
症例16
【症例】70歳代 男性
【主訴】腹痛
【身体所見】意識清明、BT 37.4℃、BP 110/70mmHg、HR 100/min、SpO2 100%(RA)、腹部:軟、平坦、右季肋部に圧痛あり、腹部に静脈怒張あり。腸音正常。
【データ】WBC 5900、Hb8.7、ALT/AST=88/42、LDH 247、γ-GTP 273、CRP 2.84
画像はこちら
問題編ではあえて記載しませんでしたが、既往に慢性肝炎があり、肝細胞癌にて近医にてフォローされていました。
肝右葉より突出する巨大腫瘤を認めています。
また肝内にも多数の境界不明瞭な低吸収腫瘤を認めており、多発肝細胞癌が疑われます。
腹水を大量に認めていますが、骨盤内の腸管との境界がはっきりしません。
ここで「違和感」を感じなければなりません。
「Douglas窩の液体貯留と腸管の境界がぜんぜんはっきりしないのはなぜだ?」
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「まさか・・・・・」
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出典はこちら
そう、腹腔内出血です!
膀胱の尿の濃度と比べると、Douglas窩(直腸膀胱窩)の液貯留は高吸収であり、さらにニボー像を形成していることがわかります。
このように
- 膀胱内の尿
- 胃液
- 腸液
- 腎嚢胞
- 肝嚢胞
などの濃度と腹水の濃度を見比べたり、
実際にCT値を測定し(この画像診断cafeの環境では測定できませんが、)
腹腔内液体貯留のCT値1)は、
- 腹水 0-15HU
- 血性腹水 20-40HU
- 血腫・凝血塊 40-70HU
- 活動性出血 85-350HU
- 胆汁 0HU
- 尿 0-15HU
となっていることから、腹腔内の出血を診断します。
今回腹腔内出血の原因として考えるべきは、肝細胞癌の破裂ですね。
破裂部位は腹水がより高吸収な部位が疑われます。
今回、高吸収が目立つ部位は2箇所ありますが、より吸収値が高いのは、肝鎌状間膜のところでしょうか。(ただしここは肝腫瘍がはっきりせずそのやや頭側のS4から突出する腫瘤からの破裂でしょうか。)
診断:肝腫瘍(肝細胞癌疑い)破裂による腹腔内出血
※動脈塞栓術(TAE:Transcatheter Arterial Embolization)での治療が必要で、放射線科へのコンサルトが必要となります。
※ただし今回の症例では、家族が積極的な治療を希望されず、対症療法のみとなり、 4日後永眠となりました。
その他所見:
- 冠動脈石灰化あり。
- 傍大動脈にリンパ節腫大あり。転移の可能性あり。
- 脾門部に小結節散見。リンパ節か。
参考文献:
1)西巻、腹部外傷、日独放;vol51.No1.51-71,2006
症例16の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
まだ3年目で誤診もとても多いですが、
「明らかにヤヴァイ画像(予後1か月もなさそう)」とそうでない画像くらいは判別できるようになったつもりです。
そして、身体を診て、「予後数日なのか、そうでないのか」程度もなんとなくわかるようになったと思います。
先日、当直外勤で、脳梗塞後および慢性心不全で入院している患者さんがいらっしゃいました。
カルテ(紙)の入院時のレントゲン画像のシェーマで、
両肺の3/4が真っ青に塗られて「胸水」と書かれており、「肺炎」と書かれていました。
そして、その段階から経管栄養がストップされ(その後採血のAlbは漸減し、2.4くらいでした)、
奥さんにはターミナルのムンテラがされていました。
ご本人のSpO2が安定しないというので、「酸素どうしますか?あと、左腕が腫れていて・・・」と聞かれたので、
「まず本人を見せていただいてもいいですか?」と言って、病室に行くと、
完全にflatな状態の仰臥位で苦しそうな患者さんと、その横に付き添いの奥さんがいらっしゃいました。
患者さんのパっと見の印象は、「風邪を引いて苦しそうな(僕の)おじいちゃん」といった感じで、
聴診も肺炎の音は聞こえず、まず、「肺炎」の評価については一度撤退しました。
四肢は、左腕(div留置側)のみが腫れており、刺入部に熱感がありました。同行した看護師さんに、
「少しここを触れていただいてもいいですか?」とお願いすると、「あっ・・・・・・」。
「肺炎についてはちょっと待ってください。ただし、とりあえずこの点滴は差し替えた方がいいですね。」
Ns.ステーションに戻って、レントゲン(臥位)を確認すると、
確かに、主治医が真っ青に塗った領域に「胸水を疑う影」がありました。嘘ではありませんでした。
ただし、それは、紛れもなく、綺麗に均一な「すりガラス影」でした。
CTもとっているというので、見せてもらうと、
とても綺麗な両肺野(少しくらいは濁っているのかと思いきや、本当に若年者のようなclearさ)、やや大きい心臓、両側胸水
要するに、「普通のCHFの人」の画像でした。
もう一度、看護師さんに入院主病名や併存疾患を確認するも、どうやっても、「脳梗塞後」と「慢性心不全」しかありません。
この後書くとさらに長くなるのでwここまでにしますが、とりあえず頭はやや上げ気味にするようにしてもらい、
カルテは詳細に記載して、
週明けに栄養などについてもう一度よく話し合うように病棟師長も含めて説明しました
(「経験不足だからかもしれませんが、ターミナルの理由がどうしても僕には分かりません」)。
専門は精神科ですが、外勤は
内科・整形外科一般外来・ドック判定などちょこちょこやってます(意識してやるようにしています)。
麻酔や救急の講習会にも一定の頻度で参加しています。
本当に優秀な先生や、熱心な業者の方とたくさん知り合えている一方、
時々末端の医療の悲しい現実と向き合わなければならないタイミングがあります( ;∀;)
まだ3年目なので何も分からないのですが、
「専門医」「指導医」って、一体何なのでしょう?
単なる賠償保険ですか( ;∀;)?
あまり優秀でない先生も、「指導医」になれば絶対に「指導者」をやらなければいけないんですか(;’∀’)?
少なくとも、僕は人生で専門医は精神科しか取るつもりはありません(;’∀’)
出世欲もありません(;’∀’)
末端で末端で生きて行きたいです(*´▽`*)
な、長い・・・・。
次回から動画でお願いします(嘘)
つまり、「普通のCHFの人」がターミナル扱いされていたということですね。
>時々末端の医療の悲しい現実と向き合わなければならないタイミングがあります( ;∀;)
当直とかいくとそういう病院もありますね。
>専門は精神科ですが、外勤は
内科・整形外科一般外来・ドック判定などちょこちょこやってます(意識してやるようにしています)。
麻酔や救急の講習会にも一定の頻度で参加しています。
>末端で末端で生きて行きたいです(*´▽`*)
やる気があるのかないのか(;゚ロ゚)
少なくとも内科医や外科医のようにそこまで必要ない画像診断にこれほどまで参加してくださるのですから、
前者なのでしょう。
> つまり、「普通のCHFの人」がターミナル扱いされていたということですね。
そうです。
そして、重要なのは、
「栄養が切られてしまっていた」こと
「アルブミンが漸減していた」こと。
このままでは本当に、
病院によってターミナルにされかねない状況でした( ̄▽ ̄;)
幸い、病棟の看護師さんはとても理解があり、なんとか動いてくれそうでした(╹◡╹)
末端の医療は、時にとても恐ろしいです(・・;)
僕は、絶対に忙しくなるので偉くはなりたくなくて、
目の前の患者さんと、そして、
自分の親戚に1番の医療を提供したいと思っています(╹◡╹)
>そして、重要なのは、
「栄養が切られてしまっていた」こと
「アルブミンが漸減していた」こと。
このままでは本当に、
病院によってターミナルにされかねない状況でした( ̄▽ ̄;)
確かに(;゚ロ゚)
医原性ターミナルですね。
お世話になっています。
腸間膜に結節影が目立ちますが、癌性腹膜炎の所見でしょうか?
かなり血性腹水で修飾されていますが、例えば何スライス目でしょうか?
ご回答ありがとうどざいます。
どの辺とはお伝えづらいのですが…腹水間の脂肪組織全体に「小さな、現れては消える連側性がない陰影」があるように見えます。特に上腹部で目立ちます。また、傍大動脈にも複数のリンパ節が目立ちます。腹膜には肥厚はなさそうです。反応性の変化なのでしょうか?
単純CTですのでちょっとわかりにくいところですね。
脾門部あたりには側副血行路もありそうですね。
あとおっしゃるように、リンパ節はありそうですね。
単純CTでは判断できない所見なのですね。ありがとうございました。
もう1点、肝臓の所見として、肝硬変パターンをしめしますが、画像検査では、慢性肝炎と肝硬変の区別はできないと言うことでしょうか?
単純CTで判断できない所見ではありませんが、今回ははっきりとしたものはなさそうです。
>慢性肝炎と肝硬変の区別はできないと言うことでしょうか?
そうですね。ここからは肝硬変という厳密な区別はできません。そのためLC patternなどと記載することもあります。
お疲れ様です。
97〜110スライスのS状結腸と血性腹水の間のでこぼこした波打ったようなところは
何が写っているのでしょうか?
最初見たとき、なんだろう?って
思いました。
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>97〜110スライスのS状結腸と血性腹水の間のでこぼこした波打ったようなところは
何が写っているのでしょうか?
間膜と腹水の境界を見ていると考えます。
返信ありがとうございます。
普通でしたらあのように波打ったらしないような気がするのですが…
でこぼこしているのは
癌性腹膜炎の影響で結節?
のようなものができているからでしょうか?
症例15の腹腔内出血ですが、こちらでも同じように波打っていますね。
http://medicalimagecafe.com/case/Fy74gBZj.html
たしかに今回の症例のほうがやや目立ちますが。
癌性腹膜炎でこのように見えるわけではありません。
※送信エラーになっていそうだったので再書き込みします、重複していたら削除お願いします
ごろ~先生の3年目当時のエピソード、読みごたえがあり、身が引き締まりました。追体験することでより記憶が定着しやすくなると思うので、印象的なエピソードがあればまた類似症例に沿えて教えて頂けるとありがたいです。
前回の類似症例の際に診断をつけて満足して出血部位の探索を怠ったことを反省したのですが、またやってしまいました…精度の高い読影を目指します。
些末な事で恐縮ですが、問題編画像提示画面の所見欄1行目が「70歳代弾性」に、解答編ページの「診断」の2行上が「今回高級が目立つ部位は2箇所」になっています。
アウトプットありがとうございます。
>ごろ~先生の3年目当時のエピソード、読みごたえがあり、身が引き締まりました。
ありがとうございます。
そのときは単純で肝腫瘍自体もわかりにくかったのですが、骨盤内の腹水のようすはまさにこんな感じでしたね(;゚ロ゚)
またエピソードつけられそうなのあればつけますね。
>些末な事で恐縮ですが、問題編画像提示画面の所見欄1行目が「70歳代弾性」に、解答編ページの「診断」の2行上が「今回高級が目立つ部位は2箇所」になっています。
誤字の報告大変助かります!!!修正しました。
腹水を見たらすぐにCT値を確認する癖がようやく付いてきたように思います.
あとはどこまで単純CTで評価するかですね.禁忌がなければダイナミックを撮像するのでしょうが,このかたは家族の意向もあり撮像されなかったのでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
>ダイナミックを撮像する
この目的は
・extravasationの有無をチェックする
・本当にHCCの破裂であることをチェックする
ものであり、明らかにHCC破裂でしょ!とわかるものについては、このまま単純だけでアンギオに行くケースもあるかもしれません。
ただしアンギオする場合も術前にどこから出ているかの情報があればそれに越したことはありません。
>このかたは家族の意向もあり撮像されなかったのでしょうか.
ですね。
ちなみに回答ページに
「症例Oの画像所見と診断は?」というところに誤字があります.
ありがとうございます。修正しました。
先の方の質問とも被りますが、
積極的に加療するとしたら、まずは造影CTが必要ですか?
ここからいきなりアンギオっていうこともありますか?
あと、アンギオではなく「開腹で止めにいく」という選択もアリなんでしょうか?
ご回答お待ちしていますm(__)m
アウトプットありがとうございます。
そうですね。造影CTでextravasationがないか、あるならどこなのかをあらかじめ情報として持った上で、アンギオになるのが通常ですね。
場合によってはいきなりアンギオになるケースもありそうですが、出血点がわからないと止めようがないですね。
ダイナミックCTを撮影すれば、血管造影とほぼ同等の情報が得られますので(もちろん血管造影の方が上ですが)、
まずはダイナミックで出血点を探したいところです。
開腹で止めに行くのは稀だと思います。
第一選択はアンギオですね。
毎回、貴重な症例をありがとうございます。
肝腫瘍の破裂、血性腹水を診断できましたが、破裂部位の予測まではできていませんでした。腹水で高吸収の部分を探すことを覚えておきます。
①肝は表面が不整にみえる部分があり、肝硬変があるのではと判断しました。また左葉や尾状葉の肥大が目立たず、全体的に萎縮してみえたので非代償期と考えましたがいかがでしょうか。また本題と少しずれますが、肝硬変は代償期は左葉、尾状葉の代償性肥大があり、非代償期は全体的に肝に萎縮があるとの認識でいましたがよろしいでしょうか。
②脾門部周囲で膵尾部に接するように結節様の陰影がみられましたが脾腎
短絡でしょうか(スライス59~63)
よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>全体的に萎縮してみえたので非代償期と考えましたがいかがでしょうか。また本題と少しずれますが、肝硬変は代償期は左葉、尾状葉の代償性肥大があり、非代償期は全体的に肝に萎縮があるとの認識でいましたがよろしいでしょうか。
いずれもおっしゃるとおりです。
※ただし、代償性の肝硬変と非代償性の肝硬変は
・代償性肝硬変→軽微な症状(慢性肝炎と同様に微熱、易疲労感、倦怠感、食思不振、くも状血管腫、手掌紅斑。女性化乳房など)
・非代償性肝硬変→肝不全症状を来す(黄疸、腹水、肝性脳症など)
とされており、画像はおっしゃるような傾向にあるとしかいえないかと思います。
つまり、
・左葉、尾状葉の代償性肥大→代償期!!
・全体的に肝に萎縮→非代償期!!
と画像から代償期か非代償期かを診断できるものではなく、あくまでその傾向にあるという点を押さえておいた方がよさそうですね。
>②脾門部周囲で膵尾部に接するように結節様の陰影がみられましたが脾腎
短絡でしょうか(スライス59~63)
おっしゃるように結節様のものが複数ありますね・・・。
脾腎シャントならば、左の腎静脈と連続性がありますが、今回は連続性はありませんね。
副脾にしてはかなり数が多いので、リンパ節ですかね。ちょっと断定はできないです。
肝腫瘍の破裂で血性腹水と読影できました。肝右葉の外側に飛び出す大きな腫瘤を血種かと思いました。かなり大きな血種を作るほど出血したのかと思いましたが、そこは腫瘤なのですね。
先生の体験談はすごいなあと感心しました。この講座をちゃんと受講することにエールを送ってもらいました。
今後ともよろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>肝腫瘍の破裂で血性腹水と読影できました。
ここがこの症例の最大の山場ですので、素晴らしいです。
>肝右葉の外側に飛び出す大きな腫瘤を血種かと思いました。
これを血腫とすると肝被膜がかなり変形していることになりますが、普通はここまで変形する前に腹腔内に破裂します。
肝の形態からも腫瘤と考えるべきですね。
>先生の体験談はすごいなあと感心しました。この講座をちゃんと受講することにエールを送ってもらいました。
特に一人で当直となると色々怖い思いをすることもありますし、パニックになることもあります。
画像の場合は残ってしまうのもあり、撮影したけど全然読めないでは困ります。
当直時には、この症例では、肝右葉の腫瘤が血腫なのか腫瘍なのかはぶっちゃけどうでもよくて、肝腫瘍の破裂で血性腹水と読影できることが最重要です。
何かよくわからないまま、朝まで点滴で様子を見ていたら大変です。
バイタルがそこまで崩れていないところが怖いですね^^;
CTを撮るという判断を下せるかどうかも勝負の分かれ目ですね。
アウトプットありがとうございます。
確かに現状はバイタルは保たれていますね。Hbの方が落ちています。
今回は単純CTのみで判断できますが、症例によっては造影CTを撮影するかどうかが勝負の分かれ目になることもありますね。