
症例9
【症例】40歳代男性
【主訴】上腹部痛、白色便
【身体所見】眼球結膜に黄疸++
【データ】AST/ALT=158/333,ALP 964,LDH 252,γ-GTP 1027,T-Bil 14.32,WBC 9800,CRP 2.85
画像はこちら
単純CTで少しわかりにくいかも知れませんが、肝両葉の肝内胆管の拡張を認めています。
(今回はそれに加えてグリソン鞘の浮腫性変化を示唆するperiportal collarも認めています。両方とも認めている場合は両者の鑑別は困難と考えます。
- 肝内胆管拡張→胆汁がある(うっ滞している)
- periportal collar→浮腫性変化
ですので、肝内胆管拡張の方がCTではより低吸収となる!のですが、見分けるのは実際は困難だと思います。)
また胆嚢内には胆泥〜胆石を疑う高吸収域を認めています。
総胆管を追っていくと高吸収の総胆管結石を認めていることがわかります。
(今回の総胆管結石は高吸収でわかりやすいですが、CTではわからないこともしばしばあります。そこでMRIが有用となります。)
MRIのT2強調像です。水を強調しますので、肝両葉の肝内胆管の拡張の様子がCTよりも一目瞭然です。
また門脈周囲の浮腫を示唆するPAI(periportal abnormal intensity)も認めます。
また総胆管を追うと、T2強調像で低信号(黒色)のdefectとして描出されるため、CTでわからない総胆管結石もMRIではわかることが多いです。
MIP像では、胆道全体を見渡すことができます。
肝両葉の肝内胆管の拡張の様子、総胆管の拡張の様子、さらには総胆管にはdefectを認めており、結石の存在が示唆されます。
総胆管結石による閉塞性黄疸、胆管炎と診断と診断されました。
緊急ERCP施行し、ERBD tube留置され、絶食、抗生剤にて加療されました。
診断:総胆管結石による閉塞性黄疸、胆管炎
関連:
その他所見:上行結腸に憩室が散見されます。
症例9の解説動画
急性胆管炎の画像所見
補足動画 門脈の同定方法
症例9のQ&A
- 直腸総胆管結石は緊急性が高いと思いますので、あまり診断目的にMRIを利用することは少なくCTでわからなければ造影CTとで総胆管を見比べたりすることが多いのですが、臨床現場でも造影CTを撮るよりはMRIを先に見た方が良いのでしょうか。
- 施設にもよると思いますが、まずはCTが撮影されると思います。
MRIが先に撮影できるのであれば、総胆管結石の同定にはそちらの方が診断能は上がります。
(CTではわからない総胆管結石もあるためです。)
- 総胆管閉塞はMRCPでとてもわかりやすかったです。
MRIアキシャル像でも追いかけると胆石の詰まっている場所がよくわかります。 - そうですね。胆道系、とくに結石はMRIが強いですね。
- 胆管炎までは画像上推察出来ませんでした。
- 今回は画像からだけでは、胆管炎とは言えませんね。
- 診断に胆管炎を入れるのを忘れ、さすがに反省。MRIは問題にはない方がトレーニングになるかと思いました(解答で補助的につける感じ?)
- そうですね、CTで今回は診断できますので、MRIは解答部分でもいいかもしれませんね。
- 総胆管結石はわかりましたが、胆管炎と言い切る根拠が持てませんでした。ダイナミックCTなどは有用でしょうか。
いつもお疲れ様です。今後も楽しみにしています。 - 画像だけでは胆管炎は診断できません。ガイドラインにのっとり診断することになります。
- 救急外来で胆嚢結石を疑った場合、当院ではまずエコーより開始しますが、胆管結石もみえるものなのでしょうか。
- エコーの場合感度は低いですが胆管結石も見えます。
- periportal collor など門脈の所見を読めていなかったので、勉強になりました。
- 肝内胆管の拡張を疑えればまずはOKで、ちょっと追記しましたが両者の画像上での鑑別は難しいと思います。
- 胆嚢の緊満と壁肥厚に見えて胆嚢炎と胆管炎の併発を考えましたが、胆嚢炎まではいえないでしょうか。
- 画像上は、慢性胆のう炎はあるのでしょうけど、その急性増悪とはちょっといいにくいですね。
- 胆管周囲の脂肪織を濃度上昇あり、もしくは液貯留?と思ったのですが正常範囲でしょうか?
- 微細は所見ですがありそうですね。胆管炎による脂肪織濃度上昇だと思います。
あとは門脈周囲もありますので、periportal collarも反映していると思います。
両者の鑑別は厳しいですね。
ここに違和感を感じられることは重要です。
- PAIと肝内胆管拡張、肝酵素上昇で急性肝炎を疑いました。
胆泥や胆石を見てもあまり閉塞機転まで考えず・・・。
体験版と同じミスを繰り返してしまい反省するばかりです。
肝炎と胆管炎の鑑別は胆石などでの閉塞機転でされているのでしょうか? - ここの鑑別は画像のみでは難しいことがあります。
ダイナミックCTでは肝炎と胆管炎では肝臓は同じような造影のされ方をされます。今回はおっしゃるように閉塞機転があり、肝内胆管が開いていること、採血結果などから胆管炎がより疑われます。
- 救急ではCTしか撮らないので、MRI所見は勉強になりました。
- 読影段階ではちょっとヒントになりすぎ!かもしれませんが、良かったです。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
いつも詳しい解説ありがとうございます。
左側小腸・空腸領域の脂肪織の濃度上昇とリンパ節腫脹があるように思うのですがいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>左側小腸・空腸領域の脂肪織の濃度上昇とリンパ節腫脹があるように思うのですがいかがでしょうか?
左側でそのようにも見えなくはないですが、腸管の拡張所見や明らかな壁肥厚は認めません。
全体的に腸間膜の脂肪織濃度上昇が少し目立っており、ここだけに認めているわけではなく有意ではありません。
リンパ節も小さなものはありますが、有意な腫脹は認めていません。
CTで総胆管結石を指摘できないときはMRIをとる意味があると思うのですが、CT陽性の総胆管結石でMRIをとる意味ってあるのでしょうか。胆管の走行を見たいということなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>CT陽性の総胆管結石でMRIをとる意味ってあるのでしょうか。胆管の走行を見たいということなのでしょうか?
まあ、施設にもよるかもしれませんが、ルーチンみたいな感じで総胆管結石の場合は撮影されています。
今回はCTで高吸収な総胆管結石ですが、そうでない結石が混在していないかの除外目的もあります。
もちろん、胆管や胆嚢管の走行の確認目的もありますね。
いつも分かりやすい解説ありがとうございます。
回盲部の高吸収(CT横断像61、66/102)は憩室にはまった糞石ありと判断したのですが、合ってますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>回盲部の高吸収(CT横断像61、66/102)は憩室にはまった糞石ありと判断したのですが、合ってますでしょうか?
おっしゃるとおりです。
Periportal collarという概念は初めて勉強させていただきました。
単純CTでは、門脈周囲の低吸収域を認めており、Periportal collarないし肝内胆管拡張を考えますが
両者の鑑別は最終的には造影CTになるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>Periportal collarないし肝内胆管拡張を考えますが両者の鑑別は最終的には造影CTになるのでしょうか?
門脈両側に認めている→periportal collarは陽性
ということになります。
その上で、今回は肝内胆管の拡張も合併していると考えられます。
造影すると、より明瞭に見えるかもしれませんが、両者が混在しているのだろうという点は変わりません。
胆嚢炎でも、グリソン鞘の浮腫があると思うのですが、胆嚢炎ではperiportal collar は見られないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
胆嚢炎で胆嚢床にperiportal collarが見られないのは炎症波及が局所的なためかと思われます。
また、肝炎や胆管炎ならば必ず見られるというわけではないという点もご注意ください。
あくまで画像は補助的です。
横断像の25,26スライスで、総胆管あるいは肝門部胆管の中にモコモコ見えるのは、結石?デブリ?読み過ぎ?でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように結石〜胆泥が存在していると考えられます。読み過ぎではありません。
救急外来で胆管炎を疑った際に造影ではなく,単純CTが撮像されて相談を受けることが多いのですが,単純CTでの肝内胆管拡張を見るコツなどありますでしょうか.今回の症例のように門脈と肝内胆管が見やすいこともありますが,同じように見えることも経験します.ウインドウレベルなどを変更すれば見やすくなりますでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
門脈に沿った低吸収を認めた場合は肝内胆管拡張を考えますが、片側ではなく両側の場合は、periportal collarを考えます(併存すると考えられる場合もありますが)。
門脈と同じようにみえるということは門脈そのもののみを見ているのではないかと思います。つまり肝内胆管の拡張は認めていないということです。拡張が軽微な場合は難しいですが。
ウインドウレベルを変更して肝内胆管が見やすくなったということは聞いたことがありません。