
【頭部】症例38-1
【症例】60歳代女性
【主訴】特になし
【現病歴】糖尿病にて当院かかりつけ。脳梗塞の既往があり、1年ごとにの経過観察。
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MRI
左基底核下部にT2WI高信号、FALIRで抜けあり・周囲に軽度高信号を認めています。
同じ部位をMRAの元画像で確認すると内部に血管が走行している様子が分かります。
これは陳旧性脳梗塞ではなく、血管周囲腔を疑う所見です。
その他所見:
- 両側後大脳動脈に狭窄あり。
- 脳底動脈・左中大脳動脈に窓形成(fenestration)あり。
- 右小脳半球に陳旧性微小梗塞あり。
【頭部】症例38-2
【症例】50歳代男性
【主訴】特になし。
【現病歴】高血圧にて当院かかりつけ。スクリーニング目的。
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MRI
こちらの症例では、両側の海馬にT2WIで高信号で、FLAIRで抜けている構造が並んでいます。
これも陳旧性脳梗塞ではなく、血管周囲腔の一つで、遺残海馬溝と呼ばれる正常変異です。
また、両側大脳半球皮質下白質~深部白質に多数の高信号の線状〜楕円形状構造を認めています。
これらもいずれも血管周囲腔を疑う所見です。
ただし、左小脳半球には2箇所、陳旧性脳梗塞を疑う所見を認めています。
これは場所からも血管周囲腔ではないので注意しましょう。
その他所見:右IC-PCに漏斗状拡張あり。
【頭部】症例38-3
【症例】70歳代男性
【主訴】1ヶ月前に右視野が真っ暗になった。
【現病歴】上記主訴にて、TIAが疑われ、地域かかりつけ医からの紹介にて撮影。
【既往歴】高血圧、高尿酸血症
【内服薬】フェブリク、ブロプレス、コニール、カルデナリン
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MRI
まず右視床に陳旧性のラクナ梗塞を認めています。
両側基底核にはT2WIで多数の高信号を認めていますが、FLAIRでは一つ一つの周囲には異常な高信号は認めていません。
これもいずれも血管周囲腔を疑う所見であり、このように基底核全体に認めることがあるので覚えておきましょう。
また右側側脳室周囲白質に陳旧性脳梗塞を疑う所見あり。
このレベルでもT2WIでは血管周囲腔を疑う線状構造を多数認めていますね。
この症例でも先ほどの症例と同じように、T2WIで皮質下白質-深部白質に多数の線状構造、点状の高信号を認めています。
いずれも血管周囲腔を疑う所見です。
ただし、放線冠-半卵円中心レベルの皮質下白質にFLAIRで周囲高信号で、内部が抜けている場所が複数あります。
これらの部位には深部白質変性に加えて微小な陳旧性脳梗塞が混在していることが示唆されます。
※逆に言えば、このようなFLAIRでの抜けを認めない場合は、脳梗塞と言ってはいけません。
ラクナ梗塞、白質病変、血管周囲腔の関係は以下の通りでした。
ラクナ梗塞 | 白質病変 | 血管周囲腔 | |
T1強調像 | 低信号 | 等〜低信号 | 等〜低信号 |
T2強調像 | 明瞭な高信号 | 高信号 | 高信号 |
FLAIR | 等〜高信号 時に、低信号 |
明瞭な高信号 | 等〜低信号 |
周囲 | T2WI,FLAIRにて不規則な高信号 | 周囲に高信号を伴わない。 | |
その他 | 最大径3mm〜15mm | 3mm以下 |
上にあるように、血管周囲腔と陳旧性ラクナ梗塞の違いとして、周囲に高信号を伴うかどうかというのが非常に重要となります。
しかし、血管周囲腔と思われる場合でも周囲にFLAIRで淡い高信号を伴うことはあり、完全に鑑別できるものでもありません。
ということで、脳梗塞との鑑別が問題になることがある血管周囲腔について3症例取り扱いました。
- 症例38-1→被殻の下部で目立つ症例
- 症例38-2→前頭葉・頭頂葉の皮質下白質で目立つ、遺残海馬溝が目立つ症例
- 症例38-3→両側基底核で目立つ症例
という、いずれも典型的な症例ですので、この機会に押さえておいてください。
38-3その他所見:
- MRAでは全体的に動脈硬化あり。
- 右前大脳動脈(ACA),中大脳動脈(MCA)分岐部間に窓形成あり。
- 右内頸動脈(ICA C2)に内側に突出する嚢状動脈瘤あり。
- 椎骨動脈は右優位。
【頭部】症例38の動画解説
3症例まとめて解説しています。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今日もありがとうございます。
かなりボリューミーでした。そして見事に血管周囲腔を陳旧性脳梗塞としたり、陳旧性脳梗塞の所見の拾い漏れがありました。これを機にしっかり覚えて臨床に還元したいです。
アウトプットありがとうございます。
血管周囲腔の典型例3症例でしたので、これを機に場所から脳梗塞よりは血管周囲腔じゃないか?と言えるようにしましょう。
以前の問題でもありましたが、T2で高信号、FLAIRで低信号のもを何でも陳旧性脳梗塞にしてはだめと言うことですね…反省します。内部の血管影の確認をしっかり行いたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>T2で高信号、FLAIRで低信号のもを何でも陳旧性脳梗塞にしてはだめと言うことですね
そういうことです。過剰に取ってははいけないということですね。
なんでも白質変性まで陳旧性脳梗塞にして、脳外科や神経内科の外来に回されるとパンクしてしまうということですね。
今回の症例のようにT2で連続性のある信号は血管周囲腔なんですね。よく出会いますが病変ではなさそうだし、流れが遅くてFlow voidしなかった血管なのかなと思っていました。
梗塞後変化との鑑別についてもよく復習しておきます。
アウトプットありがとうございます。
>よく出会いますが病変ではなさそうだし
そうなんです。その目で見てみるとかなりの高頻度で認める所見です。
ぜひ復習しておいてください。
比較的狭い範囲に所見が多発しますし、区別するのはなかなか難しいですね^^;
ただし「血管周囲腔」というものをちゃんと勉強したことがなかったので、こういう所見を呈するということを学べたのは大きいかな、と思います。
それはよかったです!!
脳梗塞と紛らわしいものの一つとしてこの血管周囲腔がありますので、この機会に覚えておいてください。
いつもなんとなく病的でないだろうとスルーしてしまいますが,梗塞との区別をしっかり学ぶことができてよかったです.
アウトプットありがとうございます。
完全に区別できないこともありますが、典型例をまずは押さえておいてください。
動脈瘤など血管異常シリーズかと思いMRAばかりみてしまいました。いつも勉強になります。
血管周囲腔シリーズでした。
よく見る所見ですので、この機会に覚えておいてください。
こんにちは。毎日勉強になります!ありがとうございます!
以前の症例でも伏線を張っていただいていたので、陳旧性脳梗塞、白質変性、血管周囲腔の鑑別の仕方はわかっていました。しかし細かな所見を丁寧に拾うことはできなかったです。
38−1、38-2のDWIで脳全体がものすごく高信号なのが動画解説のときと異なる気がするのですが、表示の仕方の違いですか?それとも何か起こっているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>38−1、38-2のDWIで脳全体がものすごく高信号なのが動画解説のときと異なる気がするのですが、表示の仕方の違いですか?それとも何か起こっているのでしょうか?
b0の画像が入っていますね。最初のシリーズは無視していただいて結構ですが、画像を消しますね。
これだけ提示していただくと
覚えるのが早くなります!
かなりしんどかったですがやりきりました!間違い多いですけど…
また質問なのですが
症例38-1 で
左の中大脳動脈に窓形成ありそうなのですがいかがでしょうか?
症例38-2は
右IC-PC辺りに動脈瘤?漏斗城拡張の様なものが見えるのですが、
どうでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>これだけ提示していただくと覚えるのが早くなります!
それはよかったです!(^o^)
>症例38-1 で
左の中大脳動脈に窓形成ありそう
おっしゃるようにありますね。追記します。
>症例38-2は
右IC-PC辺りに動脈瘤?漏斗城拡張の様なものが見えるのですが、
どうでしょうか?
こちらもありますね。
向きや先端から?血管構造が見えており漏斗状拡張でよさそうですね。
いつも大変勉強になっております。
ありがとうございます。
今回症例38-1 ADCmapで橋、中脳腹側のADC値が低下して見える気がしますがこれらはアーチファクトなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
辺縁であり、DWIでは異常所見は認めておらずおっしゃるようにアーチファクトでよいと考えます。
いつもありがとうございます。
確認なのですが、解説動画の中で先生がおっしゃっている被殻の上、下というのは、軸位断における腹側、背側という意味でよろしいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>確認なのですが、解説動画の中で先生がおっしゃっている被殻の上、下というのは、軸位断における腹側、背側という意味でよろしいのでしょうか?
ではなくて、頭側、尾側という意味です。
冠状断像(もしくは矢状断像)で
被殻の上(頭側)2/3→ラクナ梗塞の好発部位
被殻の下(尾側)1/3→血管周囲腔の好発部位
ということです。
いつも大変勉強になっております。
2点質問(いずれも症例38-3)ですが、
・脳底動脈の先端から出ている左右の枝は上小脳動脈でしょうか?両側の後交通動脈が発達しており、後大脳動脈P1は低形成なのかと思いました。
・右の中大脳動脈と前大脳動脈の分岐部付近がなんか入り組んでいるようにみえますが、これは正常変異(中大脳動脈重複起始?)なのでしょうか?
以上です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
>脳底動脈の先端から出ている左右の枝は上小脳動脈でしょうか?両側の後交通動脈が発達しており、後大脳動脈P1は低形成なのかと思いました。
おっしゃるとおり両側上小脳動脈です。これだけ見ると後大脳動脈のように見えてしまいますが、両側後交通動脈経由で胎児型ですね。
>右の中大脳動脈と前大脳動脈の分岐部付近がなんか入り組んでいるようにみえますが、これは正常変異(中大脳動脈重複起始?)なのでしょうか?
入り組んでますね(^_^;)
中大脳動脈重複起始なのかもしれませんが、窓形成などの可能性もありますね。
いずれにせよ正常変異ですね。
いつも勉強になる症例を有難うございます。
一例目はempty sellaありますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
T2WIの8/24などを見るとありそうですね。
矢状断像が欲しいところですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/4361
38-2の右小脳半球の、T2WIの低信号域を陳旧性出血と読みました(FLAIRで低信号周囲の高信号域が目立たなかったので・・・・・)。
陳旧性ラクナ梗塞or微小出血はどのように区別したらいいんでしたっけ・・・・。
アウトプットありがとうございます。
>38-2の右小脳半球の、T2WIの低信号域を陳旧性出血と読みました
右小脳半球でT2WI低信号は認めていないような気がしますが、どこのスライスですか?
陳旧性出血の場合はおっしゃるようにT2WIで低信号として描出されることがあります。
T2WIよりもより低信号として出血が明瞭なのがSWI>T2*WIでしたね。
症例38-3にてT2WIの10スライス目の画像で、右内頸動脈が視交叉付近を圧迫しているような印象を受けたのですが、これは正常範囲内ということでよろしいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
接してはいるように見えますが、おっしゃるように正常範囲です。