石灰化塞栓のリスク評価。
- 循環器内科へ紹介: TAVIや外科的置換(SAVR)の適応判断。
—胸部CTのレポート一例—-
(文献1を参考)
石灰化塞栓による脳梗塞にも注意
大動脈弁の石灰化は、塞栓源として脳梗塞の原因になることがあります。これを「石灰化脳塞栓(calcified cerebral embolism)」と呼び、頭部CTで皮質・皮質下に石灰化を伴う小梗塞として描出されることがあります[3]。
特に心房細動のない症例で脳梗塞を発症した場合、大動脈弁からの石灰化片脱落を念頭に置きましょう。全身の非造影CTで大動脈弁や上行大動脈の石灰化を確認することで、診断につながるケースもあります。
関連記事:脳梗塞の種類(分類)まとめ!心原性、アテローム血栓性、ラクナ梗塞!
参考文献
- 木藤雅文. 6 大・中血管 大動脈弁石灰化:大動脈弁狭窄. 画像診断 42(11):A186-A187, 2022
- Williams MC, et al. Reporting incidental coronary, aortic valve and cardiac calcification on non-gated thoracic computed tomography, a consensus statement from the BSCI/BSCCT and BSTI. Br J Radiol. 2021;94(1117):20200894.
- Walker BS, Shah LM, Osborn AG. Calcified cerebral emboli, a “do not miss” imaging diagnosis: 22 new cases and review of the literature. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(8):1515-1519.
- Vahanian A, Beyersdorf F, Praz F, et al. 2021 ESC/EACTS Guidelines for the management of valvular heart disease. Eur Heart J. 2022;43(7):561-632. PubMed
- Otto CM, Nishimura RA, Bonow RO, et al. 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease. Circulation. 2021;143(5):e72-e227. PubMed
- Clavel MA, Messika-Zeitoun D, Pibarot P, et al. The complex nature of discordant severe calcified aortic valve disease grading: new insights from combined Doppler echocardiographic and computed tomographic study. J Am Coll Cardiol. 2013;62(24):2329-2338. PubMed
- Takasu J, Katz R, Nasir K, et al. Relationships of thoracic aortic wall calcification to cardiovascular risk factors: the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Am Heart J. 2008;155(4):765-771. PubMed
- Li J, Galvin HK, Johnson SC, et al. Aortic calcification on plain chest radiography increases risk for coronary artery disease. Chest. 2002;121(5):1468-1471. PubMed
- Bastos Gonçalves F, Voûte MT, Hoeks SE, et al. Calcification of the abdominal aorta as an independent predictor of cardiovascular events: a meta-analysis. Heart. 2012;98(13):988-994. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
