縦隔を走行する神経には、

  • 末梢神経
  • 交感・副交感神経系

があります。

これらは神経原性腫瘍の発生源となりえます。

どういった神経が縦隔のどこを走行するのかを実際のCT画像を用いてまとめました。

先に結論:縦隔を通る主な神経と、できやすい腫瘍

横隔神経の走行は、首の前斜角筋の前面を下り、鎖骨下動脈と鎖骨下静脈の間から胸に入り、肺門の前→心臓(心膜)の外側を下って横隔膜に達します。迷走神経は頸動脈鞘の中を下り、胸では肺門の後ろ→食道の壁に沿って腹部へ向かいます。交感神経幹は背骨(椎体)の両わき、肋骨頭の前を縦に走ります。

神経 通る場所 関係する病気
交感神経幹 背骨の両わき(後縦隔) 神経芽腫・神経節腫などの神経原性腫瘍
肋間神経 肋骨の下縁に沿う 神経鞘腫・神経線維腫(後縦隔・胸壁)
迷走神経 気管・食道の横を下る 神経鞘腫など
反回神経 左は大動脈弓、右は鎖骨下動脈の下で折り返す 大動脈瘤・リンパ節・肺がん・食道がんで圧迫されると声がかすれる(嗄声)
横隔神経 心臓の外側を下る 障害されると片側の横隔膜が上がる(まひ)

横隔神経と迷走神経はどちらも上から下へ縦に走りますが、横隔神経は肺門の前、迷走神経は肺門の後ろを通るのが見分けるポイントです。

後縦隔の腫瘍の多くは神経原性腫瘍で、大人では神経鞘腫、子どもでは神経芽腫などの交感神経系の腫瘍が多くなります。

末梢神経

  • 肋間神経
  • 横隔神経
  • 迷走神経・反回神経
  • (腕神経叢)

肋間神経

肋間神経は、第1−11胸神経の前枝であり(第12胸神経の前枝は肋下神経)、神経叢を形成せずに肋間に分布します。

内外肋間筋の間を肋間動静脈に沿って走行します。

横隔神経

横隔神経は、第4頸神経C4(C3,5)からなります。

前斜角筋の前を下行し、鎖骨下動静脈の間を通過して胸鎖関節の後方から(多くは内胸動脈の内側に接し)胸腔に入ります。献体41側の検討では、横隔神経が内胸動脈の内側で胸腔に入ったのが25側、外側が15側で、鎖骨下静脈の後ろを通ったのは38側でした(Yildiz 2024)。内胸動脈との位置関係は人によって違います。

肺根の前方を通り、心臓の外側縁を心膜横隔動静脈と並走し、心膜と壁側胸膜の心膜部の間を下行かつ後方に走って横隔膜に分布します。

横隔神経の走行を上から順に(左右の違い)
  1. 首:頸神経(主にC4)から出て、前斜角筋の前面を外側から内側へ斜めに横切りながら下ります
  2. 胸の入口:鎖骨下静脈の後ろ・鎖骨下動脈の前を通り、胸鎖関節の後ろあたりから胸腔に入ります
  3. 右横隔神経:右腕頭静脈→上大静脈の外側に沿って下り、右肺門の前、右心房の外側の心膜の上を通って横隔膜へ。下大静脈の近くで横隔膜に達します
  4. 左横隔神経:左鎖骨下動脈・左総頸動脈の間を下り、大動脈弓の左外側を越えて、左肺門の前、左心室の外側の心膜の上を通って横隔膜へ。心臓が左にふくらんでいるため、右より長く外側を回ります

横隔神経をCTで追うコツ
  • 神経そのものは細く、CTでははっきり見えないことが多いため、周りの構造を目印にします。
  • 頸部では前斜角筋の前面、胸部では心膜の外側を並走する心膜横隔動静脈の位置が、横隔神経の通り道の目安になります。
  • 横隔神経が障害されると、片側の横隔膜が持ち上がります(横隔膜挙上)。症状がなく画像で偶然見つかることも多く、斜角筋間ブロック(肩の手術の麻酔)の合併症としても知られています(Patel 2023)。肩の手術で斜角筋間ブロックを受けた健康な13人では、超音波で13人全員に同側の横隔膜の動きの異常がみられ、多くは数時間で元に戻りました(Urmey 1991)。

迷走神経・反回神経

右側は右鎖骨下動脈の前方、左側は左鎖骨下動脈の前方を通って胸腔に入ります。

胸腔内では右は鎖骨下動脈下部で反回神経を、左は大動脈弓部の前方ないしその左側の面の上にあり、大動脈弓下で反回枝(反回喉頭神経)を分岐します。

胸腔の中では左右の迷走神経はそれぞれの側の気管支の後壁に接し、次いで食道に接して走行し、多くの枝を出して細かくなって腹腔に入ります。

迷走神経・反回神経の走行を図の代わりに順番で
  • 右迷走神経:頸動脈鞘の中(総頸動脈と内頸静脈の間の後ろ)を下る→右鎖骨下動脈の前を越える(ここで右反回神経が分かれ、鎖骨下動脈の下をくぐって上へ戻る)→気管の右側→右主気管支の後ろ→食道の後ろ側へ
  • 左迷走神経:左総頸動脈と左鎖骨下動脈の間を下る→大動脈弓の左前を越える(ここで左反回神経が分かれ、大動脈弓の下をくぐって上へ戻る)→左主気管支の後ろ→食道の前側へ
  • 反回神経の戻り道:左右とも、気管と食道の間の溝(気管食道溝)を上って喉頭へ向かいます
反回神経の走行をCTで追うコツ
  • 反回神経そのものはCTでは見えないため、通り道の構造で考えます。
  • 左:大動脈弓の下、肺動脈との間のすき間(大動脈肺動脈窓)を通るため、ここのリンパ節腫大や大動脈弓の動脈瘤、左上葉の肺がんが嗄声の原因になります。
  • 右:右鎖骨下動脈の下で折り返すため、肺尖部や右鎖骨下動脈周囲の病変が原因になります。
  • 左右とも、上縦隔〜頸部では気管食道溝を通るため、食道がんや甲状腺の病変、この溝のリンパ節も確認します。

横隔神経と迷走神経の走行の違い
横隔神経 迷走神経
頸部 前斜角筋の前面 頸動脈鞘の中
肺門との関係 肺門の前 肺門の後ろ
胸部での目印 心膜の外側(心膜横隔動静脈と並走) 気管支の後壁→食道
行き先 横隔膜 食道とともに腹腔へ
障害されると 片側の横隔膜挙上 反回神経が障害されると嗄声

関連記事:嗄声の原因と画像診断(反回神経麻痺を中心に)

腕神経叢

腕神経叢はC5〜T1の神経根からなり、前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)を鎖骨下動脈とともに通って、鎖骨の後ろから腋窩へ向かいます。CTでは前斜角筋・中斜角筋と鎖骨下動脈を目印にすると位置がわかります。前斜角筋は第1肋骨の内側寄りに、中斜角筋はその後ろ外側に付き、2つの筋のすき間を鎖骨下動脈と腕神経叢が通ります(鎖骨下静脈は前斜角筋の前を通ります)。前斜角筋の前面を下る横隔神経とは、前斜角筋をはさんで前後の関係になります。

交感・副交感神経系

  • 交感神経節
  • 副腎外傍神経節

交感神経節

胸部では椎体の両側、肋骨頭の前方(横突起の腹側)に神経節が縦に並んでいます。

上下節間枝によって連続し、交感神経幹と呼ばれます。CTでは椎体の外側、肋骨頭の前が交感神経幹の位置で、ここから出る腫瘍は縦に長い形をとりやすくなります。

交感神経幹の走行と位置
  • 首:頸椎の前(椎前筋の前)、頸動脈鞘の後ろを縦に走ります
  • 胸:上の方では肋骨頭の前にありますが、下へ行くほど椎体の外側面に寄っていきます。胸部の神経節からは内臓神経が出て、横隔膜を貫いて腹部の臓器へ向かいます
  • 腹部・骨盤:横隔膜の後ろ(脚の近く)を通って腹部に入り、腰椎の前外側を下り、骨盤では仙骨の前で左右が近づいて終わります

このため、交感神経幹から出る腫瘍は後縦隔の椎体のすぐ横にでき、肋間神経由来の神経鞘腫(肋間に沿って外側へのびる)とは位置で見分ける手がかりになります。

(神経節内には神経堤由来の細胞が存在し、副腎原発と同様の胎児性腫瘍である神経芽腫群腫瘍が発生します。)

下頸神経節はしばしば第1胸神経節と第1肋骨頭の高さで癒合し、星状神経節を形成します。

副腎外傍神経節

副腎外傍神経節は、副交感神経系・交感神経系に関連するもので以下の様に分けられ、分布します。

  • 副交感神経系に関連する傍神経節:頭蓋底、頸部、前縦隔に位置し、化学受容体機能を有する
  • 交感神経系に関連する傍神経節:胸腰椎体傍領域に沿った後縦隔、後腹膜にみられ副腎髄質類似機能を有する

前縦隔の副交感神経系の傍神経節を細かく見ると分布は以下の様になります。

 

肋間神経以外のこれらの縦隔を走行する神経の走行を実際のCT画像にすべて掲載するとこのようになります。

→縦隔を走行する神経の走行を連続画像で確認する。

縦隔に発生する神経原性腫瘍まとめ

これらの縦隔に存在する神経から発生しうるのが神経原性腫瘍ということになります。神経原性腫瘍は、末梢神経(神経鞘)由来、交感神経節由来、傍神経節由来の3群に分けて考えると整理しやすくなります。診断には年齢・臨床所見・発生部位と画像所見を組み合わせて評価することが重要です。

神経原性腫瘍の由来とどのような腫瘍が発生するのかをまとめると次のようになります。

後縦隔に多い一方で、縦隔のどの区画や胸壁にも発生しえます(Pavlus 2016)。

縦隔の神経の走行でよくある疑問(Q&A)

Q. 交感神経幹はどこにありますか?
A. 背骨(椎体)の両わき、肋骨頭の前を縦に走っています。後縦隔の傍椎体領域にできる腫瘍では、交感神経幹由来の腫瘍を考えます。

Q. 横隔神経はどこを走っていますか?
A. 首では前斜角筋の前面、胸では肺門の前を通り、心臓を包む心膜の外側を下って横隔膜に達します。CTでは神経自体は見えにくいので、前斜角筋や心膜の外側を並走する心膜横隔動静脈を目印にします。

Q. 横隔神経と迷走神経はどう見分けますか?
A. どちらも縦に下りますが、横隔神経は肺門の前、迷走神経は肺門の後ろを通ります。首では、横隔神経は前斜角筋の前、迷走神経は頸動脈鞘の中です。

Q. 反回神経はなぜ左右で走り方が違うのですか?
A. 左は大動脈弓、右は鎖骨下動脈の下で折り返すためです。左の反回神経は胸の中を長く走るので、大動脈瘤や縦隔のリンパ節・腫瘍の影響を受けることがあります。

声のかすれや、片側の横隔膜挙上による息切れなどが続くときは、医療機関を受診してください。

参考文献:

関連記事:縦隔神経原性腫瘍の画像診断(neurogenic tumor)

  1. Pavlus JD, Carter BW, Tolley MD, et al. Imaging of thoracic neurogenic tumors. AJR Am J Roentgenol. 2016;207(3):552-561. PubMed
  2. Nakazono T, White CS, Yamasaki F, et al. MRI findings of mediastinal neurogenic tumors. AJR Am J Roentgenol. 2011;197(4):W643-W652. PubMed
  3. Patel PR, Bechmann S. Elevated Hemidiaphragm. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. PubMed
  4. Yildiz N, Nteli Chatzioglou G, Coşkun O, et al. The course of the phrenic nerve in the neck region and its relationship with adjacent anatomical structures in the thoracic inlet. Surg Radiol Anat. 2024;46(12):1917-1928. PubMed
  5. Urmey WF, Talts KH, Sharrock NE. One hundred percent incidence of hemidiaphragmatic paresis associated with interscalene brachial plexus anesthesia as diagnosed by ultrasonography. Anesth Analg. 1991;72(4):498-503. PubMed

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