
症例24
【症例】30歳代男性
【主訴】スケボーで3mの高さから転落
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腹部単純CTで肝表などに液貯留を認めています。
胃内の液貯留と比較してやや高吸収であることがわかります。
そうです、また腹腔内出血を疑う所見です。
骨盤底にも腸管や筋肉と同じくらい高吸収な液貯留を認めています。
その下の膀胱と比べて見ても明らかな高吸収を示していることがわかります。
出血源はどこだろうとくまなく見ていくと、脾臓周囲の液貯留が肝表の液貯留よりも高吸収であることがわかります。
となると、出血源は脾臓ではないかと推測されます。
3mの高さから転落して、脾臓から出血していると言うことは、脾損傷を起こしているということです。
(ちなみに上の骨盤底の液貯留もとくに背側に高吸収を認めています。これは重力の影響で、ここに濃い血性腹水が溜まっていると考えられます。)
造影CT(ダイナミックCT)では早期から脾臓の一部に造影不良域を認めています。
造影剤の血管外漏出像(extravasation)や仮性動脈瘤は明らかではありません。
冠状断像においてもこの様子がわかります。
診断:脾損傷による腹腔内出血
日本外傷学会の脾損傷分類2008によると脾損傷はⅠ型からⅢ型と3つのグレードに分けられます。
- Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
- Ⅱ型 表在性損傷
- Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)
今回は、脾被膜にも損傷を認め、脾臓実質にも損傷が及んでいます。
また創の深さが脾臓の実質の1/2以上に及んでおり深在性損傷であるⅢ型と診断されます。
Ⅲ型は、
- 損傷部位や破裂面が比較的整であるものがⅢa型:単純深在性損傷
- 損傷部位や破裂面が複雑で範囲も広範に及ぶものがⅢb型:複雑深在性損傷
と分類されます。
今回は、損傷部位や破裂面が比較的整といえるところもありますが、複雑と言える部位もあります。
また、範囲が広範かどうかと言う点ですが、冠状断像で脾臓全体を見ると、
上のように赤い色が脾臓、黒い色の部位が損傷を受けている部位となります。
3Dで考えなければならないのですが、あくまでイメージとすると、
損傷を受けている部位は上の左のイラストの範囲程度であり、これを広範とするのはなんとも言えないところです。
かといって、脾臓のごく一部の局所的な損傷ともいえず。
今回は、ⅢaとⅢbの間くらいでしょうか。(やはり壁が不整なのでⅢbでしょうか)
治療方針には大きな差はありません。
※今回循環動態が比較的安定しており、CTで被膜断裂や腹腔内出血を認めたため、血管内治療されました。消化器外科や放射線科コンサルトが必要となります。
その他所見:とくになし。
症例24の動画解説
脾損傷の分類
症例22−24の過去の解答ページはこちら(passは、Rm68rFhP)
症例24のQ&A
- グレードはⅢb型でしょうか?
- 微妙ですね。破裂面や損傷部位は比較的整なところもありますが、そうでないところもありますね。
しかし、Ⅲbというほど範囲が広くない気もします。
微妙ですね・・・。
ⅢaとⅢbの間くらいでしょうか。
- 脾損傷はextrravasationは明らかでないと考えましたが良かったでしょうか。
- そうですね。今回は明らかなextravastionは認めていないですね。
- Ⅲ型の脾損傷の指摘はできたのですが、それより先の細分類までは特定できませんでした。他、骨折や仮性動脈瘤の有無を探す努力もできました。
- 脾損傷であり、腹腔内出血をきたしている病態がわかればまずはOKですね。
さらに深いところまで読まれておりなおOKです!
- 脾損傷の程度に分類があることは知らなかった
- 脾損傷+腹腔内出血とわかればまずはOKです。
分類は治療法にも関わるところですので、損傷を見つけた際には意識してみてください。
- 脾損傷の画像は,目の前にすると青ざめそうですね.
- ですね(;゚ロ゚)
- 腹腔内出血をきたしているので脾破裂でよいのでしょうか?
- おっしゃるとおりです。脾破裂による腹腔内出血です。
- 「高吸収の腹水、ただの水じゃなくて血液っぽい」という感じをぱっと見で感じられるようになってきたと思います。このシリーズで最初に2回くらい血性腹水の症例が出た時は全然気づかなかったので、経験値になっているのかなと思うと嬉しいです。
- いいですね。
膀胱の尿などと比較したり、現場で見たら是非CT値を測定してみてください。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
腹水は分かりましたが、血性腹水とは気付きませんでした。出血の広がりやすさにも分類があるんですね!高齢者の筋肉や後腹膜腔からの出血が広がりやすいのは、組織が破れやすいからでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>高齢者の筋肉や後腹膜腔からの出血が広がりやすいのは、組織が破れやすいからでしょうか。
若年者と比べると筋肉量などが低下している為ですね。
破れやすいという表現でもよいかと考えます。
わかりやすい解説ありがとうございます。
質問ですが、このページに記載されている分類とリンク先の分類は同じものと考えてよろしいのでしょうか?
リンク先の分類だとⅤまで分類があるのですが・・・
仮性動脈瘤がある場合は表在性損傷であってもⅣになるのか、etrasationがあれば損傷の程度がどうであれ、Ⅴに分類されるのか、疑問い思います。御回答よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>リンク先の分類だとⅤまで分類があるのですが・・・
仮性動脈瘤がある場合は表在性損傷であってもⅣになるのか、etrasationがあれば損傷の程度がどうであれ、Ⅴに分類されるのか、疑問い思います。御回答よろしくお願いします。
ややこしくて申し訳ありませんが、今回紹介させていただいたのは、日本外傷学会臓器損傷分類2008による分類ですね。
記事にも記載があるように、これ以外にも分類があり、日腹部救急医会誌32:1159-1162,2012で紹介されているものがⅤまで分類されているものです。
日本外傷学会臓器損傷分類2008の方がよく知られていると思います。
すぐ役立つ救急のCT・MRI第2版も日本外傷学会臓器損傷分類2008で記載がありました。
脾損傷分類のⅢbで外傷学会のCTgradeでは 3つ以上の造影される実質が見られるので粉砕型損傷+ですがextravasation(-)でgradeⅣとしたのですが その読みでよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>外傷学会のCTgradeでは 3つ以上の造影される実質が見られるので粉砕型損傷+ですがextravasation(-)でgradeⅣとしたのですが その読みでよいでしょうか?
3つ以上なのか、2つなのかは判断に難しいところではありますが、(活動性かはさておき)腹腔内に出血を認めており、ⅢよりはⅣ(〜Ⅴ)に分類されますね。
腹部鈍的外傷による脾創傷と思われ、腹壁や肋骨損傷はないかと探しました。腹直筋は両側とも不整な低吸収域が見られるように思います(例えば72~83/307)。筋肉の腫大がありませんが、ここの打撲と考えていいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>腹直筋は両側とも不整な低吸収域が見られるように思います(例えば72~83/307)
これは正常例でも認めます。いわゆる腹筋(腹直筋)の横のラインに相当します。
筋肉内血腫など受傷部位ははっきりしませんね。やはり脾損傷を起こしているので左腰部なのだろうと考えます。
脾臓はまだらに造影されることがしばしばあるので,今回もスルーしてしまっていました...
動画内でもあるように平衡層でもまだら(低吸収域がある)ならおかしいという考え方でいいですか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように動脈相では、脾臓がまだらに造影されます。
縞模様のように見えることからモアレ像と呼ばれます。
この影響があるため平衡相でわかりやすいですが、動脈相でもこのモアレ像では説明がつかない広い低吸収があるのでそこでも気づきたいところです。
平衡相で周囲脾臓実質と異なる造影効果があれば異常と考えていただいて大丈夫です。
関連:【腹部TIPS】症例63
https://imaging-diagnosis.com/view/Dd39eSnP
外傷による腹腔内出血では、脾損傷が多いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
脾損傷や肝損傷といった被膜が破綻すると腹腔内に出血を来してしまう臓器で多いです。
また頻度も脾損傷>肝損傷>腎損傷の順番に多いです。
いつもお世話になっております。
平衡相で膀胱後壁に高吸収が有り膀胱内にも広がっているので、これは造影剤の血管外漏出像(extravasation)で膀胱出血だと考えたのですが、正常所見だったのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
これは造影剤には間違いないのですが、尿路に排泄された正常の造影剤ですね。
腹部TIPS症例27で出てきました。
https://imaging-diagnosis.com/view/x8UCKbE2
忘れてました(//∇//)