
症例57
【症例】80歳代 女性
【主訴】血便
【身体所見】vital sign異常なし。腹部:平坦・軟・圧痛なし。
【データ】WBC 4800、CRP 0.07、Hb 10.8
画像はこちら
今回単純CTでは出血源がはっきりしません。
ダイナミックCTの横断像(動脈相)で下行結腸に高吸収を認めます。
造影剤の血管外漏出(extravasation)を疑う所見です。同部からの出血が疑われます。
また、平衡相と比較すると平衡相で漏出量が増えていることがわかります。
冠状断像でも下行結腸に広がる造影剤の高吸収を確認することができます。
活動性の消化管出血を疑う所見です。
消化管出血は、
- 上部消化管出血:Treitz靱帯よりも口側の出血(食道-胃-十二指腸)
- 下部消化管出血:Treitz靱帯よりも肛門の出血(空腸-回腸-結腸-直腸)
と定義されます。
上部消化管出血は、症例20で出血性十二指腸潰瘍の症例がありましたね。
(画像診断でのポイントは上部と下部では変わりません。)
今回は、結腸からの出血ですので、下部消化管出血に該当します。
下部消化管出血の原因としては、
- 憩室出血
- 血管形成異常
- 腫瘍
- 炎症性疾患
- 肛門直腸病変
などが挙げられます。最も多いのは憩室出血です。
今回も下行結腸には憩室を多数認めており、憩室出血が疑われます。
診断:下部消化管出血(下行結腸憩室出血の疑い)
※内視鏡的に止血が第一選択となりますが、内視鏡で出血源の同定に至らない場合などは、アンギオで止血されることもあります。
この方も、下部消化管内視鏡にて憩室出血が確認され、止血されました。
出血している憩室を同定することができましたが、憩室内の出血を起こしている血管を同定することはできなかったようです。
そのため憩室そのものをクリップ3本で縫縮し、処置終了としたとのことです。
その他所見:
- 胆摘後。
- 肝内胆管〜肝外胆管拡張あり。(胆摘後の影響)
- 肝嚢胞あり。
- 腎嚢胞あり。
症例57の解説動画
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
お疲れ様です。
貴重な症例ありがとうございます。
今回は直腸内に隆起のようなものが見えるのですが、これは
壁がくっついているだけでしょうか?
肝臓から上腹部臓器
あと骨盤内臓器をみて
結腸の読影を省略してしまいました。
直腸に何かある!と思って読影がぼぼ終わってしまいました。
最後まで気を抜かずに読影しないとダメですね。
今日もありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>今回は直腸内に隆起のようなものが見えるのですが、これは壁がくっついているだけでしょうか?
直腸のハウストラの構造を見ていると思われます。
正常範囲です。
>直腸に何かある!と思って読影がぼぼ終わってしまいました。
最後まで気を抜かずに読影しないとダメですね。
消化管出血が疑われる状況ですので、活動性出血がないか、
単純CTで消化管内に高吸収部位がないかをチェックしましょう。
連投すみません。
その他の所見の所で、
肝内胆管拡張とあと
肝外胆管(総肝管、総胆管拡張)
も目立つと思うのですがいかがでしょうか?
もう一つ右副腎腫大もありそうな感じがしますがとうでしょうか?
よろしくお願いします。
>その他の所見の所で、肝内胆管拡張とあと肝外胆管(総肝管、総胆管拡張)も目立つと思うのですがいかがでしょうか?
おっしゃるとおりですね。これも胆摘後の影響が疑われます。追記します。
>もう一つ右副腎腫大もありそうな感じがしますがとうでしょうか?
右副腎は横断像で見ると厚く見えますが、脂肪が間にあると思われます。
冠状断像では正常ですので。有意ではないと考えます。
お世話になっています。
出血部位がS状結腸なのか?下行結腸なのか?で迷いました。
下腸間膜動脈から追跡してS状結腸動脈を確認するとS状結腸領域にも濾出があるように見えまますがどうでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>下腸間膜動脈から追跡してS状結腸動脈を確認するとS状結腸領域にも濾出
S状結腸動静脈は146/305あたりがメインだと思われますがいかがでしょうか?
返信ありがとうございました。
スライス139付近の出血した腸管に向かう血管は左結腸動脈なのですね。ちょうど移行域でわかりづらかったです…ありがとうございます。
thin sliceじゃないので動脈ちょっと同定しにくいですね。
今回は(も?なんでしょうか・・)比較的よく見る疾患で、
たしかにダイナミックとってあげれば確定しやすくなるなぁ、と診療に生かせそうです。
ダイナミックの出血の表現、
「造影剤の血管外漏出(extravasation)が平衡相で増加している」
というのは非常に端的で的確だと思いますので
今後使えるようにしておきます。
アウトプットありがとうございます。
>たしかにダイナミックとってあげれば確定しやすくなるなぁ、と診療に生かせそうです。
単純+ダイナミックCTが消化管出血疑いには望ましいですね。
>「造影剤の血管外漏出(extravasation)が平衡相で増加している」というのは非常に端的で的確だと思います
ですね。是非使ってください!(^o^)
疑って撮影しても意外とextraがない症例が多いと感じていますが,本症例のように綺麗に出ていると現場ではかなり焦りそうですね.
アウトプットありがとうございます。
おっしゃる通りで、疑ってもextraがない症例が多いです。
本症例のように出ている方が逆に出血点がわかっていて、活動性なので、確かに現場はバタバタしますが、止めに行く場所がわかっている分よいかもしれません。
活動性出血があるのに、extraがはっきりしない、内視鏡でも出血があるけどどこからなのかわからない、
というのが一番困ると思います。
憩室がある場合は、エビデンスはないようですが、バリウム充填といって、
とりあえずバリウムで憩室を埋めてしまえという依頼が結構あります。
いつもフィードバックいただきありがとうございます。
extravasationに気づけませんでした…。憩室の同定も苦手です…。
盛大に間違えましたが、今回の私の思考経路は、
直腸内にガスが認められて、かつ直腸が拡張しているように思われたので何か肛門側に狭窄があるのではないか→直腸癌?
という感じでした。
以前のご講義もしっかり復習しておきます!
アウトプットありがとうございます。
>直腸内にガスが認められて、かつ直腸が拡張しているように思われたので何か肛門側に狭窄があるのではないか→直腸癌?
今回拡張しているのは、直腸〜S状結腸の一部だけですね。大腸イレウスならばもっと口側の結腸も拡張して欲しいところです。
症例36をぜひ復習してください。
血便ということでどこかで出血が起こっているという考えは浮かびましたが、診断に結び付けられませんでした。
下行結腸に憩室が多発までは分かって、出血部位とされているところにも目が行きましたが、
単純でも高吸収だし、ガストログラフィンでも残存しているのでは?と安易に考えてしまいました。
単純と造影を丁寧に比較することも大事だと痛感しました。
今回のCTで胃と十二指腸に目が行ってしまいました。
この症例、胃壁の厚さは正常ですか?
特に幽門前庭部から十二指腸にかけてのところが気になりました。
アウトプットありがとうございます。
>今回のCTで胃と十二指腸に目が行ってしまいました。
この症例、胃壁の厚さは正常ですか?
特に幽門前庭部から十二指腸にかけてのところが気になりました。
そうですね。おっしゃるようにかなり厚く見えますが、これくらいならば正常範囲です。
ただし、同じような厚さであっても症例54でやったような粘膜下層の肥厚が目立つ場合は、正常ではありません。
http://medicalimagecafe.com/case/Jg4yzhxv.html
また肥厚が局所的であれば異常である可能性が高くなります。
いつも症例提示ありがとうございます。
・下行結腸に限局性の高吸収があり出血点ではないかということは指摘できました。しかしextravasationがあることは指摘できていませんでした。動脈相から平衡相で漏出量の増加がないか今後は気をつけてみます。
・下行結腸の出血点の読影を壁肥厚を「3層構造が保たれておらず(スライス140~141)下行結腸癌疑い」と読影してしまいました。この部位は3層構造は保たれていると判断してよろしいでしょうか。
・スライス111~116で胃幽門前庭部の粘膜、粘膜下壁肥厚があるようにみえますが所見としては有意でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>動脈相から平衡相で漏出量の増加がないか今後は気をつけてみます。
そうですね。漏出量の増大の有無は重要ですので、意識してみてください。
>「3層構造が保たれておらず(スライス140~141)下行結腸癌疑い」と読影してしまいました。この部位は3層構造は保たれていると判断してよろしいでしょうか。
今回は下行結腸自体がペラペラであり、内部に液貯留+出血を伴ってはいますが、壁の肥厚がありません。
ですので、
3層構造を保った壁肥厚
3層構造が保たれない壁肥厚
いずれでもありません。
もちろん消化管の場合は腫瘍が隠れている可能性は否定できませんが、壁肥厚がないので3層構造については判断の対象外となりますね。
>・スライス111~116で胃幽門前庭部の粘膜、粘膜下壁肥厚があるようにみえますが所見としては有意でしょうか。
うーん。
これはおっしゃるように少しあるようにも見えますが、胃全体もその傾向がありますので、有意ではないと考えます。
所見としてとってもよいかもしれませんね。ここに着目するとこの程度の所見ならば良く見られる様な気もしますが。
今回も間違えてしまいました。
血便→虚血性腸炎?
腸炎の所見が見当たらないので
他の所見を探すと、
SMV<SMAなので血管閉塞?
閉塞所見ないのでNOMI?
主訴である血便と合わないのに
NOMI疑いと盛大に間違えてしまいました。
SMV<SMAなのは
下行結腸の出血で
SMVに帰ってくる血流が少なくなっていると考えて良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>血便→虚血性腸炎?
年齢・性別を考慮するとむしろこの可能性は下がると考えるべきですね。
>SMV
コメント拝見しました。
>>・スライス111~116で胃幽門前庭部の粘膜、粘膜下壁肥厚があるようにみえますが所見としては有意でしょうか。
>うーん。
>これはおっしゃるように少しあるようにも見えますが、胃全体もその傾向がありますので、有意ではないと考えます。
>所見としてとってもよいかもしれませんね。ここに着目するとこの程度の所見ならば良く見られる様な気もしますが。
僕も今回、幽門部の粘膜下肥厚を記載してしまいました。
微妙なところなんですね。
胃部症状があれば精査も妥当ですか?
そうですね。
>胃部症状があれば精査も妥当ですか?
症状があれば内視鏡をしてもいいかもしれませんね。
また同じような所見があってとくに症状がない人があれば提示したいと思います。
お世話になります。
初歩的なことで申し訳ないのですが、胆管拡張ありとのことですが、肝内胆管、肝外胆管拡張の評価の仕方がわかりません。
ご指導いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>胆管拡張ありとのことですが、肝内胆管、肝外胆管拡張の評価の仕方がわかりません。
そもそも正常ならば肝内胆管が見えないことが多いので今回のように単純でもわかるような場合は拡張ありと判断します。
総胆管については11mm以上ならば拡張ありとすることがあります。今回総胆管はそれほど目立たないですね。
こちらまだならばどうぞ。
https://imaging-diagnosis.com/view/iZ8kfeQp
いつも大変勉強になっています.ありがとうございます.
ところで本筋ではないのですが,子宮が見つけられません.この方の子宮はものすごく萎縮しているのでしょうか.それとも子宮摘出後?なのでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
性別が男性になっており、修正しました。ありがとうございます。
子宮摘出後かどうかチェックしますのでしばしお待ちください。
確認しました。子宮、卵巣、虫垂が術後でした。
そうだったのですね.お忙しいところご確認いただきありがとうございました.
おかげさまですっきりいたしました.ありがとうございました.
造影1相目で腎静脈に造影効果を認めているし、Hb低下も顕著ではなくvital異常が無いので、動脈性出血は無さそうだと考えながら「ん?いきなり門脈相なのか?①門脈相→②平衡相・・・ん???」と思ってしまったのですが、体格差もあるし、動脈相後期ぐらいの柔軟な捉え方をしてもいいのかなーと自己反省しました。造影タイミングとか、静脈での造影のムラとか、評価にいつも悩みます。
アウトプットありがとうございます。
>体格差もあるし、動脈相後期ぐらいの柔軟な捉え方をしてもいいのかなーと自己反省しました。造影タイミングとか、静脈での造影のムラとか、評価にいつも悩みます。
動脈後期相として考えていただいてよいです。
造影タイミングは体重を考慮して個別に決められていますが、どうしても理想的な染まり方をしないことはしばしばありますね。
活動性の出血とのことですので、読影も素早く的確にしないといけませんね。
上行結腸、下行結腸、S状結腸の類円形のものはみんな憩室でしょうか。
下行結腸の出血している憩室周囲の脂肪織濃度上昇は余り見られませんが、こんな炎症が起こっていても
静かなこともあるのですね。
アウトプットありがとうございます。
>上行結腸、下行結腸、S状結腸の類円形のものはみんな憩室でしょうか。
みんな憩室ですね。
>下行結腸の出血している憩室周囲の脂肪織濃度上昇は余り見られませんが、こんな炎症が起こっていても静かなこともあるのですね。
そうですね。憩室炎を起こしているわけでも解離をおこしているわけでもなく、動脈から出血しているだけなので、脂肪織濃度上昇は目立たないのでしょうね。
私も胃前庭部が気になってしまった一人です。他の方も質問されていたので、勉強の浅い身には『有意な所見として取らないという判断』が難しい症例だったのかなと感じました。
気になってしまった理由として、動脈相でlowな部分が粘膜下層の浮腫状変化の様に見えたためです。しかし平衡相では染まっていますしね…。
読影の勉強をしていると、深読みして所見を取り過ぎてしまうことがあります(^^;)
このようなバリエーションもあると頭に入れておきます。
アウトプットありがとうございます。
>気になってしまった理由として、動脈相でlowな部分が粘膜下層の浮腫状変化の様に見えたためです。しかし平衡相では染まっていますしね…。
該当する部位は低吸収で、確かに粘膜下層に見えてしまいますが、胃幽門部は特殊でこちらは筋層になります。
粘膜下層はほとんどはっきりしません。
胃幽門部ではこのように筋層が著しく厚くなることが知られており、ここだけ特殊と覚えておいてください。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37798
いつも大変勉強になっています。
造影CTで下腸間膜動脈の起始部周囲が低吸収のように見えるのですが気のせいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>下腸間膜動脈の起始部周囲が低吸収のように見えるのですが気のせいでしょうか。
気のせいではないですね。
おっしゃるように起始部が腫大して右側に低吸収域を認めています。
動脈硬化や陳旧性の局所的な解離を認めている可能性があります。
なお、腹腔動脈は起始部が狭小化していますね。