急性膵炎(acute pancreatitis)とは?
急性膵炎の原因は?
- アルコール(37%)・・・男性に多い
- 胆石症(24%)・・・女性に多い。乳頭部へ嵌頓。
- 特発性(23%)・・・女性に多い
- 医原性、外傷、慢性膵炎増悪など
急性膵炎の病態は?
・膵内でトリプシノゲンがトリプシンとなり、これらがエラスターゼ、カリクレイン、リパーゼなどが次々と活性化され炎症・血管透過性亢進
→血漿成分の血管外漏出による循環血液量減少(ショック等)が見られる。
急性膵炎の症状は?
- 腹痛(心窩部~背部に強い持続痛)
→前屈位で軽減。アルコール・脂肪摂取で増悪 - 悪心・嘔吐
- 腹部膨満感
- 発熱
- 頻脈
- 血圧低下
重症時の症状は?
- 麻痺性イレウス(腹膜炎による)
- 皮膚内出血斑(臨床的意義は低いとされるが)
- Cullen徴候・・・腹腔内出血を反映した臍周囲の皮膚着色斑
- Grey-Turner徴候・・・腹腔内出血により左側腹部が着色
- 呼吸不全、ショック、腎障害
- テタニー症状…膵壊死→脂肪遊離→Caと結合→低Ca
急性膵炎の血液所見は?
- 血清AMY↑(・尿中AMY↑、血清リパーゼ、エラスターゼ↑)
- WBC↑、CRP↑、Plt↓
- 血清Ca↓(重症のサイン)
- 高血糖(インスリン↓のため)
- 血清K↑、BUN↑、Cr↑(腎障害)
- Ht↑(血液濃縮)
- 重症例ではLDH↑
急性膵炎の診断基準は?
- 腹痛などの臨床症状
- 血中ならびに尿中の膵酵素上昇
- 膵炎を示す画像所見
の3つのうち2つが存在すること。
注1)アミラーゼが有力な診断基準であるが、全例が異常値を示すわけではない。
注2)特に高脂血症があるときは高値を示さないことがある。
注3)血中値は48時間を経ると急速に低下することがある。
急性膵炎の重症度判定基準 (2008年改訂)
- 重症急性膵炎はいまだ死亡率が高いので、重症例を早期に検出する目的で重症度判定は必要である。
- 予後因子、造影CTにより重症度判定する。
- 重症急性膵炎:予後因子3点以上または造影CT Grade 2以上
- 軽症急性膵炎:予後因子2点以下および造影CT Grade 1以下
※来院時軽症でも急激に重篤化する場合がある(特に発症後 48時間以内)。
急性膵炎の画像所見は?
▶腹部単純Xp
- イレウスの診断。
- 他疾患(消化管穿孔など)との鑑別に有用。
※sentinel loop sign→限局性腸管麻痺による臍周囲の左上腹部空腸ガス像
※colon cut off sign→麻痺のため、大腸ガスが停滞し下行結腸にガスがない状態
▶胸部単純Xp
- 胸水(特に左側)
- 横隔膜の挙上
- 無気肺(左側に多い)
▶腹部エコー
- 膵腫大
- 膵周囲液体貯留
- 実質エコー輝度の低下
▶造影CT
- 膵腫大(浮腫性膵炎:edematous pancreatitis)※膵の腫大は頭部で3cm、膵体尾部で2.5cm以上とされている。
- 急性滲出液貯留(acute fluid collection)
- 壊死性膵炎(necrotizing pancreatitis)
- 感染性膵壊死(infected pancreatic necrosis)
- 膵仮性嚢胞(pancreatic pseudocyst)
- 膵膿瘍(pancreatic abscess)
- 胆石性膵炎(gallstone induced acute pancreatitis)
▶MRI
- 膵の炎症や反応性浮腫を反映して、脂肪抑制T1強調像にて低信号、脂肪抑制T2強調像にて高信号を呈する。
急性膵炎のCT gradeの画像診断は?
急性膵炎ガイドライン2010はこちら(日本膵臓学会)からダウンロードできます。
- 1点目は炎症が膵の外のどこまで及んでいるかと言う点。
- 2点目は膵に造影不領域があればそれが、頭部、体部、尾部のどこに認められるか
という点です。
①炎症が膵の外のどこまで及んでいるか?
前腎傍腔 | 0点 |
結腸間膜根部 | 1点 |
腎下極以遠 | 2点 |
で点数を付けます。
前腎傍腔とは?
結腸間膜根部とは?
症例 50歳代男性 急性膵炎
②膵の造影不領域を評価する。
・膵を3つの区域(膵頭部、体部、尾部)に分けて造影不良域を評価する。
各区域に限局している場合、または膵の周辺のみの場合 | 0点 |
2つの区域にかかる場合 | 1点 |
2つの区域全体を占める、またはそれ以上の場合 | 2点 |
膵の解剖
症例 60歳代男性 慢性膵炎急性増悪
- 1点以下→Grade1
- 2点以下→Grade2
- 3点以上→Grade3
となります。
Grade1の症例
症例① 60歳代男性 慢性膵炎急性増悪
症例②
Grade2→3の症例
症例 60歳代女性
その後、動注療法を施行も、膵壊死の範囲は増強。
▶動画で学ぶ急性膵炎
参考)急性膵炎ガイドライン2010(日本膵臓学会)
急性膵炎の合併症は?
▶早期合併症(2週間以内)
- 急性期(7日間):多臓器障害の時期
→大量の炎症性物質が重要臓器と凝固系に障害を与えて、多臓器不全を起こす。
→DIC、ショック、呼吸不全、腎不全、MOF - 亜急性期(8-14日):感染性合併症の時期
→感染性膵壊死は手術の絶対適応。膵外感染(肺炎、カテーテル感染、尿路感染、血流感染)
▶後期合併症:
- 膵仮性嚢胞
- 膵膿瘍
- 腹腔内膿瘍や出血
- 重症感染症など
急性膵炎の治療は?
- 軽症例には保存的治療(要入院)
- 重症例には集中治療と全身管理を。
軽症例の治療は?
1.輸液
- 細胞外液 1000~5000ml/day
- ソリタT1 500~3000ml/day
- ソリタT3 500~3000ml/day
※初日の点滴総量の目安。
- 重症→8000ml/day
- 中等症→5000ml/day
- 軽症→1500~2000ml/day
→2日目以降は重・中等症では初日の約半分を目安にする。
2.安静・絶食:膵外分泌刺激の回避
・N-Gチューブから胃液の低圧持続吸引(中等症以下では持続はしない)
※胃液が十二指腸に入るとパンクレオザイミンが分泌され、膵を刺激するから。
3. 呼吸・循環管理
4. 除痛:不安を除くためにも初期から十分な除痛が必要!
・レペタン®(0.3mg) 1A静注or筋注 ゆっくりとorペンタジン®(15mg) 1A静注
※またはNSAIDsを用いる。
※疼痛コントロールにモルヒネは禁忌。(Oddi括約筋収縮)
5. 蛋白分解酵素阻害薬の点滴
・フサン(10mg)1~2V+5%ブドウ糖 500ml を2時間かけて1~2回/日
6. H2受容体拮抗薬:急性胃粘膜障害予防
・ガスター(20~40mg) 1A+生食100ml を12時間ごと
7.抗菌薬予防的投与いくなら、
・ロセフィン®1g + 生食100ml 12時間
(腸内細菌叢の病原菌を狙って第3世代セフェムを使用する。重症例ではカルバペネムを使用。また、軽症例では抗菌薬は不要。)
重症例の治療は?
軽症例の治療に加えて、
7. 抗ショック療法:酸素投与、輸液(中心静脈路確保)
8. 抗菌薬の予防的投与
9. 蛋白分解酵素阻害薬の大量点滴静注
10.血液浄化療法
参考)急性膵炎ガイドライン
ご案内
腹部画像診断を学べる無料コンテンツ
4日に1日朝6時に症例が配信され、画像を実際にスクロールして読影していただく講座です。現状無料公開しています。90症例以上あり、無料なのに1年以上続く講座です。10,000名以上の医師、医学生、放射線技師、看護師などが参加中。胸部レントゲンの正常解剖を学べる無料コンテンツ
1日3分全31日でこそっと胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学んでいただく参加型無料講座です。全日程で簡単な動画解説付きです。
画像診断LINE公式アカウント
画像診断cafeのLINE公式アカウントで新しい企画やモニター募集などの告知を行っています。 登録していただくと特典として、脳の血管支配域のミニ講座の無料でご参加いただけます。