先に結論:腹膜封入嚢胞(peritoneal inclusion cyst)

  • 腹膜封入嚢胞は、手術・子宮内膜症・骨盤内の炎症などで腹膜が癒着し、排卵などで出た液体が吸収されずに骨盤内にたまったもので、腫瘍ではありません。主に女性に見られますが、男性にも起こります
  • CT・MRIでは、骨盤のすき間を埋めるような不整な形の水の袋で、その中や壁に正常の卵巣が包み込まれている(spider web sign)のが特徴です。卵巣の嚢胞性腫瘍と間違えないことが大切です
  • 治療は症状に応じて経過観察・ホルモン療法・穿刺吸引・手術などから選び、卵巣を切除する手術は避けるのが原則です
  • 嚢胞(cyst、シスト)は「液体がたまった袋」のことです。卵巣の中にできる表層上皮封入嚢胞とは別のものです

※下腹部の痛みや張りが続くときは、婦人科などの医療機関で相談してください。

腹膜貯留嚢胞/封入嚢胞(peritoneal inclusion cyst)とは?

  • peritoneal pseudocyst 、 inflammatory cysts of the pelvic peritoneumとも言われる(以前は良性多嚢胞性中皮腫と同じものとして扱われることもあったが、現在は別の病態と考えられている)。
  • 卵巣機能が保たれている生殖可能年齢の女性においては、排卵に伴い腹腔内に卵巣由来の液体が貯留するが、腹膜により吸収される。
  • 子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、Crohn病、腹部手術や外傷などより腹膜に侵襲が加わると、液体の吸収が低下し排卵時に産生された卵巣滲出液が貯留され、貯留嚢胞を生じる。
  • つまり発生には、機能的な卵巣の存在と腹膜の癒着が関連している。
  • なので、多くは閉経前の女性に見られる(手術歴などがあれば閉経後にも見られる)。病理で確認された228例では、年齢は18〜89歳、82.5%が女性・17.5%が男性で、70.6%に腹膜への侵襲の既往があった(Veldhuis 2013)。
  • 既存の空間に液体が貯留した状態。
  • 下腹部痛や下腹部膨隆をきたすことがあり、症状が強い場合は治療を要する。
  • 非腫瘍性の病態であり反応性変化であるため、卵巣・卵管の切除ではなく保存的な対応が勧められる(Hoffer 1988)。治療の選択肢には経過観察、ホルモン療法、画像ガイド下の穿刺吸引・硬化療法、手術による切除がある(Lee 2012)。
  • (多発)嚢胞性中皮腫とは別もの。

腹膜貯留嚢胞の画像所見は?

  • 同側の正常卵巣が見られ、周囲の腹膜腔に限局した液体貯留があるとperitoneal inclusion cystが疑われる。
  • 既存の骨盤腔のスペースを埋めるような不規則な形の液体貯留内に正常卵巣が存在する像が特徴的。骨盤手術歴のある閉経前女性15例の超音波検討では、12例で卵巣が同定され、そのうち9例で卵巣が嚢胞の内部にあり、11例で隔壁がみられました。
  • 嚢胞内の液体は水と同様にMRI T1強調像にて低信号、T2 強調像にて高信号を呈することが多いが、血液を混じることもある。病理で確認された腹膜封入嚢胞228例(術前画像77検査)の検討では、出血や debris がない限り壁が厚いことはなく、結節・乳頭状突出などの充実成分や、ほかに説明のつかない生理的量を超える腹水がある場合は腹膜封入嚢胞は否定されました。充実成分や腹水を伴うときは、卵巣腫瘍などをまず考える必要があります。

骨盤内の嚢胞性病変の見分け方

病変 見分けるポイント
腹膜封入嚢胞 骨盤のすき間を埋める不整形の嚢胞で、中や壁に正常卵巣がある。出血などがなければ壁は薄い(Kim 1997、Veldhuis 2013)
卵巣の嚢胞性腫瘍 結節・乳頭状突出などの充実成分があれば腹膜封入嚢胞は否定的(Veldhuis 2013)
卵管留水腫 腹膜封入嚢胞と紛らわしく、超音波で誤診された例がある(Kim 1997)

表層上皮封入嚢胞(卵巣の封入嚢胞)との違い

  • 名前は似ていますが、表層上皮封入嚢胞は卵巣の表面の上皮が卵巣の中に入り込んでできる小さな嚢胞で、病理で見つかる卵巣内の変化です。
  • 腹膜封入嚢胞は卵巣の外、癒着した腹膜の間に液がたまったもので、卵巣を包み込むように大きくなります(Hoffer 1988)。

症例 70歳代女性

PERITONEAL INCLUSION CYST骨盤内右側に既存の骨盤腔のスペースを埋めるように、嚢胞性病変あり。

封入嚢胞を疑う所見です。

症例 90歳代女性

骨盤内正中から左側にかけて分葉状の嚢胞性病変を認めます。

S状結腸を右側に圧排し既存の骨盤腔のスペースを埋めるように存在しており、封入嚢胞を疑う所見です。

症例 70歳代女性 子宮全摘後

peritoneal inclusion cyst

子宮全摘後。骨盤内右側に嚢胞性病変あり。

骨盤腔に沿うように右側に嚢胞性病変あり。腹膜貯留嚢胞を疑う所見です。

既存の腹膜腔を埋めるような形の液体貯留内に正常卵巣が存在する像がポイントですね。

参考文献

  1. Kim JS, Lee HJ, Woo SK, et al. Peritoneal inclusion cysts and their relationship to the ovaries: evaluation with sonography. Radiology. 1997;204(2):481-4. PubMed
  2. Hoffer FA, Kozakewich H, Colodny A, et al. Peritoneal inclusion cysts: ovarian fluid in peritoneal adhesions. Radiology. 1988;169(1):189-91. PubMed
  3. Veldhuis WB, Akin O, Goldman D, et al. Peritoneal inclusion cysts: clinical characteristics and imaging features. Eur Radiol. 2013;23(4):1167-74. PubMed
  4. Lee SW, Lee SJ, Jang DG, et al. Comparison of laparoscopic and laparotomic surgery for the treatment of peritoneal inclusion cyst. Int J Med Sci. 2012;9(1):14-9. PubMed

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