
症例25
【症例】30歳代女性
【主訴】発熱、嘔吐、尿の混濁
【身体所見】体温38.3度、CVA tenderness陰性
【データ】WBC 11300、CRP 23.28、尿白血球+
画像はこちら
主訴などから疾患の推測ができます。
CTでは、左の腎周囲の筋膜の肥厚が目立ちます。
これくらいならば正常でも認めることがあり、非特異的な所見ですが、右では認めず、左右差があるのがポイントです。
またちょっとわかりにくい所見ですが、
- 左腎周囲の脂肪織濃度上昇
- 左腎の腫大
を認めており、臨床所見と合わせて、左の腎盂腎炎が疑われます。
今回は単純CTのみですので、症例13であったような楔状の造影不領域というものは認めません。
(造影すれば認めていた可能性はあります)
逆に症例13では、今回認めているような腎周囲の筋膜の肥厚は認めていません。
- 腎盂腎炎がある→CTで異常所見がある!!!
というわけではなく、腎盂腎炎のCTの役割はあくまで補助的なツールであったことを思い出してください。
今回は、単純CTでも異常所見を認めた腎盂腎炎の症例でした。
診断:左腎盂腎炎
その他所見:
- 脂肪肝あり。肝腫大あり。
- 副脾あり。
- 多発子宮筋腫の疑い。
症例25の動画解説
急性腎盂腎炎の画像所見(復習)
症例25のQ&A
- 腎盂腎炎を疑いましたが所見に気づけませんでした。
- 画像のみで診断するものではありませんが、今回は左右差に気づけるかがポイントです。
- 深く読みすぎました。。膿尿の情報が出ている事で腎盂腎炎を疑いますが、単純CTのみだったので、他に何かあるのではないかと思い、膀胱壁の肥厚を見て、膀胱炎と判断しました。
- 今回の症例では左右差が重要ですね。
- 単純CTだけだったので自信が持てませんでした。
- 画像だけで診断する疾患ではないので、画像はあくまで参考としてください。
- 筋肥厚など感覚的にも分かりませんでした。
- 左右差が重要です。
- 左腎周囲筋膜の肥厚と周囲の脂肪識濃度上昇は目にとまったものの、それだけで腎盂腎炎と言っていいのか自信が持てませんでした…左右差を大事にします
- あくまで画像で診断するものではないので、臨床所見を重視します。
その上で今回は左右差がポイントとなります。
- 実際難しいですね(・・;)
CVA叩打痛も僕がやると偽陰性が多く、あまり(特に自分の)叩打痛所見は当てにしていません。
日常では、「患者の尿を見に行くこと」
をいの一番にやっています。
この症例でも、白血球こそ1+ですが、
結局のところは「尿の混濁」が純粋な決定打になっていそうですね。年齢などにもよるとは思いますが、先生の感覚で、
腎盂腎炎疑いの患者さんで造影CTが施行される割合は何割くらいですか? - >結局のところは「尿の混濁」が純粋な決定打になっていそうですね。
年齢などにもよるとは思いますが、先生の感覚で、
腎盂腎炎疑いの患者さんで造影CTが施行される割合は何割くらいですか?かなり少ないかと思います。
あとはその医師によりますね。
なんでもかんでも造影CTを撮影したがる人もいますし・・・。やはり尿所見、採血結果、身体所見が大事な疾患ですね。
- スライス21で脾臓の近くにある丸いものは副脾ですか?
- 副脾ですね。2つありますね。
- 脂肪肝はどのような所見から判断すればよいですか?
- 単純CTでCT値を測定して40HU前後以下ならば脂肪肝ありと判定します。
脂肪肝を呈すると肝臓は低吸収(黒く)なります。
この方は見た目からして低吸収なので判断できます。
- つい先日、私の施設で、大きな卵巣留膿腫の方がおり、その印象が強かったため、
婦人科系の疾患にフォーカスしてしまい、腎臓周囲の毛羽立ちは気が付いたのですが、
腎盂腎炎と結びつけることができませんでした。
フラットな視線で見れるよう経験を積みたいと思います。。 - そうですね。目立つ所見があればついそっちに目が行ってしまいますね。
また一つ所見を見つけたらそれで安心してしまうこともあります。私も気をつけねばですが。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
症例ありがとうございます。腎盂腎炎は回答できました。
ところで、axial:64~69/87、coronal:7~16/40あたりの、膀胱の左上前方、子宮の左前方に位置する嚢胞状の腫瘤は何でしょうか?今回の病因と関係ありそうですか?連続がはっきりわかりませんが小腸を見ていますか?
アウトプットありがとうございます。
確かに嚢胞状の腫瘤があり、小腸としてはサイズが大きく連続性がはっきりしませんね。
卵巣嚢腫かと思われます。一部脂肪濃度を含んでいるように見え、成熟嚢胞性奇形腫かもしれません。
今回の症状とは関係なさそうですね。
周囲脂肪識濃度上昇があるということで、よく腎盂腎炎と安易に考えていました。左右差が大事なんですね!
腎の拡大、脂肪識濃度上昇、筋膜の肥厚とどれか一つでも左右差があると腎盂腎炎の疑いととってもいいのでしょうか?炎症の度合いによって腎の拡大→脂肪識濃度上昇→筋膜の肥厚となるのでしょうか、、
アウトプットありがとうございます。
>左右差が大事なんですね!
そうですね。左右差や過去画像があればそれとの比較が重要です。
>腎の拡大、脂肪識濃度上昇、筋膜の肥厚とどれか一つでも左右差があると腎盂腎炎の疑いととってもいいのでしょうか?
腎盂腎炎かどうかは別ですが、どれか一つでもあれば有意の可能性があります。
腎盂腎炎かどうかは画像以外の臨床情報が重要となります。
>炎症の度合いによって腎の拡大→脂肪識濃度上昇→筋膜の肥厚となるのでしょうか、、
腎腫大を伴わないこともありますので、腎の腫大がどの段階なのかはわかりませんが、
周囲脂肪織濃度上昇→筋膜の肥厚という順番は正しいと考えます。
Axial73/87の石灰化を尿管結石と読んでしまいました。しっかり追ってみると尿管とは連続性はないようですが、
何の構造物でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
静脈石などを見ていると思われます。
このレベルは既に膀胱はないですし、尿管はより頭側で膀胱に入っていますね。
右も腎周囲の筋膜肥厚があるように見えてしまいました。
アウトプットありがとうございます。
筋膜肥厚は目立つ方もおられますが、左右差をチェックすることが重要です。
CVA叩打痛の感度が低いのを見過ごして、腎の左右差をしっかり見れていませんでした。今後しっかり見たいと思います。
今回の症例とは関係ないのですが、横断像67-69 / 87 の石灰化を膀胱内の石灰化と読み間違えてしまいましたが、これも成熟嚢胞性奇形腫の所見と考えてよろしいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>横断像67-69 / 87 の石灰化を膀胱内の石灰化と読み間違えてしまいましたが、これも成熟嚢胞性奇形腫の所見と考えてよろしいでしょうか。
石灰化を伴う子宮筋腫と思われます。
横断像56-59 / 87 にも同様の石灰化を伴う筋腫を認めています。
多発の子宮筋腫があります。
Gerota筋膜とは前腎筋膜のことを指すのでしょうか。それとも前腎筋膜、後腎筋膜を合わせたものと考えていいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
腎筋膜とも言われ、前腎筋膜、後腎筋膜を合わせたものです。
先日大学での実習で尿が綺麗で白血球、CRPの上昇も、CVA叩打痛もない腎盂腎炎に出会いました。2週間程度熱が下がらず、コロナやインフル、髄膜炎など疑って検査しましたが、異常なく、CTを撮ってみたら、腎臓がパンパンに腫大しており、腎盂腎炎の診断となりました。
CTはあくまで補助的ツールで腎盂腎炎がある→CTで異常所見がある!!!
とは限らないですが、CTを撮って初めてわかることもあるのだな、と、とても勉強になった症例でした。
アウトプット&貴重な体験談ありがとうございます。
>尿が綺麗で白血球、CRPの上昇も、CVA叩打痛もない腎盂腎炎に出会いました。2週間程度熱が下がらず、コロナやインフル、髄膜炎など疑って検査しましたが、異常なく、CTを撮ってみたら、腎臓がパンパンに腫大しており、腎盂腎炎の診断となりました。
まれなケースだと思われますが、CT画像からわかることもあるのですね。
腎盂腎炎を診断したあと単純性/複雑性を考えますが、今回は子宮~卵巣のあたりの腫瘤による尿管圧排からの複雑性尿路感染症を疑いました。圧排にしてはそれより上部の尿管の拡張がないため、この症例では複雑性ととらなくてよいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>圧排にしてはそれより上部の尿管の拡張がないため、この症例では複雑性ととらなくてよいのでしょうか。
単純性なのか複雑性なのかを考えますが、おっしゃるように尿管の拡張を認めず明らかな閉塞機転といえるものがないためこれだけでは複雑性とは考えません。
卵巣の腫瘍、膿瘍?が目につき、これが熱源、炎症の主な原因と考えてしまいました。膀胱も圧迫しているようだし、尿所見が出てもおかしくないな、などと一人合点してしまいました。右腎周囲の脂肪織濃度上昇や筋膜肥厚もチェックはできましたが、最初の思い込みが勝ってしまいました。よくある疾患から考えていかないといかんね。
アウトプットありがとうございます。
>卵巣の腫瘍、膿瘍?が目につき、これが熱源、炎症の主な原因と考えてしまいました。
確かに悩ましいかもしれません。
>右腎周囲の脂肪織濃度上昇や筋膜肥厚もチェックはできましたが、最初の思い込みが勝ってしまいました。よくある疾患から考えていかないといかんね。
子宮筋腫や卵巣腫瘍などが膀胱を圧迫していても、それが=尿路感染を引き起こすわけではありませんので、炎症所見がある部位をまずは疑いましょう。
前腎筋膜の肥厚が分かりやすい症例でした
アウトプットありがとうございます。
左右差がわかりやすい症例ですね。
若い方では通常炎症などがないと見えない筋膜ですので、この機会に解剖を押さえておいてください。
左右差を見てなかったので自信がなかったですが、左右差を見ることが大事なんだなと思いました。
ところで、16枚目腹腔動脈と23枚目上腸管膜動脈の分枝(中結腸動脈でしょうか?)が拡張しているかと思いましたが、正常範囲内でしょうか?また、拡張であれば、血管炎疑いとなりますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>左右差を見てなかったので自信がなかったですが、左右差を見ることが大事なんだなと思いました。
左右差、過去画像があればそれとの比較が非常に重要です。
>16枚目腹腔動脈と23枚目上腸管膜動脈の分枝(中結腸動脈でしょうか?)が拡張しているかと思いましたが、正常範囲内でしょうか?
いずれも正常範囲です。
スライス66の膀胱内にある2つの低吸収域は気腫でしょうか。左右対称的にあるので尿管口なのか、ガス像を形成するような尿路感染か、それとも違うものか苦慮してしまいました。
また、膀胱壁の肥厚は有意なものと考えて良いでしょうか。もともと、慢性膀胱炎があり、今回の左腎盂腎炎も含めて、尿路感染を繰り返されているとすると、複雑性尿路感染になる背景疾患も考慮したほうがいいのかなと愚考しました。
アウトプットありがとうございます。
>スライス66の膀胱内にある2つの低吸収域は気腫でしょうか。
スライス66では膀胱はまだ見えていません。
67−73あたりで膀胱があります。
>膀胱壁の肥厚は有意なものと考えて良いでしょうか。
今回膀胱壁肥厚はありません。
びまん性の膀胱壁肥厚がある場合はそのような背景も考える必要はありますね。