【胸部】症例4 参考症例1
【症例】40歳代男性
【主訴】発熱、咳嗽
【現病歴】14日前にCOVID-19陽性患者と接触のある友人と食事などの接触歴あり。8日前から咳症状があったがすぐに治った。同時期に咽頭痛あり。6日前から倦怠感、寒気、目の充血、目やにあり。5日前から39℃の発熱あり。それ以降間欠的な発熱あり。同日近医受診。喉の炎症あると言われ、感冒薬のみ処方され週明けまで様子見の方針となった。2日前から吸気時咳あり、昨日も38℃の発熱あり、本日も持続しており、咳症状も持続しているため当院来院。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BP 150/72mmHg、BT 37.1℃、P 77bpm、SpO2 96%(RA)、眼球結膜貧血充血なし、肺音:明らかなラ音聴取せず、心音整、胸部圧痛なし。
【データ】WBC 7100、CRP 2.17
画像はこちら
右上葉S2末梢にすりガラス影を認めています。
また左下葉には浸潤影+周囲にすりガラス影を認めています。
一部は区域性に広がっているように見える部位もありますが、どうみても区域性では説明がつかない横方向にも陰影は広がっています(非区域性分布を示しています)。
通常のウイルス性肺炎の場合このような非区域性パターンは呈しにくいのですが、これがこの病原体の特徴とも言えます。
そう、新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎です。
診断:COVID-19肺炎
※PCR陽性で加療されました。
【胸部】症例4 参考症例2
【症例】30歳代男性
【主訴】頭痛、倦怠感
【現病歴】生来健康。妻がCOVID-19陽性。4日前より頭痛、倦怠感出現あり。3日前に近医受診し、カロナールを内服している。
【既往歴】なし
【生活歴】喫煙 10本/日を11年、ビール2L/週3-4日
【身体所見】意識清明、BP 118/76mmHg、HR 85bpm、SpO2 97%(RA)、BT 36.2℃
【データ】WBC 4000、CRP 1.61
画像はこちら
両下葉末梢優位に多発のすりガラス影、浸潤影を認めています。
中枢側には陰影はほとんど認めておらず、ほぼ末梢のみに認めています。
また胸膜直下は保たれていないものが多く、右の下葉には円形のほぼ均一なすりガラス影を認めています。
- 下葉に主に分布
- 末梢優位に円形のすりガラス影
といった点が、COVID-19肺炎をより疑う所見と言えます。
浸潤影の部分はおそらくある程度時間が経過したものであり、すりガラス影部分は比較的新しい病変ではないかと推測されます。
超初期の段階ではこのような均一なすりガラス影のみが下葉の末梢優位に分布するのが特徴なのですが、超初期は個人的には経験がありません。
診断:COVID-19肺炎
※PCR陽性で、抗生剤+吸入ステロイド+アビガンにて治療されました。
補足症例の動画解説
関連動画
動画内でCOVID-19肺炎は丸いのが特徴なのではないか、「マリモ」のようだと言及していますが、最初にマリモとおっしゃったのはこの先生です。
まだ今のようにCOVID-19肺炎の画像所見が数多く出回る前のツイートで、非常に参考になるツイートです。
#COVID19#新型コロナ肺炎
CT所見の特徴
特異的な部分だけ抽出すると
モス 海綿 マリモ!
当初こう言うと叩かれたが、やはり普通のウイルス性肺炎像ではない。
丸い。やたら丸い。
最終的には日本医学放射線学会の発表なども参考に。でもまずは自分の感触を。
感性を研ぎ澄まそう。1/6— 放射線診断医の妻 (@AdultSpotDiffer) April 2, 2020
で、全くいいねされなかった私のツイートがこちら。
肺炎を探すんじゃない。
マリモを探すんだ。#covid19肺炎 https://t.co/mWmdCZz7Gs— ごろ~にゃ@画像診断cafe (@radiology_cafe) April 30, 2020
COVID-19肺炎の画像所見(ESPRESSO胸部救急画像診断ver)
- 下葉胸膜直下にすりガラス影としてマリモは出現する。
- マリモは1匹じゃない、あちこちに湧いてくるぞ(多巣性に出現する)。
- マリモは動くぞ(非区域性分布)。
- 肺炎を探すんじゃない、マリモを探すんだ 。←滑ったけど採用。
〜〜〜〜〜あれから1年〜〜〜〜〜
「第2波に備えよ」と上の動画でも言っていた昨年度から1年ちょっとが経ちました。
緊急事態宣言が解除された今「第5波に備えよ」と言われています。
当時はまとまった報告も少ない中、マリモがあれば、非区域性分布があれば、COVID-19肺炎ではないかなどと、模索していましたが、現在はCOVID-19肺炎の画像所見、臨床経過についてはまとまり、たくさんの論文、書籍が出ております。
改めて昨年度の動画を見てみると、今報告されていることとほとんど変わらないなという印象ですが、経時的な変化など含め、現時点で
COVID-19肺炎の画像所見の総論
として、新たにまとめてみました。
その上でいまだ収束が見えないCOVID-19肺炎ですので、今年はこの2症例に加えて、さらに複数の症例を体験していただきます。
その名も、
COVID-19肺炎画像診断 オンラインツアー2021
です。
詳細はこちらをご覧ください。
※別途登録などは必要ありません。ESPRESSO胸部救急画像診断2021にご参加の方には動画内で述べている日程で配信していきます。
メールでもお伝えしましたが、具体的な治療法についての質問はお控えください。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
胸膜直下がspareされたというしばしば読影レポートにも登場する言葉の意味がspareされていないものに比べてどのような画像診断的意義を持つのか未だに理解できておりませんでしたのでこの機会に恥ずかしながら質問させていただきたく思います。
アウトプットありがとうございます。
胸膜直下がspareされているということは、基本的に経気道感染で小葉中心性に陰影が広がっているということです。
spareされていないということは、経気道散布でなく、広義リンパ路病変や血行性に広がったランダムパターンなどを考える必要があります。
ただし、経気道散布性病変でも陰影が強い場合は胸膜直下はspareされないですし、今回のCOVID-19肺炎のようによくわからないものもあります。
crazy paving pattern を認識しました。
よかったです!!
小葉間隔壁の肥厚(これについては今後出てきます)では説明がつかない線状影を意識してみてください。
いつもありがとうございます。コメントのところもいつも勉強になり、助かっております。いくつか質問があります、よろしくお願いいたします。
①別の方が質問されていた、spareに関してなのですが、いわゆるコーン孔などを介して非区域性に分布した細菌性肺炎、レジオネラなどでは、胸膜直下がspareされないことのほうが多いでしょうか?(もしそうなら、それは炎症や浸潤が強くて、陰影が強くてspareされないと考えていいでしょうか?)
②用語に関してですが、ニューモシスチス肺炎などで、びまん性という表現が適切で、非区域性とはいわないでしょうか?あとびまん性に症状がでる理由(宿主の過剰な免疫応答?)などがわかっていれば教えていただきたいです。
③動画にもありましたが、一般的にCOVIDでない、ウイルス性肺炎でARDS化していない場合などでは、小葉中心性(=区域性と同じ意味?)のすりガラスと考えていいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>コーン孔などを介して非区域性に分布した細菌性肺炎、レジオネラなどでは、胸膜直下がspareされないことのほうが多いでしょうか?(もしそうなら、それは炎症や浸潤が強くて、陰影が強くてspareされないと考えていいでしょうか?)
非区域性に分布すると肺胞を充満していきますので、二次小葉も全体的に水浸しになるイメージです。ですので、胸膜にも達するようになります。
おっしゃるように陰影が強くてもともとはspareされていたものがされなくなるということです。
>びまん性という表現が適切で、非区域性とはいわないでしょうか?あとびまん性に症状がでる理由(宿主の過剰な免疫応答?)などがわかっていれば教えていただきたいです。
今回のレジオネラ肺炎についてはどうしてこのような陰影(モザイクパターンのすりガラス影)を示すのはわかりません。
非区域性の要素もありますので、非区域性といってもよいと思いますが、通常非区域性という用語は、隣の肺胞に炎症が波及していく様子を指すことが多いと思います。つまり、肺炎球菌性肺炎とかレジオネラ肺炎のような濃い陰影が広がっていくときに使われる傾向があります。あくまで傾向ですが。
>一般的にCOVIDでない、ウイルス性肺炎でARDS化していない場合などでは、小葉中心性(=区域性と同じ意味?)のすりガラスと考えていいでしょうか?
おっしゃるように通常は区域性分布です。
区域性分布は小葉中心性とほぼ同義ですが、汎小葉性の場合もあります。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/20819
新型コロナウイルスの画像提供ありがとうございました。連続画像で確認できる機会はほとんどないので、貴重な体験でとても参考になりました。
アウトプットありがとうございます。
連続画面で、
・下葉胸膜直下のすりガラス影
・丸みを帯びていることがある
・多発する
・非区域性分布することがある
という点を体感してください(^^)
ツイッターも一応チェックさせて頂いてるのですが、気が付きませんでしたが、
ごろ~先生のツイートの方が私にとっては10いいねです。
でも、朝から苦笑が止まりませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>ごろ~先生のツイートの方が私にとっては10いいねです。
でも、朝から苦笑が止まりませんでした。
爆笑ではなくて苦笑ですか・・・・(^_^;)
そうですか、やはり滑(略)
擦りガラスの形は意識してませんでした。理由が明確じゃなくてもプロの感覚やアノマリーのようなものは重要だと考えています。他のウイルス性肺炎時の陰影とコロナ時の陰影を意識して見比べてみます!
アウトプットありがとうございます。
>他のウイルス性肺炎時の陰影とコロナ時の陰影を意識して見比べてみます!
是非比べてみてください。
他のウイルス性肺炎でも丸く見えるところもあるので、難しいこともありますが、
・胸膜直下から広範にすりガラス影が広がる
・多巣性であり、形状が丸い
・非区域性分布することがある
というのは、他のウイルスではあまりないと思われます。
参考症例1を浸潤影が横に広がっているというだけで、肺胞性肺炎としてしまいました。
COVID-19は初期は末梢に肺炎があり、
肺胞性肺炎の場合、末梢だけではなく中枢側にも肺炎があるということでよろしでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>参考症例1を浸潤影が横に広がっているというだけで、肺胞性肺炎としてしまいました。
この広がり方は肺胞性肺炎の広がり方でよいですね。consolidationですし。
ちょっとこのウイルスは特殊だと考えましょう。
>肺胞性肺炎の場合、末梢だけではなく中枢側にも肺炎があるということでよろしでしょうか?
基本はそうですね。末梢だけにconsolidationが広がるというのは通常ではありません。
COVID-19肺炎はそれが起こる事があるので特殊ですね。
ごろ~先生のCOVID関連の動画、日々の診療に際し、非常に参考にさせていただいておりましたm(__)m
今年の2月頃から、例年なら年間に数例くらいしかみないような多発するすりガラス状陰影を示す肺炎像が増加してきて、3月下旬から4月中旬ではほぼ毎日のように異様な肺炎像が増加してきました。
でもこの頃、COVID-19肺炎を疑ったうちのPCR陽性率は50%程度でした。
4月中旬頃からは、異様な肺炎像が徐々に減少してきましたが、疑わしいものはほぼ全例PCR陽性になっていました。
ところが、5月くらいから異様な肺炎像は急激に減少し、6月に入ってからは、個人的には全くみていません。
このまま収束するとは思いませんが、爆発的な感染者数の増加がおこらないうちに、ワクチンやおり多くの治療薬の開発が間に合ってくれればと願うばかりです。
アウトプットありがとうございます。
>でもこの頃、COVID-19肺炎を疑ったうちのPCR陽性率は50%程度でした。
4月中旬頃からは、異様な肺炎像が徐々に減少してきましたが、疑わしいものはほぼ全例PCR陽性になっていました。
ところが、5月くらいから異様な肺炎像は急激に減少し、6月に入ってからは、個人的には全くみていません。
貴重な経過ありがとうございます。
うちも概ねそのような感じですが、急にこの1週間くらい画像上は明らかにCOVID-19肺炎なのに、何度PCRをしても陰性という症例が数例あります。
COVID-19肺炎として治療されていますが、画像所見とPCRの結果に少し解離がでてきている感じがあり、近所でクラスターが発生しているのか、ウイルスに変異が起こりPCRが陽性になりにくくなっているのか・・・・。
県内発生は0が続いているのですが、なんだか気持ち悪い感じもします。
>このまま収束するとは思いませんが、爆発的な感染者数の増加がおこらないうちに、ワクチンやおり多くの治療薬の開発が間に合ってくれればと願うばかりです。
そうですね。子どもの学校もようやく明日から全再開ですし、もう緊急事態宣言は勘弁ですね(^_^;
普段はCOVID-19には関わらないところで診療しているため,勉強になりました.
現在は収まっているようですが,また流行した時には自分の患者さんでも発生するかもしれず,その時に「マリモサイン」を見つけることができるようになっておこうと思います.
こうした先生の活動も,COVID-19の流行を抑えることに寄与していると思います.
アウトプットありがとうございます。
>その時に「マリモサイン」を見つけることができるようになっておこうと思います.
そうですね。
普段関与していない場合でも、いつ担当患者さんが感染してくるかわからないので、
・マリモサイン
・下葉胸膜直下すりガラス影
少なくともこの2つをみたら、「もしかしたら・・・・」と思えることが重要ですね。
“マリモを見つけるんだ!”のツイートに??でしたが、やっと意味が分かりました笑
私の大学は実習再開に先立って全員レントゲンを撮りましたが、初期は円形のすりガラス影を呈するとなると、レントゲンでの発見は結構難しそうですね。。
レントゲンを読む大変さが身にしみて分かったので、無地のTシャツを持っていって一生懸命息を吸って止めました笑
アウトプットありがとうございます。
>“マリモを見つけるんだ!”のツイートに??でしたが、やっと意味が分かりました笑
確かに分かる人にしか分からないですね(^_^;)
>私の大学は実習再開に先立って全員レントゲンを撮りましたが、初期は円形のすりガラス影を呈するとなると、レントゲンでの発見は結構難しそうですね。。
レントゲンではマリモはわかりませんね・・・。
全員CT撮影するのはさすがに厳しいですからね。
胸膜直下に横に広がってると思いましたが、区域性だと思いました( ; ; )
区域性や気管支肺炎と書いた全ての人に必要なのは、例のアレです!
COVID-19が流行っている今こそ区域性かも分かるようになる肺区域同定ブートキャンプの開催をお願いします!隊長っ!
アウトプットありがとうございます。
>今こそ区域性かも分かるようになる肺区域同定ブートキャンプの開催をお願いします!隊長っ!
区域性というのは、気道散布性病変に広がるということであり、肺区域のS○、S□にのみ広がるという意味ではありません。
今回非区域性に肺胞を介して広がっていますがこの場合は同じ肺区域内で広がることもありますし、肺区域をまたいで広がることもあります。
肺区域同定ブートキャンプ!!(^_^;)
今すぐはちょっと無理ですが、考えます。締め切りがある作業を時間を見つけてはやっていますので・・・。
胸部ということはコロナもあるのか?と期待していたら本当に取り上げてくださりありがとうございます。
CTだけでウイルス性肺炎との鑑別がつくのかなと思っていましたが非区域性分布など、色々特徴があると知って勉強になりました。CT撮影後PCRという検査の流れもあながち間違いではなかったんですかね。
アウトプットありがとうございます。
>胸部ということはコロナもあるのか?と期待していたら本当に取り上げてくださりありがとうございます。
当初作ったときは入ってなかったのですが、他のウイルス性肺炎と少し特徴が違うのと、冬に向けて学んでおくべきだと判断し急遽入れました。
>非区域性分布など、色々特徴があると知って勉強になりました。
そうですね。このウイルス独特の特徴、悪く言えば気持ち悪さがありますね・・・・。
>CT撮影後PCRという検査の流れもあながち間違いではなかったんですかね。
そうですね。疑わしい人にCTを撮影して、やはり疑わしい場合はPCR検査という流れですね。
内科当直でCOVID-19を含め肺炎の患者さんに接することがありますので、COVID-19肺炎に関して非常に勉強になりました。1点教えていただきたいです。原因にもよるかと思われますが、crazy-paving patternというのは不可逆的な変化なのでしょうか(臨床症状改善後にも残存しますか)?
アウトプットありがとうございます。
>原因にもよるかと思われますが、crazy-paving patternというのは不可逆的な変化なのでしょうか(臨床症状改善後にも残存しますか)?
少なくともCOVID-19肺炎では不可逆ではありません。
索状影などとして残ることはありますが、綺麗に消えることもあります。
crazy-paving patternそのものとして残ることはまずないと思われます。
肺胞蛋白症などでは残ることもあるかと考えます。
参考症例に加えてオンラインツアーをありがとうございます。
「マリモを探すんだ」は印象的な言葉でした。
動画の、「第2波に備えよ」2020年4月版を見て、1年以上経った現在では
どんな治験が増えたのかしらと思っていました。
当院ではCOVID-19肺炎を診たことがありません。
熱が出て、肺炎像があったらみんなCOVID-19肺炎と言ってしまうのでは
ちょいと寂しいですものね。
いっぱい勉強したいです。
アウトプットありがとうございます。
>熱が出て、肺炎像があったらみんなCOVID-19肺炎と言ってしまうのではちょいと寂しいですものね。
いっぱい勉強したいです。
オンラインツアー後には、COVID-19肺炎マスターです。
他の肺炎との違いなどもご理解いただけると思います。
当院では一般内科でコロナの入院を診ていますが、放射線科の読影は後日非常勤医によるので、その場で自分たちで読んでいます。カルテに書くときに、「網状影が多発」と書きがちだったので、スリガラス影、索状影、円形、等もっと正確に記載できるようになりそうです。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>放射線科の読影は後日非常勤医によるので、その場で自分たちで読んでいます。
お疲れ様です!このような現場は多いと思います。
>カルテに書くときに、「網状影が多発」と書きがちだったので、スリガラス影、索状影、円形、等もっと正確に記載できるようになりそうです。ありがとうございます。
是非これからの9症例で用語の使い方も注意してみてください。
「非区域性に広がるすりガラス影、円形のすりガラス影」などの表現を使うことがCOVID-19肺炎では多いですね。