【頭部】症例20 解答編

【頭部】症例20

【症例】60歳代男性
【主訴】意識障害
【現病歴】アルコール性肝硬変でかかりつけ。10日前より食思不振あり、昨日来院。採血結果にてCRP上昇あり、点滴による栄養療法および原因検索にて入院となっていた。今朝6時頃にベッド横で倒れていると他の患者よりcallあり。看護師が診た時点でうつ伏せに倒れており動けない状態であった。
【既往歴】咽頭癌、食道がん、アルコール依存症
【身体所見】JCS-300、瞳孔4.5mm/4.5mm、対光反射 -/-  睫毛反射(-)

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左急性硬膜下血腫を認めています。骨折線はありません。

右側への著明な正中構造の偏位を認めています。

これまで見てきた中で最大の正中構造の偏位ですね。

このような偏位を認めたときに必ずチェックしなければならないのが、脳ヘルニアの有無です。

このスライスにおいても大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)を認めています。

大脳鎌下ヘルニアとは大脳鎌の下を通って反対側に脳実質が逸脱してしまうヘルニアです。

 

しかし、最も重要なのが鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア)の有無をチェックすることです。

これは側頭葉内側部である鉤や海馬傍回がテントから逸脱し、中脳を圧排するヘルニアのことです。

今回もかなり大きな鉤ヘルニアを認めており、中脳を圧迫している様子があります。

また脳幹周囲のくも膜下腔がほとんど見えない状態となっていたり、右側の側脳室(下角)が開いています。

これらも鉤ヘルニアを示唆する所見です。

鉤ヘルニアや大脳鎌下ヘルニアをチェックする上でぜひチェックしたいのが冠状断像です。

冠状断像ではこの

  • 大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)
  • 鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア)

の様子が上のようによくわかります。

中脳が右側に著明に圧排されている様子もわかります。

 

ところで、なぜこの鉤ヘルニアが重要なのでしょうか?

 

それはもちろん致死的となりうるからです。

 

鉤ヘルニアとは上の図のようにテントより下〜内側に側頭葉の内側である鉤や海馬傍回が逸脱してしまうヘルニアです。

これにより中脳が圧排され、

  • 意識障害
  • 動眼神経麻痺
  • 健側の四肢麻痺

の3徴候を引き起こし、さらに進行すると

  • 無呼吸
  • 血圧低下

となり死に至ります。

鉤ヘルニアにより中脳が反対側のテントに押しつけられ、中脳(大脳脚)が損傷を来すことがあり、これをKernohan切痕(Kernohan’s notch、カーノハン圧痕)といいます。

また、脳底部血管の穿通枝に牽引裂傷が生じて中脳に出血を生じるものをDuret出血(Duret hemorrhage、デュレー病変)といいます。

今回これらは明らかではありませんが、かなり右側に中脳は押しつけられています。

 

診断:左急性硬膜下血腫による切迫脳ヘルニア鉤ヘルニアおよび大脳鎌下ヘルニア)

 

※緊急血腫除去術の対象となります。

関連:危険な切迫性脳ヘルニアとは?CT画像診断のポイントは?

その他所見:

  • 大脳鎌および左テント沿いにも硬膜下血腫あり。
  • 両側上顎洞に粘膜肥厚あり。
【頭部】症例20の動画解説


お疲れ様でした。

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