【胸部】症例36

【胸部】症例36

【症例】50歳代女性
【主訴】発熱、倦怠感、咳、痰
【現病歴】今年に入り胸部圧迫感や呼吸困難が続いていた。3日前から38℃の発熱があった。2日前に当院受診。抗生剤(CVA/AMPC)服用で経過観察となったが、その後も症状軽減しないため来院。
【既往歴】非結核性抗酸菌症(5ヶ月前、気管支洗浄で診断。Mycobacterium abscessusが検出されている)、逆流性食道炎
【生活歴】喫煙:なし、飲酒:週1回程度、海外渡航歴なし、アスベストなし、ペットなし
【身体所見】意識清明、BT 36.8℃、BP 106/70mmHg、PR 88/min、RR 18/min、SpO2 97%(RA)、頭頸部:眼球結膜に黄染なし、眼瞼結膜に貧血なし、胸部:肺音左右差なし、ラ音聴取せず、心音 整、心雑音なし。
【データ】WBC 6300,CRP 2.64(2日前:WBC 6700、CRP 1.54、尿中抗原:レジオネラ-、肺炎球菌-、咽頭粘膜:マイコプラズマ抗原-)

画像はこちら

まずは胸部レントゲンから見ていきましょう。

ちょっとわかりにくいですが、baseに粒状影や気管支拡張を疑う所見を右肺門部などに認めています。

今回目立つのは、両側中肺野および右下肺野に結節影〜腫瘤影を認めています。

次にCTを見ていきましょう。

5ヶ月前のCTと比較しながら見ていきましょう。
※どの疾患もですが、呼吸器疾患がベースにある場合はとくに過去画像との比較が重要です。

レントゲンで見えていた右中肺野の腫瘤影は、CTでは右上葉に認めています。前回は認めていない所見で、辺縁を見ると小葉中心性に分布しているところもあり気道散布性病変が疑われます。

また右の下葉S6に小葉中心性粒状影を認めていますが、これは前回も認めており、急性期の病変ではなく、炎症性瘢痕が疑われます。

こちらのスライスでも中葉に気管支壁肥厚および気管支拡張、末梢に浸潤影を認めていますが、5ヶ月前にも認めていることから急性期の病変ではないことが推測されます。

ただし、右下葉には新たな小葉中心性の結節影を認めており、こちらは活動性病変の可能性があります。

こちらのスライスでも、舌区および右下葉S8に新たな陰影を認めています。

ところがこちらのスライスでは左下葉S10の陰影は前回認めていませんが、中葉の陰影は一部軽減していることがわかります。

つまり、全部増悪しているわけではなく、一部は陰影が軽減しているということです。

まとめますと、

ベースに(5ヶ月前も)

  • 中葉に気管支拡張・一部粒状影
  • 右下葉に小葉中心性粒状影

があります。

 

これは、既往歴にある非結核性抗酸菌がベースにあり、その陳旧性の変化であることが推測されます。

 

そして今回は新たに、

  • 右上葉、右下葉、左舌区、左下葉に陰影が出現している。
  • 中葉の陰影は一部軽減している。

ということがわかります。

 

何が起こったのでしょうか?

2つ大きく考えられます。

  • ①非結核性抗酸菌がベースにあるところに肺炎を合併した。
  • ②非結核性抗酸菌が増悪した。

の2つです。

 

画像だけでこの両者の鑑別は難しく、今回はひとまずは①の可能性を考えて、抗生剤加療(CVA/AMPC服用)が行われました。

しかし2日後改善を認めなかったのと炎症所見が増悪し、体力消耗が継続している点から、

②>①

であろうと考えられ、入院の上、非結核性抗酸菌の治療が開始されました。

 

診断:非結核性抗酸菌の増悪

 

※外来にてCVA/AMPCで経過を見ていたが改善なし。M.abscessusによる陰影としてまず治療を開始する。推奨レジメンに乗っ取り、IMP/CS 1g×3+AMK 400mg+CAM 800mg分2で投与を開始し、陰影、熱型の変化をみていく。長期入院となる見込み。

 

~~~~患者さんへの説明より抜粋~~~~

M.absecessによる肺野の陰影が疑われる状態ですので、推奨される治療をしていきます。抗生剤3種類を組み合わせて行います。抗酸菌は悪化も改善もゆっくりなので、長期の治療になると思ってください。入院は1-2ヶ月になる見込みです。陰影が改善しない場合は別の原因も考える必要が出てくると思われます。

※入院から約1ヶ月後に解熱を認め、退院となっています。

関連:非結核性抗酸菌症(NTM)とは?原因菌、症状、診断、治療まとめ!

【胸部】症例36の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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