症例19 解答編

症例19

【症例】20歳代女性
【主訴】下腹部痛、嘔気
【身体所見】BP 90/62、RP 104、腹部全体に圧痛、反跳痛あり。
【データ】WBC 17100、Hb10.8、CRP 0.10、尿妊娠反応陰性

画像はこちら

上腹部や下腹部に腹水貯留を認めています。

下腹部では腹水の濃度の濃い部分を認めています。

症例15にも出てきましたが、濃度の濃い腹水をみたら、CT値を計測すること、腹腔内出血を疑うことが重要です。

今回は、下腹部に濃度が高いことから下腹部から腹腔内出血を起こしていることが予想されます。

実際のCT値を測定してみました(皆さんの環境ではCT値を測定することができません)。

出血を起こしていると思われる左黄体嚢胞周囲の高吸収な部分ではCT値が平均72HUあります。

症例15の復習ですが、

腹腔内液体貯留のCT値1)は、

  • 腹水 0-15HU
  • 血性腹水 20-40HU
  • 血腫・凝血塊 40-70HU
  • 活動性出血 85-350HU
  • 胆汁 0HU
  • 尿 0-15HU

となっています。

つまりこの辺りには、血腫・凝血塊があることがわかります。

上腹部においてもCT値は平均34HUあります。血性腹水であることがわかります。

また、症例15の復習ですが、腹腔内出血の原因2)としては、

  • 肝細胞癌など腫瘍破裂
  • 子宮外妊娠破裂
  • 卵巣出血
  • 内膜症性嚢胞の破裂
  • SAM(segmental arterial mediolysis)
  • 動脈瘤・血管病変の破裂
  • 術後(膵癌術後の膵液漏による胃十二指腸動脈断端の破綻など)
  • 特発性(抗凝固薬の服用)
  • 外傷(肝、脾、小腸)

と言ったものが挙げられます。

今回は若い女性ですので、まず考えるべきは、

  • 子宮外妊娠破裂
  • 卵巣出血

です。

今回は、妊娠反応陰性ですので、次に考えるべきは卵巣出血です。

卵巣出血の多くは黄体嚢胞出血です。

黄体嚢胞内のみに限局した出血を認めることもありますが、それが破綻すると腹腔内出血となります。

黄体のう胞は今回のように壁が造影されるのが特徴です。
またこの黄体のう胞を中心として濃度が高い腹腔内出血が存在することもチェックしましょう。

黄体のう胞出血は、性交や外傷などを契機に発症することが多いことも覚えておきましょう。(問診が重要)

診断:左卵巣出血(黄体のう胞出血)

※婦人科コンサルトが必要となります。基本的に保存的に加療されますが、抗凝固剤療法中の場合は致死的になりうるので、外科的に止血を行うことがあります。今回は上腹部まで認めており出血量が多かったのですが保存的に加療されました。

関連:卵巣出血の原因は?症状からCT、MRI画像診断のポイントは?

その他所見:とくになし。

しかしなぜ黄体嚢胞はこんなに出血することがあるのでしょうか?

婦人科の同期にLINEで聞いてみました。

排卵4,5日で黄体嚢胞の表面の血管が破綻しやすい時期があるんですね。

勉強になりました。

症例19の動画解説

卵巣出血と腹腔内出血の復習

症例19のQ&A
卵巣出血とはわかったものの右卵巣が異常と判断してしまいました
卵巣出血とわかれば問題ないと思います。
黄体嚢胞を破裂して虚脱した卵巣と間違えてしまいました…勉強不足です…
破裂した黄体嚢胞ですので、そんなに誤ってはいないです。
下の方の腹水の濃度が高いな、前の復習だ、出血だ、と思ったのですが、腹水が多すぎて何が何やらわからなくなりどこからの出血かわからなくなりました。また、血腫・凝血塊を示唆するほど高い濃度だと気づきませんでした。
婦人科系の臓器はCTでの見え方・連続性が勉強不足で理解が乏しいです。正常構造については、画像診断cafeの正常解剖を併用し、色をつけて追いかけながら理解を深めていたのですが、腹部・下腹部CTの正常解剖はともに男性で婦人科系臓器の理解がいまいちできておりません。お時間のある時でかまいませんので、いつか女性verも載せて頂けたら大変勉強になります。
>下の方の腹水の濃度が高いな、前の復習だ、出血だ、と思ったのですが、腹水が多すぎて何が何やらわからなくなりどこからの出血かわからなくなりました。また、血腫・凝血塊を示唆するほど高い濃度だと気づきませんでした。

そうですね。今回かなり出血量が多い症例ですね。下に行くほど高吸収になっているところをヒントにしてください。

>婦人科系の臓器はCTでの見え方・連続性が勉強不足で理解が乏しいです。正常構造については、画像診断cafeの正常解剖を併用し、色をつけて追いかけながら理解を深めていたのですが、腹部・下腹部CTの正常解剖はともに男性で婦人科系臓器の理解がいまいちできておりません。お時間のある時でかまいませんので、いつか女性verも載せて頂けたら大変勉強になります。

CTではやはり婦人科系はわかりにくいのでMRIですね。

婦人科領域の出血による血腫形成までは分かりましたが、原因までは掴めませんでした。
婦人科は難しいですね。今回の解答解説参照に致します。
このコンテンツでは、何科にコンサルト出来ればいいかというところがわかるのがとりあえずの目標なので、婦人科系の出血とわかればとりあえずは大丈夫です。
黄体嚢胞だと仮に破裂がなくてもあんなに大量の出血が起こりうることを知りませんでした。勉強になりました。
やはり婦人科領域のCTは難しいので他の症例も勉強してみたいです。
いえ、破裂して出血しています。
腹腔内出血まではわかったのですが。検査データも参考に鑑別しなければなりませんでした。間違って残念でしたが、勉強になり面白かったです。
腹腔内出血の原因をもう一度復習しておいてください。
黄体嚢胞を見つけてはいたものの何か分からず位置から卵巣と思い込んでしまっていました。
卵巣出血がわかれば大丈夫です。
卵巣出血の画像を今まで見たことがなかったので、とても良い経験になりました。問題や授業でも画像診断の際は、男性の例が多いので、この機会に様々な婦人科系の症例をみることができて、毎回とても有意義です。
それはよかったです。こちらもやりがいがあります。
腹水の原因を見つけることも必要だと感じましたが技師としてできるCT値の測定をすることで出血かどうかも判定しやすくなるのではないかと思いました。
おっしゃるとおりですね。
今回の解説ページで最も着目すべき重要な点は、明らかに間違いなく、PM 6:52のLINEであり(特に読影に関係ないにも関わらず、わざわざ個人情報を隠してまで掲載されている)、そこに突っ込むことが出来るか否か、がひとつのヤマだったと思います。
その通りですw
ちょっと真面目なラインの返信だったので、
偽造ではないというところを示すための施術ですw
卵胞が虚脱してみえるのは卵巣出血を示唆する所見にはならないでしょうか。それともこの程度、よくあるんですかね。
おしゃるように虚脱していますね。出血を示唆する所見になると考えます。
ただし、「黄体嚢胞の破裂の場合は、形態は保たれて壁のたるみを認めないことが多い。(すぐ役立つ救急のCT・MRI 改訂第2版P305)」
と記載があるように、形態が保たれていても出血していることが多いので、注意が必要です。
卵巣出血はあんなに出血量があるのですね.驚きました.エコーでみると排卵すると緊満した卵胞(直径20mm前後)が黄体に変化していく過程で弛緩した嚢胞構造を認め,徐々に内部エコーを伴っていくように思います.ですので排卵初期はだいたい嚢胞構造を保っていると思いますが黄体嚢胞と黄体の呼び分け,見分け方というのはあるのでしょうか.
>卵巣出血はあんなに出血量があるのですね.驚きました.

今回は通常よりも出血量は多い症例ですね。

>黄体嚢胞と黄体の呼び分け,見分け方というのはあるのでしょうか.

黄体自体は臨床的に問題になるとすれば嚢胞化した黄体嚢胞からの出血ですので
嚢胞化したもの以外は臨床的に問題にならないと思います。

血性腹水と卵巣出血は分かりましたが、黄体嚢胞については知りませんでした。月経周期によって卵巣出血のリスク原因が変わってくることが分かり、勉強になりました。
そうですね。周期によって卵巣も変化するのでちょっと大きめの嚢胞があってもフォローが大事とされますね。
前回、CT値で腹腔内出血を疑うことを学んだのに、それを生かすことができず悔しいです。
婦人科系と出血源の同定は苦手だということがわかりました。とても勉強になりました!
ともに難しいところですよね。
とくに婦人科系はCTだけでは厳しい疾患も多いですね。今後後半にはMRIも出てくるのでそこでMRIがやはりわかりやすいということを体験してください。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。