先に結論:奇静脈弓の高吸収(奇静脈弁の造影剤)
- 造影CTで奇静脈弓の一部が強く白く見えるのは、奇静脈の弁に造影剤が一時的にたまるための正常な現象です
- 特に右腕から造影剤を入れたときや高速注入(早い相)で目立ち、単純CTでは見えないことで石灰化と区別できます
- 腫瘤・血栓・石灰化と間違えて不要な精査をしないことが大切です
- 注入から時間がたった撮影(遅い相)では、奇静脈弓への逆流は見られにくくなります(Endo 2008)
胸部造影CTにおいて、奇静脈弓(azygos arch)における高吸収域が観察されることがあります。
これは腫瘤や石灰化といった病的所見ではなく、造影剤が奇静脈弁に一時的に滞留することによって起こる生理的な現象です。
奇静脈弁(Azygos arch valve)への造影剤の残留
- 造影CTにおいて(特に注入早期の相で)奇静脈弓(Arch of azygos vein)に高吸収が目立って残っているのは石灰化などではなく、奇静脈弁(Azygos arch valve)に造影剤が残留するため。
- 奇静脈弓には静脈弁があり、弁尖(cusp)の間に造影剤がたまって見える(Yeh 2004)。
- 造影CTの早期相では上大静脈から奇静脈弓に造影剤が逆流することがある。
- 高速注入では右腕からの注入で奇静脈への逆流が多かった(76% vs 52%:Yeh 2004)が、高速注入のCTAでは逆流の頻度に左右差はなかったとの報告もある(Steinke 2009)。194件の胸部造影MDCTの検討(Ichikawa 2008)では、3.0 mL/sの高速注入群で68.5%に奇静脈弁の造影剤残留、77.2%に奇静脈弓への逆流がみられ、低速注入群より有意に多かった。
奇静脈・奇静脈弓・半奇静脈とは(CT解剖)
| 名前 | 走行 |
|---|---|
| 奇静脈 | 胸椎の右前方を上行する |
| 奇静脈弓 | 右主気管支の上を後ろから前へ弓状に越え、上大静脈に注ぐ部分 |
| 半奇静脈 | 胸椎の左側を上行し、正中を越えて奇静脈に合流する |
造影の相(タイミング)と奇静脈弓の見え方
| 撮影条件 | 奇静脈弓への逆流・弁の造影剤 |
|---|---|
| 高速注入・注入20秒後(早い相) | 弁の造影剤残留68.9%、奇静脈弓への逆流78.0%(132件:Endo 2008) |
| 同じ注入・注入180秒後(遅い相) | 奇静脈弓への逆流はみられなかった(Endo 2008) |
診断上の注意点
CT画像上で奇静脈弓に高吸収域が認められた際は、以下のポイントに留意しましょう。
- 正常構造との鑑別: 造影剤の一時的な貯留であり、腫瘤や石灰化と誤認しない。
- 注入相の確認: どのタイミングの相で撮像されたかを確認し、造影剤の流れを考慮。
- 他の異常所見との関連: 他の異常所見がなければ正常バリアントとして評価。高速注入(3〜5mL/秒)のCTA 321件の検討(Steinke 2009)では、59.5%で奇静脈への逆流がみられ、そのうち64.9%で奇静脈弁が同定されました。弁の大きさや形はさまざまで、弁より奥にも造影剤が入る(弁不全を示す)例が53.2%あり、こうした見え方の多様さが誤認の落とし穴になります。
症例 40歳代女性 スクリーニング

単純CTでは認めていない高吸収を造影CTでは認めています。
石灰化などではなく、奇静脈弁(Azygos arch valve)に造影剤が残留している所見です。
症例 60歳代男性 スクリーニング

奇静脈弓に高吸収が目立つ部位があるが、石灰化などではなく、奇静脈弁に残った造影剤である。
症例 50歳代女性 スクリーニング

こちらも同様です。奇静脈弁に造影剤が残っています。
まとめ
奇静脈弓の高吸収域は、正常解剖に基づく造影剤の一過性貯留であり、特に右腕からの高速注入で目立ちます。診断にあたっては、造影相・注入経路・周囲構造の状態を併せて評価し、不要な精査を避けることが重要です。
奇静脈弓でよくある疑問(Q&A)
Q. 奇静脈弓が太く(拡大して)見えるのは?
A. 奇静脈は上下の大静脈をつなぐ側副路にもなるため、大静脈の流れに異常がないかを確認します。下大静脈の途絶では奇静脈・半奇静脈を通って血液が戻ることがあり、腹部CT 7972例のうち下大静脈の途絶・先天性狭窄は0.15%でした(Koc 2007)。
あわせて読みたい:造影剤による頭部CTの高吸収とは?出血との見分け方
参考文献:
- Endo J, Ichikawa T, Koizumi J, et al. Visualization of azygos arch valves using computed tomography: comparison of scanning delay times. Tokai J Exp Clin Med. 2008;33(2):84-89. PubMed
- Ichikawa T, Endo J, Koizumi J, et al. Visualization of the azygos arch valves on multidetector-row computed tomography. Heart Vessels. 2008;23(2):118-123. PubMed
- Steinke K, Moghaddam A. Azygos arch valves at computed tomography angiography and pitfalls related to its variety in appearance and function. J Comput Assist Tomogr. 2009;33(5):721-4. PubMed
- Morita S, Suzuki K, Masukawa A, et al. Identification of efferent flow in the superior vena cava and azygos vein confluence using cine phase-contrast MRI: speculation of the role of the azygos arch valves. Magn Reson Imaging. 2010;28(9):1306-10. PubMed
- Yeh BM, Coakley FV, Sanchez HC, et al. Azygos arch valves: prevalence and appearance at contrast-enhanced CT. Radiology. 2004;230(1):111-5. PubMed
- Koc Z, Oguzkurt L. Interruption or congenital stenosis of the inferior vena cava: prevalence, imaging, and clinical findings. Eur J Radiol. 2007;62(2):257-66. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
