CTと異なり、MRIの脳出血の画像所見は時期によって高信号になったり、低信号になったり、T1WI、T2WIとシークエンスがあったりとかなりややこしいものです。

しかも血腫の信号パターンと出血からの期間は、必ずしも教科書的ではないケースも多々あります。

そこで今回は、このややこしい脳出血のMRI画像の経時的変化を少しでもわかりやすくなるように解説しました。

※簡易版の動画を作成しました。まず動画を見ていただき、その後で記事を読んでいただくと頭に入りやすいと思います。

出血後のヘモグロビンの変化は?

脳出血のMRI画像の経時的変化を理解するためには、ヘモグロビンがどのように変わっていくかを理解する必要があります。

ヘモグロビンはご存じの通り赤血球に含まれており、

  • ヘム
  • グロビン

という構造からなります。

そのうちヘムの鉄原子が酸素分子と結合して酸素を全身に運びます。

ですので、非常に有名な話ですが、ヘモグロビンは酸素を運ぶのに重要な役割を果たすのです。

脳出血のMRI画像では、このヘモグロビンが、

  • 酸化されているのか
  • 還元されているのか
  • 赤血球内にあるのか
  • 赤血球外にあるのか
  • 血腫にどのように分布しているのか

で、信号パターンが経時的に変わっていきます。

ヘモグロビンは血管内では、

deoxy-Hb(デオキシヘモグロビン)+O2 ⇔ oxy-Hb(オキシヘモグロビン)

と酸素の受け渡しによって、脱酸素ヘモグロビン、酸素化ヘモグロビンという形で存在します。

ところが、血管外に出て出血を来してしまうと、

oxyHb(オキシヘモグロビン)
deoxy-Hb(デオキシヘモグロビン)
met-Hb(メトヘモグロビン)
hemosiderin(ヘモジデリン)

と変化していきます。

これらの変化がMRIの画像に変化をもたらすのです。

では出血直後の超急性期からどのように変化していくかを見ていきましょう。

脳出血・超急性期(〜24時間)のMRIの画像所見

超急性期では、血腫は

  • T1WI:軽度低信号
  • T2WI:軽度高信号(ねずみ色)

を示します。

超急性期では、oxy-Hb(オキシヘモグロビン)の状態で存在しています。

このoxy-Hbは不対電子がない反磁性体で、本来MRIの画像には影響を与えないのですが、血腫の水分含量を反映してこの信号になります。

磁性体とは?

  • 磁性体とは磁場に入れたとき磁気を帯びる物質のこと。
  • 反磁性体:不対電子がない。MRIでは磁化されないものと考えて良く、信号強度に変化を与えない。例:oxy-Hb
  • 常磁性体:不対電子がある。磁場と同じ向きに弱く磁化される。例:deoxy-Hb、met-Hb、hemosiderin
  • 強磁性体:磁場の中で強く磁化される。 例:鉄、コバルト、ニッケル

今回の超急性期のoxy-Hbは反磁性体に分類されます。

症例 70歳代 男性 ふらつき

cerebral hemorrhage acute MRI

尾状核頭からの出血による脳室穿破。同日のMRI T2WIにてねずみ色の血腫あり。

一部でT2WIで低信号があり、デオキシヘモグロビンを示唆する所見です。

超急性期の出血に矛盾しない所見です。

関連記事)急性期脳出血のMRI画像所見は?ポイントはねずみ色!?

脳出血・急性期(1〜3日)のMRIの画像所見

急性期では、血腫は

  • T1WI:軽度低信号
  • T2WI:著明な低信号

を示します。

超急性期では、oxy-Hb(オキシヘモグロビン)から酸素がはずれ、deoxy-Hb(デオキシヘモグロビン)の状態で存在しています。

このdeoxy-Hbが4つの不対電子を持つ常磁性体で磁化率効果により、T2WIで著明な低信号になることが知られています。

脳出血・亜急性期早期(3〜7日)のMRIの画像所見

亜急性期早期では、血腫は

  • T1WI:辺縁に高信号
  • T2WI:低信号

を示します。

亜急性期早期では、deoxy-Hb(デオキシヘモグロビン)は、酸素分圧の高い血腫辺縁部からmet-Hb(メトヘモグロビン)となります。

met-Hb(メトヘモグロビン)はT1短縮効果があり、T1WIで高信号となります。

ですので、T1WIで辺縁に高信号を認めます。

症例 70歳代男性 左後頭葉皮質下出血

まず発症当日のCTです。

左後頭葉皮質下に血腫を認めています。周囲には軽度浮腫性変化を疑う低吸収域があります。

この4日後にMRIが撮影されました。

血腫は、

  • T1WI:リング状の高信号→メトヘモグロビンを示唆。
  • T2WI:リング状の高信号、内部は著明な低信号→デオキシヘモグロビンを示唆。
  • SWI:全体的な低信号。

を示しています。

亜急性期早期の血腫の信号パターンであり、発症4日後という点も合致します。

症例 70歳代 男性(複視)  橋出血 発症10日目

cerebral hemorrhage MRI

血腫は、

  • T1WI:リング状の高信号→メトヘモグロビンを示唆。
  • T2WI:リング状の高信号、内部は著明な低信号→デオキシヘモグロビンを示唆。

であり、こちらも亜急性期早期に相当するパターンです。

脳出血・亜急性期後期(1週~4(2)週)のMRIの画像所見

亜急性後期では、血腫は

  • T1WI:高信号
  • T2WI:高信号

を示します。

溶血が起こり、赤血球内のmet-Hb(メトヘモグロビン)が血腫内に均一に分布し、液状化します。

T1WIではmet-Hbを反映して、T2WIでは水分含量を反映して、ともに高信号となります。

症例 60歳代女性 左被殻出血後 10日目

T1強調像では縁取り高信号、内部も淡く高信号でメトヘモグロビンを反映。

T2強調像およびT2* 強調像では縁取り低信号でヘモジデリンを示唆。

一方T2強調像の内部は高信号でメトヘモグロビンを反映。

亜急性期早期〜後期の血腫の所見。

症例 60歳代女性 右前頭葉皮質下出血 発症14日目

cerebral-hemorrhage-mri-change

T1強調像では縁取るような高信号あり。メトヘモグロビンを示唆する所見。

T2強調像では内部の水分量を反映して高信号がやや目立つ。亜急性期早期〜後期の血腫の所見に矛盾しない。

症例 60歳代男性 右被殻出血 発症14日目

T1WI(MRA元画像)にて縁取るような高信号あり。メトヘモグロビンを示唆。FLAIR像やDWIにて内部は高信号。

亜急性期の早期〜後期の血腫の所見に矛盾しない。

症例 40歳代男性 発症約25日の右被殻出血

右被殻にCTで低吸収、一部あわい等吸収あり。MRIではT2WIにて低信号のrimを認めており、内部は高信号、T1WIでも高信号。

亜急性期後期の出血に矛盾しない所見。

脳出血・慢性期(1月~)のMRIの画像所見

慢性期では、血腫はサイズが小さくなり

  • T1WI:低信号
  • T2WI:辺縁部低信号、中心部高信号

を示します。

これは、周囲に遊走したマクロファージがmet-Hb(メトヘモグロビン)を貪食してHbの最終産物であるヘモジデリンとなって沈着するためです。

ヘモジデリンのT2短縮効果により、T2WIで辺縁に低信号(hemosiderin ringと呼ばれる)を示します。中心部は液化嚢胞変性をし、高信号となります。

一方で、T1WIでは嚢胞変性ですので低信号となります。

症例 40歳代男性 右被殻出血後 40日

右の被殻の血腫周囲にT2強調画像で低信号の縁取りを認めています。

ヘモジデリンの沈着を示唆し、慢性期脳出血に矛盾しない所見です。

症例 60歳代男性  右被殻出血発症時CTと半年後のMRI

発症6ヶ月後のMRIでは、左の被殻にT2強調像及びT2スター強調像において縁取るような低信号あり。

慢性期の血腫腔を示唆する所見です。

症例 50歳代男性  右被殻出血後半年

こちらも発症6ヶ月後のMRIでは、右の被殻にT2強調像及びT2*強調像において縁取るような低信号あり。

慢性期の血腫を示唆する所見です。

症例 50歳代女性 右基底核出血後半年

chronic cerebral hemorrhage MRI findings

右基底核にT2WIで低信号の縁取りを有する高信号あり。

SWIでは低信号になっています。

慢性期の血腫腔を示唆する所見です。

脳出血のMRI・CT画像の経時的変化まとめ

以上の変化をまとめますと次のようになります。

中でも重要な部分は、

  • 超急性期:T2WIで軽度高信号(ねずみ色)
  • 急性期:T2WIで低信号
  • 亜急性期:T1WIで辺縁部から中心部にかけて高信号
  • 慢性期:T2WIで辺縁部に低信号

という点となります。

これをシェーマで示すと、以下のようになります。

注意点としてはあくまでこれらは目安に過ぎないと言うことです。

上の症例を見ていただいてもおわかり用になかなか、画像からこの時期だ!とピタリと合致することは

  • 超急性期
  • 慢性期

を除けばむしろ少ないのかも知れません。

脳出血(血腫)のMRI経時的変化の簡易的覚え方

このMRIの画像パターンの経時的変化は、画像を見た際にこのページに戻ってきて参照していただければ良いかと思います。(必ずしも覚える必要はないかと思います。)

しかし、簡易的にどの時期かわかるようにしたいと言う方向けに簡易的な覚え方を紹介します。

下のように、

  • 横軸:T1WI
  • 縦軸:T2WI

をとり、それぞれ低信号から高信号になる図を作成します。

  1. そこに、真ん中あたりにオキシヘモグロビンを記載。
  2. そこから下へ矢印を書き、デオキシヘモグロビンを記載。
  3. そこから右へ矢印を書き、メトヘモグロビン(赤血球内)を記載。
  4. そこから上へ矢印を書き、メトヘモグロビン(赤血球外)を記載。
  5. そこから左下方向に矢印を書き、ヘモジデリンを記載します。

すると経時的なT1WI、T2WIの信号変化がわかります。

しかし、画像で重要なのは、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンなどはどうでもよくて、

  • 発症からの日数
  • T1WI、T2WIの信号パターン

が重要ですので、

上の様に、①→③→⑦→⑭と記載すれば、発症からの日数と、T1WI、T2WIの信号パターンとの関係が一目瞭然です。

これをささっと作図して、

「今はT1WIで高信号でT2WIでも高信号だから、脳出血が起こってから大体7-14日くらいだ」

ということがわかります。

※ただし、これもあくまで目安にすぎません。

関連記事)脳出血のCTにおける経時的変化

まとめ

脳出血のMRI画像における経時的変化についてまとめました。

ヘモジデリンとかメトヘモグロビンとか出てきてうんざりという方は、簡易的な表などを見ればOKです。

なにが高信号や低信号として描出されているのかを知りたい方は、それぞれどういったことが起こっているのかをまとめましたので是非参考にしてください。

実際の画像では、いろいろ修飾されて、なかなか上のシェーマのように綺麗な画像ではないケースが多いので注意が必要です。

皆さんの参考になれば幸いです。

参考文献:
よくわかる脳MRI 第3版 P280-283
ユキティの「なぜ?」からはじめる救急MRI P72-80

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