
【頭部】症例36
【症例】50歳代男性
【主訴】右半身のしびれ、めまい、後頚部痛、右側視野異常
【現病歴】本日朝3時に仕事から自動車で帰宅時にめまいを認め、自動車を止めて休憩していたが、なかなか改善せずにタクシーで帰宅。その後就寝し、10時に起き症状の改善を認めず、右顔面を含む右上下肢のしびれ感を認めたため救急要請。
【既往歴】脂質異常症
【内服薬】なし
【生活歴】飲酒 缶チューハイ500ml×3本、喫煙 40本×30年
【身体所見】JCS 0、BP 143/98mmHg、HR 80bpm、SpO2 96%(RA)、瞳孔径2.5mm/2.5mm、対光反射あり、右側上半分の視野がかけているような感じと。右上下肢の感覚障害は軽度、麻痺は認めず。
画像はこちら
MRI
まずは頭部CTから見ていきましょう。
頭蓋内出血や占拠性病変を疑う所見は認めませんが、左後頭葉に淡い低吸収域を認めています。
血管支配域としては左後大脳動脈(PCA)皮質領域であることがわかります。
新しい脳梗塞の可能性ありとして、MRIが撮影となりました。
MRIでは左の後大脳動脈(PCA)の皮質枝領域の一部に一致して拡散強調像(DWI)で高信号、ADC信号低下を認めています。
皮質は保たれています。
FLAIRでは梗塞部位に一致して高信号となっています。
SWIではちょっと微妙な所見ですが、還流静脈である皮質静脈に拡張があるように見えます。同部の血流低下を示唆する所見です。
撮影法 | 評価部位 | 正常の動脈血流 | 動脈閉塞 |
T2強調像 | 内頸動脈、椎骨脳底動脈、皮質動脈近位部 | flow void | flow voidの消失→高信号 |
MRA | 脳動脈全体 | TOF信号 | TOF信号の消失 |
FLAIR | 皮質動脈、脳底動脈 | 正常動脈は認識できない | intraarterial signal(塞栓子や血栓および末梢側の低灌流が高信号) |
T2*強調像 | 皮質動脈 | 正常動脈は認識できない | susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号) |
磁化率強調画像(SWI) | 皮質動脈 | 正常動脈は認識できない | susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号) |
還流異常領域からの還流静脈 | 正常静脈は低信号 | 還流静脈の低信号の増強(デオキシヘモグロビン濃度が上昇するため) |
ここまでわかる頭部救急のCT・MRI P263引用改変
※今回FLAIRにおけるintraarterial signalははっきりしません。
MRAでは左の後大脳動脈(PCA)のP2に狭窄を認めていることが分かります。
これが今回の梗塞の原因のようです。
診断:左後大脳動脈皮質領域の急性期脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞疑い)
※心房細動(Af)は認めませんでした。また心エコーで血栓を認めず、頸動脈エコーでもプラークは認めませんでした。
※後大脳動脈(PCA)のアテローム硬化による血栓性の他、解離の可能性も考えられました。
※右半身の感覚障害は改善し、右上1/4盲を残して2週間後に退院、外来フォローとなっています。
症例35の前大脳動脈皮質枝領域ほど皮質枝領域全部というわけでありませんが、この症例では、後大脳動脈皮質領域がどこだったのかを復習しておいてください。
関連:
【頭部】症例36の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
めまいや後頚部痛から小脳梗塞に違いないと思いましたが間違えました。
梗塞領域は完全にMCAからの分岐かと思ってしまい、MRAでもMCA中心に見て狭窄や信号低下もなく、分類不能のアテローム性脳梗塞と間違えました。栄養する領域の確認をしっかりします。
また、CTでも信号低下があるので、仮にCTだけだったとしても確実に指摘できるように復習して目に焼きつけておきます。
アウトプットありがとうございます。
>栄養する領域の確認をしっかりします。
MCA領域とACA領域はなんとなくわかりやすいが、PCA領域は少しわかりにくいかもしれませんね。
頻度的にもMCAが多いですし。
>CTでも信号低下があるので、仮にCTだけだったとしても確実に指摘できるように復習して目に焼きつけておきます。
そうですね。MCA領域以外にもこのように低吸収域として生じることがありますので、注意深く左右差を意識してみていきましょう。
今回、SWIでの灌流異常の指摘は難しかったです。脳梗塞があるとわかっているので、灌流異常を指摘してもよかったのですが…。
アウトプットありがとうございます。
>SWIでの灌流異常の指摘は難しかったです。
今回は微妙ですね。指摘は困難で有意な所見なしでも良いかと思います。
今日もありがとうございます。
後頚部痛があったので動脈解離もあるのか悩ましかったです。
SWIでもsusceptibility signがあるような無いような悩ましい一例でした。
CTでもわかりやすい後大脳動脈支配領域の梗塞なので、ここでしっかり復習して臨床にフィードバックしたいです。
アウトプットありがとうございます。
>後頚部痛があったので動脈解離もあるのか悩ましかったです。
そうですね。症状からは解離の可能性も考慮にいれて画像を見ていきたいですね。
>SWIでもsusceptibility signがあるような無いような悩ましい一例
この所見はぶっちゃけ微妙ですね。
>CTでもわかりやすい後大脳動脈支配領域の梗塞なので、ここでしっかり復習して臨床にフィードバックしたいです。
そうですね、PCA支配領域はどこだったのかという点を中心に復習しておいてください。
ありがとうございました。複数のシーケンスの組み合わせを考えるのに自分の実力がまだ足りません。復習しながら頑張りたいです。
アウトプットありがとうございます。
今回はとくに初回の画像は難しかったですね。
脳梗塞画像診断のもう山は越えていますのでゆっくり復習してください。
MRAの評価が未だに難しいです。特に、後ろの領域に行くほど全体的に細めになってくるので、なおさら狭窄の評価がしにくい気がします。
CTの低吸収域も、MRIを見たあとに気づいた形になってしまいましたし、左頭部皮下に血腫ありとしてしまいましたし、まだまだ間違いが多いです。
当直帯で重要な所見を見逃さないように精進します(;’∀’)
アウトプットありがとうございます。
>後ろの領域に行くほど全体的に細めになってくるので、なおさら狭窄の評価がしにくい気がします。
そうですね。そのなかでも周りと比べて細くなっているかが重要ですね。
>当直帯で重要な所見を見逃さないように精進します(;’∀’)
MR firstの環境ならば、MRIで指摘できればいいのですが、他院にバイトに行ったりすると困るかも知れないので、
やはりCTもじっくり見るようにしましょう。
あまり遭遇したことのないPCAの脳梗塞だったので,支配領域の良い勉強になりました.
MRAはMIP像が見やすいですが,元画像は狭窄などなかなかうまく評価が難しいですね.
アウトプットありがとうございます。
>MRAはMIP像が見やすいですが,元画像は狭窄などなかなかうまく評価が難しいですね
MIP像+元画像の組み合わせで見ることが大事ですね。
小さな動脈瘤は元画像でしか見つからないこともありますし、逆に大きな動脈瘤も元画像でしか見つからないこともあります。
さらにT2WIのflow voidも組み合わせて確認したいところです。
おっしゃるように狭窄はまずはMIP像がわかりやすいですね。その後で元画像で確認という順番ですね。
こんにちは!本日もお世話になります。
CTの低吸収をしっかりと指摘することができませんでしたが、そのほかの所見はおおむね指摘できたように思います。
神経症候としては、
①右半身(顔面も含む)の感覚障害ということなので、左の視床頭頂路あたりにも影響が及んでいるのかとはじめ思ったのですが部位としては疑問が残ったので、ほかの可能性として後大脳動脈支配の視床に若干影響が及んでいることも考えました。
②右上視野の欠損については、後大脳動脈の閉塞により、視路のうち視放線の下方の線維が障害されたことによるものと考えました。
③めまいのメカニズムはよくわからなかったです。
アウトプットありがとうございます。
>CTの低吸収をしっかりと指摘することができませんでした
どうしてもまずはMCA領域に目が行きがちで、もちろんMCA領域からチェックするべきなのですが、今回のように他の領域でも淡い低吸収域を認めた場合は、新規脳梗塞の可能性があるということを覚えておきましょう。
>②右上視野の欠損については、後大脳動脈の閉塞により、視路のうち視放線の下方の線維が障害されたことによるものと考えました。
なるほどです。ありがとうございます。
久しぶりにコメントします。
ESPRESSO救急画像診断の頭部編は、めっちゃ苦労しています(汗)
知識がない上に、腹部と比較すると見慣れておらず、なかなか正解にたどりつけません。
本症例では、後大脳動脈の狭窄を閉塞と読んでしまいました。
まだまだ修行の日々です。
アウトプットありがとうございます。
>腹部と比較すると見慣れておらず、なかなか正解にたどりつけません。
何を持って正解とするかは頭部の場合は難しいところもありますね。
アテローム血栓性脳梗塞のように正解がないというか最終的には分からないものもありますし。
今回もそうですね。ある程度まで推測することができればOKだと思います
>後大脳動脈の狭窄を閉塞と読んでしまいました。
完全閉塞ならばより末梢の血流がなくなるのが通常ですね。
よろしくお願いします。
MRAで後大脳動脈の狭窄を指摘出来ませんでした。。病変から推測して注視すべきでした。
皮質が保たれている点もスルーし、アテローム硬化によるものとは指摘出来ませんでした。
支配領域も見直します。
・・・復習自体が追いついていなくてスミマセン!
アウトプットありがとうございます。
>MRAで後大脳動脈の狭窄を指摘出来ませんでした。。病変から推測して注視すべきでした。
ちょっと見にくい症例でしたね。
>支配領域も見直します。
early CT signの観点からもMCA領域が最重要なのでしょうけど他の支配域も大雑把に覚えておく、もしくは都度確認するようにしましょう。
脳の血管支配域症例と同じ部位でしたので、予習と復習が出来、これはさっき見た領域だなとニヤッとしてしまいました(笑)
視野の異常を認めていたので、後大脳動脈領域を意識して見ることが出来ました。
ただ、SWIは還流静脈の低信号の増強あるんだろうなと思いながら、反対に比べそこまで有意ではなさそうだったので、記入しませんでした。
基底核レベルでの後大脳動脈領域は把握していたのですが、脳底のあたりの支配域は覚えてなかったので、脳の血管支配域の症例を見ながら覚えようと思います。
アウトプットありがとうございます。
>脳の血管支配域症例と同じ部位でしたので、予習と復習が出来、これはさっき見た領域だなとニヤッとしてしまいました(笑)
まさにタイムリーでしたね(^^)
>SWIは還流静脈の低信号の増強あるんだろうなと思いながら、反対に比べそこまで有意ではなさそうだったので、記入しませんでした。
今回ちょっとSWIの静脈の拡張はそれほど目立たないですね。おっしゃるようにそこまで有意とはとれないかもしれません。
>基底核レベルでの後大脳動脈領域は把握していたのですが、脳底のあたりの支配域は覚えてなかったので、脳の血管支配域の症例を見ながら覚えようと思います。
そうですね。ACA領域、MCA領域あたりはわかりやすいですが、PCA領域で今回の範囲はちょっと支配域に悩むかもしれませんね。
心原性としてしまいました。
確かに皮質はやられてなかったです。
ちゃんと見直さにゃ。
アウトプットありがとうございます。
皮質は保たれていますが、かなり広範ですし、心原性の可能性も考慮されて精査されていますので、アテローム血栓性脳梗塞疑いではありますが、梗塞部位と血管支配域、あとはMRAで狭窄がある点に気づいていただければOKだと考えます。
頭部画像診断ですが、とりあえず学生中に詰め込んできた脳神経系の知識の整理ができてとてもあリがたく思います。
今回は病歴からmeyer loopに病変があるのかなぁという気持ちで見ていたら、CT にて左側頭葉あたりに低吸収域を見つけて所見を色々みつけることができたので、楽しかったです。
質問にお答えいただけたら嬉しいです。
– 右の側頭葉と後頭葉の一部の皮質領域にDWI low/ ADCmap highの陳旧性病変?のようなものがあるように思えたのですが、とりすぎでしょうか。
– 左のPCAの狭窄部位の手前に側副血行路のようにも見える血管があったので、アテローム血栓性の疑いが濃厚か、と考えたのですが、考えすぎでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>今回は病歴からmeyer loopに病変があるのかなぁという気持ちで見ていたら、CT にて左側頭葉あたりに低吸収域を見つけて所見を色々みつけることができたので、楽しかったです。
症状から病変部位を推測することは大事ですね。
>– 右の側頭葉と後頭葉の一部の皮質領域にDWI low/ ADCmap highの陳旧性病変?のようなものがあるように思えたのですが、とりすぎでしょうか。
FLAIRでははっきりしませんので、有意ではないと考えます。
>– 左のPCAの狭窄部位の手前に側副血行路のようにも見える血管があったので、アテローム血栓性の疑いが濃厚か、と考えたのですが、考えすぎでしょうか。
確かに右と比べると左に細かな血管が周囲に目立ちますので、その可能性はあると思います。