椎骨動脈解離のCT、MRI画像診断についてまとめました。

椎骨動脈解離VA dissectionとは

  • 頸動脈および椎骨動脈解離は、全血管障害の約2%であるが、若年および中年(平均年齢48歳)で全梗塞の10-25%の原因を占め、男性に多い。
  • 重度の頸部痛後頭部痛により発症し、約60%が同時にくも膜下出血を、約30%延髄外側症候群(Wallenberg症候群)をはじめとする脳虚血を合併する。
  • 進行性脳幹障害により漸増する神経学的症状(回転性めまい、片側性の顔面しびれ、複視、小脳所見)を訴える。
  • 頭痛は他の神経学的症状や徴候より1−14日先行する。
  • 虚血例は保存的治療、出血例では速やかな再出血の予防が必要で、血管内治療を含む観血的治療の適応となる。
  • 危険因子としては、外傷、カイロプラクティック手技、線維筋異形成症、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群、高血圧、経口避妊薬、片頭痛。スポーツ活動後にも生じうる。原因不明も多い
  • 20-50%で後遺症なし、または軽度。10-56%で大きな後遺症が残り、10-24%で死亡する。

(※Wallenberg症候群は後下小脳動脈領域の梗塞によって起こることが多く、原因としては血栓症が多いが、若年者では椎骨動脈解離の頻度が高い。)

椎骨動脈解離の部位による分類

椎骨動脈解離は、頭蓋内で起こる場合と、頭蓋外で起こる場合に大きく分類される。

①頭蓋内
  • 原因不明が多い。
  • 内膜下に起こり、外膜へと進展する。
  • V4に動脈瘤型として多い。
  • 梗塞あるいはくも膜下出血を呈し、無症状の例はない
②頭蓋外
  • 外傷、原因不明。
  • 中膜に起こる。
  • めまいなど非特異的症状、椎骨脳底動脈系の脳梗塞、ときに無症状

頭蓋外の椎骨動脈解離

  • 椎骨動脈はC1−6の横突起を通過する。外傷によるものは、傷つきやすい部位を知っておく。
  1. 遠位部:頭蓋内硬膜内に入る前、頭蓋からC2横突起まで(V3)。(C1がC2の上で回旋する際、VAは進展され、傷つくことあり。)
  2. 近位部:鎖骨下動脈起始部からC6横突起(V1)まで。

椎骨動脈解離の形状による分類

  • 形状により狭窄型および動脈瘤型に分類できる。
  1. 狭窄型:椎骨動脈全区域に及ぶ。
  2. 動脈瘤型:V4(大後頭孔にて硬膜内に入り、脳底動脈合流部まで)に限局する。
V4の場所を理解する

v4 V4-1

動画で理解する。

椎骨動脈解離のMRI、MRA所見

  • 治療方針の決定には脳動脈造影(DSA)が必要。
  • ポイントは短期間に所見が変化すれば解離の可能性が高いということ。
  • MRA、T2WI、造影MRA元画像、脂肪抑制T1WIなどで診断する。造影CTAでも診断できることがあるが、内腔の詳細は性状はやはりMRIが優れる。
  • 動脈の外周の大きさの増大(特異的)。
  • intimal flapおよびdouble lumenを確認する。
    (造影MRA元画像(造影3DT1WI)>>T2WI、MRA元画像)
  • 壁内(偽腔内)の三日月状あるいは半月状の血腫(数日は周囲筋と同信号、それ以後数ヶ月はT1WI高、T2WI高のまま残存(メトヘモグロビンによる) )
    脂肪抑制T1WIにて高信号が診断に最も有用
血管の太さをみる
  • pearl and string sign(管腔の拡張とその前後の不整な狭窄像)も典型的。ただし頻度は必ずしも高くない。
  • 完全閉塞や狭窄or拡張だけの症例も多い。
  • 血管腔の狭小化は非特異的。

※これらは動脈硬化や血管攣縮との鑑別が重要。
※V2での解離は診断が困難。また横突孔でのVA周囲の静脈叢があり、静脈叢のflow related enhancement(流域信号増強)を解離と間違えないようにする必要がある。

  • 解離で指摘される動脈内腔の狭小化は、元から動脈が細かった場合と区別が難しいため、basiparallel anatomic scanning(BPAS)を撮像し、血管の外径を評価することで偽腔の存在を診断することも有用である。
なぜ椎骨動脈解離の診断が難しいか?
  • 造影MRA元画像(造影3DT1WI)でないと偽腔の描出が難しいことが多い。
  • 血流速度、血流の性状(どこを向いているか)、血栓化などにより、さまざまな信号パターンを呈するから。
  • そもそもそんなに太くない血管の中を評価しようとするから。
解離が出来てから血栓化するまでの信号の変化

VAdissection1

※より大きく見るには、こちら。VAdissection

 

ここまでわかる頭部救急のCT・MRIを参考に作図。

症例 40歳代男性

dissection1

  • BPAS:血管の形を1枚の写真におさめたもの
  • MRA:実際の血流に近い。

写真では右の椎骨動脈見えてるのに血流がなくなっている。
→解離を起こしていることが分かる。

※またBPASでは右椎骨動脈−脳底動脈に拡張所見あり。

dissection2

  • DWI:右椎骨動脈に異常高信号
  • ADC:右椎骨動脈にADC信号低下
  • FLAIR像:右椎骨動脈に異常高信号=Intraarterial sign。

内部に解離腔を疑うintimal flap線状構造あり。椎骨動脈解離を起こし、偽腔に血栓があることを示唆する所見です。

頭蓋内の解離(V4)により脳梗塞を起こした症例

VA dissection

症例 50歳代男性

va-dissection-mri-findings

MRI DWIにおいて右後下小脳動脈(PICA)領域に新規脳梗塞を疑う所見を認めています。

BPASでは右の椎骨動脈の描出を認め、拡張あり。

一方でMRA MIP像では描出がありません。右椎骨動脈解離(V4領域)及びそれに伴うPICA領域の梗塞が疑われます。

頭蓋内の解離(V4)によりくも膜下出血を起こした症例

VA dissection

  • 椎骨動脈解離により、くも膜下出血を起こした場合、24時間以内に起こすことが多いと言われる再出血が、最も重症な、転帰不良因子となる。
  • 再出血の頻度は15-70%の頻度で起こる。
  • 出血症例では、早期の外科的治療が予後を改善する。外科的治療とは、病変部を閉塞(trapping)することであり、その方法には、直接手術、血管内手術の2つがあるが、近年は後者が多い。
  • 血管内手術では、病変部を含めて親動脈を閉塞するinternal trappingが行われる。

参考)http://www.jsts.gr.jp/guideline/247_249.pdf

頭蓋外の解離により脳梗塞を起こした症例

VA dissection

症例 30歳代男性 セミナー受講中にめまい、嘔吐出現。

VA dissection

CTAにてV4に解離を認めています。

解離はV3-V2に及ぶ。

診断:椎骨動脈解離(頭蓋内外、V2−4)による小脳梗塞
症例 20歳代男性 視野異常、後頸部痛

VA dissection

CTA、血管造影にて左V2(C5レベル)に狭窄あり。解離腔に造影されない血栓が存在すると思われる。診断:椎骨動脈解離(頭蓋外、V2)

症例 30歳代女性 整体後、意識消失。

VA dissection

橋や小脳に多発梗塞を認めています。

血管造影で椎骨動脈V1-3に口径不同の狭窄を認めています。

椎骨動脈解離(頭蓋外、V1-3)による多発脳梗塞と診断されました。

(参考)椎骨動脈解離の血管造影所見

  • C1-2が最も多い。
  • 滑らかな、もしくはやや不規則な血管腔の狭小化(pearl and string sign)。
  • 軽度の狭窄>string sign(長い距離の狭窄所見)>完全閉塞
  • 偽性動脈瘤(25-30%)
  • 内膜flap(10%),二重の血管腔
  • 塞栓による動脈枝の閉塞
  • megadolichobasilar artery  ※dolicho-=細長い〜
megadolichobasilar artery

VA dissection

 

右椎骨動脈造影にて、左椎骨動脈へ逆流を生じ、解離腔(→)が描出されること。解離腔への造影剤のpooingが認められる。真腔は陰影欠損像として描出されている。

椎骨動脈解離の鑑別診断

動脈硬化性病変

  • VA起始部
  • より局所的な病変
  • 壁内血腫は存在しない。

線維筋異形成

  • 局所的な血管病変を呈しうる。
  • 椎骨動脈の病変は少なく(7%)、総頸動脈が多い(85%)。
  • 壁内血腫は存在しない。

参考)

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