精巣垂捻転とは 精巣捻転との違いとエコー所見

小学生の息子が、急に片方の陰嚢が痛いと言い出しました。精巣捻転が心配ですが、「精巣垂捻転」という病名も聞きました。どう違うのですか?
精巣垂捻転は、精巣の上端にある小さな突起がねじれる病気で、子どもの急な陰嚢の痛みの原因として多いものです。ただ、症状は精巣捻転とよく似ていて、見分けを誤ると精巣を失う危険があります。診察の所見とエコーで何を見分けるのかを整理します。

先に結論:精巣垂捻転は子どもの急性陰嚢症の原因として多い。ただし、精巣捻転との区別が最優先

項目 ポイント
何か 精巣の上端にある小さな突起(精巣垂)がねじれて、痛みと腫れを起こす病気
頻度 手術で確かめた子どもの急性陰嚢症241例のうち70%が精巣垂捻転(Boettcher 2013)
診察のサイン 精巣の上端に、痛みのあるしこり。青く透けて見えることがある(blue dot sign)
エコー 精巣の上端に丸い結節。内部に血流がなく、周りの血流は増える(Lev 2015)
注意 精巣捻転は発症から6時間以内の治療が目安。迷ったら急いで受診

精巣垂捻転とは

精巣垂(せいそうすい、appendix testis)は、精巣の上端付近についている小さな突起です。胎児期の名残とされる小さな突起です。この突起がねじれて血流が途絶え、痛みや腫れが起こるのが精巣垂捻転です。精巣上体(精子の通り道になる器官)にも似た突起があり、そちらがねじれた場合も画像や症状は同じように見えます(Lev 2015)。

この病気は、思春期前から学童期の男の子に多いのが特徴です。日本の小児外科施設の101例の検討では、年齢の中央値は10歳で、8〜11歳に最も多く発症していました(Tanaka 2022)。ドイツの小児施設で、急な陰嚢の痛みのために手術で確かめた241例では、精巣垂捻転が70%、精巣上体炎が18.5%、精巣捻転が13.3%でした。精巣垂捻転は寒い時期に増えたとも報告されています(Boettcher 2013)。中国の1228例の報告でも、精巣捻転103例に対して精巣垂捻転は918例と、精巣垂捻転が多数を占めました(Yang 2011)。

精巣垂捻転は、多くの場合、保存的な治療で経過します(Tanaka 2022)。心配なのは「精巣捻転ではないか」という点です。精巣捻転は精巣につながる血管(精索)がねじれる病気で、遅れると精巣が壊死します。解説は精巣捻転とは?サイン・原因と受診の目安をご覧ください。

3つの病気の見分け方

子どもの急な陰嚢の痛み(急性陰嚢症)の原因は、大きく分けて精巣垂捻転・精巣捻転・精巣上体炎です。まず全体像を表にします。

項目 精巣垂捻転 精巣捻転 精巣上体炎
年齢の目安 学童期に多い(中央値10歳) 25歳未満の男性約4,000人に1人(Ringdahl 2006) 思春期前の男の子ではまれ(Ringdahl 2006)
痛む場所 精巣の上端の一点 精巣全体、下腹部に及ぶこともある 精巣の後ろの精巣上体
診察のサイン 痛みのあるしこり、blue dot sign 精巣挙筋反射がない(最も正確なサイン) 排尿時の痛み、精巣上体の痛み
エコーの血流 結節の内部に血流なし。精巣本体の血流を確認する 精巣の血流が低下・消失 精巣上体周囲の血流が増える
緊急度 保存的治療が多い(手術もある) 緊急手術 原因に応じた治療

精巣挙筋反射とは、太ももの内側をなでると同じ側の精巣が持ち上がる反応のことです。精巣捻転ではこの反射が消えるのが最も正確なサインとされています(Ringdahl 2006)。1228例の検討でも、痛みの持続が6時間未満、発熱、嘔吐、精巣挙筋反射の消失、精巣の向きの異常は精巣捻転と関連し、blue dot signと押して痛いしこりは精巣垂捻転と関連していました(Yang 2011)。

blue dot signとは

blue dot signは、精巣の上端で、皮膚の下に青黒い点のように透けて見えるしこりのことです。ねじれた精巣垂の血流が途絶え、青く透けて見えるものです。大切なのは、これはエコーの所見ではなく、診察でわかるサインだということです。ドイツの検討では、blue dot signがあることは精巣垂捻転を示す有力な手がかりでした(Boettcher 2013)。一方、エコーで精巣垂捻転と診断された19例では、診察でblue dot signが見られた子は1人もいませんでした(Lev 2015)。サインがないからといって、精巣垂捻転を否定することはできません。

精巣上体炎との違い

精巣上体炎は、精巣上体に炎症が起こる病気です。精巣垂捻転でも精巣上体が腫れることがあり、紛らわしい場合があります。実際、エコーで精巣上体が腫大していた割合は、精巣垂捻転の子で91.1%、精巣上体炎の子で91.3%と同程度でした(Yang 2011)。ドイツの検討では、排尿時の痛み、精巣上体を押したときの痛み、精巣上体のエコー輝度の上昇、精巣の周囲の血流増加が精巣上体炎を示し、blue dot signが精巣垂捻転を示す手がかりでした(Boettcher 2013)。精巣上体炎は精巣上体炎(epididymitis)とは?原因・症状とエコー・MRI画像、精巣捻転との違いで詳しく解説しています。

エコーでの見え方

急性陰嚢症の画像検査の中心は、カラードプラを使った陰嚢エコーです。被ばくがなく、短時間で精巣の血流を調べられます。イスラエルの小児施設では、陰嚢エコーを受けた527人のうち19人(3.6%)が精巣垂または精巣上体垂の捻転と診断されました。その19人で、次の所見が見られました(Lev 2015)。

エコー所見 19例での頻度
丸〜楕円形で、血流のない病変 全例
内部が不均一なエコー 18例
病変の後ろでエコーが強くなる(後方エコー増強) 13例
周囲の組織の血流増加 15例
精巣の上端に接している、または近い 全例(接していたのが16例、近接が3例)

精巣の上端、精巣上体、精巣垂が互いに近いため、精巣垂か精巣上体垂かをエコーで区別することはできませんでした(Lev 2015)。ただし、どちらであっても治療方針は同じです。この報告は、エコーを「精巣垂捻転を診断し、ほかの病気を安全に除外できる検査」としています。

エコーで見るときのチェックリスト

  • 精巣本体の血流:左右を並べて比べます。低下や消失があれば精巣捻転を考えます(Yang 2011では精巣捻転の91.3%で血流の低下または消失)
  • 精巣の上端の結節:丸い結節があるか、内部に血流があるか
  • 周囲の血流:結節の周りで血流が増えているか
  • 精巣上体の腫れ:腫れていても精巣垂捻転は除外できない
  • 反対側との比較:左右の血流の差を確認する

症例 10歳代男児 精巣垂捻転

精巣垂捻転 陰嚢エコー カラードプラ 左精巣
引用:Radiopaedia(Torsion of Morgagni appendix)

左精巣の上端に、丸い軟部組織の結節があります。症例ページでは、結節の内部は不均一な低エコーで、内部に血流はなく、周囲に血流があると記載されています。2時間前からの左陰嚢の痛みで受診し、手術で精巣垂捻転と確かめられた症例です。

精巣捻転を見逃さないために

精巣垂捻転は経過をみてよいことが多い一方で、精巣捻転は時間との勝負です。治療の目安は、発症から6時間以内に血流を戻すこととされています(Ringdahl 2006)。そのため、思春期前や若い男性の急な陰嚢の痛みは、精巣捻転が否定されるまで精巣捻転として扱うのが原則です。

エコーで精巣の血流が保たれて見えても、それだけで精巣捻転を除外できるとは限りません。1228例の検討では、精巣捻転が強く疑われる場合は、カラードプラが正常に見えても手術での確認が必要だと結論されています(Yang 2011)。判断は、診察とエコーを合わせて泌尿器科や小児外科が行います。

治療と経過

精巣垂捻転の治療は、痛みを抑えて安静にする保存的な方法が中心です。ただし手術には回復を早める利点があります。精巣垂を取る手術は必須ではありませんが、回復が早まるとされています(Ringdahl 2006)。

日本の小児外科施設の101例では、66.3%が入院して手術を受け、9.9%が入院して保存的に治療し、23.8%が外来で保存的に治療しました。精巣捻転を除外できない場合や、保存的治療のあとに痛みが再発した場合に手術が行われました。手術は短時間で安全で、入院期間は手術のほうが短く(中央値2.0日、保存的治療は3.5日)、陰嚢が硬い、皮膚が赤いなど炎症が強い場合は早期の手術が勧められています(Tanaka 2022)。

お子さんが急に陰嚢を痛がったら

  • 痛みが強い、片方の精巣が腫れている、吐き気や嘔吐がある場合は、時間を置かずに受診してください
  • 下腹部の痛みを訴える場合も、陰嚢の痛みや腫れがないか確認してください
  • 痛みが軽くなっても、そのまま様子を見ず、一度は受診してください

気になる症状があれば、医療機関(泌尿器科、小児外科、夜間は救急外来)にご相談ください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 精巣垂捻転は放っておいても大丈夫ですか?
A. 精巣垂捻転そのものは保存的に治療されることが多い病気です。しかし、最初の時点で精巣捻転と区別できないことがあるため、自己判断で様子を見るのは勧められません。診察とエコーで確かめてもらいましょう(Ringdahl 2006、Yang 2011)。

Q. 青い点が見えなければ、精巣垂捻転ではないのですか?
A. いいえ。エコーで精巣垂捻転と診断された19例では、blue dot signが見られた子は1人もいませんでした(Lev 2015)。青い点がなくても精巣垂捻転はあり得ます。

Q. 精巣は無事ですか?
A. 精巣垂捻転は、精巣の上端の小さな突起がねじれる病気で、精巣そのものがねじれるわけではありません。精巣捻転のように精巣を失う心配は基本的にありません。ただし、最初は精巣捻転と区別しにくいため、受診して確かめることが大切です。

Q. 何度も繰り返しますか?
A. 日本の小児外科施設の報告では、手術をすることで精巣垂捻転の再発を防げると考えられています(Tanaka 2022)。痛みを繰り返す場合は、担当の医師と治療方針を相談してください。

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参考文献

  1. Tanaka K, Kato H, Nikai K, et al. Testicular appendage torsion in children. Pediatr Int. 2022;64(1):e15010. PubMed
  2. Lev M, Ramon J, Mor Y, et al. Sonographic appearances of torsion of the appendix testis and appendix epididymis in children. J Clin Ultrasound. 2015;43(8):485-9. PubMed
  3. Boettcher M, Bergholz R, Krebs TF, et al. Differentiation of epididymitis and appendix testis torsion by clinical and ultrasound signs in children. Urology. 2013;82(4):899-904. PubMed
  4. Yang C Jr, Song B, Liu X, et al. Acute scrotum in children: an 18-year retrospective study. Pediatr Emerg Care. 2011;27(4):270-4. PubMed
  5. Ringdahl E, Teague L. Testicular torsion. Am Fam Physician. 2006;74(10):1739-43. PubMed

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