胸骨と肩をつなぐ首の下両サイドにある骨を鎖骨(読み方は「さこつ」)と言いますが、この鎖骨部分に生じる骨折は、全骨折の中でも約10%を占めます。
しかし、この部分は手足の骨折とは異なり、なかなか固定しにくい位置でもあるため・・・
「鎖骨骨折はどういう治療が必要なのか?」
「手術をしないといけないのか?」
「痛みはどれくらい続くのか?」
など、気になってきます。
そこで今回は、この鎖骨骨折(英語表記で「Clavicle fracture」)について
- 症状
- 検査(分類)
- 治療法
- 後遺症
など、図(イラスト)や実際のレントゲン画像、CT画像を用いて解説致します。
鎖骨骨折とは?
鎖骨部分に生じる骨折を、鎖骨骨折といい、骨折の中でも高頻度に見られるものです。
周りの骨や筋肉に守られているような部位でもありますが、肩を下にして転倒するなど介達外力によって生じることがほとんどで、若年男子に多い特徴があります。
鎖骨骨折の好発部位は?
鎖骨の骨幹部(中央1/3)に好発し、80%程度はここに起こります。
また、骨片が生じた時には、
- 近位骨片は上方へ
- 遠位骨片は下方へ
転位します。
鎖骨骨折の症状は?
- 肩から背部にかけて強い疼痛や腫脹
- 上肢の運動制限
などがあります。
強い痛みのために、腕を動かすことができず、上肢を反対の手で抱えるようにして来院する方がほとんどです。
また、血管や神経損傷を伴うと、手のしびれや麻痺などの症状が現れます。
鎖骨骨折の診断は?
身体所見の他、単純X線検査(レントゲン検査)CT検査を行い診断します。
身体所見
- 原因となる外傷を受けた際の様子の聴取
- 局所の変形
- 痛みを伴う部位の確認
- 関節可動域制限の確認
などを行い、鎖骨骨折を行います。
単純X線検査(レントゲン)、CT検査
診断には、この単純X線検査が必須です。鎖骨前後像
- 肩鎖関節
- 胸鎖関節
を撮影し、骨折の部位や転位の状態を確認します。
また骨の転位の程度や方向を把握するために、鎖骨のCTが撮影されることがあります。
では実際の画像を見てみましょう。
症例① 40歳代男性 外傷
右鎖骨骨幹部に骨折線あり。
骨の転位は認めていません。
CTにおいても同様です。
3D再構成されたCT画像においても、骨の転位は認めていません。
保存的に加療されました。
症例② 50歳代女性 交通事故
胸部レントゲンにて左鎖骨の骨幹部に骨折線を認めています。
骨の転位を認めています。
- 近位骨片は上方へ
- 遠位骨片は下方へ
転位している様子がわかります。
鎖骨レントゲンにおいても同様です。
左鎖骨のCTにおいては、骨片が複数あることがわかります。
3D再構成された鎖骨CTでは、鎖骨及び骨折、骨片の位置関係が3Dでよくわかります。
手術により治療されました。
症例③ 10歳代 男性 交通事故
胸部レントゲンにて左鎖骨の骨幹部に骨折線を認めています。
骨の転位を認めています。
- 近位骨片は上方へ
- 遠位骨片は下方へ
転位している様子がわかります。
CTや再構成された3DのCTでは位置関係がよくわかります。
こちらの症例も手術療法にて加療されました。
鎖骨の外側の端に位置する鎖骨遠位部骨折の場合は、以下のように分類されます。鎖骨遠位部骨折の分類(Neerの分類)
- Ⅰ型・・・鳥口鎖骨靭帯は正常・転位は少ない
- Ⅱ型・・・鳥口鎖骨靭帯の損傷あり・転位が大きい
- Ⅲ型・・・肩鎖関節内骨折・関節症性変化をきたしやすい
症例④ 40歳代男性 交通事故
左鎖骨レントゲンです。
鎖骨遠位端に骨折線を認めており、骨の転位を認めています。
左鎖骨CTの冠状断像です。
CTですと骨折の様子がよくわかります。
骨だけを取り出し、3D再構成したものです。
鎖骨全体の様子がわかります。
左鎖骨遠位端骨折(Neerの分類Ⅱ型)と診断されました。
鎖骨骨折の治療は?
治療法には、保存療法と手術療法があります。
基本的には、保存療法での治療が主となり、必ずしも手術が必要となるわけではありません。
それぞれについてご説明します。
保存療法
整復後、鎖骨バンド・ギプス包帯などで固定をします。
肩を後方にそらせ、骨を正しい位置に整復した上で、それを骨がくっつくまで固定するもので、8の字に鎖骨バンドやギプス包帯で固定します。
整復の際、痛みを伴いますが、しっかり固定できれば痛みも少し和らぎます。
治療期間は?いつまで?
個人差や状態により差はありますが、単純X線で仮骨を確認できるまでには、
- 小児の場合・・・2〜3週間
- 成人の場合・・・4〜8週間
を要します。
手術療法
- 転位の大きい骨折
- 鎖骨下の神経や血管に損傷がある
- 開放骨折
- 分類Ⅱ型骨折
- 再転位するケース(成人に多い)
- 偽関節となるケース
など、骨の状態によっては手術の適応となります。
手術方法
多く行われるのは、骨接合術です。
X線透視下において、整復(骨を正しい位置に戻す)し、骨折部を切開して銅線やプレートなどの内固定材で骨を接合します。
その接合した骨の癒合が確認できたら、再手術として、抜釘術を行います。
上の症例②
手術により、プレートにて骨を接合しています。
鎖骨骨折をしたら後遺症が残る?
適切な治療を行えば、通常変形が強くても機能障害を残すことは少ないとされています。
しかし、その変形が後遺症として残ることもあり、癒合の状態が悪かったといえます。
この著しい変形を残すと、後遺障害12級5号に該当し、変形による機能障害を残せば、後遺障害12級6号に該当します。
つまり、後遺症が残るかどうかは、適切な治療を行ったかどうかによります。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P344・345
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P230・231
最後に
鎖骨骨折についてまとめました。
実際に転位が大きく手術が必要であった症例も2つ紹介しました。
鎖骨骨折が疑われる場合は、「どうせ固定するしかないから」と整復の状態・途中経過・癒合の仮骨の確認を怠ると、後遺症を残してしまうことにもつながります。
そのため、病院の受診を怠ることなく、医師の指導のもと、正しい固定を行い治療することが重要となります。