【胸部】症例39
【症例】80歳代男性
【主訴】特になし
【現病歴】近医かかりつけで腎機能障害の経過観察中に、約1年半前に腹部CTで右下葉に異常陰影を指摘され、当院呼吸器内科受診。両側胸水を認め、胸水細胞診にて肺腺癌(EGFR変異あり:L858R)と診断された。腫瘍内科転科となり、ゲフィチニブの内服開始。4ヶ月前のCTでは右下葉腫瘍は増大なく、SD(Stable Disease)相当と診断されていた。今回胸部レントゲンで異常影を指摘された。
【既往歴】高血圧、前立腺肥大、腰部脊柱管狭窄症、高尿酸血症、便秘症
【生活歴】喫煙 3-4本×30年(約20年前に禁煙)、飲酒なし。
【身体所見】意識清明、BP 160/69mmHg、BT 36.8℃、PR 64bpm、SpO2 99%(RA)、呼吸音:清
【データ】WBC 5400、CRP 0.01、CEA 181.7(経時的に増大、2ヶ月前の3倍)
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まず、4ヶ月前のレントゲンと今回のレントゲンを比較してみましょう。
すると両側肺野にびまん性の多発粒状影が今回出現していることがわかります。
次に、4ヶ月前のCTを見てみましょう。
レントゲンでははっきりしませんでしたが、右下葉S10に3cm大の腫瘤影を認めています。既知の肺癌が疑われます。
また両側少量胸水を認めています。
4ヶ月後の今回どのように変化したでしょうか?
両側肺野に無数の粒状影〜結節影が出現しています。
分布は小葉中心性分布ではなく、ランダムパターンで認めています。
thin sliceで見てみると、粒状影や結節影は胸膜や葉間胸膜上にも認めています。
これは分布が小葉中心性パターンではない(小葉中心性パターンでは胸膜上には基本的に病変を認めないため)ことを示唆する所見です。広義リンパ路病変やランダムパターンを示唆する所見です。
このようなランダムパターンを示す疾患としては、
- 粟粒結核(症例7)
- 悪性腫瘍の血行性転移
- リンパ球浸潤性・増殖性肺疾患
- 珪肺/炭坑夫肺
- 好酸球性肉芽腫症
などが知られています。
とくに上2つが重要で頻度が高いです。
今回は、腫瘍マーカーが経時的に増大しており、肺癌の血行性肺内転移が最も考えられます。
また右下葉では、小葉間隔壁の肥厚を認めており、癌性リンパ管症を合併している可能性があります。
診断:多発肺転移の出現(+癌性リンパ管症の可能性あり)
※その他所見:
- 左肩甲骨に骨転移出現。
- 縦隔リンパ節(#4Rや#7)のサイズ増大あり。転移の疑い。
【胸部】症例39の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
4ヶ月前から軽度ですが、腫瘍周囲に隔壁の肥厚を認めるのですが、隔壁への浸潤の可能性があるということでしょうか?
また、左肩甲骨に融解像を認めますが、骨転移でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>隔壁への浸潤の可能性があるということでしょうか?
そうですね、胸膜への浸潤を認めている可能性はあります。
>また、左肩甲骨に融解像を認めますが、骨転移でしょうか?
副所見を記載していなかったですね。
骨転移ですね。縦隔リンパ節も4ヶ月前と比べると腫大していますね。
基礎疾患などから肺転移と思いましたが、情報がなければどうだったかと思ってしまいます。画像だけで言うと、葉間胸膜をまたぐ結節や、結節に肺静脈が入り込んでいるなどの画像情報から転移性肺腫瘤>粟粒結核の可能性を高めてもよいでしょうか?ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
今回症例を選ぶにあたりたくさんの症例を見ましたが、最も転移巣のサイズの小さいものを選びました(^_^;)
転移結節のサイズが大きい場合は肺転移と診断できますが、
粟粒状の場合は、結核との鑑別は難しいこともしばしばあります。
ですので結核の可能性も考え精査する必要があります。
先日も「多発肺転移だろう」ということで主治医が判断し厳しいムンテラをしたけれど、
実は粟粒結核だったと言うこともありました。
もちろん今回は、左肩甲骨に骨転移が出ていたり、縦隔リンパ節が腫大していたり、非提示ですが脳転移もありました。
それらからはやはり転移が疑われますね。
その疾患の可能性が高いと判断する材料はあればあるほどいいですね。今回はすぐに肺転移だと飛びついてしまいますが、少しでも「結核かもしれない」と思うことも必要ですよね。
アウトプットありがとうございます。
>今回はすぐに肺転移だと飛びついてしまいますが、少しでも「結核かもしれない」と思うことも必要ですよね。
サイズが小さい場合のランダムパターンでは結核も常に考えましょう。
粒状影がかなり多発していたので,粟粒結核と思いましたが,転移でも矛盾しないのですね.
その二つの鑑別が重要であることがよくわかりました.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。その両者をまずは鑑別に挙げましょう。
いつもありがとうございます。正解することができましたが、粟粒結核も鑑別に挙げることを気をつけようと思います。
腰椎に空洞を認めているように見え、骨粗鬆症や癌の転移による溶骨性の変化を考えてみましたが、いかがでしょうか?他にどのようなものが考えられるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>粟粒結核も鑑別に挙げることを気をつけようと思います。
そうですね。今回背景から肺転移が疑われますが、今回のように割と粒が小さいランダムパターンの場合、粟粒結核も必ず鑑別に挙げて除外するようにしましょう。
>腰椎に空洞を認めているように見え、骨粗鬆症や癌の転移による溶骨性の変化を考えてみましたが、いかがでしょうか?
濃度が変えられないので恐縮ですが、骨の評価は骨条件に変更して観察する必要があります。
また腰椎などは横断像では評価しにくいことが多いので、冠状断像や矢状断像と合わせて評価する必要があります。
今回は非提示でしたが、冠状断像がありましたので、骨条件にして提示します。
https://imaging-diagnosis.com/view/Y4z6dWJx
これを見ていただくと、腰椎の変性は、
・側弯がある。
・骨棘形成がある。
・L1/2、L3/4/5椎間板にガスが貯留している。
ことがわかります。空洞に見えたのは椎間板腔のガスですね。
転移を疑う所見ではなく、腰椎の変性による変化を見ていたということです。
またL4や仙椎の右側に骨硬化を認めていますが境界明瞭であり、濃い陰影であり、骨島がまず疑われます。
EGFR陽性だと肺内転移が結構多いと聞いたことがあり、肺内転移にしか頭が回りませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>EGFR陽性だと肺内転移が結構多い
https://www.haigan.gr.jp/journal/am/2016a/16a_gol37000O-3-8.html
こちらにも記載がありますね。補足いただきありがとうございます。
>肺内転移にしか頭が回りませんでした
サイズが大きな転移ならば転移一点でよいと思いますが、今回のように粒が小さい場合は、粟粒結核も除外しましょう。
以前、多発肺転移と診断され、厳しいムンテラをしたが、結果、粟粒結核だったという症例を経験したことがあります。
4ヶ月前のレントゲンでは右下葉の肺癌は指摘されませんが、
今回のレントゲンでは(CTでは縮小していますが)、濃度上昇のためか心臓の裏側に見えますね。横隔膜とも重なって。ちがうかな??
thin sliceでは大葉間膜上の粒状影がよく見えますね。
thin sliceを付けてくれた意図ですね。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
今回のレントゲンでも原発巣の指摘は困難かと思います。
>thin sliceでは大葉間膜上の粒状影がよく見えますね。
thin sliceを付けてくれた意図ですね。
thin sliceで大葉間裂上や胸膜上の粒状影が分かりますね。
小葉中心性ではなく、ランダムパターンであることがわかりやすいですね。