先に結論:食道がんのCTの役割
- 正常の食道の壁は、広がった状態でおおむね2〜3mm、縮んだ状態では4〜6mm程度に厚く見えるため、食道の膨らみ具合を見て壁肥厚を判断します(Xia 2009)
- 食道がんはCTで食道の壁の限局的・全周性の肥厚として見えますが、早期がんはCTではわからないことが多く、診断の中心は内視鏡です
- CTの主な役割は病期(広がり)の評価で、大動脈・気管・気管支など周りの臓器への浸潤(T4)、首・縦隔・腹部のリンパ節転移、肺・肝臓・骨への転移を確認します。壁の深さ(T1〜T3)の評価は超音波内視鏡が優れ、リンパ節や遠隔転移にはPET-CTも使われます
- 日本の病期分類は食道癌取扱い規約 第12版(2022年)で、cT3の細分類(cT3r/cT3br)やN分類を転移リンパ節の個数で決める方式などに変わりました。細かい区分は最新版を確認してください
※飲み込むときのつかえ感・しみる感じが続くときは、消化器内科を受診してください。
食道癌の画像診断
原発巣の評価
- 多くは、CTにて、限局性もしくは全周性の壁肥厚所見として描出される。
- 壁の厚さは内腔の広がり具合で変わるため、虚脱している部分では評価が難しいことがある。
- CTは超音波内視鏡のように壁の層構造を見分けられないため、深達度(T1〜T3)の評価は苦手。深達度の評価は超音波内視鏡が最も優れる。
正常の食道のCT像と食道壁肥厚
- 縮んでいるときは腹部食道が最も厚く見える(Xia 2009)。
- 5mmを壁肥厚の目安とした検討では、対照85例のうち壁肥厚とされたのは3例(4%)だった(Berkovich 2000)。
- 食道壁肥厚は癌だけでなく、食道炎でもみられる。食道炎29例では55%に5mm以上の壁肥厚、17%に標的状の層構造(target sign)がみられ、比較的長い範囲の全周性の壁肥厚が食道炎を示唆するとされる(Berkovich 2000)。
食道癌取扱い規約 第12版(2022年)の主なポイント
- T因子は癌の深さで分ける。T1a:粘膜内(EP・LPM・MM)、T1b:粘膜下層(SM)、T2:固有筋層(MP)、T3:食道外膜(AD)、T4:周囲臓器(AI)。
- 臨床分類ではcT3がcT3r(切除可能)とcT3br(切除可能境界)に分けられた。cT3brの対象臓器は大動脈・気管・気管支に限られる(胸膜・心膜・横隔膜・肺などは切除できるため対象外)。
- 従来のcT4a/cT4bの細分類は廃止された。
- N分類は、転移リンパ節の「部位(群)」ではなく「個数」で決める方式に変わった。胸部食道癌の所属リンパ節は、腫瘍の占居部位によらず統一された。
- 鎖骨上リンパ節(No.104)の転移はM1aとして扱う。
- 病期は臨床病期(c)と病理病期(p)に分けて記載する。
※各区分の細かい定義・病期の組み合わせは、取扱い規約・ガイドラインの最新版を確認してください。
CTによる深達度(T)診断
- CTでは壁の層構造が見えないため、T1〜T3の区別はCTでは困難。
- CTの主な役割は、周囲臓器への浸潤(cT3br・cT4)の有無を見極めることにある。
周囲臓器への浸潤の評価
- 治療方針を決めるうえで、切除可能な病変(cT3r以下)と、cT3br・cT4の見極めが大事。
- 食道は漿膜を持たないため、隣接臓器である大動脈、気管、主気管支、心嚢、胸膜などに浸潤を来しやすい。
- 中でも大動脈と気管は合併切除が極めて困難。
- 左心房・肺静脈は心拍動により境界が不明瞭となることあり。
- 腫瘍と臓器の間の脂肪層が保たれていれば浸潤がないといえる。しかし、消失しているだけでは浸潤ありとは判定できない。
大動脈の浸潤の評価
- 腫瘍と大動脈の接する範囲(接触角)が大きいほど浸潤を疑う。
- 接触が長軸方向に長く連続する。
- 大動脈の変形を伴う。
- 食道、大動脈、椎骨の形成する脂肪三角の消失。
- 腫瘍と大動脈の接触の程度を数値で評価したところ、大動脈浸潤の有無を25例中24例で正しく予測できた(Picus 1983)。この接触角は「Picus角」と呼ばれ、取扱い規約第12版でも、接触面の層構造の不明瞭化に加えて、Picus角と頭尾方向の接触の長さを組み合わせて大動脈浸潤を判定する基準が示されている(Mine 2024)。
症例 60歳代 男性


症例 80歳代男性
症例 70歳代男性

気管の浸潤の評価
- 腫瘍による圧排変形が目立つ場合は浸潤を疑う。
- 内腔面に凹凸不整を伴えば、より浸潤の可能性が高い.
- CTは気管・気管支への浸潤や、大動脈への浸潤の判定に有用とされる。
リンパ節転移の評価
- 食道癌は他の消化器癌と比較し、豊富なリンパ管の発達により、早期より転移を来すことが知られている。
- 深達度が比較的浅い段階でも、リンパ節転移を伴うことがある。
- このため、胸部上部食道癌においてもNo.1(右噴門), No.2(左噴門), No.7(左胃)などの腹部リンパ節まで、また胸部下部食道癌でもNo.101(頚部食道傍), No.102(深頚), No.104(鎖骨上)などの頚部リンパ節まで注意深く観察することが重要(第12版ではNo.104の転移はM1a)。
- 転移リンパ節は腫大しないまま転移していることが多く、正常サイズの転移リンパ節が多いことがCT診断を非常に困難にしている(Picus 1983)。
- 実際、メタ解析では所属リンパ節転移に対するCTの感度は50%、特異度は83%(超音波内視鏡は感度80%・特異度70%)であり、これは食道癌の病期診断における正診率低下の大きな要因となっている。
- 造影CTにおけるリング状濃染や不均一な内部構造などは転移リンパ節を疑うきっかけになるが、サイズだけで判断できないため、PET-CTや超音波内視鏡と組み合わせて評価する。
- 頻度が高い臓器は肝,肺,骨。
- 初診時にすでに遠隔転移を伴う例もある。遠隔転移の検出では、メタ解析でFDG-PETが感度71%・特異度93%、CTが感度52%・特異度91%で、PETのほうが有意に感度が高かった。PETで転移を疑う部位を拾い、CTで有無と部位を確かめる組み合わせが有用とされる。
食道癌のCTでよくある疑問(Q&A)
Q. 食道の正常な壁の厚さは?
A. 食道疾患のない成人では、広がった状態で平均2mm程度、縮んだ状態で最大平均4.7mm程度で、男性のほうが厚い傾向でした(Xia 2009)。同じ人でも膨らみ具合で変わります。
Q. CTで食道の壁が厚いと言われたら、食道がんですか?
A. そうとは限りません。縮んでいるだけで厚く見えることや、食道炎のこともあります(Berkovich 2000)。CTだけでは決められないため、内視鏡で確かめます。飲み込みにくさなどの症状があれば消化器内科を受診してください。
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参考文献
- Kim TJ, Kim HY, Lee KW, et al. Multimodality assessment of esophageal cancer: preoperative staging and monitoring of response to therapy. Radiographics. 2009;29(2):403-21. PubMed
- Picus D, Balfe DM, Koehler RE, et al. Computed tomography in the staging of esophageal carcinoma. Radiology. 1983;146(2):433-8. PubMed
- Mine S, Tanaka K, Kawachi H, et al. Japanese Classification of Esophageal Cancer, 12th Edition: Part I. Esophagus. 2024;21(3):179-215. PubMed
- Mine S. Review of the Japanese Classification of Esophageal Cancer 12th Edition, and Proposals for the 13th Edition. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2024;30(1). PubMed
- van Vliet EP, Heijenbrok-Kal MH, Hunink MG, et al. Staging investigations for oesophageal cancer: a meta-analysis. Br J Cancer. 2008;98(3):547-57. PubMed
- Kitagawa Y, Ishihara R, Ishikawa H, et al. Esophageal cancer practice guidelines 2022 edited by the Japan esophageal society: part 1. Esophagus. 2023;20(3):343-372. PubMed
- Xia F, Mao J, Ding J, et al. Observation of normal appearance and wall thickness of esophagus on CT images. Eur J Radiol. 2009;72(3):406-11. PubMed
- Berkovich GY, Levine MS, Miller WT Jr. CT findings in patients with esophagitis. AJR Am J Roentgenol. 2000;175(5):1431-4. PubMed
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