脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis:CVST)
- 若年の成人では女性に多く、妊娠、産褥、経口避妊薬が関与しているためと推察される。
- 90%は基礎疾患を有する。ただし、特発性が最も多い。
- 原因:凝固系異常、妊娠、産褥、経口避妊薬、小児では周産期異常と頭頚部感染症が挙げられ、他、頭部外傷、脳腫瘍、動静脈奇形/瘻、頭部以外の悪性腫瘍、化学療法、血液疾患、膠原病、ベーチェット病(皮質静脈のBehcet細胞浸潤による二次血栓)、炎症性腸疾患、心不全、脱水など。
- 症状は頭痛(90%)、乳頭浮腫、麻痺、痙攣、意識障害など多彩。
- 静脈洞に血栓が形成される。
→静脈圧上昇(頭痛、嘔気嘔吐)
→静脈還流障害(精神症状、痙攣、意識レベル低下、運動麻痺)
→静脈性梗塞、静脈性出血(片麻痺など) ←ここで診断してたら遅い。 - 臨床情報のポイント:若年者における急性発症の精神症状、人格変容は静脈洞血栓症を疑う。
- 37%は急性、56%は亜急性。
- 70−94%は上矢状静脈洞および横静脈洞に生じる。上矢状洞、直静脈洞血栓症ならば両側性の信号変化あり。
- 半数で静脈性梗塞(皮質下白質を中心に広がることが多い、円形や三角形を呈する)や出血などの脳実質の所見あり。
- 治療の第一選択はヘパリン。出血があってもヘパリンの投与が行われる。
- 死亡率は8%。予後不良因子は昏睡、頭蓋内出血、悪性腫瘍。
- 2%で再発し、4%で他の血栓症を有する。
血栓の部位と脳実質の病変の部位の相関
- 上矢状静脈洞:前頭葉や頭頂葉
- 横静脈洞:側頭葉や後頭葉
- 深部静脈系:基底核や視床。しばしば両側性。
- 皮質静脈:灌流域に限局した病変。
※ただし、動脈のように支配血管とはいかないため、困難なことあり。
脳静脈洞血栓症の画像所見
★病態は以下のように進行して行く!
静脈還流障害(SWIで静脈拡張として低信号)
→静脈性浮腫(T2WI軽度高信号、ADC上昇)
→静脈性梗塞(T2WI高信号、ADC上昇〜低下)
→微小な静脈性出血(SWIで低信号)、大出血
参考)ここまでわかる頭部救急のCT・MRI
- 半数で静脈性梗塞(皮質下白質を中心に広がることが多い、円形や三角形を呈する)や出血などの脳実質の所見あり。しばしば多発。動脈支配と異なることが動脈梗塞との鑑別。
- 静脈性梗塞は時に点状出血を伴う。片側の視床の静脈性梗塞は腫瘍と誤診しやすいことも覚えておく。
静脈洞血栓症のCT所見
- 単純CTで血栓が見える。静脈洞や皮質静脈の中の血栓が高吸収値を示すhyperdense vein。大脳鎌よりも高吸収であれば静脈洞血栓症を疑う1)。静脈洞CT値>70(or65)HU以上もしくは、静脈洞CT値/血液ヘマトクリット比>2.0で疑うとも報告されている(AJNR Am J Neuroradiol.2011 ug;32(7):1354-7,Sci Rep.2019 Aug 19;9(1):12016)
- 造影CTでは、静脈の造影効果が欠損する。empty deltaあるいはempty triangleが有名。三角形の増強効果の中央に造影欠損を伴う像となる。特異度は高いが30%程度にしか認められない。
静脈洞血栓症のMRI所見
- まず正常の静脈洞はT2WIやFLAIRでFlow voidとなることが多いが、劣位側(左が多い)の横静脈洞~S状静脈洞では高信号となることがある。
- 静脈梗塞の場合、梗塞部位のDWIは高信号が認められる事もあるが、ADCは上昇〜低下までさまざまである。この点が動脈梗塞とも異なる。
- MRでは静脈洞内の血栓は典型的には、形成時期により異なる。急性期でT1WIで中等度〜高信号、T2WIで低信号(そのため静脈洞のflow voidと区別しにくい場合が多い)、亜急性期にはT1WI、T2WIともに高信号を呈する。プロトン密度強調像でflow voidが失われているときや、DWIで高信号(血栓の可能性が高いと言われる(J Korean Neurosurg Scc 64(3):418-426,2021))を示すときにも疑う。
- 静脈洞がT2WIやFLAIRで高信号になっている場合は、slow flow(正常)もしくは非急性期の血栓の可能性がある。
- 血栓はT2*WIでは必ずしも低信号になるわけではなく、装置や時期により異なる。
- 超急性期-急性期では、造影MRIで血液プール造影効果欠損を認める。造影後MRA元画像が有用。 ・静脈還流障害はSWIで拡張した静脈として描出される(還流静脈内のデオキシヘモグロビン濃度が上昇するから。)
- 他MRVも役立つことがあるが、所見の解釈が難しい(filling defect=血栓というわけではない)ことがあるので注意。TOF-MRVもPC-MRVも流れが遅いslow flowな部位は低信号になってしまう点がその理由。
症例 50歳代女性 頭痛
単純CTで上矢状静脈洞に高吸収あり。
静脈洞血栓を疑う所見です
上矢状静脈洞にT1WIで高信号、T2WIで低信号の血栓を疑う所見あり。
3日前の他院のMRIでは、FLAIR像で異常な高信号あり。
静脈洞血栓及び皮質静脈のうっ滞・拡張を疑う所見。
DWIでは、上矢状静脈洞に異常な無信号域あり。
血栓を疑う所見。周囲血管の拡張あり。頭痛の原因と考えられる。
MRV及び血管造影では、広範に上矢状静脈洞の描出を認めず。
上矢状静脈洞血栓症と診断。
MRVと血管造影の動画をチェック。
症例 60歳代女性
左後頭葉の皮質下出血で発症。上矢状静脈洞内には高吸収の血栓あり。
アンギオで広範にdefectあり。
上矢状静脈洞の静脈洞血栓症及びそれに伴う出血を疑う所見。
症例 90歳代女性
S状静脈洞の静脈洞血栓症→多発梗塞をきたした症例。
神経学的な診断は困難であり、いかにMR画像で疑うことができるかが大事です。
多発性、両側性、動脈支配と一致しないこと、点状出血を伴うこと。
といったところから動脈閉塞による梗塞との鑑別をします。また若年者の梗塞をみたときも鑑別に入れましょう。
ただし、若年者の場合、正常でも静脈洞がCTで高吸収に見えることがあります。HtとCT値は比例の関係にあるからです。他の静脈洞と比較して判断することが重要です。
1)画像診断 vol.37 No.13 2017 P1297