
【頭部MRA】症例29
【症例】40歳代男性
【主訴】ふらつき、後頚部痛
【現病歴】10日程前から左優位両側に後頚部に鈍痛があり、片頭痛を発症したのかと思っていた。肩こりもあり、マッサージ店に行ったが改善しなかった。1週間程度持続したが徐々にましになっていた。一昨日、ランニングと筋トレをした後、突然ふらつきはじめ歩くと酔っ払ったように左に傾くようになった。浮遊感のあるめまいも自覚した。その後会社に出勤してから、再度ふらつきとめまいを認めた為、独歩で当院神経内科受診。
【既往歴】高尿酸血症
【内服薬】アロプリノール
【生活歴】飲酒、喫煙なし。
【身体所見】体温 36.4℃、血圧 161/103mmHg、脈拍 75bpm、意識清明、継ぎ足歩行不可で、体幹失調あり。他神経学的所見に異常所見なし。
画像はこちら
左椎骨動脈は、一部は見えていますが、全体的に描出不良です。
低形成でしょうか?
低形成にしては、一部のみやや太い部分があったりと、非典型的ですね。
低形成の場合は、全体的に細くなります。
ですので、解離が疑われます。
元画像においても、左椎骨動脈は外形は認めるものの血流を示唆する高信号を認めていません。
また解離腔を疑う高信号ー低信号境界部位があることがわかります。
低形成なのか、椎骨動脈解離なのかを判断するにはMRAとBPASを比較することが重要でしたね。
すなわち、
- MRAで細い、かつ、BPASでも細い→本当に細い=低形成
- MRAで細い、かつ、BPASでは太い→本当は太いけど、血流のある部位が細い=椎骨動脈解離
と判断することができます。
今回もBPASが撮影されていますので見てみましょう。
すると、BPASでは、左の椎骨動脈は低形成どころか、むしろやや不整な数珠状の拡張を認めており、MRAとは大分見え方に差があることがわかり、椎骨動脈解離が疑われます。
またSWIでは、拡張した左椎骨動脈は無信号として認めており、解離腔内の血栓が疑われます。
同日にCTAが撮影されました。
CTAでも左の椎骨動脈はごく軽度の造影効果があるだけで、不整な拡張を認めていることがわかります。
椎骨動脈に解離を起こし、解離腔に血栓があることが示唆されます。
診断:左椎骨動脈解離
※入院当日はDWIなどで脳梗塞を疑う所見は認めませんでしたが、ふらつきの症状が持続していたことから、脳梗塞が疑わしいと診断され加療されました。翌日MRIでは左小脳半球に多発する梗塞巣が出現しました。治療開始後、症状増悪なく経過良好であり、入院から2週間程度で退院となっています。
関連:
【頭部MRA】症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回、所見にはっきりと記載しませんでしたが、偽腔閉塞型か開存型かを所見として記載するべきだったと反省しました。
アウトプットありがとうございます。
調べたわけではなくイメージですが偽腔閉鎖型がこの部位では多い印象ですね。
プロトン密度強調画像でpica領域血管がどちょうしているのを見て、やはり、プロトン密度強調画像はいいですね。bpas も含め、無くてはならないですね。ありがとうございました
アウトプットありがとうございます。
磁化率強調像(SWI)ですね。
血栓や出血、怒張した静脈などの拾い上げに良いですね!
症状や画像が特徴的だったため、分かりやすかったです。久々に正解した気がします。
アウトプットありがとうございます。
>症状や画像が特徴的だったため、分かりやすかった
よかったです。頻度も高いですし、押さえておきたい疾患ですね。
椎骨動脈の描出不良>低形成or解離を疑う>bpasで確認というルーティンが出来ているので、今回はもっと他に何かあるのか逆に悩みました(笑)。
アウトプットありがとうございます。
完璧なルーティンですね。
そのルーティンでしっかりできる症例です!
MRAとBPASSの違いだけでなく、それぞれの描出のされ方からも解離を示唆するのですね。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
正常であっても径がやや異なることもありますが、解離を疑うのはどういう違いなのかを覚えておいてください。
MRIを行ったらCTAなどは撮像しても意味がないような気がするのですが、CTAがMRIを上回る利点があるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>CTAがMRIを上回る利点があるのでしょうか。
大きくありますよ。
MRAは例えば上下方向を向いていない動脈の場合、実際は狭窄はないのに狭窄があるように見えてしまう=過大評価をすることもあります。
実際の血流を画像化したものではないということです。
ですので、MRA、MRI撮影のあと、本当のところを観察するために
・CTA
・脳血管造影
いずれかが必要です。
いつもありがとうございます。CTA画像165-177のスライスで左小脳半球が硬膜の縁に沿って高吸収域にみえますが、出血病変でしょうか?骨などの正常構造が白くみえるだけでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
どこのことをおっしゃっているのかよくわからないのですが、左小脳半球の背側に見えているのは静脈洞(横静脈洞)ですね。
BPASは外形をうつしだしているので、つい正常の椎骨動脈の外形をイメージしてしまっていたんですけど、よく考えたら、解離が起こっているんだから、正常よりも拡張している場合もあるってことですよね。
あと、SWIですが、無信号なので解離腔内の血栓が疑われるとありますが、他の血管も無信号に見えるのですが、どのように見分けたらよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>よく考えたら、解離が起こっているんだから、正常よりも拡張している場合もあるってことですよね。
解離が起こると外形を見るBPASでは正常よりも(数珠状などの)拡張することが多いです。
>SWIですが、無信号なので解離腔内の血栓が疑われるとありますが、他の血管も無信号に見えるのですが、どのように見分けたらよいのでしょうか?
・基本的にSWIで見える血管は動脈ではなく静脈
・左椎骨動脈だけ明らかに太くて無信号を認めている→塞栓子がある(いわゆるsusceptibility sign)
と言う点で鑑別します。
SWIは基本的には静脈が見えているんですね(;^_^A
なるほど、susceptibility signですね。
脳梗塞のときの還流静脈の拡張したSWIを思い出して、納得した気がします。
アウトプットありがとうございます。
>SWIは基本的には静脈が見えているんですね(;^_^A
そうですね。
>なるほど、susceptibility signですね。
拡張した静脈ではなく、詰まった血栓の無信号が強調されているのがこのサインですね。
(私が誤用してたやつです)
なるほど。これがsusceptibility signですね。
SWIで見えている血管は静脈なのですね。
症例24でもSWIで血栓の指摘なされていましたね(^_^;)
今まで撮影した椎骨動脈解離の患者さんのSWIを見返してみることにします。
mikiさんのおっしゃられてるSWIで小脳の低信号の増強が還流静脈である皮質静脈の拡張を反映しているとのコメント、今までやってきたことがつながってとても腑に落ちる感じがしました。
アウトプットありがとうございます。
>症例24でもSWIで血栓の指摘なされていましたね(^_^;)
です。これがsusceptibility signです。
>mikiさんのおっしゃられてるSWIで小脳の低信号の増強が還流静脈である皮質静脈の拡張を反映しているとのコメント、今までやってきたことがつながってとても腑に落ちる感じがしました。
そうですね。この後小脳梗塞を起こしたと言う点で合致しますね。
ありがとうございました。
MIP像で内頸動脈錐の体部と頸部の境界域あたりに低信号域を認めますが、これは血流の方向の関係で発生しているアーチファクトですか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
この部位やMCA分岐部などは水平方向や時に尾側方向に血管が向くことがあるのでMRAでは薄くなってしまいますね。
今回はCTAがあるので該当部位に狭窄などはないことを確認できますね。
頭部MRA講座前半に学んだ椎骨動脈低形成・解離の見分け方がここで活きて嬉しいです。
SWIで左小脳PICA領域の還流静脈の低信号の増強がありますが、これは椎骨動脈解離による虚血を表しているのでしょうか?
当日のDWIでは梗塞像がはっきりせず、翌日に左小脳半球に多発する梗塞巣があったとのことですが、SWIでの低信号増強がDWIに先立って小脳梗塞を反映していた可能性はあるのでしょうか…?
アウトプットありがとうございます。
>SWIで左小脳PICA領域の還流静脈の低信号の増強がありますが、これは椎骨動脈解離による虚血を表しているのでしょうか?
先ほど別の質問に答える際に同じこと(左小脳PICA領域の還流静脈の低信号の増強)を感じました(^_^;)
>当日のDWIでは梗塞像がはっきりせず、翌日に左小脳半球に多発する梗塞巣があったとのことですが、SWIでの低信号増強がDWIに先立って小脳梗塞を反映していた可能性はあるのでしょうか…?
確かに!!!おっしゃるとおりだと思います。還流静脈の拡張で、この後起こる梗塞を示唆している所見ですね。
すみませんそもそもなのですが…ACA、MCAなど他の領域で狭窄があっても解離を疑わないのに椎骨動脈だけは(すぐに?)解離を疑うのはなぜでしょうか?
すみませんそもそもなのですが…ACAやMCAで狭窄があっても解離を疑わないのに椎骨動脈だけは(すぐに?)解離を疑うのはなぜでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
ACAやMCAでも解離の可能性は考えますし、解離のこともありますが、頻度の問題ですね。
若めの方で後頭部痛、後頸部痛となると椎骨動脈解離を除外する必要があります。
狭窄型と動脈瘤型についてあまりよく分かっていないのですが、画像上の見分け方など(動画で説明していらっしゃった分布以外に)ございますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
分布がヒントになりますが、それ以外での形状では鑑別はできないと考えます。
左椎骨動脈の病変を動脈硬化性の狭窄と考えてしまいました。画像上、狭窄と乖離を区別する方法はBPASでの拡張所見以外にありますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
動脈硬化の場合は、左椎骨動脈だけに起こることはあまりなく、両側内頸動脈や中大脳動脈など全体的に広狭不整となることが多いです。
また今回の画像では、左椎骨動脈の一部で血流が途絶しておりますので、そういった所見も動脈硬化ではあまり見られません。