先に結論:サイレント副鼻腔症候群
- サイレント副鼻腔症候群は上顎洞の出口が詰まり、上顎洞がしぼむように小さくなることで、痛みのない眼球陥凹や眼球の下方偏位を起こす病態です
- CTでは上顎洞の容積減少と壁の内側へのへこみ・混濁、眼窩底の下垂、鈎状突起が外側に引かれた篩骨漏斗の閉塞がセットで見られます
- 単なる慢性上顎洞炎・先天性の低形成・古い眼窩底骨折との区別が大切で、治療は内視鏡下副鼻腔手術です
サイレント副鼻腔症候群(SSS)は、片側上顎洞の換気・排泄障害を背景に上顎洞が「しぼむ」ように容積減少し、眼窩底が下方へ牽引されて無痛性の眼球陥凹(enophthalmos)や下方偏位(hypoglobus)を来す病態。
診断の決め手は画像であり、とくにCTが中心。SSSは慢性上顎洞無気肺(chronic maxillary atelectasis: CMA)の病期分類のStage III(眼球陥凹などの臨床的変形を伴い、副鼻腔症状のないもの)に相当すると整理されており、CMAの用語で統一することも提案されている。
サイレント副鼻腔症候群(Silent Sinus Syndrome: SSS)のCT画像所見
- 上顎洞の容積減少:洞壁の内方陥凹(maxillary atelectasis / “implosion”)
- 上顎洞の陰影:粘膜肥厚〜洞全体の混濁(opacification)
- 排泄路閉塞:上顎洞漏斗(infundibulum)閉塞と鈎状突起の外側牽引
- 眼窩の変化:眼窩底下垂(orbital floor descent)と眼窩容積増大
- 随伴所見:翼口蓋窩の拡大(脂肪の目立ち)・上顎洞後壁の内方陥凹、患側への鼻中隔彎曲、中鼻甲介の向きの異常など(Rose 2003; von der Lage 2026)
(まとめ表)CT所見のチェックリスト
| 観察ポイント |
典型所見 |
読影メモ |
| 上顎洞容積 |
容積減少+洞壁の内方陥凹 |
“imploded”/atelectasisのニュアンスで記載 |
| 眼窩底 |
下方牽引(しばしば菲薄化) |
冠状断で評価、左右差を明示 |
| 上顎洞陰影 |
部分的〜洞全体の混濁 |
単なる上顎洞炎との違いは「容積減少」の有無 |
| 排泄路 |
漏斗閉塞、鈎状突起の外側牽引 |
手術計画に直結するため具体的に |
| 周辺構造 |
翼口蓋窩の拡大(脂肪の目立ち)、患側への鼻中隔彎曲、中鼻甲介の向きの異常など |
“伴いやすい所見”として追記 |
症例 20歳代女性 鼻閉と頭痛

引用:Radiopaedia(Silent sinus syndrome)
右上顎洞は左に比べて明らかに小さく、内部は軟部濃度で全体が混濁しています。右の眼窩底は左より下がっており、上顎洞がしぼんだ分だけ眼窩が下方へ広がっています。左上顎洞は大きく含気が保たれていて、左右差がよくわかります。
サイレント副鼻腔症候群(Silent Sinus Syndrome: SSS)の鑑別疾患
- 単純な慢性上顎洞炎:混濁は共通しうるが、SSSでは「容積減少(洞壁の内方陥凹)」と「眼窩底下垂」「排泄路閉塞」がセットで現れる点が重要である。
- 先天性上顎洞低形成:小さい上顎洞そのものは鑑別点になりにくいことがある。10年前のCTで正常だった上顎洞がSSSになった報告があり、SSSは後天性の病態と考えられている(Hourany 2005)。後天性変形としての“内方陥凹”と排泄路閉塞所見を重視する。
- 外傷後の眼窩底骨折:臨床経過・外傷歴が最重要であり、SSSでは外傷歴なしに進行する点が典型とされるが、外傷歴のある例も診断基準に含め始めている報告がある(Rosso 2022)。
- 腫瘍性病変:片側性陰影の原因として常に念頭に置くべきであり、骨破壊パターンや軟部腫瘤、造影効果などで整合性を検討する。疑わしければMRI追加が合理的で、片側上顎洞の全体混濁49例の検討では、腫瘍の診断においてMRIはCTより特異度が高かった(Chua 2021)。
サイレント副鼻腔症候群でよくある疑問(Q&A)
Q. どんな症状が出ますか?
A. 主な症状は片側の眼球陥凹(目が奥に引っ込む)と眼球の下方偏位で、顔の左右差として気づかれます。14例の報告では眼球陥凹は1〜4mm、下方偏位は最大4mmで、視機能への影響はみられませんでした(Rose 2003)。17例の報告では患側の顔面痛が30%にあり、CTで偶然見つかる例もありました(Wise 2007)。目の位置や顔の左右差が気になる場合は、医療機関で相談してください。
Q. なぜ「サイレント(silent)」と呼ぶのですか?
A. 典型的な副鼻腔炎の症状(鼻づまり・鼻汁・痛みなど)がほとんどないまま進むためです(Wise 2007)。
Q. 治療はどうしますか?
A. 多くは内視鏡下副鼻腔手術(FESS)単独で治療され、眼窩底の再建は長期的に改善しない場合の追加手段とされています(Rosso 2022)。
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