肛門周囲膿瘍(perianal abscess)
- 多くは歯状線付近の肛門腺感染の急性化膿性炎症により膿瘍を形成し、膿瘍の自壊や切開後に瘻孔形成して痔瘻へ移行する。
- 発熱、肛門部の疼痛を主訴とする。
- 肛門周囲膿瘍や痔瘻はCrohn病に合併することが多い。
- Crohn病などの炎症性腸疾患では高位膿瘍・複雑痔瘻が増え、画像の役割が大きくなる。
- 慢性的に経過した痔瘻から癌が発生することがある(痔瘻癌)。
- 成人の多くはこの痔瘻に移行するため、自然治癒しにくく外科的手術の対象となる。
- 治療は抗生物質の投与、膿瘍を切開し排膿する。痔瘻に移行した場合は外科的手術。
画像所見
- 肛門周囲に辺縁の造影効果を認める液体貯留を認める。痔瘻を形成した場合、管が見えることがある。画像では、造影CTもしくはMRIにて診断できる。痔瘻は造影MRIでより明瞭化する。
- チェックポイント:内口の位置、主走行、分枝・二次延長、膿瘍の有無とサイズ、挙筋上進展の有無。→術式選択と再発予防に直結。
症例 30歳代男性 造影CT

痔瘻の分類(隅越 & St. James’s)
隅越分類(Sumikoshi、読み方はすみこし)(日本で広く使用)
- I:皮下・粘膜下、
- II:内外括約筋間(低位/高位)、
- III:肛門挙筋下(坐骨直腸窩)、
- IV:肛門挙筋上(骨盤直腸窩)
に大別。レポートでは「歯状線よりlow/high」も併記。

MRIのT2WIと肛門挙筋、内肛門括約筋、外肛門括約筋の関係は上のようになります。
これらの解剖についてはこちらの記事も参照ください。
関連:直腸癌のMRI画像診断で知っておくべき周囲の筋肉(恥骨直腸筋、肛門挙筋)の解剖
これに隅越分類を書き込むとおおよそ以下のようになります。

症例 30歳代男性

引用:radiopedia
外肛門括約筋の外側、すなわち坐骨直腸窩(ischiorectal fossa)に限局した膿瘍を認め隅越分類のⅢと診断できます。
St. James’s MRI分類(国際標準)
- Grade 1:単純な内括約筋間瘻
- Grade 2:内括約筋間瘻+膿瘍/二次延長
- Grade 3:経括約筋瘻
- Grade 4:経括約筋瘻+坐骨直腸窩の膿瘍/二次延長
- Grade 5:挙筋上(supralevator)病変
このMR画像ベース分類は病変の重症度や術後再発リスクと関連し、術式選択の参考とな。
レポート雛形
【主訴/背景】肛門部痛/発熱。IBD:あり/なし。免疫低下:あり/なし。既往:手術/放射線。 【CT】造影CT:肛門周囲にrim状増強を伴う液体貯留(最大○mm)。瘻管状のガス像(あり/なし)。 坐骨直腸窩/骨盤直腸窩への進展(あり/なし)。対側病変(あり/なし)。 【MRI】T2脂肪抑制で高信号の瘻管/膿瘍。DWI高信号・ADC低下(あり/なし)。 造影T1でリング状増強(あり/なし)。内口:○時方向。分枝/二次延長:あり/なし。 挙筋上進展(あり/なし)。 【分類】隅越:I/II(低位・高位)/III/IV。St. James:Grade 1/2/3/4/5。 【まとめ】外科計画に影響する要素(内口、走行、分枝、膿瘍、挙筋上進展、到達経路)を明記。
- Khati NJ, Sondel Lewis N, Frazier AA, et al. CT of acute perianal abscesses and infected fistulae: a pictorial essay. Emerg Radiol. 2015;22(3):329‑335. doi:10.1007/s10140-014-1284-3. PubMed: 25421387.(ERでのCT有用性、膿瘍と感染瘻管の定義、MRIの役割を明記)
- O’Malley RB, Al‑Hawary MM, Kaza RK, et al. Rectal imaging: part 2, Perianal fistula evaluation on pelvic MRI—what the radiologist needs to know. AJR. 2012;199(1):W43‑W53. PubMed: 22733931.(MRI技術・分類・外科計画への有用性)
- Morris J, Spencer JA, Ambrose NS. MR imaging classification of perianal fistulas and its implications for patient management. RadioGraphics. 2000;20(3):623‑635. PubMed: 10835116.(St. James’s MRI分類の原典)
- Balcı S, et al. MRI evaluation of anal and perianal diseases. Diagn Interv Radiol. 2019;25:21‑27. PDF: 全文PDF。(必須シーケンスとSt. James’sの要点)
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