
【頭部】症例2
【症例】40歳代女性
【主訴】意識障害、頭痛、嘔吐
【現病歴】会社で昼食後に突然の後頭部痛を自覚、意識障害、嘔気、嘔吐もあり、救急搬送された。
【身体所見】BP 141/88mmHg、HR 76bpm、BT 35.6℃、SpO2 98%(RA)、JCS 20、GCS E3V5M6、pupil 3mm/3mm、対光反射+/+、明らかな運動麻痺、感覚障害なし。
画像はこちら
くも膜下腔に広汎なくも膜下出血を認めています。
脳底部では、鞍上槽、大脳谷槽、脚間槽、迂回槽および、脳表に高吸収な血腫を認めています。
鞍上槽の血腫の様子は、五角形の形をしていることから、ペンタゴンとか、ヒトデ型と呼ばれることがあります。
また、両側側脳室後角が40歳代という年齢を考慮すると開いていることがわかります。
参考:
水頭症を示唆する所見です。(人が笑っているように見えるため、Niko-Niko sign(ニコニコサイン)と呼ばれることもある。)
血腫は脳底部では概ね左右対称でしたが、Sylvius裂レベルですと右優位であることがわかります。
またこのレベルでは中脳周囲のくも膜下腔がはっきりせず右優位に全周血腫で取り囲まれていることがわかります。
診断:くも膜下出血
さて、くも膜下出血を認めた場合、脳外科コンサルトで終わりでもよいのですが、できたら、次にチェックするべきはどこの動脈瘤が破裂しているのかを推測することです。
原因動脈瘤を推定する方法
原因動脈瘤を推定する方法としては、
- クモ膜下出血の部位
- 脳実質内血腫の部位
- filling defect sign
が知られており、中でも、2が最も正診率が高いとされます。
逆に(1)がはずれることがあることを知っておきましょう。∵SAHは急速に脳脊髄液と混ざり拡散し、教科書的な分布にならないことも多く、体位により移動するため。
今回は、2の脳実質内血腫は認めていません。
また、3のfilling defect signは血腫の中で動脈瘤が黒く抜けて見えるという所見ですが、今回ははっきりしません。
となると、1のくも膜下出血の部位、つまり、血腫の分布から推測するということです。
今回は右のSylvius裂に血腫を多く認めています。
動脈瘤の好発部位は以下の通りです。
右にSylvius裂に血腫を多く認めているということから、
- 右の中大脳動脈分岐部動脈瘤の破裂が第一候補
になりますね。
脳外科で血管造影がされました。
右の中大脳動脈の分岐部に嚢状動脈瘤(大きさ4.3mm)を認めており、blebも認めています。
同部の破裂と診断され,クリップ治療が行われました。
発症から1ヶ月後に独歩で退院となりました。
治療後18日後のフォローのCTです。
右の中大脳動脈の分岐部にクリッピングが残っています。
また右の頭頂葉から後頭葉に低吸収域を認めており陳旧性脳梗塞が疑われます。
脳血管攣縮期に、エリル、輸液にて対策をしていたが、術後7日後の脳血管撮影検査で末梢循環は保たれていたものの、両側中大脳動脈(MCA)に軽度狭窄を認めており、これによる脳梗塞が疑われます。ただし、症状はとくに認めないと記載があります。
診断:くも膜下出血(右中大脳動脈分岐部動脈瘤破裂による)
関連:クモ膜下出血(SAH)の原因動脈瘤を探す3つのポイント!
その他所見:とくになし。
【頭部】症例2の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回は、診断名自体は難しくないけど…というパターンですね。
立体構造が苦手で、MRAで瘤を探すのがとにかく苦手でした。画像診断cafeを知ったきっかけでもあるのですが(^^)
出血の分布で瘤の局在の参考になる、というのは役立ちそうですね!
ちなみに五角形のサインは、何かの参考書に「ダビデの星」という表記がしてあり、それで覚えていましたが、宗教的なところもあるからなんでしょうか、あまりメジャーな呼び方ではないんですかね…
アウトプットありがとうございます。
>診断名自体は難しくないけど…というパターンですね。
そうですね。
今回は広範にくも膜下腔に血腫を認めていますが、やはり右のSylvius裂に目立つという所見は欲しいですね。
そういう意味で症例1で学んだくも膜下腔の解剖名が重要となってきます。
>出血の分布で瘤の局在の参考になる、というのは役立ちそうですね!
ですね。なかなか難しい症例も多いですが役立ちます。
>何かの参考書に「ダビデの星」という表記がしてあり、それで覚えていましたが、宗教的なところもあるからなんでしょうか、あまりメジャーな呼び方ではないんですかね…
そのように記載があるものもありますね。
正直何でもいいのですがね(^_^;
昔、後期研修医のときに、研修医に
「こういった五角形のサインをなにと言うか知ってる?」
と質問したところ、
研修医「知ってます!ヘキサゴンですよね!」
と返ってきたのは懐かしい思い出です。
救急で見たら,嫌な疾患の一つですね.これくらい血腫が多いと一目瞭然ですが,血腫の量が少ないと,くも膜下腔の解剖を意識しながら,見落とさない様に確認する作業が必要でしょうか.
動脈瘤の分布の頻度なども念頭に推測しないといけないなと再確認させられました.
アウトプットありがとうございます。
>救急で見たら,嫌な疾患の一つですね.
ですね。致死的になることもありますのでドキッとしますね。
>これくらい血腫が多いと一目瞭然ですが
左右対称過ぎる場合は当直医が逆に気付かないと言うケースも当院では昔ありました。
入院にはなったのですが、次の日担当することになった神経内科の先生が画像を見てびっくり!
>血腫の量が少ないと,くも膜下腔の解剖を意識しながら,見落とさない様に確認する作業が必要でしょうか.
そうですね。高吸収な場合は気付きやすいですが、発症からある程度時間が経過した症例の場合は、
本来あるべきくも膜下腔が見えないというケースで来ることもあるのでくも膜下腔の意識が大事ですね。
今回もモニター参加させていただきありがとうございます。
頭部CTもこれを機会に読影できるようがんばります。
今回の症例は出血の範囲が広く、CT初心者でも診断は想像できました。
>鞍上槽の血腫の様子は、五角形の形をしている・・・
覚えておきます。
>研修医「知ってます!ヘキサゴンですよね!」
これには失礼ながら吹き出してしまいました(^^ゞ
これからも初心者枠担当としてモニター参加がんばりますので
ご指導のほど宜しくお願いします(笑)
>今回もモニター参加させていただきありがとうございます。
頭部CTもこれを機会に読影できるようがんばります。
滑り込みでのご参加ですね(^o^)
>これには失礼ながら吹き出してしまいました(^^ゞ
そんなクイズ番組があった時代ですね。
ニコニコサインは、明らかな血腫を認めないときでも、くも膜下出血を疑うことができる重要な所見だと記憶しています。(認めた場合は、症状やバイタルを考慮してMRIを検討してもらうようにしています。)ただし、今回のように脳萎縮が見られない方の場合は指摘しやすいですが、脳萎縮が進んでくるとはっきりしないことがあります。
アウトプットありがとうございます。
>今回のように脳萎縮が見られない方の場合は指摘しやすいですが、脳萎縮が進んでくるとはっきりしないことがあります。
おっしゃるとおりで、厄介な所見の一つですね。
あれもこれも取るわけにはいかないですし、60歳代とかなら正常でも見られますので。
あくまで若年者向けのサインですね。
にこにこサインは脳脊髄液の流れ(側脳室⇒モンロー孔⇒第三脳室⇒中脳水道⇒第四脳室)を血腫により阻害された部位の近位から交通渋滞を原因に拡張するものと考えています。軽度の外傷性くも膜下血腫の時などは側脳室下角は腫れない印象ですが、反応性ではなく、交通渋滞によるものでよいか確信がなく、疑問に感じています。取り急ぎコメントしてしまいましたが、もう少し調べます。
アウトプットありがとうございます。
外傷性の場合は、脳表に生じることが多いのも原因かもしれませんね。
やはり、交通渋滞によるもので良いかと思いますが、もし何か分かればまた教えてください。
くも膜下出血が起こると発症直後より脳室は拡大し、特に側脳室下角が対称性に拡大する。(日独医報 第59巻 第2号P24)
と記載があります。脳室の拡大の中でも下角がまずは拡大しやすいということですね。
やはり先生の言うとおり交通渋滞でよさそうな雰囲気ですね。
『病気が見えるシリーズ.7(脳)医療情報科学研究所』で調べていたのですが、決定的な文言はありませんでした。しかし、SAHの治療でrt-paやウロキナーゼが使用される目的に水頭症の予防とあり、脳脊髄液スペースの凝血が水頭症予防のためだということ(水頭症の予防と急性期の所見が結びついていませんでした)で調べるのを終えました。
仮説は①急性期の時は腫れた脳がCSFスペースを圧迫するのか?②凝血が原因でCSFの通過障害を起こすのか?③血液が原因で攣縮が起き、通過障害が起きるのか?と考えていたのですが
結論としては③に関連する記載は一切見つかりませんでした。超急性期の時は①なのか②なのかそれとも両方なのかはわかりませんが、自己完結で申し訳ないですが勉強になりました。
つまらないコメントにも文献検索してくださったりしてありがとうございました。
肝心の非交通性水頭症のことを書き忘れていました。これは当たり前といえば当たり前ですが・・・。SAH時に急速にそれが起きているという解釈です。
調べて頂きありがとうございます。
②で良いような気がしますが記載があったわけではありません(^_^;
また見つけたら報告します。
昨日のは前フリだったのですね!
今朝、昨日の解答編をもう一度見ていたので、血腫の場所も書けました!
超ホットな状態でインプットできた感じです。
後、原因部位までは指摘できませんでした、というかわかりませんでした。
これくらいはっきりわかる方であれば指摘しやすいのですが、画像見た瞬間にこちらが倒れそうです(汗)
明日も倒れそうなくらいわかりやすい症例であれば良いのですが…(笑)
貴重な、症例ありがとうございます。
明日からも宜しくお願いします。
そうです。前フリです。
>超ホットな状態でインプットできた感じです。
それはよかったです(^o^)
明日もよろしくお願いします。
今までは出血量から原発を予測していましたが、流れるため必ずしも濃い=原発ではないこともあるというのは納得しました。
以前、クモ膜下出血ならさすがに分かると思っていた頃に、ある症例で血腫がほぼ分からず「これは気付けない。。。」と衝撃を受けたSAH症例の記憶があります。(そのときは自分が撮影担当でなくて良かったと感じました。)
CT値以外でも脳実質の浮腫や脳室等の微細な変化を感じ取れれば気付けたのかもしれません。今回も血腫以外の変化についても解説があったので、そういった部分も意識して観察するよう心がけたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>今までは出血量から原発を予測していました
基本はそれで良いと思います。
>ある症例で血腫がほぼ分からず「これは気付けない。。。」と衝撃を受けたSAH症例の記憶があります。
ある程度時間の経ったもの
局所的な出血
の場合は難しいことはありますね。
>CT値以外でも脳実質の浮腫や脳室等の微細な変化を感じ取れれば気付けたのかもしれません。
そうですね。他の方もおっしゃっていますが、側脳室下角の拡大が唯一の所見のケースもありますので、
取り過ぎとの兼ね合いも難しいところですが、そのあたりもヒントにしましょう。
今日もありがとうございます。
今日は昨日とはうって変わって一目でわかる症例でした(笑)
昨日くも膜の解剖を勉強できたので今日の出血部位の推定はスムーズにできたと思います。
ただ今まで原発の予想をクモ膜下出血の部位だけでしていて、脳実質内血腫の部位やfilling defect signまで考えていませんでした。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>今日の出血部位の推定はスムーズにできたと思います。
それはよかったです!!
>脳実質内血腫の部位やfilling defect signまで考えていませんでした。勉強になりました。
ぜひ次回はチェックしてみてください。
症例1でインプットされたものを、症例2ですぐにアウトプットでき記憶がより定着できた気がします。
ペンタゴン→SAHだけで終わらずに、解剖構造を意識して出血を確認し、
まずは血腫の分布から瘤の位置を推測する練習をしようと思います。
アウトプットありがとうございます。
>症例1でインプットされたものを、症例2ですぐにアウトプットでき記憶がより定着できた気がします。
それはよかったです。
>まずは血腫の分布から瘤の位置を推測する練習をしようと思います
そうですね。動脈瘤の場所の推測も次回からしてみてください。わからないこともよくありますが。
今回も勉強になりました。
うちの病院なら血管造影より先に造影CTしていることが多いと思います。
動脈瘤を見つけるの苦手です。
アウトプットありがとうございます。
うちも場合によってはCTAが先にされることもありますね。
動脈瘤細かいのを見つけるのは同じく苦手です(^_^;
症例1とのつながりがあってよりくも膜下の理解が深まりました!
次回も楽しみです!
それはよかったです。
SAHの原因動脈瘤の検索の仕方もあわせて覚えておいてください。
以前、頭部の画像診断を書籍でみており診断は安心して回答できましたペンタゴン高吸収だったのでSAHしか頭に浮かびませんでした。
ニコニコサインは初めて知りました。
脳室下角の拡大で水頭症を疑うのですね。
出血の探し方とても参考になりました。しっかりまとめて覚えます。
いつも勉強になる症例をありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>脳室下角の拡大で水頭症を疑うのですね。
若い方では有意ですね。
>出血の探し方とても参考になりました。しっかりまとめて覚えます。
よかったです。またどこかで出てくるので覚えておいてください。
動脈瘤の部位は指摘できましたが、脳室下角の拡大の所見については初耳でした。
どの程度なら拡大していると言えるのか、ニコニコサインの見方は苦手です。正常例でもつぶらな瞳のニコニコに感じてしまいます。
アウトプットありがとうございます。
>正常例でもつぶらな瞳のニコニコに感じてしまいます。
そうなんです。
なので若い人でないとなかなか取れない所見ですね。
ありがとうございました。次回も勉強させていただきます。
脳室後角の開きは判断が難しいですね。
アウトプットありがとうございます。
>脳室後角の開きは判断が難しい
ですね。若い方の場合は通常開いていないので、開いていたらおかしいと判断するようにしてください。
【年齢別】頭部CT画像の正常像!
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/32406
こちらも参考にしてみてください。
レポートを書くときには一歩進んで破裂部位まで記載するのですね!
今後はそこまで書けるようにします。
また解説がとても分かりやすく、知りたいことを丁寧に解説してくださり、本当にありがとうございます(前回の正常画像でのクモ膜下腔の説明・イラストも!)。
分かりやすいと楽しみながら勉強できるし、モチベーションにも繋がります!!!
アウトプットありがとうございます。
>レポートを書くときには一歩進んで破裂部位まで記載するのですね!
そうですね。最終的にはCTAや脳血管造影で破裂部位を決定するものですが、可能ならば予測したいものですね。
>分かりやすいと楽しみながら勉強できるし、モチベーションにも繋がります!!!
最大級の賛辞、ありがとうございます!!こちらのモチベーションにも繋がります!
分布から動脈瘤の存在を予想することができました。
原因やその部位まで予想した方が、向こうの当たりもやんわりになるかもしれませんね(^▽^)/w
アウトプットありがとうございます。
>向こうの当たり
「向こう」が何を指しているのかわかりませんが、まあ、どうせなら予測した方が読み甲斐がありますね。
こんにちは。いつもお世話になっております!
今回は診断と出血の存在部位の同定まではすぐにできたのですが、そこから想定する出血部位まで記載することはできませんでした。
今回の一番の学びは、「ニコニコサインをみたらニコニコしている場合ではないぞ!」ということでした!
1つ質問させてください。
横断像の26枚目のスライドで、左頭頂小葉のあたり?に骨と同じくらい高吸収の領域が認められたのですが、これは頭蓋骨のでっぱりが描出されているものなのでしょうか。2ヶ月後の26枚目のスライドでは高吸収の領域がさらに広がっているように感じられて、おやっと思いました。
冠状断像で見れば分かりますが、硬膜の石灰化を見ているのだと思います。
2ヶ月後は全く同じところをスライスしているわけではないので、見え方に差が出ている(広がっているわけではない)のだと思います。
アウトプットありがとうございます。
>「ニコニコサインをみたらニコニコしている場合ではないぞ!」ということでした!
その通りです(^o^)
年齢も確認して、下角の開大から水頭症も確認することも大事ですね。
出血だけ見てて安心してはいけないですね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。出血がはっきりせず、下角の開大しか認めないSAHもたまにありますので、年齢を確認してですが、重要な所見となります。
よろしくお願いします。
症例1を参考に出血範囲を出来るだけ細かく表記してみました。
第三脳室と両側側脳室にも出血があるように見えるのですが、これも出血ですか?
だとするとなぜ脳室にも血液があるのでしょうか?
くも膜下腔と脳室はルシュカ孔、マジャンディ孔でしか繋がっていないと理解していたのですが、第四脳室に血液がないのに第三脳室に血があるのが不思議です。
アウトプットありがとうございます。
>第三脳室と両側側脳室にも出血があるように見えるのですが、これも出血ですか?
だとするとなぜ脳室にも血液があるのでしょうか?
おっしゃるように血腫ですね。
ルシュカ孔、マジャンディ孔から逆流したと考えられます。
くも膜下出血の際にこのように脳室内に血腫が見られることはよくあります。
>第四脳室に血液がないのに第三脳室に血があるのが不思議です。
髄液の流れなども関与しているのだと思われます。
動脈瘤の好発部位。前交通動脈A-com、中大脳動脈MCA分岐部、内頸動脈後交通動脈P-com分岐部。不明確だった知識がまとまってきました。Niko-Niko singも面白いです。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
知識がまとまってよかったです。
Niko-Niko signは高齢者ですと取り過ぎ注意ですが、見るべきポイントです。
P.S.
hotmailを使っておられるようですが、届かなくなることがあるのでご注意ください。
メールが届かない問題
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/mail
いつもありがとうございます。
症例1にてさきほど先生に教えてもらった者です。
1枚目の右側画像に「側脳室後角の拡大」とありますが、「側脳室下角の拡大」でしょうか?
どうぞよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
思いっきり下角ですね・・・。ご指摘ありがとうございますm(_ _)m