症例60 解答編

症例60

【症例】20歳代 女性
【主訴】1週間前からの腹痛、下痢、発熱。
【身体所見】腹部:平坦、軟、板状硬なし。下腹部正中〜右側、心窩部に圧痛あり、tapping painあり。

【データ】WBC 10800、CRP 23.06

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動脈相で肝辺縁に縁状の造影効果を認めています。

その目で見ないとなかなか気付かない所見かもしれません。

そして、この造影効果は、平衡相ではそれほどはっきりしなくなっています。

こういった所見があった場合、若い女性の腹痛、とくに右季肋部痛で、胆嚢炎としばしば混同されるある疾患を思い浮かべなければなりません。

それが、Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)です(フィッツ・フュー・カーティス症候群)。

 

これは、
クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌が、骨盤腹膜炎(PID:Pelvic Inflammatory Disease)を引き起こす。
→その骨盤腹膜炎(PID)が上行感染し、肝周囲の
限局的な腹膜炎(肝周囲炎)を起こす。

という機序で起こります。

その目で骨盤内を見てみると、

微細な所見でなかなか指摘しにくいですが、腹膜周囲の脂肪織濃度上昇および腹膜の肥厚を認めています。

Douglas窩にもやや腹膜の肥厚を認めています。

これもまた微細で微妙な所見でもありますが、骨盤内の小腸の壁がやや厚く、腹膜炎による漿膜側の壁肥厚が示唆されます。

卵管卵巣膿瘍などを合併していないと、なかなか骨盤腹膜炎(PID)はCTでは指摘は困難であり、Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)を認めていても、骨盤腹膜炎の所見は軽微であったり、指摘できないこともしばしばあります。

が、その目で見るとやはり今回は骨盤腹膜炎もあるのではないかと画像からも推測できます。
あくまでその目でみるとであり、矛盾していますが、微細な所見をいちいち腹膜炎!と取ってはいけません。

右の卵巣が一部高吸収にも見えるのですが、この方、

  • 婦人科で何度かエコーをされていますが、付属器にはとくに異常がないとされている。
  • MRIが撮影されていない。

ことから、有意ではないのかもしれません。

また子宮内に高吸収を認めており、子宮内腔出血が疑われます。

が、これも2名の婦人科医の診察にて、「機能性子宮出血」と診断され、経過観察とされています。
つまり今回の骨盤腹膜炎とは関係がないということです。

この方そのまま入院となりました。

Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)+骨盤腹膜炎(PID)として、抗生剤投与にて加療とされました。

入院時に、血清クラミジア・トラコマティス抗体、淋菌(尿DNA)が提出され、その後、

クラミジア・トラコマティス IgA 1.48(+)、
クラミジア・トラコマティス IgG 1.56(+)
クラミジア・トラコマティス IgM 1.59(+)

という結果がでて、つまり、クラミジア陽性と診断されました。
(なお、クラミジア検体採取(子宮頚部からのスワブ)は、出血が多くて難しいとのことでなされていません。)

診断:Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)+骨盤腹膜炎

※ただし、骨盤腹膜炎は明らかな膿瘍形成がないと、CTでの診断は難しく、今回もおそらくそうなのだろうという推測にとどまります。

※クラミジア感染の画像以外の診断としては子宮頸管擦過検体からの病原体の同定や抗原検査が推奨されていますが、コストを考慮して血清抗体検査(IgA、IgG)がスクリーニングとして行われることも多いです。ちなみに今回は子宮からの出血が多く、子宮頸管擦過検体が取れなかったとのことです。

関連:

その他所見:帝王切開後。

症例60の動画解説

お疲れ様でした。

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