脳出血の1つでもある被殻出血(読み方はひかくしゅっけつ)は、他の部位に比べても頻度が多く、高血圧による脳出血の代表的なタイプです。
今回はこの被殻出血(読み方は「ひかくしゅっけつ」英語表記で「Putamen hemorrhage」)について
- 症状
- 原因
- CT画像所見
- 治療法
についてまとめました。
先に結論:被殻出血(ひかくしゅっけつ)とは
- 脳の深いところにある被殻(大脳基底核の一部・内包の外側)からの出血で、視床出血と並んで最も多いタイプです。主な原因は高血圧です
- 読み方は「ひかくしゅっけつ」。左の被殻出血は「ひだりひかくしゅっけつ」、右は「みぎひかくしゅっけつ」と読みます
- 左被殻出血では右半身のまひと失語症、右被殻出血では左半身のまひと左側に気づきにくい症状(半側空間無視)が出やすいのが特徴です
- 症状は突然の頭痛・意識障害と、出血と反対側の片麻痺・感覚障害。左の被殻出血では失語症、右では左半側空間無視が出やすくなります
- CTでは内包の外側に白い(高吸収の)血腫が見えます。血腫の量や意識の状態で、薬の治療か手術かが決まります
被殻出血とは?
被殻出血(ひかくしゅっけつ、英: Putamen hemorrhage)とは、大脳深部にある大脳基底核の被殻(ひかく)において出血が生じる病態です。
脳出血の中でも最も発生頻度が高い部位のひとつで、243例の検討では高血圧性脳出血の46%を占めました(Awada et al. 1996)。日本の久山町の地域住民を長く追った研究や、1施設で高血圧性脳出血を18年間集めた研究では、被殻出血は減り、視床出血が増える傾向が報告されています(Gotoh et al. 2014、Katano et al. 2023)。血圧の管理が良くなったことが一因と考えられています。
被殻は大脳基底核を構成する構造のひとつで、内包(ないほう)の外側に位置しています。CTでは内包より外側の部分に高吸収域が出現するのが特徴的な所見です。
被殻の場所(解剖)は実際のCT画像で次のようになります。

脳出血の中でもこの被殻出血は、視床出血と並んで最も好発する脳出血です。

被殻出血の症状と緊急性
典型的な症状
被殻出血では以下のような症状が出現することがあります。
- 頭痛(突然発症・持続性)
- 意識障害(意識が薄れる・傾眠〜昏睡)
- 片麻痺・片側の感覚障害(出血と反対側の上下肢)
- 失語症(左半球・優位半球の被殻出血の場合)
- 共同偏視(眼球が病巣側に偏位します)
- 視野障害
典型的な経過としては、突然の頭痛に続いて意識が薄れていき、片側の麻痺・感覚障害が出現するというパターンが多いです。これらの症状は他の神経疾患とも重なることがありますが、突然発症・急速な進行がみられる場合は脳出血を積極的に疑い、速やかに画像診断(CT)を行うことが重要です。
救急受診が必要なサイン
以下の症状が急に出現した場合は、速やかに救急受診をしてください。
- 突然の激しい頭痛(「今まで経験したことのない頭痛」)
- 急に呼びかけに反応しなくなった・意識がおかしい
- 手足の片側が突然動かなくなった・しびれる
- ろれつが回らない・言葉が出てこない
- 顔の片側が下がっている
血腫は発症後数時間で拡大することがあるため、早期の診断と治療開始が予後に大きく影響します。血腫拡大の予測には造影CT(CTA)のspot signが使われます。発症6時間以内の脳出血268例の前向き研究(PREDICT)では30%がspot sign陽性で、血腫増大量の中央値は陽性例8.6mL、陰性例0.4mLでした(Demchuk et al. 2012)。発症3時間以内の39例の検討では、spot signによる血腫増大の予測は感度91%、特異度89%、陽性的中率77%、陰性的中率96%でした(Wada et al. 2007)。CTでは数時間後の再検で血腫の増大を確認します。
左被殻出血と右被殻出血の症状の違い
| 左被殻出血(多くは優位半球) | 右被殻出血 | |
|---|---|---|
| 麻痺・しびれ | 右半身 | 左半身 |
| 目の向き(共同偏視) | 左(出血側)を向く | 右(出血側)を向く |
| 出やすい高次脳機能障害 | 失語症(話す・理解することの障害) | 左半側空間無視(左側に気づきにくい)など |
麻痺は出血と反対側に出ます。右利きの人の多くは言語の中枢が左にあるため、左の被殻出血で失語症が出やすくなります。
左被殻出血で出やすい症状
- 右半身のまひ・しびれ(顔・腕・脚。腕のほうが強く出ることが多い)
- 失語症:言葉が出にくい、相手の話がわかりにくい、言い間違いが多い
- 字が書けない・読めない、計算がしにくいなどの症状が出ることもあります
- 目が左(出血側)を向く(共同偏視)
右被殻出血で出やすい症状
- 左半身のまひ・しびれ
- 左半側空間無視:左側にある物や人に気づきにくく、食事で左側だけ残す、左側にぶつかるなど
- まひがあるのに本人が気づかない・認めない(病態失認)、服をうまく着られない(着衣失行)ことがあります
- 目が右(出血側)を向く(共同偏視)
症状の重さは血腫の大きさと、すぐ内側を通る内包(手足を動かす神経の通り道)にどこまで血腫が及んだかで変わります。気になる症状が急に出たときは、様子を見ずにすぐ救急車を呼ぶか医療機関を受診してください。
被殻出血の原因
高血圧性動脈硬化とレンズ線条体動脈
被殻出血の原因として最も多いのは高血圧による動脈硬化です。高血圧が持続することで血管壁が肥厚・変性し、最終的に破綻して出血に至ります。
責任血管は、レンズ核線条体動脈外側枝(中大脳動脈からの穿通枝)です。
※血管支配域については、頭部画像診断ツールにてご確認ください。
なお、高血圧以外にも以下が原因となりえますが、被殻出血においては高血圧性のものが主体を占めます。
- 脳アミロイド血管症(高齢者・皮質下出血との鑑別が必要です)
- 抗凝固薬・抗血小板薬の影響
- 血管奇形(脳動静脈奇形など)
AHA/ASAの2022年ガイドラインでは、脳内出血の患者で血管奇形などの二次性の原因を見落とさないため、CTA/MRAなどの血管評価を行うことが勧められています。
被殻出血の診断は?CT画像所見は?
被殻出血の診断にはCT検査が有用で、発症直後から被殻部位の高吸収域として描出されます。CTは短時間で撮像でき、救急の現場では第一選択となることが多いです(なお急性期出血の検出能は、MRIのGRE〈T2*強調像〉もCTと同等と報告されています)。
CTで確認すべきポイント
被殻出血の読影では、以下の点を確認することが重要です。
- 高吸収域の部位
内包より外側の被殻領域に高吸収域(白く見える領域)があるかを確認します。内包の内側に高吸収域がみられる場合は、視床出血との鑑別が必要となります。 - 血腫の形・大きさ
血腫量はABC/2法(A=血腫の最大径、B=Aに直交する径、C=出血のあるスライス枚数×スライス厚として、A×B×C÷2)で概算できます。118例の検討では平均38秒で計測でき、コンピュータによる計測とよく相関し、検者間・検者内の再現性も非常に高いものでした(Kothari et al. 1996)。血腫が大きく周囲への圧迫が高度な場合は、手術を検討する目安になります。 - 脳室への圧排・穿破の有無
血腫が拡大すると周辺の脳室を圧排し、さらに脳室内に穿破することがあります。脳室内血腫を伴う場合は予後が悪化しやすく、水頭症のリスクも高まります。 - 正中偏位(Midline shift)の有無
大きな血腫では正中構造(透明中隔・第三脳室など)が反対側に押し出されます。正中偏位が著しい場合は、脳ヘルニアのリスクを考慮する必要があります。 - 周囲の脳浮腫
血腫周囲には低吸収域(浮腫)が出現することがあります。発症後数時間〜数日にかけて浮腫が拡大し、症状が増悪する場合もあります。
血腫の経時変化(CT上の変化)
被殻出血の血腫はCT上で以下のように経時的に変化します。
- 急性期(発症直後〜数日):高吸収域として白く描出されます
- 亜急性期(1〜2週間):血腫が吸収されるにつれ等吸収に変化し、判別が難しくなる時期もあります
- 慢性期(数週間〜):さらに吸収が進み、低吸収域(嚢胞様変化)となります
実際の症例でも、発症10日後のCTでは血腫が縮小している様子が確認でき、内科的治療での経過観察が適切であった症例も多くみられます。
被殻出血と視床出血の鑑別
高血圧性脳出血では被殻出血のほかに視床出血も頻度が高く、CT上での位置による鑑別が重要です。
| 項目 | 被殻出血 | 視床出血 |
|---|---|---|
| 高吸収域の位置 | 内包の外側(被殻) | 内包の内側〜後方(視床) |
| 脳室内血腫 | 拡大した場合に合併することがあります | 比較的合併しやすいです(第3脳室) |
| 特徴的な神経症状 | 片麻痺・失語(優位半球)・共同偏視 | 上方注視麻痺・感覚障害が目立ちます |
| 予後 | 血腫量に依存します | 比較的不良とされています |
CT読影で迷う場合は、内包(低吸収の帯状構造)を基準として、高吸収域がその外側か内側かを確認することが鑑別の第一歩となります。
被殻出血のCT分類(血腫の広がり)
日本では、被殻出血を血腫がどこまで広がったか(被殻の外側にとどまるか、内包の前脚・後脚へ及ぶか、脳室へ破れるか、さらに奥へ広がるか)で型に分けるCT分類(金谷らの分類)が使われてきました。被殻出血の大規模な集計では、このCT分類が血腫量・年齢・神経症状の重さ・まひとともに3か月後の日常生活の自立度(ADL)の予測に使われています(Takahashi et al. 1993)。一方で、血腫の上下方向への広がりが反映されないなど、分類の改良を提案する報告もあります(Kanno et al. 1986)。
読影レポートでは型の名前だけでなく、「内包後脚に及ぶか」「脳室穿破があるか」「正中偏位はあるか」を文章で書いておくと、症状や予後と結びつけやすくなります。
予後の目安(ICH score)
脳出血全体の予後の目安として、ICH scoreがよく使われます。来院時の情報だけで計算できる点数で、点数が高いほど30日以内の死亡が多くなります(Hemphill et al. 2001)。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 意識(GCS) 3〜4 / 5〜12 / 13〜15 | 2 / 1 / 0 |
| 血腫量 30mL以上 | 1 |
| 脳室内出血あり | 1 |
| テント下(脳幹・小脳)の出血 | 1 |
| 年齢80歳以上 | 1 |
元の研究では、0点の26人は全員が生存し、5点の6人は全員が亡くなっていました(Hemphill et al. 2001)。脳出血188例の検討でも血腫量は30日死亡の最も強い予測因子で、60mL以上かつGCS 8以下では予測死亡率91%、30mL未満かつGCS 9以上では19%でした(Broderick et al. 1993)。被殻出血はテント上の出血なので、血腫量・脳室穿破・意識の状態がとくに重要になります。
その他の脳出血との鑑別
脳出血には被殻・視床以外にも好発部位があり、CT上での位置と形態が鑑別の手がかりとなります。
- 脳葉出血:大脳皮質下に生じ、アミロイド血管症との関連が疑われることがあります
- 橋出血(脳幹出血):橋に小さな高吸収域が出現し、四肢麻痺・意識障害・眼球運動障害がみられます。予後不良となることが多いです
- 小脳出血:後頭蓋窩に高吸収域が出現し、体幹失調・頭痛・嘔吐が主な症状です
- くも膜下出血:脳槽・シルビウス裂・脳溝に沿った高吸収域で、被殻とは部位が異なります
症例 70歳代男性

右の被殻に1cm大の高吸収(白い!)を認めています。
右被殻出血を疑う所見です。

冠状断像でも同様です。
保存的に加療されました。
症例 50歳代男性 構音障害、左顔面麻痺

左の被殻に2cm大の高吸収(白い!)を認めています。
左被殻出血を疑う所見です。
こちらも保存的に加療されました。

10日後のCTでは血腫が吸収されて(小さくなっている)いる様子がわかります。
症例

(出典:医師国家試験データベース108I25)
左(向かって右側)の被殻に高吸収の出血を認めています。
脳室が右側へ圧排されています。
こちらはサイズが大きく手術適応となります。
症例 40歳代女性 3時間続く頭痛

引用:Radiopaedia(Putaminal hemorrhage)
単純CTで、左被殻に大きな楕円形の高吸収域(急性期血腫)があります。基底核は高血圧性脳出血の好発部位です。
動画で学ぶ被殻出血5症例、手術適応
被殻出血の治療
内科的治療
血腫量が比較的少なく、意識状態が保たれている場合は内科的管理が基本となります。主な治療内容は以下のとおりです。
- 血圧管理:出血の拡大を防ぐため、急性期は血圧を適切にコントロールします。AHA/ASAの2022年ガイドラインでは、軽症〜中等症で収縮期血圧150〜220mmHgの例では、収縮期血圧140mmHgを目標に降圧して130〜150mmHgに保つことが妥当とされ、130mmHg未満への降圧は有害となりうるとされています。
- 脳浮腫・頭蓋内圧への対応:グリセオール(濃グリセリン・果糖注射液)などを用いて脳浮腫を軽減します
- 全身管理:呼吸・循環・栄養管理、誤嚥性肺炎の予防なども重要です
手術適応の基準と術式

被殻出血における手術適応は、主に以下の基準で判断されます。
- 血腫量が大きい場合
- 周囲への圧迫が高度な場合
ただし手術の適否は血腫量だけで決まるわけではなく、意識レベル(JCSやGCS)・脳ヘルニアの有無・患者の全身状態・年齢なども総合的に考慮されます。深い昏睡状態にある場合や、すでに脳ヘルニアが進行している場合は、手術によってもさらなる侵襲となることがあるため、慎重な判断が求められます。なお、テント上の脳出血1033人を対象としたSTICH試験では、早期の血腫除去は保存的治療と比べて全体として良い結果を示しませんでした(Mendelow et al. 2005)。
手術術式としては以下が行われます。
- 開頭血腫除去術:頭蓋骨を開き、直視下に血腫を除去する方法で、大きな血腫に対して行われます
- 定位的血腫吸引術:頭部に小さな孔を開け、ガイド下に血腫を吸引する低侵襲な方法です
リハビリテーションと後遺症
被殻出血では、治療後に以下のような後遺症が残ることがあります。
- 片麻痺・筋力低下(理学療法が主体です)
- 感覚障害(作業療法で日常生活動作の改善を図ります)
- 失語症(言語聴覚療法が行われます)
- 高次脳機能障害(注意・記憶・遂行機能など)
急性期から早期にリハビリテーションを開始することが、機能回復において重要とされています。退院後も外来リハビリや訪問リハビリの継続が必要となるケースも多くあります。
被殻出血についてよくある質問(FAQ)
Q. 被殻出血のCTではどこに高吸収域が出ますか?
大脳基底核の被殻(レンズ核外側部)に白く(高吸収)描出されます。内包より外側に出現するのが特徴で、内側に位置する視床出血とCT上で区別することができます。
Q. 被殻出血と視床出血の違いは何ですか?
最大の鑑別点はCT上の位置です。被殻出血は内包の外側(被殻)、視床出血は内包の内側〜後方(視床)に高吸収域が出現します。また視床出血では第3脳室への穿破による脳室内血腫を伴いやすく、上方注視麻痺が特徴的な神経症状として現れることがあります。
Q. 被殻出血の手術適応はどのくらいの血腫量ですか?
血腫が大きく、周囲への圧迫が高度な場合が目安とされています。ただし意識レベル(JCS・GCS)・脳ヘルニアの有無・全身状態なども含めた総合的な判断が必要で、血腫量だけで一律に決まるわけではありません。
Q. 被殻出血の原因は何ですか?
主な原因は高血圧による動脈硬化です。被殻に血液を供給するレンズ線条体動脈は穿通枝動脈であり、高血圧による慢性的な壁応力がかかりやすい構造をしています。高血圧そのものは自覚症状が乏しいため、定期的な血圧測定と管理が予防として重要です。
Q. 被殻出血の典型的な症状は何ですか?
突然の頭痛に続いて意識が薄れる症状、および出血側と反対側の片麻痺・感覚障害が典型的です。左半球(優位半球)の被殻出血では失語症を伴うことがあります。また眼球が病巣側に偏位する共同偏視も出現することがあります。
Q. 被殻出血はCTで発症直後から見えますか?
発症直後からCTで高吸収域として確認できます。時間の経過とともに血腫は吸収され、等吸収→低吸収(嚢胞様変化)へと変化していきます。発症10日後のCTでは血腫が縮小した所見が確認でき、経過観察の指標としても有用です。
Q. 被殻出血はどのくらいの頻度で起きますか?
視床出血と並んで、高血圧性脳出血の中で最も発生頻度が高い部位とされています。近年は被殻出血が減り、視床出血が増える傾向が報告されています(Gotoh et al. 2014、Katano et al. 2023)。
Q. 左被殻出血・右被殻出血は何と読みますか?
「ひだりひかくしゅっけつ」「みぎひかくしゅっけつ」と読みます。「被殻(ひかく)」は大脳基底核の一部の名前で、「比較」と同じ読みです。
Q. 左被殻出血の症状は右と何が違いますか?
まひは出血と反対側に出るため、左被殻出血では右半身、右被殻出血では左半身にまひが出ます。左では失語症、右では左半側空間無視が出やすいのが大きな違いです。
Q. 被殻出血後のリハビリはいつから始めますか?
急性期(発症後早期)からリハビリテーションを開始することが、機能回復において重要とされています。片麻痺・感覚障害・失語などの後遺症に対して、理学療法・作業療法・言語聴覚療法がそれぞれ行われます。
関連記事:視床出血とは?症状・原因と被殻出血との違い、CT画像所見・治療・予後をわかりやすく解説
参考文献
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