
【頭部】症例51
【症例】70歳代 女性
【主訴】左拍動性頭痛、左眼の違和感、左方視時の複視
【現病歴】若い頃から頭痛があるも、最近はおさまっていた。高血圧加療中。2ヶ月前より上記主訴が持続し、ロキソニンなどで軽快を認めないため、地域より紹介受診となる。
【身体所見】意識清明、側頭動脈の怒張なし、脳神経領域:異常なし、四肢麻痺:なし、協調運動:異常なし、歩行:異常なし
画像はこちら
MRI
頭部CTでは特記すべき異常所見は認めていません。
MRIを見てみましょう。
MRAの元画像で左の内頸動脈海綿静脈洞部の周囲の海綿静脈洞に異常な高信号を認めていることが分かります。
MIP像でも左内頸動脈(海綿静脈洞部)周囲に高信号を認めています。
これは、動脈血流が、海綿静脈洞内に漏れ出ていることを示唆する所見です。
※静脈血が逆流している際にも認めることがあります。
MRAの元画像で海綿静脈洞から追っていくと、ややわかりにくいですが左の上眼静脈が拡張していることがわかります。
またその目で見てみると、T1WIおよびT2WIでもこの左上眼静脈が拡張している様子を確認することが出来ます。
内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の前方型を疑う所見です。
脳外科に紹介となり、脳血管造影検査が施行されました。
まずは左内頸動脈造影です。
左の内頸動脈造影でわずかに海綿静脈洞の造影効果を認めています。
ただし、左上眼静脈の拡張・描出ははっきりしません。
続いて、左外頸動脈造影です。
複数の血管から海綿静脈洞の造影効果を認めており、還流していく様子がわかります。
つまり内頸動脈→海綿静脈洞へ瘻孔のみでなく、外頸動脈→海綿静脈洞への瘻孔も認めており、むしろ後者が多いということが血管造影でわかります。
内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)には、
- 関与する動脈から内頸動脈本幹に瘻孔を形成=直接型
- 内・外頸動脈の硬膜枝が関与=間接型
に分類されるのですが、今回は後者であり、海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)という表現が適切とされます。
以下脳外科の脳血管造影の検査レポートです。
【血管造影検査】
3 Vessels study(lt.ICA、ECA、rt.CCA、lt VAG)
①左外頸動脈(lt.ECA):中硬膜動脈(MMA)→海綿静脈洞(CS)、副硬膜動脈(AMA)→海綿静脈洞(CS)、正円孔動脈(artery of foramen rotundum)→海綿静脈洞(CS)
②左内頸動脈(lt.ICA):硬膜下垂体動脈(MHT:meningohypophyseal artery)→海綿静脈洞(CS)
③左総頸動脈(rt.CCA):アプローチ困難でありpoor study も海綿静脈洞(CS)描出
海綿静脈洞(CS)→蝶形頭頂静脈洞(sphenoparietal sinus)→sylvian vein→Labbe静脈(vein pf Labbe)→横静脈洞(TS)
硬膜動静脈瘻を認め、Barrow typeD、Borden typeⅡ、Connard typeⅣであった。
脳表静脈への逆流を認めており、治療適応であるが、現在のところ、症状は軽度であり、治療により神経症状が増悪する可能性もあることを説明し、治療方針を家人と相談し決めていく方針として退院となった。
診断:海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)(内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF))
関連:
【頭部】症例51の動画解説
【補足】内頸動脈と海綿静脈洞の位置関係
注意:今回の症例とは別症例です。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
DWIおよびT2で左中小脳脚に見られる高信号は、動静脈瘻による二次性変化でしょうか?
>動静脈瘻による二次性変化でしょうか?
とは関係がないと思います。ADCがないのですが、DWIの高信号はT2 shine throughによる影響が疑われます。
今日もありがとうございます。
このところ異常所見には気づくものの診断までたどり着けない事が多く悔しいです。この知識をどんどん蓄積して次に同じような画像を見た際には自信をもって診断までたどり着きたいです。
まずは異常所見に気づけることが重要です。
上眼静脈の拡張はもっと見やすい良い症例があればよかったのですが、探してもこれくらいしかありませんでした。
恥ずかしながら解剖が頭に入っていませんでした。内頸動脈と海綿静脈洞は隣接しているのかと思ったら静脈内を動脈が貫いているのですね。だから直接型は動脈の破綻=瘻孔になると。動脈瘤等で動静脈が長期接触することで瘻孔を形成するのだと勘違いしていました。CCFやDural AVFの区別もかなり曖昧でしたのでスッキリしました。
よく観察すれば間違えようがないのかもしれませんが、パッと見だと遺残血管かなくらいで軽く流してしまう場合もあるのかなと感じました。血管変異やCCFの随伴所見・症状もしっかり頭に入れて読影していきます。
アウトプットありがとうございます。
>内頸動脈と海綿静脈洞は隣接しているのかと思ったら静脈内を動脈が貫いているのですね。だから直接型は動脈の破綻=瘻孔になると。
おっしゃるとおりですね。確かに不思議な構造ですね。
>パッと見だと遺残血管かなくらいで軽く流してしまう場合もあるのかなと感じました。血管変異やCCFの随伴所見・症状もしっかり頭に入れて読影していきます。
ここの海綿静脈洞のMRAでの描出は正常変異の場合もありますので、即病的とはできないので注意が必要です。
海綿静脈洞の解剖のイメージがいつもうまく理解できないのですが,今回のシェーマはわかりやすかったです.診断だけでなく,そのときの随伴所見も確認するようにしようと思います.
アウトプットありがとうございます。
>海綿静脈洞の解剖のイメージがいつもうまく理解できない
同じくここはもともとあまりイメージがつきにくかったです。
MRIで「ここの信号おかしいなあ」までは気付くのですが、表現方法がわかりませんでした。こういう時にいつも放射線科医って凄いなぁと感じます。問題と直接関係ないコメントですみません
アウトプットありがとうございます。
>表現方法がわかりませんでした
表現しようとしたことがあるかどうかが重要でもありますね。
とはいえ、表現に悩むことは多いです(^_^;
病歴が内頚動脈海綿静脈洞瘻っぽいなと思いましたが、MRA以外での異常所見の指摘は難しかったです。
解剖の授業で上眼静脈が出てきた時は、”これを覚えて何の意味があるの?”と生意気に思っていましたが、重要ですね^^;
本疾患を疑った時はMRAを積極的にオーダーしようと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>解剖の授業で上眼静脈が出てきた時は、”これを覚えて何の意味があるの?”と生意気に思っていましたが、重要ですね^^;
そうですね。この疾患では非常に重要な血管ですね。
上眼静脈には弁がなく、海綿静脈洞と直接連続しているので、頭蓋内圧が容易に上眼静脈に反映されます。
CCF、上大静脈症候群、頭蓋内圧亢進などで拡張することが知られています。
正常では見えないことが多いですね。
あとは、
・急性副鼻腔炎など炎症波及で上眼静脈に血栓ができることがある
・Tolosa-Hunt症候群で海綿静脈洞〜上眼静脈に肉芽腫が形成されることがある
くらいですかね。
画像診断で出てくるのは。
中でもCCFが最も有名ですね。
参考:
頭頸部画像診断に必要不可欠な臨床、画像解剖 画像診断 P15-16
補足ありがとうございます。
副鼻腔炎で上眼静脈に血栓が出来るなんて意外でした。ありがとうございますm(__)m
内頸動脈海綿静脈洞部の周りが高信号だったので、内頸動脈海綿静脈洞瘻なんだろうなと考えました。
正確には、海綿状静脈洞部の硬膜動静脈瘻なのですね。
以前、d-AVFの患者さんも来られたことがあるのですが、どちらもうる覚えなので覚えなおします。
延長戦、今日からまたよろしくお願いします。
1症例1症例大切に勉強させてもらいます。
しかし、ドラフト番組に画像を使われるなんて最高ですね!!
アウトプットありがとうございます。
>正確には、海綿状静脈洞部の硬膜動静脈瘻なのですね。
これは脳血管造影をした結果的にはということですね。
>延長戦、今日からまたよろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします(^^)
>しかし、ドラフト番組に画像を使われるなんて最高ですね!!
サイトを運営しているとたまーに声がかかります。
今回開催中のまさに頭部のネタでちょうどよかったです。
いつもお世話になっています。複数有りますので上から順に示します。
脳血管造影検査のリンクの少し前に「内頸静脈海綿静脈洞瘻(CCF)の前方型を疑う所見です。」と有りますが「内頸”動”脈海綿静脈洞瘻(CCF)の前方型を疑う所見です。」の単なる誤植ではないでしょうか?
また「内頸動脈海綿状脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)には、
関与する動脈から内頸動脈本幹に瘻孔を形成=直接型
内・外頸動脈の硬膜枝が関与=間接型
に分類されるのですが、今回は後者であり、海綿状静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)という表現が適切とされます。」と有りますが「内頸動脈海綿”静”脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)」「海綿””静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)」のそれぞれ単なる誤植ではないでしょうか?
更に「診断:海綿状静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)(内頸動脈海綿状脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF))」と有りますが「診断:海綿””静脈洞部の硬膜動静脈瘻(dural AVF)(内頸動脈海綿”静”脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF))」のそれぞれ単なる誤植ではないでしょうか?
最後に「関連:
硬膜動静脈瘻の画像診断(dural arteriovenous fistula:AVF)
内頸動脈海綿状脈洞瘻(CCF)の画像診断のポイントは?」と有りますが「内頸動脈海綿”静”脈洞瘻(CCF)の画像診断のポイントは?」の単なる誤植ではないでしょうか?
以上の6箇所が誤植ではないかと存じます。いかがでしょうか?
ありがとうございます。
すべて修正しました。
迅速なご対応ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。