先に結論:膵の粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)
- MCNは、中年女性の膵体尾部にほぼ限ってできる嚢胞性腫瘍で、病理で卵巣に似た間質をもつのが特徴です。がん化する可能性があるため、原則として手術(切除)が勧められます
- CT・MRIでは厚い被膜に包まれた丸い多房性嚢胞(夏みかん状)で、主膵管とはつながらないのが特徴です。壁の結節・厚い隔壁・石灰化は悪性を疑う所見です
- 主膵管とつながるIPMN、ハチの巣状の漿液性嚢胞腫瘍(SCN)、仮性嚢胞との区別が大切で、MRCPや超音波内視鏡で評価します
- 卵巣様間質はMCNを定義する病理所見で、画像では見えません
- 間違えやすいのは仮性嚢胞(膵炎後と思い込んで見逃す)とmacrocystic型のSCNで、「膵管と交通しない=MCN」とも言い切れない点に注意が必要です(下の「間違えやすいポイント」)
粘液性嚢胞性腫瘍(MCN:mucinous cystic neoplasm)とは?
- 大部分は女性(切除163例で95%)。
- 膵体尾部に多い(同97%)(Crippa 2008)。
- 病理組織所見で卵巣様間質(ovarian-type stroma)が認められる。
- 悪性(上皮内癌・浸潤癌)の可能性あり(切除163例で癌は17.5%、うち浸潤癌は12%)→原則手術。
- 厚い線維性被膜と隔壁を持つ多房性腫瘍。時に単房性。
- 主膵管との連続性は認めないことが多い。
- 肉眼的形態は「夏みかん」に例えられることが多い。
- 鑑別:IPMN、macrocystic typeの漿液性嚢胞腺腫
MCNとIPMNの鑑別点
| MCN | IPMN | |
| 性 | 女性 | 男性>女性 |
| 年齢 | 中年(平均48〜55歳) | 高齢 |
| 発生部位 | 膵体尾部 | 膵頭部(膵鉤部) |
| 嚢胞の形態 | 球形~楕円形(ミカン) | ぶどうの房状 |
| 共通の被膜 | あり | なし |
| 卵巣間質 | あり | なし |
| 膵管との交通 | 稀 | ほとんどあり |
卵巣様間質(ovarian-type stroma)とは?
- MCNの嚢胞の壁(上皮の下)にある、卵巣の間質に似た細胞の密な層。MCNは「卵巣様間質があり、主膵管と交通しない」嚢胞性腫瘍と定義される(Crippa 2008)。
- 免疫染色ではプロゲステロン受容体が陽性(MCN 7例全例)で、α-inhibin陽性の黄体化細胞も見られ、IPMNや漿液性嚢胞腺腫は陰性であった(Yeh 2004)。
- 卵巣様間質は病理(切除標本)で確認する所見で、CT・MRIでは直接見えない。
MCNの画像所見は?
- 中心部は大きな嚢胞、辺縁部は小嚢胞(mural cyst)、壁内嚢胞(intramural cyst,cyst in cyst)。
- 壁や隔壁に石灰化を伴うこともある。
- 内容液は粘液であり様々な濃度を呈する。蛋白濃度や粘稠度が高ければ、T1強調像やDWIで高信号を示し、CTでは水よりも高吸収となる。ただし、水と同様の信号強度を示すものも少なくない。
- 壁在結節を認めることがあり、悪性を示唆する重要な所見である。厚く造影される隔壁、不整に厚い壁、辺縁の卵殻状石灰化も悪性を疑う手がかりとされる(Liu 2020)。
- 4cm以下で壁在結節がないものは低リスクとされる(切除163例の検討では、癌はすべて4cm以上か結節を伴っていた)。なお、欧州のエビデンスに基づく膵嚢胞性腫瘍ガイドライン(2018年)では、無症状で径4cm未満かつ造影される壁在結節のないMCNには保存的対応(経過観察)が推奨されています。「MCN=全例切除」とは限らず、大きさと結節の有無で方針が分かれる点に注意が必要です。
MCN・IPMN・SCNの画像の見分け方
| MCN | 分枝型IPMN | SCN(小嚢胞型) | |
| 好発 | 中年女性・膵体尾部 | 高齢男性・膵頭部〜鉤部 | – |
| 嚢胞の形 | 楕円形、単房〜多房。房は少なく(6個未満)各2cm超 | 分枝膵管が拡張したぶどうの房状 | 0.2〜2cmの小さな嚢胞が多数(6個超)集まるハチの巣状 |
| 主膵管との交通 | ないのが典型 | あり(MRCPで評価) | なし |
| 石灰化 | 辺縁の卵殻状石灰化(悪性の手がかり) | – | 中心瘢痕の石灰化(特異性が高い) |
(Liu 2020より作成)主膵管との交通はMRCPで評価します(IPMNの検出感度はMRI/MRCP 96.8%、多列CT 86%:Liu 2020)。
MCNの鑑別で間違えやすいポイント
- 仮性嚢胞と誤診されやすい:手術したMCN 13例のうち5例が、術前に仮性嚢胞と診断されていました。隔壁・嚢胞壁の石灰化・壁の部分的な肥厚・乳頭状の突起といった腫瘍らしい所見が見られなかった例が5例(38%)あり、慢性膵炎の所見を伴う例も5例ありました(Scott 2000)。膵炎の既往がはっきりしない嚢胞は、安易にドレナージせず、腫瘍の可能性を考えます。
- 膵管と交通しない=MCNとは限りません:MCNは膵管と交通しないのが定義ですが、主膵管と交通したMCNが報告されています(Zhou 2017)。反対にSCNが主膵管とつながって見え、分枝型IPMNと誤診されて手術された報告もあります(Park 2023)。交通の有無だけで決めず、年齢・性別・部位・形を合わせて判断します。
- macrocystic型のSCNとの区別:SCNには、小さな嚢胞が集まる型のほか、大きな嚢胞が少数の型(oligocystic/macrocystic)があり、MCNと似て見えることがあります(Lopes Vendrami 2024)。MCNは厚い被膜と、辺縁の壁に沿う卵殻状の石灰化が手がかりです。
症例 60歳代女性 腹痛・嘔吐

引用:Radiopaedia(Mucinous cystic pancreatic neoplasm)
左上腹部に、膵体尾部から発生した約11cmの大きな嚢胞性腫瘤があり、内部は薄い隔壁で複数の房に分かれています。壁や隔壁は薄く、造影される充実性の結節は見られません。腫瘤は胃を圧排しており、超音波内視鏡下生検でMCNと確認されました。
MCNでよくある疑問(Q&A)
Q. MCNは全例で手術が必要ですか?
MCNには癌になる可能性があるため、手術が検討されます。切除163例では癌は17.5%で、癌のあったものはすべて4cm以上か結節を伴っていました(Crippa 2008)。一方、切除したMCN 90例の解析では、3cm未満で腫瘍マーカーが正常のものはすべて良性で、CTでの壁在結節と血清CA19-9の異常が悪性の予測因子でした(Park 2014)。このため、大きさや結節の有無で方針が分かれます。実際の判断は主治医と相談してください。
Q. MCNでは、どんな症状が出ますか?
切除163例では、25%が偶然見つかり、症状がある人の多くは軽い腹痛でしたが、9%が急性膵炎で受診していました(Crippa 2008)。腹痛や吐き気が続く、黄疸が出るなど気になる症状があれば、医療機関を受診してください。
参考文献
- Crippa S, Salvia R, Warshaw AL, et al. Mucinous cystic neoplasm of the pancreas is not an aggressive entity: lessons from 163 resected patients. Ann Surg. 2008;247(4):571-9. PubMed
- Naveed S, Qari H, Banday T, et al. Mucinous Cystic Neoplasms of Pancreas. Gastroenterology Res. 2014;7(2):44-50. PubMed
- European Study Group on Cystic Tumours of the Pancreas. European evidence-based guidelines on pancreatic cystic neoplasms. Gut. 2018;67(5):789-804. PubMed
- Tanaka M, Fernández-Del Castillo C, Kamisawa T, et al. Revisions of international consensus Fukuoka guidelines for the management of IPMN of the pancreas. Pancreatology. 2017;17(5):738-753. PubMed
- Yeh MM, Tang LH, Wang S, et al. Inhibin expression in ovarian-type stroma in mucinous cystic neoplasms of the pancreas. Appl Immunohistochem Mol Morphol. 2004;12(2):148-52. PubMed
- Liu Z, Zhang S. Molecular markers contribute to the clinical diagnosis for pancreatic cystic neoplasms. Chin Med J (Engl). 2020;133(7):847-852. PubMed
- Scott J, Martin I, Redhead D, et al. Mucinous cystic neoplasms of the pancreas: imaging features and diagnostic difficulties. Clin Radiol. 2000;55(3):187-92. PubMed
- Zhou W, Saam T, Zhou Y, et al. Pancreatic Mucinous Cystic Neoplasm Communicating with Main Pancreatic Duct: An Unrecognized Presentation of Pancreatic Mucinous Neoplasm? Anticancer Res. 2017;37(12):7017-7021. PubMed
- Park JW, Jang JY, Kang MJ, et al. Mucinous cystic neoplasm of the pancreas: is surgical resection recommended for all surgically fit patients? Pancreatology. 2014;14(2):131-6. PubMed
- Park M, Lee J, Kim Y, et al. Pancreatic serous cystic neoplasm mimicking intraductal papillary mucinous neoplasm: Two case reports and literature review. Medicine (Baltimore). 2023;102(5):e32820. PubMed
- Lopes Vendrami C, Hammond NA, Escobar DJ, et al. Imaging of pancreatic serous cystadenoma and common imitators. Abdom Radiol (NY). 2024;49(10):3666-3685. PubMed
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