先に結論:脳静脈洞血栓症とは

  • 脳から血液を戻す静脈・静脈洞に血のかたまり(血栓)ができる病気です。若い女性(妊娠・出産後・経口避妊薬)や、血が固まりやすい体質、脱水、感染、がんなどが危険因子です
  • 症状はだんだん強くなる頭痛が最も多く、吐き気、けいれん、手足のまひ、意識障害などが起こります。動脈の脳梗塞と違う場所(両側・多発)に梗塞や出血が出るのが特徴です
  • 画像では、単純CTで静脈洞が白く(高吸収)見える、MRIで静脈洞の流れが消える・血栓の信号、MRV・造影CT/MRIで静脈洞が描出されない(欠損)ことで診断します。まず疑うことが大切で、治療は抗凝固療法(出血があっても通常は行う)です
  • 横静脈洞の左右差(片側が細い・MRVで途切れて見える)は正常でもよくあり、それだけでは血栓とは言えません。単純CTの高吸収、MRIの血栓の信号、造影での欠損をあわせて判断します

※いつもと違う強い頭痛が続く・けいれんや手足のまひがあるときは、すぐに救急受診してください。

脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis:CVST)

  • 若年の成人では女性に多く、妊娠、産褥、経口避妊薬が関与しているためと推察される。
  • 多く(8〜9割)は何らかの危険因子(基礎疾患・妊娠・薬剤など)を持つ。原因が特定できない特発性も1割程度ある。
  • 原因:凝固系異常、妊娠、産褥、経口避妊薬、小児では周産期異常と頭頚部感染症が挙げられ、他、頭部外傷、脳腫瘍、動静脈奇形/瘻、頭部以外の悪性腫瘍、化学療法、血液疾患、膠原病、ベーチェット病(皮質静脈のBehcet細胞浸潤による二次血栓)、炎症性腸疾患、心不全、脱水など。
  • 症状は頭痛(90%)、乳頭浮腫、麻痺、痙攣、意識障害など多彩。
  • 静脈洞に血栓が形成される。
    →静脈圧上昇(頭痛、嘔気嘔吐)
    →静脈還流障害(精神症状、痙攣、意識レベル低下、運動麻痺)
    →静脈性梗塞、静脈性出血(片麻痺など) ←ここで診断してたら遅い。
  • 臨床情報のポイント:若年者における急性発症の精神症状、人格変容は静脈洞血栓症を疑う。
  • 37%は急性、56%は亜急性。
  • 70−94%は上矢状静脈洞および横静脈洞に生じる。上矢状洞、直静脈洞血栓症ならば両側性の信号変化あり。
  • 半数で静脈性梗塞(皮質下白質を中心に広がることが多い、円形や三角形を呈する)や出血などの脳実質の所見あり。
  • 治療の第一選択はヘパリン。出血があってもヘパリンの投与が行われる。欧州脳卒中学会(ESO)の2017年ガイドラインでは、診断の確認にMRVまたはCT静脈造影を用いること、急性期には非経口の抗凝固療法(低分子ヘパリンを優先)を行うこと、血栓性素因や悪性腫瘍の検索をルーチンには行わないことが提案されている。
  • 死亡率は8%。予後不良因子は昏睡、頭蓋内出血、悪性腫瘍。
  • 2%で再発し、4%で他の血栓症を有する。

血栓の部位と脳実質の病変の部位の相関

  • 上矢状静脈洞:前頭葉や頭頂葉
  • 横静脈洞:側頭葉や後頭葉
  • 深部静脈系:基底核や視床。しばしば両側性。
  • 皮質静脈:灌流域に限局した病変。
    ※ただし、動脈のように支配血管とはいかないため、困難なことあり。

脳静脈洞血栓症の画像所見

★病態は以下のように進行して行く!
静脈還流障害(SWIで静脈拡張として低信号)
→静脈性浮腫(T2WI軽度高信号、ADC上昇)
→静脈性梗塞(T2WI高信号、ADC上昇〜低下)
→微小な静脈性出血(SWIで低信号)、大出血
参考)ここまでわかる頭部救急のCT・MRI

  • 半数で静脈性梗塞(皮質下白質を中心に広がることが多い、円形や三角形を呈する)や出血などの脳実質の所見あり。しばしば多発。動脈支配と異なることが動脈梗塞との鑑別。
  • 静脈性梗塞は時に点状出血を伴う。片側の視床の静脈性梗塞は腫瘍と誤診しやすいことも覚えておく。

静脈洞血栓症のCT所見

  • 単純CTで血栓が見える。静脈洞や皮質静脈の中の血栓が高吸収値を示すhyperdense vein。大脳鎌よりも高吸収であれば静脈洞血栓症を疑う1)。静脈洞CT値>70(or65)HU以上もしくは、静脈洞CT値/血液ヘマトクリット比>2.0で疑うとも報告されている(AJNR Am J Neuroradiol.2011 Aug;32(7):1354-7,Sci Rep.2019 Aug 19;9(1):12016)
  • 造影CTでは、静脈の造影効果が欠損する。empty delta signあるいはempty triangle signが有名。三角形の増強効果の中央に造影欠損を伴う像となる。特異度は高いが30%程度にしか認められない。

静脈洞血栓症のMRI所見

  • まず正常の静脈洞はT2WIやFLAIRでFlow voidとなることが多いが、劣位側(左が多い)の横静脈洞~S状静脈洞では高信号となることがある。
  • 静脈梗塞の場合、梗塞部位のDWIは高信号が認められる事もあるが、ADCは上昇〜低下までさまざまである。この点が動脈梗塞とも異なる。
  • MRでは静脈洞内の血栓は典型的には、形成時期により異なる。急性期でT1WIで中等度〜高信号、T2WIで低信号(そのため静脈洞のflow voidと区別しにくい場合が多い)、亜急性期にはT1WI、T2WIともに高信号を呈する。プロトン密度強調像でflow voidが失われているときや、DWIで高信号(血栓の可能性が高いと言われる(J Korean Neurosurg Soc 64(3):418-426,2021))を示すときにも疑う。
  • 静脈洞がT2WIやFLAIRで高信号になっている場合は、slow flow(正常)もしくは非急性期の血栓の可能性がある。
  • 血栓はT2*WIでは必ずしも低信号になるわけではなく、装置や時期により異なる。
  • 超急性期-急性期では、造影MRIで血液プール造影効果欠損を認める。造影後MRA元画像が有用。 ・静脈還流障害はSWIで拡張した静脈として描出される(還流静脈内のデオキシヘモグロビン濃度が上昇するから。)
  • 他MRVも役立つことがあるが、所見の解釈が難しい(filling defect=血栓というわけではない)ことがあるので注意。TOF-MRVもPC-MRVも流れが遅いslow flowな部位は低信号になってしまう点がその理由。

横静脈洞の左右差・低形成と血栓の見分け方

  • 横静脈洞は左右差が大きい静脈洞です。正常105人のTOF-MRVでは、左右対称は31%にとどまり、左の低形成39%・左の無形成20%・右の低形成6%・右の無形成4%で、正常でも約24%に横静脈洞の途切れ(flow gap)や無形成が見られたと報告されています(Alper 2004)。
  • そのため「MRVで片側の横静脈洞〜S状静脈洞が写らない」だけでは血栓と決められません。特に左側が細いのはよくある正常変異です。
  • くも膜顆粒も横静脈洞の中の丸い欠損として写り、血栓と紛らわしいことがあります(くも膜顆粒の記事も参照)。
低形成・無形成(正常変異) 静脈洞血栓
単純CT 静脈洞の濃さは周囲と同じ程度。骨条件でS状静脈洞の溝や頸静脈孔も小さいことが多い 静脈洞が周囲の静脈洞や大脳鎌より白い(高吸収)
MRI(T1WI・T2WI・DWI) 細いが中はflow void、血栓の信号はない flow voidが消え、時期に応じた血栓の信号が見える
造影CT・造影MRI 細いながら中まで均一に造影される 中が造影されない欠損(empty delta sign など)
脳実質 異常なし 静脈性浮腫・梗塞・出血を伴うことがある

単純CTだけで否定できる?

  • 単純CTでの静脈洞の高吸収は手がかりになりますが、それだけでは不十分です。CVST患者48人と対照48人の検討で、単純CTの静脈洞高吸収による診断は感度81%・特異度77%でした(Bonatti 2021)。
  • つまり単純CTが正常に見えても見逃しはあり得ます。疑わしい症状があれば、MRI(MRVを含む)や造影CT(CT静脈造影)で確かめます。

CTのサイン名の整理:dense triangle sign・cord sign・empty delta sign

サイン 撮影 見え方 報告されている頻度・精度
dense triangle sign 単純CT 上矢状静脈洞の後ろ寄りが三角形に白く見える 発症2週間以内のCTを目で評価した116例(静脈洞血栓14例・なし102例)で、感度100%・特異度95.1%。70HUを超えたのは、上矢状静脈洞の水平部を除くと血栓のある静脈洞だけでした(Garetier 2014)
cord sign 単純CT 静脈洞や皮質静脈が、索状に白く見える 静脈洞血栓25例と対照36例の検討で、感度64.6%・特異度97.2%(Linn 2009)
深部静脈の高吸収 単純CT 脳の深部の静脈が白く見える 深部静脈血栓8例の検討で、感度100%・特異度99.4%(Linn 2009)
empty delta sign 造影CT 三角形の増強効果の中央に、造影されない部分がある 報告された76例の検討では、CT所見の中で最も多く報告されたサインですが28.6%でした(Virapongse 1987)。造影CTでは最大で3割程度とも報告されています(Wasay 2005)
  • 単純CTの白い静脈洞(dense triangle sign・cord sign)は拾い上げに役立ちますが、見た目だけでは診断に足りません。上矢状静脈洞の水平部のように、血栓がなくても高く見える部位もあります(Garetier 2014)。
  • cord signは静脈洞血栓の見つけ方としては感度が高くないため(Linn 2009)、サインが無いことは血栓の否定にならず、疑う症状があればMRVやCT静脈造影へ進みます。深部静脈血栓では単純CTの価値が高いと報告されています(Linn 2009)。
  • empty delta signは見られる割合が低いサインです。empty delta signまたは出血性梗塞があった患者は、予後が最も悪かったと報告されています(Virapongse 1987)。

症例 50歳代女性 頭痛

cerebral venous sinus thrombosis plain CT findings

単純CTで上矢状静脈洞に高吸収あり。
静脈洞血栓を疑う所見です

cerebral venous sinus thrombosis mri findings1

上矢状静脈洞にT1WIで高信号、T2WIで低信号の血栓を疑う所見あり。

cerebral venous sinus thrombosis mri findings2

3日前の他院のMRIでは、FLAIR像で異常な高信号あり。
静脈洞血栓及び皮質静脈のうっ滞・拡張を疑う所見。

cerebral venous sinus thrombosis mri findings3

DWIでは、上矢状静脈洞に異常な無信号域あり。
血栓を疑う所見。周囲血管の拡張あり。頭痛の原因と考えられる。

cerebral venous sinus thrombosis mri findings4

MRV及び血管造影では、広範に上矢状静脈洞の描出を認めず。

上矢状静脈洞血栓症と診断。

MRVと血管造影の動画をチェック。

症例 60歳代女性

cerebral venous sinus thrombosis1

左後頭葉の皮質下出血で発症。上矢状静脈洞内には高吸収の血栓あり。

アンギオで広範にdefectあり。

上矢状静脈洞の静脈洞血栓症及びそれに伴う出血を疑う所見。

症例 90歳代女性

cerebral venous sinus thrombosis

S状静脈洞の静脈洞血栓症→多発梗塞をきたした症例。

この疾患はまずは疑う事が大事です。

神経学的な診断は困難であり、いかにMR画像で疑うことができるかが大事です。

多発性、両側性、動脈支配と一致しないこと、点状出血を伴うこと。

といったところから動脈閉塞による梗塞との鑑別をします。また若年者の梗塞をみたときも鑑別に入れましょう。

ただし、若年者の場合、正常でも静脈洞がCTで高吸収に見えることがあります。HtとCT値は比例の関係にあるからです。他の静脈洞と比較して判断することが重要です。

関連記事:脳静脈のMRI,MRV画像での解剖、走行まとめ

参考)ここまでわかる頭部救急のCT・MRI

1)画像診断 vol.37 No.13 2017 P1297

関連記事:くも膜顆粒とは?役割と頭部CT・MRI画像所見、静脈洞血栓・骨病変との見分け方

静脈洞のCT値の目安と、静脈洞血栓と紛らわしい小児の所見

  • CT値で見る:成人の検討では、血栓のある静脈洞は平均73.9HU、対照は52.8HUで、62HUを境にすると正診率95%でした(Buyck 2013)。救急外来の41例と対照41例の検討でも、66HUを境に感度93%・特異度98%でした(Canakci 2021)。小児では血栓のある静脈洞が66.2HU、血栓のない静脈洞が47.2HUで、58HUを境にすると見逃しがありませんでした(de la Vega Muns 2019)。目で見た濃さだけでなく、ROIで測ってヘマトクリットと合わせて考えると判断しやすくなります。
  • 多血の人・新生児:静脈洞が濃く見えても血栓とは限りません。新生児11例を含む15例では、血栓がないのに静脈洞が高吸収で、全員がヘマトクリットや赤血球指数の上昇を伴っていました。新生児の多血症、先天性心疾患、血液濃縮などで起こり、こうした人は低酸素による脳障害の危険も高い点に注意します(Nelson 1981)。
  • 小児の後頭蓋窩の硬膜外血腫:S状静脈洞の溝に沿って伸びる硬膜外血腫は、静脈洞血栓と見誤りやすいことが報告されています。抗凝固療法で血腫を悪化させないよう、冠状断T2強調像で静脈洞の開存と、溝に沿った血腫を見分けます(Sakamoto 2020)。
  • 薬剤:急性リンパ性白血病などでPEG-アスパラギナーゼを使う小児では静脈洞血栓が起こりやすく、MRVでのスクリーニングで検出率は8.4%(スクリーニング前は1.6%)に上がり、その半数以上は無症状でした(Zhang 2025)。

脳静脈洞血栓症でよくある疑問(Q&A)

Q. 脳静脈洞血栓症はどのくらい起こる病気ですか?

A. まれな病気です。オランダの成人の調査では発生率は年間10万人あたり1.32人、31〜50歳の女性では10万人あたり2.78人と、若い〜中年の女性で多くなっていました(Coutinho 2012)。

Q. S状静脈洞血栓症(横静脈洞〜S状静脈洞の血栓)は何が原因になりますか?

A. 一般的な危険因子(妊娠・産後、経口避妊薬、血が固まりやすい体質、脱水など)に加えて、S状静脈洞は耳の奥(乳突蜂巣)のすぐ隣を走るため、中耳炎・乳様突起炎からの炎症の波及が原因になることがあります。耳の症状がある人では側頭骨のCTもあわせて見ます。

Q. CVSTとは何の略ですか?

A. cerebral venous sinus thrombosis(脳静脈洞血栓症)の略です。皮質静脈や深部静脈の血栓も含めて CVT(cerebral venous thrombosis:脳静脈血栓症)とまとめて呼ぶこともあります。

Q. empty delta sign(エンプティ・デルタ・サイン)とは何ですか?

A. 造影CTで、静脈洞の壁側が三角形に造影され、中央の血栓が造影されずに抜けて見える所見です。見られる割合は報告で3割前後にとどまるため、見えないことは血栓を否定する根拠になりません(Wasay 2005; Virapongse 1987)。

Q. 単純CTで静脈洞が白く見えたら、血栓ですか?

A. 白い静脈洞は手がかりですが、ヘマトクリットが高い人などでも高く見えます(上のCT値の目安)。上矢状静脈洞の水平部のように血栓がなくても高く見える部位もあるため(Garetier 2014)、MRVや造影CTで確かめます。

参考文献

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  4. Ferro JM, Coutinho JM, Dentali F, et al. Safety and Efficacy of Dabigatran Etexilate vs Dose-Adjusted Warfarin in Patients With Cerebral Venous Thrombosis: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2019;76(12):1457-1465. PubMed
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  9. Coutinho JM, Zuurbier SM, Aramideh M, et al. The incidence of cerebral venous thrombosis: a cross-sectional study. Stroke. 2012;43(12):3375-7. PubMed
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  12. de la Vega Muns G, Quencer R, Ezuddin NS, et al. Utility of Hounsfield unit and hematocrit values in the diagnosis of acute venous sinus thrombosis in unenhanced brain CTs in the pediatric population. Pediatr Radiol. 2019;49(2):234-239. PubMed
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  19. Garetier M, Rousset J, Pearson E, et al. Value of spontaneous hyperdensity of cerebral venous thrombosis on helical CT. Acta Radiol. 2014;55(10):1245-52. PubMed

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