急性中耳炎の治療中に起こる疾患で、「乳様突起炎(にゅうようとっきえん)(乳突蜂巣炎(にゅうとつほうそうえん))」というものがあります。
しかし、聞き慣れない病名だけに、わからないことも多いですよね?
そこで今回は、乳様突起炎(乳突蜂巣炎)「英語表記でmastoiditis」についてどんな病態なのか解説し、
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
を画像とともにわかりやすくお話ししたいと思います。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)とは?
急性中耳炎の経過中に乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)に炎症が及ぶものを、乳様突起炎(乳突蜂巣炎)といいます。
乳様突起とは、乳突蜂巣の入った側頭骨の外耳道下方に突出した部分のことで、乳突蜂巣は、上鼓室の後方に向かって蜂の巣状に削り取られた部分をいいます。
CTで見れば一目瞭然です。
乳様突起の内部には乳突蜂巣という多数の小さな空洞があり、乳突蜂巣は上端で乳突洞という腔を経て鼓室に通じているのです。
この空洞は、
耳管→鼓室→乳突洞口→乳突洞→乳突蜂巣
というように外界の空気が入るルートとなっています。
この点もCT画像で見てみましょう。
側頭骨単純CTの横断像です。右側をみています。
上のように耳管は鼓室と連続しています。
その後ろ側には乳突蜂巣を認めていますが、連続している部分はこの断面では見えません。
より上の断面を見てみましょう。
すると鼓室が乳突蜂巣と連続していることがわかります。
この両者をつなぐのが、乳突洞口です。
これらから、耳管、鼓室、乳突洞口、乳突蜂巣が連続していることがわかります。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の原因は?
急性中耳炎の経過中に起こるといいましたが、それこそが原因です。
つまり、急性中耳炎を治療せずに放置されたままでいた合併症として起こるもので、感染が内耳まで広がり乳突蜂に炎症が及ぶためです。
原因菌としては
- 肺炎球菌
- インフルエンザ菌
- 黄色ブドウ球菌
- 連鎖球菌
- モラキセラ
などがあります。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の症状は?
中耳炎の症状とよく似ており
- 高熱
- 耳痛
- 圧痛
- 耳漏(粘液性・膿性)
- 聴力障害
- 発赤(耳の後ろ)
- 腫脹
などがあります。
亜急性期では、発熱が2週間近く長引いたり、耳の後ろの疼痛がひどいといった症状に悩まされることが多くあります1)。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の診断は?
- 臨床症状
- 画像検査
- 細菌検査
症状や原因から乳様突起炎(乳突蜂巣炎)を疑いますが、とくに画像検査は重要で、化膿性液貯留による含気の低下、孤立腔形成ないし鏡面形成が認められると診断されます。
続く発熱、耳の後ろが腫れているなどの症状があれば疑いを持ち、画像検査を行うというわけですね。
また、下気道感染症・急性中耳炎・急性副鼻腔炎・尿路感染症・髄膜炎・骨髄炎・菌血症・敗血症・膠原病・白血病などの発熱性疾患が除外されているかどうかも大切な判断基準です。
症例 60歳代男性
側頭骨の単純CTの横断像の画像です。
右側の乳突蜂巣は黒い=空気のみ(含気良好)である一方で、左側は水濃度の部分を認めています。
つまり左の乳突蜂巣には液体貯留を示唆する所見であり、左の乳突蜂巣炎を疑う所見です。
症例 50歳代男性
MRIのT2強調像の横断像です。
T2強調像では水は白く写ります(高信号になる)。
右側の乳突蜂巣は高信号を認めませんが、左側の乳突蜂巣には高信号を認めており、液体貯留を示唆する所見です。
左の乳突蜂巣炎と診断されました。
症例 20歳代 女性
同じくMRIのT2強調像の横断像です。
こちらの症例では、両側の乳突蜂巣には高信号を認めており、両側の乳突蜂巣炎と診断されました。
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)の治療法は?
- 抗生物質の投与
- 乳様突起削開術
などが治療法としてあり、重症度により選択されます。
手術後には、Trautmann三角が形成されます。
参考サイト:1)見逃されやすい長引く発熱原因である乳幼児の 亜急性乳様突起炎に関する臨床的検討
参考文献:
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P54
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P7・8
解剖学講義P506
最後に
乳様突起炎(乳突蜂巣炎)のポイントをまとめます。
- 急性中耳炎の経過中に乳突蜂に炎症が及ぶもの
- 急性中耳炎を治療せずに放置されたままでいたことが原因
- 高熱・耳痛・圧痛・耳漏・聴力障害・発赤・腫脹などの症状が現れる
- 臨床症状・画像検査・細菌検査などを行い診断する
- 抗生物質の投与・乳様突起削開術などの治療法がある
とくに子供に多い急性中耳炎は、繰り返すのも特徴ですが、放置せずに完治するまでしっかりと治療をすることがこのような状況を招かないために重要ということがおわかり頂けたかと思います。