
先に結論:FH欠損型腎細胞癌は、悪性度の高いまれな腎癌。CT・MRIでは、嚢胞成分と充実部分が混在し、辺縁が浸潤性で、腎洞(腎臓の中心部)に広がる例が多い。診断は病理の免疫染色で行い、遺伝性のHLRCCが背景にあることがある
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 位置づけ | WHO 2022年の分類で定義された、まれで悪性度の高い型(Ebisu 2026)。第5版で、分子(遺伝子・タンパク)で定義される型が導入された(Moch 2022) |
| CT・MRI | 16例中、辺縁が浸潤性は14例(88%)、嚢胞成分が腫瘍の75%超は8例(50%)、腎洞の脂肪への浸潤は13例(81%)(Nikolovski 2021) |
| MRIの特徴 | 充実部分は拡散が制限される(Nikolovski 2021、Ebisu 2026)。嚢胞内に出血を示唆するT1・T2高信号がある(Ebisu 2026) |
| 転移 | 診断時にリンパ節転移は69%、遠隔転移は75%(16例)(Nikolovski 2021)。小さな腫瘍でも転移しうる(Schmidt 2014) |
| 遺伝との関係 | HLRCC(遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌)の患者に起こる。皮膚や子宮の平滑筋腫(筋腫)が手がかりになる(Chayed 2021) |
FH欠損型腎細胞癌とは
FH欠損型腎細胞癌(FH-deficient RCC)は、腎細胞癌のまれな型で、フマル酸ヒドラターゼ(FH)という、細胞のエネルギーをつくる回路(クレブス回路)の酵素が働かなくなったために起こります。WHO 2022年の分類で、独立した型として定義されました(Ebisu 2026)。2022年の分類は、遺伝子やタンパクの検査で定義される分子の分類を取り入れた点が大きな変更とされています(Moch 2022)。
病理の診断では、FHのタンパクが免疫染色で消えていること、あるいは、FHが働かないときにたまる物質(2SC)が染まることが手がかりになります。29人の病理の検討では、大きな核小体とその周りの明るい輪(perinucleolar halo)、好酸性の細胞質、乳頭状・管状の増殖が特徴で、全体として経過のよくない例が多い、とまとめられています(Lee 2025)。
CT・MRIの所見
形
16例(16腫瘍)の報告では、ほとんどが単発(15例、94%)で、辺縁は浸潤性(14例、88%)でした。嚢胞成分が腫瘍の75%を超える例が8例(50%)、腎洞の脂肪への浸潤が13例(81%)、腎臓の尿のたまる部分(集合系)への浸潤が8例(50%)、腎静脈の腫瘍栓が6例(38%)でした(Nikolovski 2021)。
日本の複数の施設が集めた11例(12腫瘍)では、造影CTで、嚢胞優位が5、充実優位が4、充実性のみが3と、形はさまざまでした(Ebisu 2026)。
造影効果・拡散・出血
| 項目 | 所見 |
|---|---|
| 造影の仕方 | 充実部分は、漸増性に造影されるものが54.5%、皮髄相に軽く造影され後の相で造影剤が抜けるもの(washout)が45.5%(Ebisu 2026) |
| T1・T2強調像 | 嚢胞成分が、T1とT2の両方で高信号。出血を示唆する(Ebisu 2026)。MRIを行った12例のすべてで、造影効果とT2信号が不均一(Nikolovski 2021) |
| 拡散強調像 | 充実部分は全例で拡散が制限される。ADCの中央値は0.88×10−3 mm2/s(Ebisu 2026) |
| FDG-PET | 充実部分でFDGの集積が高い。SUVmaxの中央値は7.25(Ebisu 2026)。3例でSUVmaxの平均は16.4(Nikolovski 2021) |
| 淡明細胞型との比較 | 淡明細胞型より造影効果が弱く、拡散制限が強く、FDGの集積が高い傾向(Ebisu 2026) |
引用元の図 浸潤性の辺縁と腎洞への浸潤(CT)

引用:Nikolovski I, et al. Cancer Imaging 2021(Fig. 1)(CC BY 4.0)
図:転移のあるFH欠損型腎細胞癌(45歳女性)の造影CT後期相の軸位断。腎の内部に発育する腫瘤で、辺縁が浸潤性(矢印)です。腎洞の脂肪(破線の矢印)と、腎臓の集合系(矢頭)に浸潤しています。
引用元の図 不均一な造影効果と信号(MRI)

引用:Nikolovski I, et al. Cancer Imaging 2021(Fig. 3)(CC BY 4.0)
図:FH欠損型腎細胞癌のMRI。a:38歳男性。左腎の腫瘤で、造影T1強調像(脂肪抑制)の造影効果が不均一です。b:63歳男性。右腎の腫瘤で、脂肪抑制T2強調像の信号が不均一です。
引用元の図 出血を示すT1高信号

引用:Nikolovski I, et al. Cancer Imaging 2021(Fig. 4)(CC BY 4.0)
図:54歳男性のFH欠損型腎細胞癌。造影前の脂肪抑制T1強調像で、左腎の腫瘤の前方に、出血を示唆する限局したT1高信号(矢印)がみられます。
報告によって、辺縁の所見は異なります。HLRCCに伴う腎腫瘍39病変(30人)の検討では、境界明瞭な病変が65%、T2高信号が主体の病変が65%、拡散制限を示す病変が83%、結節を伴う病変が50%でした(Paschall 2020)。辺縁が境界明瞭か浸潤性かだけで決められないことを、頭に入れておく必要があります。
嚢胞性の腎腫瘤の中での見分け方
FH欠損型は、嚢胞成分の大きい腫瘍として見つかることがあり、嚢胞性腫瘤のBosniak分類を考える場面で問題になります。Bosniak分類は、嚢胞性の腎腫瘤の悪性のリスクを示す分類で、組織型を診断するものではありません。分類の見方は腎嚢胞のBosniak(ボスニアック)分類2019とは?カテゴリーⅠ〜Ⅳ・ⅡFの違いと対応で説明しています。他の嚢胞性腫瘍との比較は嚢胞性の腎腫瘤の鑑別|嚢胞に見える腎腫瘍(MCRNLMP・FH欠損型・ESC-RCCなど)と腫瘍でないものに整理しています。
画像診断のうえで、FH欠損型を考える手がかりは次のとおりです。
- 比較的若い年齢(16例の年齢の中央値は46歳。Nikolovski 2021)
- 嚢胞成分と充実部分の混在。出血を示唆するT1高信号の嚢胞(Ebisu 2026)
- 浸潤性の辺縁、腎洞や集合系、腎静脈への進展(Nikolovski 2021)
- 充実部分の拡散制限と、淡明細胞型より弱い造影効果(Ebisu 2026)
- 診断時のリンパ節腫大や遠隔転移(Nikolovski 2021)
なお、病理でも、FH欠損型は、管状嚢胞性腎細胞癌とよく似た形をとることがあります。多施設の検討では、管状嚢胞性腎細胞癌は小さく(4.0 cm未満)、FHが保たれていたのに対し、嚢胞・管状の構造が目立つFH欠損型は、比較的大きく、FHが消失して2SCが陽性でした(Yang 2024)。病理でも形が似ることがあるため、免疫染色などで区別します。
遺伝の考え方:HLRCC
FH欠損型腎細胞癌には、遺伝性のHLRCC(hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma)に伴うものと、体の細胞の遺伝子変異だけによるものがあります。16例では、生まれつきのFH遺伝子変異(生殖細胞系列変異)があったのが13例(81%)で、HLRCCにあたります。残りの3例には腫瘍の細胞のみのFH変異がありました。HLRCCと知っていて受診したのは1人だけでした(Nikolovski 2021)。
HLRCCは、常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる病気で、皮膚の平滑筋腫、若い女性の子宮筋腫、早い年齢で起こる腎腫瘍が特徴です(Schmidt 2014)。文献をまとめた672人の報告では、皮膚の平滑筋腫が71.5%、子宮筋腫が女性の83%にみられ、腎細胞癌は34.9%で、その半数は転移がありました。皮膚の平滑筋腫が最も早く現れることが多いとされます(Chayed 2021)。
皮膚の平滑筋腫は、HLRCCの最初の手がかりになることが多く、見つかったときは、組織の検査と遺伝カウンセリングへの紹介が提案されています(Chayed 2021)。家族がHLRCCの遺伝子変異をもつときの経過観察として、MRIを年に1回行う方法が提案されています。開始の年齢は、8歳(Schmidt 2014)、10歳(Chayed 2021)と、報告によって異なります。小さな腫瘍でも進行して転移することがあるため、HLRCCの腎腫瘍では、経過観察ではなく手術が勧められるとされています(Schmidt 2014)。
報告書や紹介状で伝えること
| 確認すること | 見るところ |
|---|---|
| 腫瘍の形 | 嚢胞と充実部分の割合、辺縁(浸潤性か)、腎洞・集合系・腎静脈への進展 |
| MRI | T1高信号の嚢胞(出血)、充実部分の拡散制限と造影の仕方 |
| 転移 | 後腹膜のリンパ節腫大、肺・骨・肝臓などの遠隔転移の有無 |
| 背景 | 年齢、皮膚のしこり、子宮筋腫の既往、家族の腎癌 |
| 病理への依頼 | FH・2SCの免疫染色が必要になる場合がある |
受診・相談の目安
FH欠損型腎細胞癌は、画像だけで診断が決まるものではなく、手術などで得られた組織の病理検査で確定します。腎臓の腫瘍を指摘された人が、若い年齢で、皮膚のしこりや子宮筋腫の経験、家族の腎臓癌がある場合は、そのことを泌尿器科や放射線科の医師に伝えてください。必要に応じて遺伝カウンセリングを受けることができます。血尿、わき腹の痛み、発熱があるときは、早めに受診してください。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. FH欠損型腎細胞癌は、すべて遺伝するのですか?
A. すべてではありません。Nikolovskiらの16例では、生まれつきのFH遺伝子変異があったのは13例で、残りの3例は腫瘍の細胞だけに変異がありました(Nikolovski 2021)。遺伝子の検査は、遺伝カウンセリングとあわせて検討します。
Q. 小さな腫瘍でも転移しますか?
A. HLRCCに伴う腎腫瘍は、小さくても進行して転移することがあるとされています(Schmidt 2014)。そのため、経過観察より手術が勧められると報告されています。
Q. 画像で診断できますか?
A. 嚢胞と充実部分の混在、出血を示唆する嚢胞、浸潤性の辺縁、拡散制限などは手がかりになりますが、確定には免疫染色が必要です(Ebisu 2026)。
Q. 家族に腎臓癌の人がいます。どうしたらよいですか?
A. 皮膚のしこりや子宮筋腫が家族に多い場合は、HLRCCの可能性があります。主治医に伝え、遺伝カウンセリングや、MRIなどによる定期的な経過観察を相談してください(Chayed 2021)。
あわせて読みたい:腎癌総論|組織型とグレード(WHO/ISUP分類・Fuhrman分類)・肉腫様変化・免疫染色
参考文献
- Moch H, Amin MB, Berney DM, et al. The 2022 World Health Organization Classification of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs-Part A: Renal, Penile, and Testicular Tumours. Eur Urol. 2022;82(5):458-468. PubMed
- Nikolovski I, Carlo MI, Chen YB, et al. Imaging features of fumarate hydratase-deficient renal cell carcinomas: a retrospective study. Cancer Imaging. 2021;21(1):24. PubMed
- Ebisu N, Ueno Y, Murakami T, et al. Imaging findings in fumarate hydratase-deficient renal cell carcinoma: a case series of 11 patients. Abdom Radiol (NY). 2026;51(7):3515-3525. PubMed
- Paschall AK, Nikpanah M, Farhadi F, et al. Hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma (HLRCC) syndrome: Spectrum of imaging findings. Clin Imaging. 2020;68:14-19. PubMed
- Schmidt LS, Linehan WM. Hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma. Int J Nephrol Renovasc Dis. 2014;7:253-60. PubMed
- Chayed Z, Kristensen LK, Ousager LB, et al. Hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma: a case series and literature review. Orphanet J Rare Dis. 2021;16(1):34. PubMed
- Lee S, Kim B, Park JH, et al. Fumarate hydratase-deficient renal cell carcinoma: a single institution-based study of 29 patients by clinicopathological, immunohistochemical and genetic approaches. Pathology. 2025;57(1):10-16. PubMed
- Yang X, Liu Y, Wang H, et al. Fumarate Hydratase-Deficient Renal Cell Carcinoma With Predominant Tubulocystic Features Mimics Tubulocystic Renal Cell Carcinoma. Arch Pathol Lab Med. 2024;148(12):1358-1364. PubMed
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